▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『【2分49秒 ー3】 』
高科・瑞穂6067)&ファング(NPCA022)



 眼鏡を取りあげたファングは、ツルの部分をグニグニいじる。
 「おい」
 苛立ったような声。瑞穂は笑う。
 「それ、私じゃないと動かないの。網膜パターンが認証装置に組み込まれてて」
 ファングは歯をむき出しにしてうなり、眼鏡を握り潰そうとする。
 「壊したら、開かないわ」
 「開けろ」
 眼鏡を差し出し、命令した。瑞穂は眼鏡を受け取って掛け直すと、
 「いやよ」
 ゴキ、という音。左腕が殴られて、その骨が折れたようだ。
 「拷問? やんなさいよ。でも、急がないとダメね。 あと少しで仲間が来るわ。そうね――」
 眼鏡のツルのスイッチを押し、レンズに時刻を表示させる。五時二十七分二秒。
 「あと、二分四十九秒。といったところかしら」
 「女っ!」
 ファングは瑞穂の左足を引っつかみ、持ち上げる。宙づりにした瑞穂の、大きく開いた首元を、踏みつけるように蹴りつけた。
 「うぁっ」
 鎖骨が折れた。
 ファングの恐ろしいまでの握力で捕まれている足首も、このまま握りつぶされるのではないかと思うほど、痛い。
 そして中段蹴りが腰を叩き、ミシリという嫌な音が、身体の中から聞こえてきた。
 「開けろ」
 「誰が」
 ファングは腕を振り、瑞穂の身体を廊下の壁に叩きつけた。
 足からは手を放してくれたが、自由になったとは思えない。地面に落ち、瑞穂は呼吸を激しくする。
 う、動けない。
 全身が悲鳴を上げている。
 そしてファングは、なおも瑞穂の首を片手で掴み、持ち上げた。
 「早くしろっ」
 いって、上段回し蹴りを左胸の脇に当てる。
 「ああっ!」
 「拷問らしく」
 ファングはそういい、瑞穂の左手首を取り、小指を潰した。
 絶叫が廊下に響く。
 薬指、中指、親指、人さし指。五指が砕かれ、瑞穂は意識が遠のいた。
 眼鏡を操作させるため、右手は残る。ならばそこから反撃だって――
 そう思ったが、甘かった。
 右手の小指、薬指を折られ、人さし指も砕かれた。二本あれば十分だという判断だろう。
 「開けろ」
 地面に倒れ込んだ瑞穂は、眼鏡のツルを中指と親指でつまむ。
 「あと、一分」
 瑞穂は呻いた。ファングが腹を蹴り上げたのだ。
 浮かび上がった身体に、ファングはさらに蹴りをぶち込む。怒り狂った様子のファングは、扉に跳ね返ってきた瑞穂にアッパーを食らわせて、なおも突きを繰り出した。
 特殊素材でできたワンピースだからこそ、今までファングの拳圧に堪えてきた。だが、さすがに蓄積されたダメージは大きく、なにより指を折られたという精神的なダメージと痛みとが、瑞穂の心を挫けさせる。
 「あと五十秒」
 眼鏡のレンズに、透過する薄い赤色の数字。コンマ秒単位の数字が、次々と変わっていくのを眺めていると、攻撃される衝撃を考えなくてすむ。
 「あと三十秒」
 ワンピースの生地に覆われていない、肌が露になっている腕や太ももは、打撲がひどい。ガードされているところでさえ、骨の何本かがいっている。
 「名前をいえ」
 ファングがいった。瑞穂の首を左手で掴み、持ち上げている。
 「その根性に、敬意を表する」
 「た……たかしな、みずほ」
 ファングはすっと腰を落とした。ふんっ、という覇気とともに、右手を繰り出す。その拳が、瑞穂の左胸の下。心臓の位置を突く。
 肋骨が折れ、内臓に刺さるイメージが、瑞穂の脳裏によぎって消えた。
 「かはっ」
 吐血し、かすみ瞳で数字を読んだ。
 「あと、二秒」
 もう動けない。
 けど、勝った――
 そして、かすかな振動が地下に響いた。
 「俺が、一人だと思ったか?」
 定時連絡の仲間は一人。
 今のは、地上での戦いの音だ。
 もう一度、今度は先ほどよりも大きな振動が廊下を揺らした。
 助けは来ない。
 その考えが、瑞穂の心をぼきりと折った。
 「あ、あああああああああぁぁぁぁぁっ!」
 瑞穂は叫んだ。
 死が見えた。
 涙が溢れ、とめどなく流れていく。
 死にたくない。死にたくない。死にたくない。
 「た、たすけて」


PCシチュエーションノベル(シングル) -
秋月 淳 クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年11月10日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.