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『myself of trick 』
アレスディア・ヴォルフリート2919






 ある人突然大きなダンボールが届いた。
 差出人は自分。
 首をかしげ、箱を開けてみる。
 中にはお菓子が入ったバスケット。
 バスケットの上には手紙が一通。
 手紙を手に取り、その封を開ける。

 とりっく おあ とりーと

 しんあいなる自分様。
 はろうぃんまでに、このお菓子をくばってね。
 もちろん言われないとだめだよ。
 とりっくおあとりーとってね。
 できなかったら、悪戯に行くからまっててね。

 ばい 自分より






「む……? ばい、自分、と……?」
 カードを見て、アレスディア・ヴォルフリートは首をかしげた。
 何がなんだか分からない。
 そもそも自分はこんな口調で喋らないし、こんな文体で手紙を書くこともしない。
 遠い昔に期日指定で頼んでいたのだろうかとも考えるが、そんな記憶はついぞない。
「ううむ……よく、わからぬが……」
 腕を組んで何度首をひねろうが分かるはずもなく、とりあえずこのバスケットの中のお菓子を『とりっくおあとりーと』と言ってもらった上で配ればいいらしい。
 季節の行事というものは大切だし、これを機に参加でもしてしまおうか。
 アレスディアはバスケットを持ち上げ、中に入っているお菓子を確かめてみる。
 上げるための物だからこそ、故意に変なものを入れることだってあると考えたからだ。
(特に不審なところはないな)
 賞味期限が切れているだの、原材料がどう考えても食べられそうもないという事もない。
「そうだな、まずはみんなに配ろう」
 そうしてアレスディアはバスケットを腕にかけると、部屋の扉を開ける。
 此処の面々はお菓子が好きだから、きっと喜んでくれるだろう。










 あおぞら荘食堂ホールで、アレスディアはバスケットを手に、後片付け真っ最中のルツーセを見つけ、声をかける。
「はろうぃん??」
 言い訳をしても仕方がないため、全て事情を説明した上で頼もうと思っていたが、説明がまずそこからとは!
 もしかして、ルツーセ達全員に配ろうと思ったら、全員分その説明がいるのだろうか。
「ハロウィンとは、本来、万聖節の前の晩に行われるお祭りで、仮装をした子どもたちが、お菓子をもらうために家々を回るというものだ」
 厳密にどんなものかと問われると、実際の真実を知っているわけではないが、概ね間違ってはいないだろう。
 最近では大人も子どもも分け隔てないお祭りになっている。
「へぇ…。その、お菓子をもらうための合言葉が、『とりっくおあとりーと』なのね」
 ルツーセは眼を輝かせ、楽しいものを見つけたとばかりに少々夢見心地だ。
「ルツーセ殿も子どもではない故、言いたくないのであれば、それはそれで構わぬよ」
 配りきれないと悪戯が来るらしいが、無理強いをして言わせても気まずいだけだ。
「ううん。いいよ、言えばお菓子くれるんだよね?」
 ルツーセよ。そんなにお菓子が欲しいのか。
 意気揚々とルツーセは合言葉を唱える。

 とりっく おあ とりーと

 棒読みなのは育った場所の違い。さしたる問題ではない。
 しかし、ルツーセがそう唱えた瞬間、バスケットの中からバフッと空気が抜けるような音が小さく響いた。
 きょとん。と固まるアレスディアとルツーセ。
 アレスディアは、急いでバスケットの中身を確かめる。
 最初見たときは何の仕掛けも無かったのに!
 しかしどれだけ調べてみてもバスケットには何の変化も無く、ただお菓子が入っているだけだった。
 首を傾げるが、中からと聞こえただけで、実は違う場所だったのかもしれない。
 アレスディアは気を取り直して、チョコビスケットの箱をルツーセに手渡した。
「ありがとうアレスディアさん。ハロウィンっていい行事ね!」
 言えばただでお菓子を貰えると理解したらしいルツーセは、今度は誰に言おうと意気揚々とチョコビスケットの箱を戸棚にしまいこむ。
「え、いや、ルツーセ殿?」
 しまった。完全に誤解してしまっている。
 パタリと戸棚を閉め、ルツーセはふとアレスディアが持つバスケットにやっとこ気がつく。
「あれ? そのバスケット、さっきサクリファイスさんも持ってたような??」
 小首をかしげつつそう口にしたルツーセに、アレスディアはそっとバスケットを見下ろす。
 どうやら、この事態に陥っているのは自分だけではないようだ。
 とりあえず、残りのお菓子を配らなければならない。
 アレスディアは下宿内へと戻り、まずは近場のスミナスの書斎へと向かうことにした。
 大掃除と称して部屋の場所を聞いておいて良かったと、今はそんな過去の自分に拍手を送りたい気持ちだ。
 また無駄に書類でも積み上げているのだろうか。そんなことを考えつつ、扉をコンコンと叩く。
「はい?」
「失礼する」
 アレスディアは扉を開け、部屋の中へと入る。
「どうされましたか?」
 太陽の光がいっぱい入り込んだ部屋に、アレスディアは眩しさで眼を細める。
「あ、すいません」
 ルミナスはすぐさま日よけのカーテンを閉め、アレスディアに申し訳なさそうにパタパタと近づいた。
「いや、ルミナス殿はハロウィンを知っておられるだろうか」
「はろうぃん。ですか?」
 ルツーセ同様、ルミナスも同じように首をかしげる。
 アレスディアは同じ説明をルミナスにもすると、彼は楽しそうだと微笑んだ。
「それで、今朝このバスケットが届き、『とりっくおあとりーと』と言われ、お菓子を配らなければ悪戯されると書かれたカードがついていたのだ」
 それで、言ってはもらえないだろうか。この合言葉を。
「楽しいはずなのに、それは心中穏やかではないですね」
 ある意味脅しのような“配れ”というカードに、ルミナスは少しだけ語気を強める。
「なに、行事に参加するきっかけをもらえたと思えば、気にするほどでもない」
 そんなアレスディアの言葉に、ルミナスは優しい微笑を浮かべ頷く。
「分かりました」
 とりっく おあ とりーと。言葉と共に、またパフッと気の抜けたような音が小さく響く。
 アレスディアはもうなれたもので、ルミナスにまん丸キャンディがいっぱい入った袋を手渡した。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」
 これで悪戯からまた一歩遠のいた。
「ところでアレスディアさん」
 真剣そのものであるルミナスの表情に、アレスディアは何かと首をかしげる。
「僕もお菓子を用意して、配りたいと思うのですが」
「いやいや! 貰ったら、あげる側にはなれないというルールがっ!」
 もちろん手作りで。と続きそうだった言葉に、アレスディアは早口で両手をごまかす様に動かして止める。
「…そうですか。残念です。では、来年にでも!」
 へこたれないルミナス。アレスディアの足がガタッと何かに躓いた。
 大丈夫かと駆け寄るルミナスに、アレスディアは魂が抜けかけたような笑顔で、
「あ…いや………がんばられよ」
 と、伝えると、コールの部屋へ向かうため、ルミナスの書斎を後にした。
 どうがんばってもルミナスの料理の腕は上達しない。
 来年か……少しだけ背筋に嫌な汗をかいた気がした。
 それはそれとして、コールの部屋は魔窟になっているのではないだろうか。
 コールの部屋の扉をコンコンとノックする。
 返事は、ない。
 いや、もしかしたら返事ができない状況と言うこともありえる。
「コール殿。お邪魔する」
 ドアノブは簡単に回ったが、やけに扉が重い。
「ん??」
 このまま力を抜いたら押しつぶされてしまいそうな、そんな予感が過ぎる。
 アレスディアは扉が開く方向に自分の身を移動させ、気合一発扉を開けた。
 どどどどどどどど。
「…………」
 やはりか。
 開けた扉から雪崩出た大量の本の山。山。山。
「ごめぇん」
 その奥から、気の抜けたような声が弱弱しく届く。
「大丈夫か、コール殿」
 扉を盾代わりにして中を覗き込み声をかける。
 ルミナスの書斎とは対照的にコールの部屋は真っ暗だった。
 否。本を積み上げすぎて窓が完全に隠れてしまっていた。
 埃にむせ返りながら、コールはよれよれと部屋から出てくる。
「ある程度予想はしていたが、どうされたのだ、これは」
「本棚のね。掃除をしようと思って……」
 が、逆のこの惨状。この掃除下手はどうにかならないものか。
 兄が掃除下手なら、弟は料理下手。
 これは、お菓子などという状況では―――
「あれ、これどうしたの?」
 と、思っていた矢先、コールはバスケットの覗きこみ顔を輝かせている。
 元々からあげるつもりできたのだから、アレスディアは素直に今自分におきている現状を説明した。
 手短に済んだのは、コールがハロウィンを知っていたおかげだろうか。
「じゃ、言うね。トリック オア トリート」
 やはり発音からして違う。そしてまたパフっとバスケットから音が響いたが、これはもう付き物か。
 そうしてアレスディアはコールにマシュマロチョコの大袋を手渡して、さっと真面目な顔つきになった。
「では、片付けようか」
 アレスディアはバスケットを廊下に置くと、袖をめくって雪崩出た本だけでもと片づけを開始する。
「あわわ、ごめんよ〜」
 コールも手伝おうとするのだが、逆に動かれると困る。
「コール殿はそこでじっとしててもらえると助かる」
「で、でも…」
 尚も手伝おうとするコールを宥め、アレスディアはてきぱきと本を片付ければ、程なくして扉が閉められるまでになった。
「ありがとう、ごめんね。アレスちゃん」
「いや、気になさるな」
 そして、まだお菓子を配らないといけないからと、部屋を出る。そると、廊下の先から見知った人物がこちらに歩いてきていることに気がつき、アレスディアは顔を綻ばせた。
「おや、サクリファイス殿にルツーセ殿ではないか」
 近づいてきたサクリファイスの手には、自分の腕にかかっているものと同じバスケット。
「やはり、あたなも」
「ああ、私もだ」
 何だろうこれはと言葉を交わしてみても、二人ともわけが分からないため道も開けない。
「とりあえず、あげれば良いのであれば、行事としても丁度いい」
「そうだな。アレスディアは後いくつなんだ?」
 人によって数は違うのだろうか。それとも同じ?
 アレスディアは箱の中のお菓子を指差して数え、
「後、6つのようだ」
「結構あるな」
「サクリファイス殿は?」
 逆に問いかけてみれば、後1個だという返答。やはりまたうんうんと首をかしげることになってしまった。
「配るもの同士が渡してはいけないと言うことはないだろう。私も貰おうか」
 このサクリファイスの言葉に、アレスディアはほっとしたように微笑む。
「そうして貰えると助かる」
「トリック オア トリート」
 勝手知ったる同境遇。サクリファイスがお菓子を貰うための合言葉を口にすれば、アレスディアのバスケットからまたパフっと気の抜けた音が響く。
 これにももう慣れてきた。
 アレスディアはサクリファイスにビビットカラーのゼリービーンズの袋を手渡した。
 残り5個。
「では」
 このままここでぐずぐずしていては日にちが終わってしまう。
 数の差に何かしらの意図を感じて、アレスディアは早々に配り終えようとあおぞら荘を後にした。
 次に心当たりがある場所と言えば、白山羊亭と黒山羊亭か。
 お菓子を貰ってくれそうな人物が多いとすれば白山羊亭かもしれない。
 なにせ黒山羊亭は歓楽街だ。
 アレスディアは白山羊亭につくと、ルディアはお菓子の箱を1つ持っていた。
「あれ? もしかして、それはやってるの?」
 と、話しかけられる。よくよく話を聞いてみれば、同じバスケットをオセロットも持っており、例の合言葉を言って欲しいと頼まれたと言うのだ。
 勝手知ったるとはこのことで、ルディアは快く、「トリック オア トリート」と言ってくれた。
 パフっという音と共にこれで1つお菓子を配ることが出来たが、残りは4つ。
 誰か貰ってくれそうな人は居ないかと、アレスディアは店の中を見回す。
 何とか説明しつつお菓子を貰ってもらって、やっとのこと後2個まで持ち込むことが出来た。
 1個はエスメラルダに渡すため黒山羊亭を訪れれば、やはりここにもオセロットが来たらしく、エスメラレダはくすくす笑いながらもお菓子を貰ってくれた。
 さて、残り1個。誰に配れるだろうか。
 白山羊亭ではお客に配れたが、黒山羊亭は如何せん開店前で客はおらず、アレスディアは残り1個のお菓子を手に、悶々としつつもあおぞら荘に戻ることにした。







 あおぞら荘に戻ると、ホールの机にお菓子が広げられ、爽やかな紅茶の匂いが広がっていた。
「おかえり」
 片手を挙げて声をかけたのはオセロットだ。
 ルディアたちから聞いた話と、その傍らに置かれたバスケットに、
「オセロット殿はもう配りおわられたのか?」
「ああ」
 見せてもらえばバスケットの中身は空っぽ。きっとこれで悪戯を免れたのだろうなと思っていると、逆に問われて答える。
「あと1個か」
「知りもしない人に道端でいきなり声をかけるわけにもいかず、もって帰ったはいいのだが、ここの人たちにはもう上げてしまったゆえ」
 もう配れるような心当たりが思いつかず、アレスディアは気落ちした肩で薄く笑う。
「では、手を貸そう」
「済まない! オセロット殿」
 誰だって悪戯は受けたくないものだ。オセロットは何のこともないと微笑み、唱える。
「トリック オア トリート」
 最後となるバスケットから響いたパフっという気の抜けた音。
 アレスディアは取り出した一口ウェハース詰め合わせパックをオセロットに手渡す。
 オセロットは早速という速度で詰め合わせパックの蓋をばりっと破いた。
 程なくしてアレスディアにも紅茶が届けられ、上げたはずのお菓子は全てごちゃまぜになり、テーブルに広げられたお菓子は、かなりのバリエーションだ。
 夕飯にも少々響くほどのお菓子平らげ、当分お菓子を食べる必要は無いなとどこか思う。
 それでもコックさんに申し訳ないため夕食もきっちり平らげたアレスディアは、食べ過ぎの苦しさを抱いて一晩過ごしたのだった。



















☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆


【2872】
キング=オセロット(23歳・女性)
コマンドー

【2919】
アレスディア・ヴォルフリート(18歳・女性)
ルーンアームナイト

【2470】
サクリファイス(22歳・女性)
狂騎士


☆――――――――――ライター通信――――――――――☆


 myself of trickにご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
 ほのぼのとした1日を過ごされたのかなぁと勝手に思っております。
 悪戯よりも、お菓子を渡した相手との人間関係のような話になった気がします。
 参加者様の中で一番お菓子を配らなければならない数が多かったので、悪戯はなしにしておきました。
 それではまた、アレスディア様に出会えることを祈って……

ハロウィンカーニバル・PCゲームノベル -
紺藤 碧 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2008年10月15日

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