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『myself of trick 』
キング=オセロット2872







 ある人突然大きなダンボールが届いた。
 差出人は自分。
 首をかしげ、箱を開けてみる。
 中にはお菓子が入ったバスケット。
 バスケットの上には手紙が一通。
 手紙を手に取り、その封を開ける。

 とりっく おあ とりーと

 しんあいなる自分様。
 はろうぃんまでに、このお菓子をくばってね。
 もちろん言われないとだめだよ。
 とりっくおあとりーとってね。
 できなかったら、悪戯に行くからまっててね。

 ばい 自分より






 お菓子に付随したカードを手に、キング=オセロットは息を吐く。
 自分に悪戯されるというのはどういうことか分からないが、このカードに書かれている“自分”という存在が本当に“自分自身”ならば、仕掛ける悪戯はそれは大変悪質なものに違いない。
 どんな悪戯かと想像を巡らせようとして、止める。
「これは何としても回避せねばならないな」
 オセロットは小さくつぶやき、このお菓子を配り終えるべく出陣した。

 お菓子の数がそこまで多くないことだけが救いだろうか。
 まずは白山羊亭にでも足を運んでルディアにどれか好きなものを選ばせよう。
 しかし、この言われなければダメというのはどういうことだろう。
 もし言われずにお菓子を配ったら、この悪戯が仕掛けられるということか。
(ふむ…)
 言われさえすれば良い。考えてみれば実に単純だ。
 しかしオセロット自身突然送られてきたお菓子の謎を理解できてない以上、変に説明をしては逆に余計な混乱を招いてしまう。
 ここは、素直に願い出てみるのが良いだろうか。
 オセロットは思案しつつたどり着いた白山羊亭の扉を開け、ルディアの姿を探す。
 テーブルを回っていたルディアを見つけ、軽く手を上げるとルディアは笑顔で出迎えた。
「こんにちはオセロットさん」
 が、オセロットの印象とは少々離れているバスケットに眼を留めて首をかしげる。
「どうしたんですか?」
 面と向かって問われると、ちょっと困る。
「季節の行事に参加してみようと思ってな」
 その言葉に合点がいったのか、ルディアはパンと手をたたいた。
「あ、ハロウィンですね!」
 オセロットは頷き言葉を続ける。
「もはやもらう年でもない、といってもらいにくる子どももいない。ということで知人に配ろうかと思うんだが、お約束の言葉を言ってくれないかな」
 カードには子ども限定とは書かれていなかった。ならば言ってもらう相手の年齢は特に拘らないと取ってもいいだろう。
「オセロットさんも、こういった行事に興味あるんですね」
 なんだか意外だな〜という視線を贈られるが、言ってもらえるならば構わない。
「なに、たまには生き抜きも必要だろう?」
 いつも周りを一歩外から眺めていることが多いが、周りに合わせて騒いだって誰にも迷惑はかけまい。
「ふふ。いいですよ」

 トリック オア トリート

 バスケットの中からバフッと空気が抜けるような音が小さく響く。
「今の??」
 オセロットはバスケットの中身を確かめてみるが、何かしらの変化は見受けられない。
 首を傾げつつも、バタークッキーの箱を1つルディアに手渡した。
 白山羊亭では渡す人と言えばルディアしか思いつかず、ならば次は黒山羊亭だと、オセロットはその足でそのまま黒山羊亭に移動する。
 こんな昼間からエスメラルダが居ることは期待できないかもしれないが、まがりなりしも冒険者に依頼を斡旋している場所。誰かしら見知った顔にも出会うかもしれない。
 白山羊亭と比べると、少々くらい路地を下り、黒山羊亭の扉を開ける。
「あら、こんな時間から来るなんて珍しいじゃない」
「あなたこそ、こんな時間から居るとは、珍しい」
 カウンターに頬杖を着いていたエスメラルダが顔を上げ、入ってきたオセロットにそう声をかけ、オセロットも予想外のエスメラルダに返し言葉のように切り返す。
「どうしたの、そのバスケット?」
 流石客商売。いつもとは違う荷物を目ざとく見つけ、エスメラルダはゆっくりと近づくと、バスケットの中を覗き込む。
「お菓子じゃない」
 ルディア同様、珍しいと言う声音が含まれている。
「行事に参加してみようと思ってね」
「行事……?」
 エスメラルダはしばし考え、思い出したと言うようにふふっと笑う。
「ああ、ハロウィンね!」
 大人になってしまったら、お菓子が貰える嬉しさなんてすっかり忘れてしまって、そんな行事があることも半分忘れかけていた。
「ふふ。子どもの気持ちに戻るのもいいかもしれないわね」
 エスメラルダはスリットの入ったスカートを翻しながら、オセロットの近くへ歩み寄る。
「悪戯…したいところだけど、お菓子貰ってあげるわ。トリック オア トリート」
 その言葉と共に、またもバスケットからパフっと気の抜けたような音が小さく響く。
 やはり気になってバスケットを確かめてみても、バスケットに何かしらの変化は全くもって見つけられなかった。
「では、これを」
 オセロットは気を取り直すようにバスケットからチョコレートボンボンの箱を取り出して渡す。
 酒入りチョコな辺りがちゃんと店を考えているとも言えなくも無い。
「じゃあ、これ、今日お客さんに配るわね」
「ああ、構わない」
 貰った相手がお菓子の中身をどうしようと、それはこちらが関与することではない。
 一人で食べようが、皆で食べようがそれは自由だ。
「さて……」
 残りのお菓子は3つ。次は何処へ配ろうか。
 一番手っ取り早いとすれば、やはりあおぞら荘か。
「こんにちは」
 カランとドアベルを鳴らして、あおぞら荘の中へ入ると、厨房からひょこっとルツーセの頭が上がった。
「いらっしゃい、オセロットさん」
 声をかけつつ、ルツーセの目線はあっちへ行ったりこっちへいったりしている。
「何か探しているのか?」
「うん、茶葉が足りないと思うから、新しいのをね」
 共同利用の広い厨房だ。置いたものがどこかへ行ってしまっていても不思議ではない。
 オセロットはバスケットを手近な机に置くと、厨房を見やった。
「そうだ、ルツーセもハロウィンに参加してみないか?」
「え? オセロットさんもお菓子くれるの!?」
 厨房からオセロットを見たルツーセは、それはもう嬉しそうな笑顔でホールに出てくると、あのちょっとどこか舌足らずの発音で、「とりっく おあ とりーと」と、両手を広げて口にした。
 説明もなしに言ってくれた事は嬉しいが、なぜ知っているのだろう。他にもこのバスケットが届いた誰かが居て、説明をしながら一度配っていると考えれば妥当か。
 オセロットはとりあえず、パフっと音もしたし、例の呪文には変わりないため、バスケットからパイ菓子の箱を取り出して渡す。
「ありがとうオセロットさん。良かったら皆でお茶にしない?」
「いや、まだ2つほど残っているのでね」
 残りを配りに行ってくると、オセロットは下宿内部に視線を向ける。
「そっか…じゃあ、配り終わったら。ね♪」
「ふぁあ。あれ〜おはようオセロットちゃん」
 ルツーセの言葉に被るように、気の抜けたような声がホールに響く。誰だと視線向ければ、あくびしつつ背伸びしつつ階段から降りてきたアクラだった。
「おはようとは、もうお昼も回った時間だぞ」
 オセロットはくすっと笑って、おはようどころかおそような時間に起きてきたアクラに告げる。
「だってー仕方ないじゃ〜ん」
 まぁ彼のことだから、単純に夜更かしの夜型による結果だとは思うが。
「ん?」
 ある一点の何かを見つけ、半分眠気眼だったアクラの瞳が完全に覚醒する。
「どうしたの、そのバスケット」
 オセロットは指摘されたバスケットを持ち上げる。
「あぁ、これか」
 どうやらアクラは事情を知らないらしい。今まで寝ていたのだとすれば当たり前だが。
「はろうぃんっていう行事なんだって」
「あぁ……それで」
 お菓子を配るためのバスケットか。
「でも、だからって何でオセロットちゃんが?」
 やはりアクラにも、ルディアやエスメラルダのように意外だと言うような声音が聞き取れる。
「突然これが届き、この機会にハロウィンに参加してみようと思ったまでのこと」
「へぇ。確かに子どもが主役のお祭りだもんね」
 機会でも与えられなければ、オセロットも参加しないわな。と、妙に納得して、ポリポリ頭をかきつつ厨房へ。
「言わないの?」
 そのままスルーしていくアクラにルツーセが声をかける。
「何を?」
「お菓子貰う呪文」
 コポコポとコップに水を入れ、ぐいっと飲み干すと、
「んー別にボク子どもじゃないし」
 そんなお菓子1つに一喜一憂するような年齢はもう過ぎたと、どこか達観しているアクラ。そして、オセロットに向けてにっこりと微笑むと、
「それに、お菓子なんていらないから、悪戯したい派なんだよ。ボクは」
 お菓子いらないから、悪戯させてくれ宣言。
「普段だったら、私もアクラと同じだろうな」
 お菓子と悪戯実行を選べたとしたら、確実に悪戯実行を選ぶだろう。
「だが、今回はお菓子を配る側としての行事参加。アクラがいらないのならば、他の人に配るさ」
「ちぇ〜」
 舌打ちするものの、あまり残念そうではないアクラの口調。
「あ、でもこれ美味しそう」
 アクラはバスケットを覗き込み、コーンフレークにチョコレートをコーティングしたお菓子の袋を見つけ、ひょいっと持ち上げる。
「こら、アクラ!」
「呪文を言わない子にはあげられないぞ」
 一様に責められ、アクラの眼がキラリと光る。
「へぇ…。そんなにあの言葉が大事なの? 言わないけどね!」
 アクラはバイバーイと手を振って、即行で近場の扉を開けるとその中に入ってしまった。
「こぅらぁあああ!!」
 ルツーセも追いかけて扉を開けるが、部屋の中にアクラの姿は何処にもなかった。
「まあいいさ。仕方が無い」
 取られてしまったものはしょうがない。残り1個を配ることにしよう。
「あ、まってオセロットさん! 案内するわ」
 歩き出したオセロットを追いかけるようにルツーセも駆け出す。
「アレスディアさんもサクリファイスさんも、同じバスケット持ってたのよ」
 ああ、なるほど。だから、ルツーセは来た早々分かったのか。
「だからね、貰ったお菓子で皆でお茶にしようって」
「しかし、彼女らからも1つずつ貰ったのなら、大量のお菓子になったのではないか?」
 バスケットの中に入っているお菓子は、どうみても1日で食べきるのは大きい箱菓子ばかりで、ここの住人と、自分と、名前が出た二人を合わせても食べきれるかどうか些か心もとない気がする。
「んー、でも、お菓子好きだし、大丈夫」
 もしかして、ここの住人は見た目以上にモノを食べて、太らないとかそういった素晴らしい体質を持っているのかもしれない。
 ―――実際は分からないが。
「確かに食べきれないと分かっているから、普段は買わないお菓子ばかりだったしな」
 お茶に参加してもいいかもしれない。
 それにはまず、とにもかくにもお菓子を配りきることが先決だが。
 どうせ皆でお茶にするのなら、どちらに渡しても同じか。
 ならば近いほうでいいだろうと、ルミナスの書斎へと足を運ぶ。
「おや、こんにちはオセロットさん」
 視線の先の部屋から出てきたのは、目当てとしていた人物。
 ルツーセは駆け寄り、どうやらオセロットのことを説明しているようだった。
「面白い行事もあるのですね」
「渡す方は大変だが、貰う方はまんざらでもないんじゃないかな?」
 ふふっと笑ってそう告げれば、ルミナスも同じようにつられて笑う。
「そうですね。とりっく おあ とりーと」
 きっと最後のお菓子なのだから、最後のパフっという音を聞いて、オセロットはルミナスに一口シューの袋を手渡した。
 お菓子を配り終え、それぞれが貰ったお菓子をテーブルに広げる。
 流石にやはり紅茶と言えどルミナスに淹れさせるわけにもいかず、ルツーセが一人厨房でせっせと茶葉と格闘していた。
 その姿をホールから椅子に座って眺めつつ、先に出された紅茶を口に含む。
 すると、カランと扉が開く音がして、そちらに視線を向ければ、どこか難しい顔のアレスディアが立っていた。
「おかえり」
 気がついていないらしいアレスディアに、片手を挙げて声をかける。アレスディアの手にも同じバスケット。
「オセロット殿はもう配りおわられたのか?」
「ああ」
 アクラに1個取られてしまったが、余りは無い。
「アレスディアはどうだ?」
 聞けばアレスディアはすっとバスケットの中身を見せ、
「あと1個か」
「知りもしない人に道端でいきなり声をかけるわけにもいかず、もって帰ったはいいのだが、ここの人たちにはもう上げてしまったゆえ」
 確かにアレスディアの性格を考えれば、見ず知らずの人にそんな迷惑になりそうなことを頼めるようには思えない。
「では、手を貸そう」
「済まない! オセロット殿」
 誰だって悪戯は受けたくないものだ。オセロットは何のこともないと微笑み、唱える。
「トリック オア トリート」
 最後となるバスケットから響いたパフっという気の抜けた音。
 オセロットは、一口ウェハース詰め合わせパックを受け取り、早速という速度で詰め合わせパックの蓋をばりっと破いた。
 皆、お菓子を配り終わったのだから、さぁ楽しいお茶会の始まりだ。
























 次の日。
「ごめんよ、オセロットさん」
「済まないねぇ」
「ほんと、悪い」
 行く先々で聞いた同じような謝罪の言葉。
 なぜだ。
 オセロットは誰にも見られていないところでクシャリと空になったタバコの箱を握りつぶす。
 なぜ何処の店にもタバコがないんだ。
 もうどれだけの店を回っただろうか、昨日白山羊亭や黒山羊亭に向かい様見たときにはあんなにも山積みにされていたというのに!
 こんな短時間で買い占めた輩がいるのか。
(まさか……)
 アクラにお菓子を1つ取られたことによる悪戯がこれか?
 しかし、悪戯をするのは自分だ。そしてかかっているのも自分。怒りにも似たこの感情は何処へ向ければいいのだろう。お菓子を奪っていったアクラにか? いや、取られた事は自分の不注意もある。まぁいい。
 オセロットは微動だにしない笑顔で店々を回る。笑顔が爽やか過ぎて逆に怖い。
 だが、その日一日はどうがんばってもタバコを手に入れることはできなかった。



















☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆


【2872】
キング=オセロット(23歳・女性)
コマンドー

【2919】
アレスディア・ヴォルフリート(18歳・女性)
ルーンアームナイト

【2470】
サクリファイス(22歳・女性)
狂騎士


☆――――――――――ライター通信――――――――――☆


 myself of trickにご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
 ほのぼのとした1日を過ごされたのかなぁと勝手に思っております。
 悪戯よりも、お菓子を渡した相手との人間関係のような話になった気がします。
 記載いただいた悪戯を実行するために、配ることに失敗しています(笑)
 それではまた、オセロット様に出会えることを祈って……


ハロウィンカーニバル・PCゲームノベル -
紺藤 碧 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2008年10月15日

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