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『初めてのマカロンは笑顔の味 』
栗原・真純2356)&(登場しない)

●たまには違うお菓子作りを
 栗原・真純(くりはら・ますみ)は、甘味処『ゑびす』の店長ということもあり、和菓子作りは食べるのも作るのも好きである。
「和菓子ばかりというのもバリエーションがないわね。たまには洋菓子にでも挑戦してみようかしら?」
 バレンタインデーには、トリュフを作ったことがあったが結構難しかった。その中でも特に難しかったのは、粒あん入りの栗の形にしたものだった。味見してもらおうと友人達に食べてもらったところ、これ美味しいよ! と褒めてもらったのがとても嬉しかった。
 難しいけれど、頑張って作ってみよう!
 友人達がトリュフを食べて喜んでくれた時のことを思い出し、真純は洋菓子作りに再挑戦することにした。
 今日は『ゑびす』休業日なので、1日かけてお菓子作りができる。
 インターネットで「何を作ろうかしら?」と言いつつあれこれ洋菓子店のサイトやレシピサイトを検索した結果、挑戦する洋菓子は『マカロン』に決定。
 マカロンというのは、アーモンド製の柔らかな2枚の生地にクリームやジャムを挟み込んだ焼き菓子であることはネットでわかったが、実際に食べてみないと、どのようなお菓子なのかわからないので真純は検索したサイトで家から近い洋菓子店を探し出した。

●初めてのお菓子
 洋菓子店に辿り着いた真純は、自分の職場である『ゑびす』店内と違い洋風でお洒落な店内に「わぁ…素敵…」とうっとりしたが、本来の目的を思い出しマカロンを探し始めた。
 ケーキが並んでいるケースの隣の一角に、いろいろな味のマカロンが展示されていた。
(「マ、マカロンってけっこう小さいのね……」)
 サイトで見るとの、実際に見るのでは大違いであった。真純が見たマカロンは、直径が10センチあるかないかの大きさだ。
「お、お菓子は大きければ良いってものじゃないわ。味よ、味!」
 負け惜しみとも思える発言をする真純であった。
 種類はオレンジ、ショコラ、キャラメル等、様々な種類があるのでどれを買おうか悩んだが、結局、詰め合わせ5個セットを購入。単品で買うより、詰め合わせを買うほうがお買い得だから、という理由で。

 帰宅後、早速ピンクのリボンを解き、箱を開けてマカロンを見る。
 左からオレンジ、ショコラ、アーモンド、キャラメル、クランベリー。カラフルな彩りに感心した後、オレンジマカロンを一口。
「外側はほんのりサクサクなのに、中は柔らかいスポンジ状なのね…。それに、ジャムとの相性がすっごく良いわ」
 こういう洋菓子があたしに作れるのかしら…と不安になる真純だったが、気を取り直して作ると決めたからには作る! と意気込んだ。こういう性格は、先代店長の父譲りかもしれない。
「そうと決まれば、何味のマカロンを作るか決めないと」
 食べてもらいたいのは、大好きなあの人。あの人も和菓子が大好きだから抹茶味にしよう、とすぐ決まった。
「そうと決まれば、レシピを探さなきゃ!」
 真純は、プリントアウトしたマカロンレシピを探し始めた。どのマカロンを作れるようにと、プリントアウトしまくったのは良いのだがその量が膨大すぎるので、探すのは一苦労だったが苦心の末、ようやく『抹茶マカロン』レシピの用紙発見!
「さあ、作るわよー!」

●抹茶マカロン製作開始
 栗原家の台所には大体の調理器具が揃っているし、真純が学生時代にアルバイト代を貯めて購入したオーブンレンジもある。
 割烹着、三角巾をつけた、ハンドソープで良く手を洗った後、レシピを見て材料を確認。
「抹茶あり、粉砂糖あり、黒糖あり……と。黒糖は粉末状になっているから、砕いて粉状にすれば良いわね。グラニュー糖とアーモンドパウダー、無塩バターは近くのスーパーで買い揃えたから大丈夫」
 足りない材料は、近くのお菓子作り材料店で購入。そこには和菓子、洋菓子等、いろいろな菓子作りの材料が一通り揃えてあったので、残りの材料は容易くを購入することができた。
 材料が揃ったので、早速調理開始。
「まずは……アーモンドパウダーと粉砂糖、抹茶をふるうのね」
 ふるい器に入れ、良く混ぜたアーモンドパウダーと抹茶を振るい始めた。良く混ざるまで、これの繰り返し。
 こうすることで、マカロン表面にヒビが入りにくくなるとか……。
(「和菓子が好きなあの人なら、これを喜んで食べてくれるはず。美味しいって言ってくれるといいなぁ……」)
『ゑびす』のメニューであろうと、友人達に振舞うお菓子であろうと、真純は常に食べてくれる人の気持ちを考えながらお菓子作りをしている。
 自分が作ったものを「美味しい!」と言ってもらえる。それが真純にとって、最高の褒め言葉だ。
 次は、30グラムきっちりの卵白を泡立て、モコモコと泡立ち始めたらグラニュー糖を3分の1入れて泡立て、キメが細かくなったら2回目のグラニュー糖3分の1を加える。
「ツヤが出てきたわね。もったりもしてきたし、最後のグラニュー糖を加えて混ぜましょう」
 ここからは重い手ごたえになるので、ハンドミキサーで混ぜた。
「ん、フレンチメレンゲ完成! 初めてにしては上手くできたわ」
 喜ぶ真純だが、まだまだ過程は残っている。
「次は……振るったものを2分の1加えゴムベラでさっくり混ぜるのね。潰さないように……と」
 潰さないように、慎重に混ぜる真純。
 大体混ざったところで、残りの粉を入れ混ぜ込み、さっくりと混ぜ合わせ、ふっくらふんわりになればOK。
 ここからが、マカロンの1番大事な作業だ。
 ゴムベラで生地をボウルの底に押し付けるようにメレンゲの泡を潰していく。これは『マカロージュ』という作業という。
 何回かマカロージュしたら、ボウル内の生地を底からすくうように混ぜ中心に集め、それを3〜4回繰り返す。
 生地をゴムベラに持ち上げた時にトロトロと生地が流れ落ちるくらいになればマカロージュ終了。出来上がった生地は、つややでか滑らかだった。
「や、やっとで生地作りが終わったわ……」
 へなへな〜と椅子に座り込む真純だったが、まだまだマカロン作りは続く!

●完成まで頑張ろう!
 次は、いよいよマカロンを焼く工程だ。
 絞り出し袋(1センチの丸金口つきのもの)に生地を入れ、できるだけ気泡が入らないように綺麗に搾り出す作業は、洋菓子作りに不慣れな真純にとって、神経を張り詰めての作業となった。生地の大きさは約2センチ程度の丸だ。
 絞り出した生地は、ゆっくりと広がり、絞った後が自然に消えた。真純の作業は成功したのだ。絞る際は、大きさを揃えるようにしたので、仕上がりは綺麗になるだろう。
「さあ、焼き始めるわよ。その前に……」
 生地表面に出てきた気泡を、仕上がりが綺麗になるように爪楊枝で潰し、表面を手で触っても生地が指に付かなくなるまで乾燥させる。時間は約30〜1時間かかる。
 その間、オーブンを160度余熱し、真純はマカロンに挟む餡を用意。
 本来なら小豆を煮込む工程からしたいとこだが、それだと時間がかかってしまうので店の残り物を使用することに。
 オーブンの予熱が終わったら、生地を入れ130度に温度を下げ約15分焼く。
(「早く焼けないかしら……」)
 気になる真純は、オーブンの前から離れず、焼き具合をじーっと見ていた。見ていると、綺麗に焼けた生地はマカロンの周囲にピエ(足)が出て、ふっくら、つややかに膨らみ始めた。
 これにより、初めてのマカロン作りは成功第1段階に突入!

●最後の仕上げ
 マカロン生地が冷めたので、真純は練餡のクリームを挟んだ。
「これが『マカロン』なのね。上から見ても、下から見ても可愛いかたち♪ 食べるのが勿体無いけど、ひとつ味見を」
 ひとつ手にし、試食してみる真純。表面はほんのりサクサクなのに、中身はスポンジのように柔らかい。ほのかな餡の甘みは、抹茶にマッチングしている。
「うん、これなら大丈夫! 後はラッピングして渡すだけね♪」
 小さな袋にマカロンをひとつずつ丁寧にいれ、お日様のシールをペタリ。
 それを15個作ると、紙袋に丁寧に入れて黒猫のシールと蝶結びにした水色のリポンを閉じた部分にペタリ。

 これで、プレゼント用マカロン完成!

 栗を思わせる淡いベージュのワンピースに着替えた真純は、早速これを手渡しに出かけた。
「あたしが心を込めて作った初めてのマカロン、あの人に喜んでもらえるといいな……」
 潰さないよう、大切に抱えたマカロンが入った袋を持ち、笑顔を想像しながら食べてもらいたいあの人のもとに向かう真純だった。

 このマカロンが、食べた人に笑顔をもたらしますように。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
氷邑 凍矢 クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年10月03日

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