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『 とっておきの悪戯 - NPC SIDE - 』
白樺・夏穂7182

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 トリック・オア・トリート!
 可愛らしい仮装に身を包んだ子供達。
 思わず微笑んでしまう、その姿。
 屈託のない無邪気な笑顔と元気な声。
 それを目にする度、耳にする度。
 沸々と込み上げてきた、悪戯心。
 今夜くらいは、良いじゃない?
 とっておきの悪戯を仕掛けても。

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 うぅ……今年こそは、って思ったんだけどな。
 どうしても騙されちゃうのよね、私ってば……はぁ。
 溜息を落としながら、見慣れぬ格好でラビッツギルドを徘徊している夏穂。
 どうやら、例の……妹の悪戯の餌食となってしまったようだ。
 毎年のことなのだが、どうしてこうも、あっさりと引っかかってしまうのか。
 疑ってないわけじゃないのよ。朝から警戒はしていたの。
 でもね……あの屈託のない無邪気な笑顔を見てたら、忘れちゃうのよ。
 はぁ〜……駄目ねぇ。来年こそは、引っかからないようにしなくちゃ。
 って、去年も同じこと言ってたのよね……うぅ……。
 今宵の夏穂の格好は、とても可愛らしい。
 まぁ、普段から人形のように可憐な姿ではあるけれど。
 彼女は今宵、例の大好きな作品『しにがみのポポ』に登場する、
 ビビというキャラクターのコスプレをしている。
 しにがみポポの親友という設定の、ビビという女の子。
 ビビもまた、ポポと同じく死神なのだが、いささかドジっ娘。
 しにがみのポポを知り好むファンの間では、
 ポポかビビか、という妙な対立があったりもする。
 フリルいっぱいの黒いワンピースには、紅い蝶の刺繍。
 海のように青い靴と傘。青いリボンはカチューシャのように頭を包み込む。
 普段は結っている髪は解かれている為、ふわふわ緩やかなウェーブ。
 そんな姿で、夏穂は配り歩いている。
 何をって? 例の、トリックケーキを。
 他の人にも渡してきて、と言われて、それに従っている状態だ。
 とはいえ、ギルド内は既に動物園と化している。
 チラリとカゴを見やれば、残るトリックケーキは一つだけ。
 あと一人。渡していない人がいる。
 誰かな? と迷うことはない。
 わかっているから。
 どこにいるんだろう……そういえば、今日、姿を見てないわね。
 ウロウロしながら海斗を探す夏穂。
 いつも何だかんだで騒がしい海斗。
 誰かに怒られている姿を、毎日見かけるのだが。今日は見ていない。
 仕事かなぁ。う〜ん? でも、何も言ってなかったわよね。
 そもそも、今日はハロウィンっていうお祭りなわけだし。
 そんな日に、海斗が仕事するとは思えないわ。
 ウロウロウロウロ、かくれんぼ。
 どこにいるんだろうと首を傾げながら、怪しい場所へと足を運んで行く。
 テクテクと歩き、ライブラリーへとやってきた夏穂。
 ここには……いないわよね。海斗は、好き好んで本を読んだりしないもの……。
 ここにはいない。そう確信して、引き返そうとしたときだ。
 暗闇からヌッと伸びてきた腕。
 その腕は夏穂を闇へと引きずり込んでしまう。
 ドサァッ―
「きゃー!?」
 思わず悲鳴を上げた夏穂。
 そんな夏穂の唇を指で押さえ、ケラケラと笑う人物。
 ぼんやりとランプの明かりが灯るだけのライブラリー。
 目を凝らして見やれば、そこには、ドラキュラに扮装した海斗がいた。
 バサバサとマントを翼のように揺らして、
 その中へ夏穂を閉じ込めて笑う海斗。
「びっくりした?」
「す、するでしょ……普通……」
「あっははは! ん? それ、ビビのコスプレだよな?」
「あ、うん。わかるんだね」
「そりゃーね。好きだし、俺も。あれ? でも、ビビって……猫の耳なんて生えてたっけ」
「あ、ううん。これは……ちょっと、ね……」
 俯き苦笑を浮かべる夏穂。
 先ほどから、ふんわりと漂っている、お菓子の香り。
 見やった先、夏穂が持つカゴの中にあるケーキを見つけた海斗は、
 なるほど、あいつの悪戯に引っかかったってことね、と理解して笑う。
「んじゃ、俺も」
「あっ」
 ヒョィッとカゴからケーキを取り、バクバクと食べた海斗。
 すぐさま、海斗の頭には犬の耳が、お尻には尻尾が出現した。
 ドラキュラなのに犬耳と尻尾……。
 その妙な姿が可笑しくて、夏穂はクスクス笑う。
 それにしても、自ら悪戯を受けて立つとは。
 おそらく、海斗は勿体無いと判断したのだろう。
 せっかくのハロウィンなのに、悪戯されないように警戒するなんて、つまらない。
 悪戯バッチコイ! そんな気持ちなのだろう。彼らしい。


 薄暗いライブラリーで、しばし沈黙。
 肩を寄せ合って、静かな夜に目を伏せて酔いしれる。
 しばらくして、ハッと思い出して。
 夏穂は、自分を後ろから抱いている海斗を見上げて言った。
「そうだ。パーティ。パーティやってるのよ、中庭で」
「あ、そーなの?」
「うん。急がないと、料理なくなっちゃうわ。行きましょう」
「あ、待った」
「ん?」
 抜け出そうとした夏穂の腕を掴み、再び自分の腕の中へと戻す海斗。
 何かな? と首を傾げる夏穂を見て、海斗はクスクス笑いながら。
「俺も、悪戯しておかないとね」
 そう言って、夏穂の指へ、とても可愛い花の指輪をはめた。
 わぁ、可愛い。どうしたの、これ? っていうか、これが悪戯?
 そう尋ねようとした矢先のことだ。海斗はジッと見つめて言った。
「俺と、ケッコンしない?」
「……へっ」
 間抜けな声が出てしまうのも無理はない。
 何を言い出すのか、この人は、突然、何を言い出すのか。
 何て唐突なプロポーズ。っていうか、え? あれ? 何?
 本気? じゃないよね? え? でも、その目は……えぇと?
 目を泳がせて、何も返せずにいる夏穂。
 ようやく搾り出した言葉は。
「じ、冗談よね?」
 確認するかのような言葉だった。
 その問いかけに、海斗は暫く黙って。
 ポリポリと頭を掻きながら立ち上がり、
 ぺたんと座り込んだままの夏穂へ手を差し伸べて言う。
「さぁ。俺にも、わかんね」
「わかんないって……」
「わかんなくなった。ま、いーや! こんな悪戯もアリでしょ」
「う、うん……?」
「よっしゃ! メシメシ! 食いに行こ!」
「う、うん」
 夏穂の手を引いて、いそいそと歩き出す海斗。
 指に咲く、可愛らしい花を見ながら、夏穂はクスクス笑った。
 うん、まぁ、こんな悪戯も、確かにアリかしら。素敵な悪戯かもしれないわ。
 でも、でもね、海斗。残念なことに……。
「右じゃなくて、左の薬指だと思うの……」
 ポツリと呟いた夏穂。
 その的確な指摘に、一瞬海斗はピタリと立ち止まり、
「間違えたっ!」
 そう言ってケラケラ笑いながら、また歩き出した。


 ハロウィンナイト。たまには、こんな。
 甘い悪戯も、いいんじゃないですか?
 ……ツメが甘いのが、微妙なところですけどね。
 というか、悪戯なのか? 本当に、悪戯なのか?

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7182 / 白樺・夏穂 (しらかば・なつほ) / ♀ / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / ラビッツギルド・メンバー

 ハロウィンイベント参加ありがとうございます。
 ほんのり続いてる感じで…。海斗の悪戯が…何といいますか、これ。
 背中が痒くなる悪戯になってしまいました(笑って下さい。笑う所です)
 こんな御話になってしまいましたが。気に入って頂ければ幸いです。
 海斗の悪戯な台詞に、泣かせてみようかなとも思ったのですが。
 夏穂さんは、こういう展開をすぐに把握して感動したり、
 そういう器用な感情変化が出来ないのではないかと思い止めました。
 というか、本当、すみません。遊びすぎですね。
 楽しかったです!(………) また、宜しくお願いします^^
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 2008.09.30 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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東京怪談
2008年09月30日

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