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『【出撃のバトルメイド】 』
高科・瑞穂6067)&ファング(NPCA022)





 これはこれで、アリかもしれない。
 先だって渡されていた衣装を胸に押し当てて、姿見で自分の姿を確認する。
 茶色い髪に茶色い瞳。目鼻立ちの整った顔は、もう子どもではない。その顔つきに、幾つもの修羅場をくぐり抜けてきたクールな自信と慎重さが、自分だからか、見て取れる。ラベンダー色のブラジャーは、任務をこなすには邪魔になりがちな大きな胸を包みこみ、同じ色のショーツは動きやすいよう最低限の面積だけを確保している。長い髪が下着姿の背中に揺れる。柔らかな髪が撫でる、このくすぐったさは心地いい。
 鏡の中、身体に合わせるように当てた、漆黒色のワンピースが白熱灯の淡い光に照り返り、特殊素材で織られた生地が上品に輝いている。
 丈の短いスカートは、幾重にも重ねられたフレアの膨らみが豊かすぎて、その波打つラインの輝きは優美だが、腰から身体を前後に反らせば、おそらくスカートの中が見える。
 下に穿くペチコートも用意されているのだが、それもギャザーが幾層にも重ねられているので、むしろそのボリュームが、ワンピースのスカートをさらに持ち上げてくれるだろう。白地のペチコートは網目の細かいレースで織られ、一枚だけでは素肌が透けて見えてしまうのだが、ギャザーが重なったところでは、ほとんど透けることはない。白の網目が折り重ねられ、純白に膨らんでいくのは綺麗である。
 そのペチコートとスカートの間に、細身の投げナイフを仕込んでおくのは、悪くない。
 いや、スカートの下ではなく、ペチコートの下、ガーターベルトに下げておくのが正解だろう。せっかくのスカートとペチコートの膨らみを、ナイフの重みで台無しにしてはいけない。そこにはいくらでも武器が隠せそうなのだから、その利点を活かすように、きちんと着こなす必要がある。この、世界一可愛いといわれるニコレッタメイド服を。

 私、高科瑞穂(たかしなみずほ)は軍人である。それもただの軍人ではない。
 超常現象の調査解決、魑魅魍魎との戦闘など、自衛隊の中にあって特異な任務を行う極秘機関、近衛特務警備課に所属するエキスパート。
 任務は確実に遂行する。そこに感情はいらない。理性でもって行動する。
 怪異妖怪がらみの事件は、市民に気づかれることなく解決しなければならない。それは無用な恐怖を市民に与えるのは政策上好ましくないためであり、組織として遵守すべき項目にもなっている。
 だから、豪邸といって差し支えないほど大きな屋敷に配備された以上、私はそこで働くメイドの一人になりきらねばならない。今まで多くの場数を踏んできた私にとって、こんなことはたいしたことではない。だが、この仕事を私にあてがった上司は、私からの信頼が、少しぐらい揺らぐ覚悟はしておいて欲しいものだ。

 リネン室を兼ねた使用人部屋で、私はひとり着替え始める。
 自前の下着を脱ぎ、用意された純白シルクのガーターベルトに足を通す。王冠を逆さにしたような繊細な刺繍が腰のくびれを一周し、ところどころに花びらをあしらったレース地のフリルが、おしりが膨らみ始める緩やかな傾斜と、足の付け根までを柔らかく覆う。ガーターベルトと同じ、純白のニーソックスを穿き、股の付け根とお尻の脇に二本づつ垂れている細いバンドで、ソックスを吊る。そして最後に、同じくレース地のシルクのショーツに足を通す。
 ソックスもショーツも、ガーターベルトと同じように、縁取りに細かい刺繍がしてあって、着けてみると腰から太ももまでの連続が、優れた芸術品を思わせる。視線が下ばかり向いていたが、ブラジャーも同じ一揃えだ。大屋敷に潜り込むともなれば、これくらいは必要なのかもしれないが、軍の配給部もけっこうな趣味をしている。
 ブラジャーを着け、ふわふわのペチコートを穿き、黒のワンピースを頭からくぐるようにして着込む。スカートをペチコートに乗せ、フレアーの広がりが変に波打たないように整えてから、背中のジッパーをゆっくりと上げる。このワンピースは胸の膨らみが大きく作られていて、いつも以上に脇の肉をブラに押し込まないといけないことが、途中で分かった。ジッパーを半ばで止め、胸を詰める。その作業を何度かして、ようやく首の付け根までジッパーが上がってくれた。コルセットも付けてくれれば、こんな手間はいらないのに。
 ワンピースの胸元はスクエアに開き、その襟は白い生地の細いレースで縁取られている。膨らんだ肩口も脇の下のところで絞ってあり、その絞りの部分にギャザーたっぷりの白レースのフリルがついてる。
 真っ白いエプロンは、始めから幅の広い肩ひもが背中でクロスしてあるので、頭からかぶるしかない。帯状の肩ひもには、ギャザーの緩いフリルがついて、それが肩を覆い、背中まで続いている。その波打つフリルが、まるで妖精の羽のように見えてくるから不思議なものだ。
 エプロンの胸部はゼッケンのようなスクエア型で、ワンピースの胸元に沿うような形になっている。エプロンを、膨らみを強調したワンピースの胸元にあて、胸をゆったりと支えるようにブラの位置から整えてる。腰の帯を後ろで結わくが、帯はいくぶん長めに、そして端に行くほど太めに作られているので、腰の後ろで結ったリボンは大きくなった。一方、半円状の前掛けには大きめのフリルが縁取られているから、前と後ろで均整がとれている。
 ワンピースと同じ生地に、白地のレースをあしらった、カチューシャとチョーカーを着け、鏡を見る。
 そういえば、と思いだし、オーバル型のノンフレームの眼鏡をかけた。化粧は薄めにしているから、知的なデキルメイドに見えなくもない。
 木製の丸椅子を寄せ、腰を下ろし、少しだけヒールのついた編み上げブーツを履いていく。黒のブーツは膝下まであり、これまた白のニーソックスとコントラストが効いている。
 私は椅子に座ったまま、足下で、持ってきたスーツケースの蓋を開く。
 簡易な組立式の機関銃とライフル、五種類の拳銃、マガジンケースと投げナイフが多数、ケース内のクッションに収まっている。その中からサイレンサー付きの回転式拳銃を二丁を取りだし、弾倉も一緒にヒップホルスターに装着する。ホルスターの細い腰ひもには、投げナイフを差し込む口が左右四本づつあり、そこにナイフを入れていく。
 立ち上がり、スカートの中に手をさしいれて、ペチコートごとめくる。ガーターベルトのフリルの下に、ヒップホルスターを装備して、改めてペチコートとスカートの膨らみを整える。
 私は何気ないふうを装い、姿見に映る自分に向かって笑顔を向ける。
 そして、一瞬にしてスカートの中から拳銃を引き抜いた。左右の手に持ち、鏡の中の自分に構える。
 これはアリだな、不意打ちになる。
 そう思ったときだった。
 使用人部屋の警報器が、けたたましいサイレンの音を出した。

 侵入者。
 私はテーブルに置いていた手袋を右手に、壁に掛けておいた剣を鞘ごと左手に持つ。
 その間にも、警報器の鳴り方から侵入者の位置を察する。
 屋敷を囲む森の西側、そこの赤外線監視ユニットに引っかかったようだ。
 視線を窓に向け、外がすでに夜であることを再確認する。
 外へ出る扉の取っ手を、手袋ごしに掴んで回す。押し開き、屋敷を右手に駆けていく。
 剣をエプロンの背後、リボンの帯に挟み入れ、ちょうどヒップホルスターの上に乗っかるように、斜めに差し込む。そうして自由にした両手で、長手袋を嵌めていく。この白い手袋はなかなか丈夫な作りだが、肘まで覆うタイプなので、タイトな生地に手を入れていくのが面倒だった。けっこうな力を込めて引っ張っても、切れないのは良かったが。
 広大な敷地の七割は森。雑木林と化したこの森は、ひどく植生が乱れている。幾種類もの樹木や草が、自分の種を残そうと他を押しのけ、必死になって伸びようとしている。植物たちの生存競争は苛烈で、森は不自然なほど鬱蒼と生い茂る。
 その中を、フレアスカートで走っている自分は何なのだろう、と舌打ちしたくなってくる。せっかく着込んだメイド服も、そのあちこちが枝に引っかかり、引っかき傷からほつれ始める。茂みを分け入る音を聞きつけ、侵入者の背中を見つけたときには、けっこうな傷ができてしまっていた。
 二、三の樹木を間にして、そいつの姿を視認する。
 一見、人間の姿をしているが、その気配はヒトのそれと若干違う。物の怪の類だろう。屈強そうな大柄な身体つき。皮のベストとボトムを穿き、手首に鎖の付いたリストバンド。灰色の髪は長く、肩の下まで伸びている。顔は屋敷の方に向けているので、この位置からでは見えない。
 私は左手で拳銃を抜き、腰の後ろに右手を回し、剣の柄を握らせる。
 歩き出そうとした男に、威圧的な声をかけた。
 「止まりなさい」
 私は拳銃の撃鉄を下ろす。
 「女か」
 そいつは振り返りながら、いう。
 「ええ、そうよ」
 男は銃口に澱んだ瞳を走らせて、
 「物騒だな」
 「侵入者がいうセリフ?」
 「それもそうか」
 呵呵と笑う。
 豪胆な、と思いながら、私も微笑む。人間の敷居に無理に入ってくるのは、こういうのが多い。経験上、私はそれを知っている。今回もいつもの仕事。いつもどおりにこなせばいい。
 不意に、雲に切れ目が入ったのか、弱々しい月光が男を射した。木々の葉の隙間を抜けてきた光に、男の髪が照らされる。灰色に見えた髪は、銀髪。目は毒々しいほどの赤。肌は病的なほど白い。
 「可愛い格好をしてやが――」
 「目的はあるの? それとも迷子?」
 男と私は、不敵な笑みを交しあった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
秋月 淳 クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年09月08日

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