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『『新たな出会い』 』
嵐・晃一郎5266)&大守・安晃(7430)&草間・武彦(NPCA001)



 この世界にやって来てから、一体どれぐらいの時間が経っただろうか。
 かつての世界で敵対していた組織の女性と共に、魔導兵器実験の事故によりこの世界へと飛ばされた嵐・晃一郎(あらし・こういちろう)と最初に関わりを持つようになった人間が、草間興信所の所長である草間・武彦(くさま・たけひこ)であった。
 武彦はこの世界にやってきて、住む場所も仕事もなかった晃一郎達に住居を与えるなど世話を焼いてくれた。その内容がどうであれ、今こうして晃一郎はこの世界で時には危険な目に合いながらも、それなりに楽しく生活が出来ていた。
 あの事故からかなりの時間が経った今でも、晃一郎は草間興信所から仕事をまわされていた。いや、このところ草間からまわされる仕事は、日を追うごとに厄介で面倒なものになっている。
 良く言えば晃一郎の実力を武彦が十分に認めていると言う事になるが、いつその依頼の事故や事件の巻き添えを食らうかわからず、万一の事があれば晃一郎も無事でいられるかわからない。それでも晃一郎はその厄介な仕事を受けなければならなかった。武彦には恩もあるし、何より自分の生活もあるからだ。
 草間興信所からの電話を着信し、今日もこの質素な住居に携帯電話の軽快なメロディーが鳴り響く。仕事の話がやってきたのである。



 草間興信所はいつ行っても書類やメモがデスクの上に散乱しており、綺麗に整頓されているのを見た事がない。しかも所長の草間・武彦はかなりのヘビースモーカーで、事務所はいつでも煙草の臭いが蔓延していた。
 最も晃一郎は潔癖証というわけでもないので、あまり気にした事はないが、無造作に置かれたメモがどこかに飛んでいかないのかと思う時はある。
「今回の依頼なんだが」
 晃一郎が興信所の事務所に入るなり、武彦はわずかに晃一郎に視線を向けた後、そのまま視線を一枚のメモへと向け話を切り出して来た。晃一郎に前置きの話などは不要という事なのだろう。
「ある大富豪の身辺を調査して欲しい」
「大富豪?」
「場所はこの地図にある。まずはその大富豪の屋敷に入り込んでくれ。中から調査すればおのずと事件は見えて来ると読んでいる」
 武彦は淡々とした口調でそう言うと、ノートの切れ端に書かれたその地図を晃一郎に手渡した。
「その富豪の男は、表向きは大変な努力をして今の富を築き上げたとされていて、実際大半の者がそう思っているし、ビジネスを成功させたい若者達には目標とまでされている。わかるか?そういう奴に限って必ずその成功の裏に暗黒の部分がある。しかも、どす黒い、吐き気がする様な裏がな」
「それはつまり」
 晃一郎は今までの経験から考え、今回の依頼の内容をほぼ予想する事が出来た。
「大富豪の裏を調べろって事か?その大富豪の暗黒部分とやらを」
「お前なら出来るだろうからな」
 晃一郎の質問に、武彦は顔を上げて無表情のまま頷いた。



 晃一郎は武彦から渡されたメモを見つめながら、大富豪の屋敷へと向かっていた。
 武彦の話によると、その大富豪は表向きはビジネスの成功者でビジネス界から大変な注目を浴びているが、裏ではあくどい商売はもちろんの事、薬物や人身売買にまで手を染めているらしいという噂であった。その裏の仕事を成功させていたからこそ、大富豪の男は成功者と称えられているのだという。
 晃一郎が興信所から受けた依頼が、その大富豪のあくどいビジネスの裏づけを取る、という事であった。
「まったく、そういう奴ほど社会で大きな顔をしている」
 晃一郎は薄く笑い目の前に見えてきた大富豪の屋敷を見つめた。入り口には警備員が配置された、門構えも立派な屋敷だ。当然だが門は閉まっており、さぞかし立派なセキュリティーもついているのだろう。
「こっちは玄関口か。だとしたら、俺が入るのは別の場所だな」
 手元にある偽造された身分証明書を見つめ、晃一郎は裏口へとまわった。このようなビジネスマンの屋敷にすんなりと入れてもらえるはずもなく、屋敷の訪問客を装ってもまず入れてもらえないだろう。それに、訪問客としてうまく入り込んだところで、屋敷内をうろつく事など許されるはずもない。
 だとしたら、屋敷における使用人として入り込むのが一番良いはずだ。しかも、主人のそばにいても怪しまれない仕事でなければいけない。
「ボディーガードねえ。あの所長さんも、なかなか犯罪な事をするじゃないか、依頼の為とは言え」
 出発前に武彦から渡されたそれは、主人専属のボディーガードの身分証明書の偽造品であった。どうやって作り出したのかはわからないが、確かにこれなら屋敷でうろついても多少の事なら怪しまれないだろう。
 聞いたところによると、大富豪のボディーガードは数十人いるそうだが、そのうちの数名が大富豪が手をつけている例の裏仕事中に発生したトラブルに巻き込まれ、命を落としてしまったのだという。
 トラブルの詳細はわからないが、麻薬売買のトラブルで別の麻薬組織の怒りを買い、命を落としたボディーガード達は、本来狙われるはずであった大富豪を助け自分達が身代わりになったのだという。そのタイミングで晃一郎は屋敷に入るこむ事になるので、新しいボディーガードだと言えば誰も何も言わないはずだと、武彦は説明をしていた。
「ま、ボディーガードはそういう仕事なんだが、不憫だよなあ。あくどい主人の変わりに犠牲になるなんてさ」
 そう呟くと、晃一郎は偽の身分証明書を手にし、その先で警備員が目を光らせている関係者以外立ち入り禁止と、書かれた門に手をかけた。



 ボディーガードの中にも、とりまとめるリーダーがおり、晃一郎はその男の指示に従って動く事になった。リーダーの言う事だけを聞き、空いた時間の傍ら、晃一郎は屋敷の主人である男の隠された真実を捜索していた。
 「新人」である晃一郎がいきなり主人のそばに配属されるはずもなく、晃一郎はボディーガードの中でも、主人から少し離れた場所に常に位置する場所を任され、遠くからの外敵から主人を守る様にと任務を任された。
 主人と話すことは出来ないが、主人が自宅に滞在している時には、屋敷に点在している証拠を拾い上げる事が出来そうであった。
 屋敷内にはボディーガードの他にもメイドや料理人、庭師やビジネス関係のものなど、多くの人間が出入りしていた。屋敷内は豪華そのもので、ロビーには大きなシャンデリアが吊り下がり、あちこちにどこかの有名な芸術家が作ったであろう絵画や彫刻があり、晃一郎は一瞬、自分の住む小さな倉庫の家と比較をしてしまった。
「あそこがこんな家だったら、あいつはどう思うかな」
 同居している女性の事を思い出し、晃一郎は苦笑を浮べた。屋敷に入った初日、晃一郎はまず屋敷の作りを確認した。部屋の位置や通路など、あらゆる方面から調査をし、いくつかセキュリティーがかけられて晃一郎では入れない部屋がある事に気付いた。おそらくは、何か重要なものが置かれている部屋なのだろう。
 ボディーガードとして入り込み、特にこれといった証拠もつかめないまま、1週間が過ぎ去った。
 必ずこの屋敷に何かが隠されているはずなのだが、内部関係者の中にも主人の本当の姿を知らない者もいるのだろう。こんなにも沢山の使用人がいるのだから、当然といえば当然なのかもしれない。逆に、何も知らない者がいてこそ、秘密はより誤魔化されやすいというものだ。
「うん?」
 屋敷内を歩いているうちに、晃一郎は扉がわずかに開いた部屋がある事に気付いた。そこは普段はオートロックになっており、専用の証明書カードがないと開く事が出来ない場所であった。晃一郎ですら、その部屋を空けるカードは持っていない。ボディーガードには関係のない場所であった。誰かが開けっ放しにしたのだろうか。
 晃一郎はあたりを見回すと、用心深く部屋に足を踏み入れた。
 中は一見、どこの会社でもありそうな事務所であった。棚が置かれており、ファイリングされた書類が並べられている。机には数台のパソコン、書類が机の上にいくつか出されているが、ぱっと見た感じは、単に業務の事が書かれた書類のように見える。
 だが、屋敷の中でもセキュリティーがかけられるような部屋であるなら、何かが隠されているはずだ。そう考えた晃一郎は、さらに事務所の奥へと入ってみた。幸い、誰も事務所内にいない。おそらく、最後にこの部屋を出たものが、扉をきちんと閉めず、オートロックがかけられなかったのだろう。
 晃一郎は一番奥にある棚に手をかけた。ぶあついファイルが並べられているが、その中の1つに赤い文字で「重要」と書かれた物があったからだ。
 ファイルを取り出し、ページをいくつかめくった。そして、そのファイルの文字が何を意味しているか、晃一郎は容易に想像する事が出来た。
 麻薬をいつどこに、誰から買取り、誰に売り出したのかが書かれていた。ファイルの一番古いものに書かれた日付から10年以上が経過している。それほど前から、この屋敷の主人は麻薬密売に手を染めているということになる。
「いい仕事ってわけだ。人の心さえも蝕んでしまう麻薬を売って、自分はビジネスの成功者だと」
 晃一郎は苦笑をしながら、他の書類も捜した。ごく普通のビジネス書類も多かったが、中には裏の仕事に関係するのではないかと思われるものもあった。
 さらに棚を外すと、写真が貼られてアルバムの様になっている書類を見つけた。だが、中を開くとそれが記念アルバムなどとは違うということにすぐに気付いた。
 少年や少女の写真がいくつも貼られており、中には裸で写されているものまである。その写真のそばにはその人物のプロフィールと思われる文字があり、この写真の子供達がどこで「入手」されどこに売られていったかを確認する事が出来た。
 ある少女は、ヤクザが絡んでいると思われる組織に売られており、またある外国人の少年は、扮装が絶えない土地へと売られていったようであった。このファイルから、子供達が商品として扱われている様子を見る事が出来た。
 仕方なく身売りされた子供もいるのかもしれない。この屋敷の主人や関係者は、不幸な境遇の子供達を自分の私利私欲の為だけに扱っているのであった。
「親はどんな気持ちなんだろうな、いや、この写真の子供自身も」
 あまり長居して万一の事があってはいけないと思い、晃一郎はひとまず部屋を出た。しかし、裏付けの為に小さな盗聴器だけを仕掛けておいた。
 大富豪の男が何をしてここまでの富を得たのか、晃一郎は想像出来た。悪い人間ほど涼しい顔をしており、真面目な人間が苦労をする。晃一郎は再び苦笑をした。その様な人間だけが良い思いをしている真実に怒りすらも覚えた。



 さらに数日後、晃一郎は仕掛けておいた盗聴器から確実な証拠を掴んでいた。裏ビジネスの関係者と思われる男達が、麻薬密売の話をしていたのであった。
 ある者は、繁華街にたむろしている若者達に麻薬を吸う銃も売った事を話しており、またある者は外国から大量の大麻を仕入れたことを語っていた。そしてそこで取引される金額が、普通のビジネスマンでは決して手に入れる事が出来ないような金額ばかりであった。
 そのビジネスには沢山の涙が流される。犠牲になるのはいつも弱い人間である。彼らはその弱者を利用して金儲けをしているだけだ。そして、この屋敷の主はその上に立って私腹を肥やしているのだ。
 晃一郎は段々、嫌気が差してきた。この男達の姿に怒りと呆れを感じていた。もちろん、依頼を引き受ける前から、これらの真実が見えてくる事はわかっていたけれど、実際にそれらを目の前にすると、予想していた事ですらも気分も悪くなってくる。
「もうとっとと撤退するかな、こんな腐った屋敷なんか」
 若者達憧れの成功者の影の部分を見つめ、晃一郎は静かに一人で呟いていた。



 晃一郎が屋敷のボディーガードとして屋敷に入り、2週間が過ぎようとしていたある朝、主人が出かけるかということで、玄関前で晃一郎は一人待機していた。外出する時間までにはまだ時間があり、他のボディーガード達はあとからやってくるはずであった。
 その時、晃一郎は天井から希薄な気配を感じた。何者かが天井にいる様な気がしたのだ。その気配はどんどん、大富豪の自室へと向かっている。
 晃一郎は気配を追いかけた。ただごとではない。一体天井に何が潜んでいるというのか。
 それが何なのかを予想しているうちに、晃一郎は大富豪の自室の前までやってきた。屋敷のどの扉よりも立派な扉で、ライオンの首の彫刻が掘ってある重そうな扉が目の前に飛び込んできた。そして、扉の横の壁にはパネルがあり、操作しなければ開く事は出来ない様であった。残念ながら、扉はきっちりと閉められている。
「さてと、どうするか」
 晃一郎は少しの間どう扉を開けるか考えたが、そのパネルに手袋をしたまま手をかけると、体からわずかな電流を放出し、パネルの機械を誤作動させた。
 晃一郎は電気を操る事が出来るが、機械を誤作動させれば、この扉のロックも開けるだろうと予測したのである。
 いとも簡単に、扉は開いた。かちりという音が小さく響き、晃一郎は扉のノブを開いた。
 自分にも危険があるかもしれない。まわりの気配に気を配りながら、晃一郎は部屋へと入る。ボディーガードとして入り込んだからには、まずは主人の安否を気遣わなくてはならない。
 主人である中年の男は椅子に座っていた。しかし様子がおかしい。まったく身動きしないのである。眠っているのだろうか?晃一郎は主人へと近づいていった。少しずつ、一歩一歩用心しながら。
「これは?」
 中年の男の首に、鋭い一本の鍼が突き刺さっていた。それが鍼治療で使う針である事ぐらいは、晃一郎もわかっていた。だがすでに、主人には息がない事に気付いた時、晃一郎は飛ぶようにして一歩後ろへ下がった。
 椅子の影に小麦色の肌をした若い男が立っていたからだ。黒装束を着たその男の手には、数本の鍼が見えていた。主人の息の根を止めたのはこの男だと、晃一郎はすぐに理解した。しばらくの間、無言で男と晃一郎は睨み合っていた。
「あなたも‥‥か?」
 男が急に口を開いた。その視線はとても鋭く、今殺人を犯したとは思えないほど淡々としていた。
「俺は、コイツの悪事を調べろって頼まれただけだ」
 晃一郎はとっさに答えた。誤魔化しなどではない。晃一郎は本当の事を答えていた。
 男はしばらく晃一郎を見つめたあと、わずかに眉を上げて答えた。
「なら‥‥分かっているな?」
 それだけ答えると、まるでアクション映画の様な洗練された動きで、男は天井裏へと消えていく。目で追いかけるのもやっとの、見事な動きであった。
「こういう結末になるとはな」
 晃一郎はため息をついた。もうこの屋敷にいる理由はなくなった。
 あの黒い服の男が何故屋敷の主人を殺害したのか、理由までは晃一郎にはわからない。今この場に残されているのは、殺された主人と、殺人の現場に居合わせている晃一郎だけだ。
 そうとなればやる事は決まっていた。このままでは晃一郎が殺人の容疑にかけられてしまう。
 晃一郎は体から強い電気を発生させると、部屋中の機械を感電させ、そして爆発を起こした。
 皆がこの部屋へ集まってくる事はわかっていた。晃一郎は騒ぎの中、あの天井裏へ消えていった男の事だけを考えていた。一体何者なのだろうか。人体を知り尽くしている者である事には違いない。どこかで再び、会う様な気がしていた。何故かはわからないが、そんな予感がしたのだ。



 数日後、世間はあの大富豪の男の死と、それにより暴かれた数々の悪事で騒ぎ立てられていた。
 あの屋敷の主人は、裏ではとんでもない悪事をしていたのだとメディアからバッシングを受け、若者達の憧れから遠い存在となっていた。最も、今は生きてはいないのだが。
 晃一郎も警察の事情徴収に答えたが、詳細は語らなかった。それに、富豪の死は明らかにあの鍼を刺した人物のせいだとわかりきっていた。世間は大富豪を殺害したあの鍼の人物を追い、様々な憶測を立ててメディアを賑わせていた。
 晃一郎は事件の調査が一通り済んだ後、ボディーガードリーダーから辞任を言い渡された。主人がいないのだから当然なのであるが、何も知らずに真面目に働いていた使用人達には、いささか不憫だと晃一郎は感じていた。
 草間興信所へも依頼の報告を終えて数日後、事件の騒ぎがまだ覚め止まないある日、晃一郎は小さな鍼灸所に立ち寄った。何故なら、その鍼灸所の中からあの屋敷で感じたのと同じ気配を感じ取ったからであった。
 その鍼灸所はかなり小さな場所で、中に入るとすぐに治療室に辿り着いた。
「治療を受けに来たのでしょうかな?」
 奥から、一人の男が出て来た。穏やかな表情をした男であった。晃一郎より少し年上ぐらいだろうか。
 しかし、晃一郎はあの富豪の屋敷で感じ取ったのと同じ気配、同じ視線をはっきりと感じ取っていた。あの時の黒装束とは違い、今は医療技術者らしく白い白衣を上着に着ている。とうてい数日前に殺人を犯した者とは思えない。
 訪ねたいことは山ほどあったが、晃一郎はそれを表に出すことなく、表情を変えないまま答えた。
「いやあ、ちょっと興味があったんで寄ってみたんだけどね。鍼治療はまた今度にするよ」
 そう言って、晃一郎は出口へと向かった。
「縁があったら、また」
 そう言い残して晃一郎は診療所の外へ出た。
 その男、大守・安晃(おおかみ・やすあき)が後で薄く笑みを浮かべている事に気付きながらも、晃一郎はそれ以上、安晃を振り返る事はしなかった。(終)



■ライターより■

発注有難うございます!そしてお久しぶりです!

今回は新たなライバル登場の物語を描かせて頂きました。どうしても晃一郎さんメインで安晃さんの出番の方が少なくなってしまいましたが、これからどんな物語になるか楽しみですね。

では、有難うございました!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
朝霧 青海 クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年08月18日

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