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『ようこそ!体験入学! 』
月夢・優名2803)&秋山・美菜(NPC2979)


 毎年恒例ではあるが、神聖都学園は夏休みに総力を挙げて『オープンキャンパス』を行う。初等部は高学年の子どもたちによる鼓笛隊の演奏、大学の運動部は模擬店と文化祭さながらの規模で力いっぱい運営する。そんなバカ騒ぎにあのおとなしいゆ〜なが自分も知らないうちにこの渦に巻き込まれていた。答えは簡単。友達の美菜がふたりで参加することを勝手に決めちゃったからである。とはいえ、高等部の出し物はいくつもある。年齢が上がるとともに、できることも多くなっていくのは当然のことだ。そんな中でも美菜の選んだものは過激としか言いようがなかった。

 準備を整えたゆ〜なは猛暑が続く夏の日に、なんとロングコートを着ていた。早く美菜が来ないかと、そわそわきょろきょろしている。こんな姿ではあるが、熱中症になる心配はない。体は日陰に隠れているし、何よりも中に来ている服が超がつくほど薄手だからだ。落ち着かない彼女の元にピンクのバニースーツを着た女の子が近づいてくる。なんとこれが美菜だった!

 「おはよー、ゆ〜な! サイズ、合ってた?」
 「あ、合ってますけど……あ、あたし、こっ、これで学園中を歩き回るの?」
 「うん。高等部主催の喫茶店の客引きだから。2時間ちょっと働くだけで模擬店食べ放題の券がもらえるんだよ!」

 ゆ〜なのコートの中は、どうやら美菜と同じピンク色のバニースーツ姿らしい。準備は巻き込んだ張本人がすべて用意した。バニーガールといえばゆ〜なも黒を連想したのだが、美菜に言わせれば「あれは大人になってから着るもの」らしい。確かに用意されたものを見てみると、セクシーというよりはプリティーなイメージが強い。しかも歩く場所は大人の雰囲気漂うカジノやバーではなく、未成年が大多数を占める神聖都学園の校舎の中。このくらいおとなしめのものの方がちょうどいいのかもしれないと、うまいこと美菜に騙されてしまったゆ〜なであった。


 ふたりの宣伝効果は抜群で、通り過ぎる者を魅了するには十分すぎた。特に遠慮がちに看板を持つゆ〜なの姿は腰が引けていたが、逆にいいポーズになって逆に大きな反響を呼ぶことになる。一方の美菜はわが道を行く性格なので、道行く人に愛想を振りまきながら行進した。どちらかといえば小さな子どもたちに人気で、看板に書かれた漢字の内容をいつもの調子で説明する。

 「これはねぇ〜、高校生のお兄さんとかお姉さんとかがジュースとかを出してるところだニャン♪」
 「美奈さん……あたしたち、ウサギさんですよ?」
 「あっ、いっけない! と、と、ところだピョン?!」

 ゆ〜なの冷静なツッコミに動揺してしまった美菜のリアクションを見て、彼女も思わず微笑んだ。その後、ふたりで「ウサギってどんなイメージでやるんだろうね?」と楽しく語り合いながら仕事をこなす。堅苦しく仕事と呼んではいるが、やることといえば構内を歩き回ることだけ。ただお客さんはいつも同じ人とは限らない。だから美菜もスマイルを欠かさずにがんばった。ゆ〜なも徐々に違和感がなくなったのか、美菜と一緒になって少しずつ声を出し始める。おとなしい顔立ちでかわいく話す姿は大好評だ。

 そんなこんなで仕事を半分くらいこなした頃だろうか。ひとりのウエイター姿の男が美菜に駆け寄ってきた。

 「こ、ここにいたのか……ぜぇぜぇ。」
 「どうしたの? ゆ〜なもあたしもがんばって客引きを……」
 「おかげさまでね、ものすごい数のお客さんが来てさ。もう大繁盛なんだけど……」
 「だけど……どうしたんですか?」

 ゆ〜なも美菜も首を傾げる。するとウエイターは驚くべき発言をした。

 「実はさ、『さっきのバニーちゃんはウエイトレスもやってるんじゃないのか』ってみんなに言われて大変なんだよ〜!」
 「も、もしかして、意味もなくあたしたち人気出ちゃった?!」
 「意味はありますけど、ちょっとややこしくなってしまいましたね……で、どうすればいいんですか?」

 形式的にそんな質問をしたゆ〜なだが、何をすべきかはもうわかっている。ただ相手にはっきり言わせる必要があった。そうでなければボランティアになってしまう危険性を秘めている。そんな深い考えなど知らずに、彼の口はぺらぺらと喋りだした。

 「その……客引きは終わって、そのままウエイトレスしてくれないかなーと思って。」
 「ええっ! ゆ〜な、それは聞いてないよねぇ! どうしよっかなー、あたし2時間ちょっとで終わるって聞いてたから……」
 「あたしもそのつもりだったんですけど……この場合はどうなるんでしょうかね?」

 ふたりの呼吸は抜群だった。言うまでもないが、バニーちゃんたちは『模擬店食べ放題の券』の他にも追加報酬がほしいと暗に要求したのである。その空気を感じ取ったウエイターは事態の収拾が先だと判断し、ふたりに破格の見返りを約束した。ところがふたりは顔を見合わせ、人差し指を下唇に当てて「う〜ん」と考え込む。ハッキリした答えではなかったので、ちょっと意地悪をしてみたのだ。

 「美菜さん、あたしこの格好のままでウエイトレスするんですか?」
 「あたしもちょーっと慣れない衣装でそういうのしたことないからなー。どうしよっかなー。」
 「ちゃんと約束したじゃん! 後で店長と考えるから! 今はお願い、早く喫茶店に来てっ!」

 ふたりはくすくすと笑うと、ウエイターに看板を押しつけて喫茶店の教室へと向かう。美菜はウサギのようにスキップしながら、ゆ〜なは小走りでその場所へと急ぐ。一仕事終えた後にはふたりのお楽しみが待っていると思うと、今から心が躍るゆ〜なであった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年08月18日

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