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『〜憎しみの果てに見るもの〜 』
フガク3573)&(登場しない)


 疲弊した身体を引きずるようにして、フガク(ふがく)はつぶやいた。
「…ここ以外、ないはずだ…」
 光る柱を見つけ、そこに刻まれた道しるべを見つけた。
 だが、途中の道に生息する吸血ヅタが彼の行く手をさえぎり、何度も彼を撃退していた。
 まるで、その先に大事な何かがあるかのように。
 それだけではない。
 とにかく時間がかかっている。
 あまりに広いこの地下水脈を、何の手がかりもなしに探し回っているのだ。
 既に路銀も尽きかけている。
 以前のように、何かしら仕事をしてから再挑戦する、そんな気は毛頭ない。
 ただただ、彼の記憶の底に残された、あの声に応えるためだけに、フガクは今、生きていた。
 鍛え上げられた無駄のない身体からは、必要な肉すら落ち始めている。
 まともな物を口にしていないのだから、当然だ。
 だが、誰かに「あの地」を暴かれる訳にはいかないのだ。
 特に、奴らには。
「一族を、あんな目に追いやった奴らを、俺は絶対に許さない」
 目ばかりを爛々と輝かせて、フガクは炎のように、そう吐き捨てた。
 なぜ、自分たちは、生きるためにあんな思いをしてきたのか。
 それだけならまだしも、この世に存在することすら、許さないというのか。
 地獄の業火とやらがあるのなら、今すぐ報復できようものを。
 フガクは唇を噛みしめた。
 だが、自分がここで朽ち果てる訳にはいかないのだ。
 感情に飲まれて、一時の憎悪に染まる訳には。
 彼はもう何度となく往復したエバクトへの道を引き返した。
 野宿をするのは一向にかまわないが、食べ物が買えなくなるのは問題だ。
 しかし、あと数日で、そうなってしまうのは必至だったのだ。
 フガクはふと、先日の酒場でのことを思い出した。
「あの時、あいつらが言ってたよな…」
 『伝説の地の扉』にたどり着いた二人組がいた、と。
 エバクトは、その地下水脈に一番近い村だ。
 正確な情報も、当然手に入るだろう。
 フガクは念のため、先日訪れた酒場を覗いてみた。
 だが、混雑した店内のどこにも、先日の話し手たちの姿は見あたらなかった。
 小さい村だ、酒場はここ一軒しかない。
 フガクは早々にあきらめた。
 そして、近くの椅子に腰を下ろすと、温かい野菜と白身魚のシチューを頼んで、空腹を満たした。
 路銀を惜しんで、その晩は村の民家の陰で座ったまま眠り、翌朝早く、彼は水脈に行くたびに立ち寄る、道具屋に足を向けた。
「おお、おまえさんか」
 店主は赤銅色の腕をした、体格のいい男だった。
 昔、傭兵をしていたことがあるという。
「油布を巻いた、燃える時間が長い松明が手に入ったぞ。また水脈に籠もるなら、かなり役に立つと思うがな」
「ああ、ありがとな」
 言って、フガクは少し笑った。
 笑うこと自体が久し振りすぎて、頬が引きつっているのが自分でもわかる。
「なぁ、オヤジ」
「何だ?松明じゃなくて食料の方か?」
「それもほしいんだけどさ、ちょっと訊いてもいいか?」
「返答は確約できんぞ」
「…この村から水脈に降りて行った人間ってのは多いのか?」
「ああ、そりゃあな。何しろ、ここの水脈にある水は、世界中探してもなかなか見つからねえほどの純度らしい。魔法使いやら薬師やら、まあ、いろんなのが来るな」
「そっか、かなりすごい水なんだな」
「なんだ、おまえさんの目的は水じゃねえのか」
「…あのさ、『伝説の地』ってのの話、聞いたことないか?」
 店主は顎の無精髭を撫でながら、眉をひそめた。
「そいつがめあてか」
「ああ」
「…この村に住み着いた子供がいたな。そいつに訊いてみちゃどうだ?」
「子供?」
「背格好は子供だな。まあ、このソーンにゃ、いろんな生き物がいるからよ、実際の年齢なんてのは、わかりゃせん。だから見た目だけで言わせてもらえば、『子供』ってことだ。何度も水脈に降りて行ってたぜ」
 なるほど、とフガクは頷いた。
「そうそう、おまえさんによく似た風貌の子供だったな」
「俺に?」
「ああ、銀色の髪と紫っぽい青の目とな」
「オヤジ、恩に着る!!」
 フガクはその店を飛び出した。
 このソーンにまでたどり着いた同族の者など、数えるほどしかいない。
 しかもそのほとんどは、もうこの世にいないか、『伝説の地』の聖なる門をくぐった者だろう。
 そして、道具屋の主人が告げた「この村に住み、自分に似た子供のような風貌の人間」と言えば、たったひとりしかいない。
 そして、それはとりもなおさず、「扉をくぐっていない」ことになる。
 フガクはそのことに、心の底からほっとした。
 だが、酒場で得た情報によれば、たどり着いたのはふたりだ。
(入り込んだのはふたり…もし内のひとりがあの魔瞳族の男なら…騙すのは容易いな)
 嫌な笑いを浮かべる。
 最初の標的は決まった。
 フガクの足は、村の出口へと向かっていた。
 そう、聖都に行くのだ――――あの魔瞳族の男に会いに。
(『フガク』、お前との約束は必ず…一族は俺があいつ等の手から守ってみせる…)
 瞳の炎が、一瞬激しく揺らめいた。
 はやる心を抑えながら、フガクは一路、聖都を目指すのだった。


 〜END〜 


 〜ライターより〜


 いつもご依頼、ありがとうございます!
 ライターの藤沢麗です!

 フガクさんの真実が、
 ひとつずつ明らかになっていきますね。
 真実を知るのが、
 少々怖い状況になってはいますが、
 彼の過去に片をつけるためには、
 避けては通れない道なのでしょう…。

 今後、フガクさんの運命との戦いを、
 綴る機会に恵まれましたら、
 とても光栄です…!

 このたびはご依頼、
 本当にありがとうございました!
PCシチュエーションノベル(シングル) -
藤沢麗 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2008年07月15日

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