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『+ 日常の中、二人 + 』
阿隈・零一7588)&飯屋・由聖(7587)&(登場しない)



 優しい人は優しくあろうとするから。
 強い人はどうしても強くあろうとしてしまうから。


 だから傍にいたい。
 だから傍にいたくない。
 相反した想いだけが内側を焼くように存在していた。



■■■■



「飯屋、帰るぞー!」


 放課後、教員に用事を頼まれていた阿隈 零一(あくま れいいち)は飯屋 由聖(めしや よしあき)を迎えに教室にやってきた。
 手に鞄を持った彼の登場に飯屋は今まで一緒に話をしていた男子クラスメイトにほんわかとした微笑みを浮かべると自分の鞄を掴み、空いている片手をあげて軽く振った。
 クラスメイトも阿隈が迎えに来たことを知ると、話が途中で終わったことを気にすることなく挨拶代わりに手を振る。
 飯屋が阿隈の近くへと行き、二人並んで廊下を歩き出す。
 阿隈もまたクラスメイトに「じゃあな」と一言零し別れの挨拶をした。


「阿隈、先生に何を呼び出されてたの?」
「ん? ……あー、明日の授業で使う実験器具の用意を手伝ってた。なんか結構器具が多いから運ぶの手伝えってさ」
「あれ? 確か委員会入ってないよね?」
「本来の委員は帰っちまったらしいから、廊下で偶然見かけただけの俺に頼んだ……だそーだ」
「阿隈って意外に頼まれ事は断れないタイプだよね」


 くすくすと飯屋が笑う。
 阿隈はその様子を見ながら眉を顰めると鞄を持った手を上げ頭から背中に垂らすように持ち替えた。
 二人でのんびりと他愛のない授業の話を進めながらも靴を履き替えて正門への道程を歩けば、部活に専念している陸上部の姿が見える。ラインを描いた校庭を綺麗なフォームで走っていく誰かの姿を観察しながら足を進める。
 何処にでもいる学生の日常に安堵感を得ながら校門を通り抜ければ毎日通っている通学路が見える。


「こういうの良いよね。ほっとする」
「? どういう意味だ?」


 不意に飯屋は言葉を漏らす。
 その発言に阿隈は首を捻るように相手を覗き込めば飯屋は阿隈の額を指先で押して離させた。


「何からも襲われない『平和な日常』っていうのって好きだなー……ってホントに思うよ」
「それには同意だな。平和過ぎると刺激が足りないっていうヤツもたまに居るけど、何も起こらない当たり前の日々っていうのは本当に幸せなことなんだなって思うことがある」
「命を狙われているっていうのを忘れそうなくらい気が抜ける時間っていうの実はあんまりないからさ。だからちょっと大事にしたいなーって思うんだ」


 両手で鞄を持ちながら辺りを見渡しながら飯屋が小さく笑う。
 その笑みにつられるように阿隈もにっと口角をあげて笑顔を作ると後頭部で組んでいた手を外し片手である方角を指し示す。その先にはコンビニの看板があった。
 通学路の途中にある店は学生の溜まり場になりやすい。そのコンビニも例外ではなく、二人が自動ドアを潜れば同じ学生服を着た何人かの生徒が菓子コーナーの前で楽しそうに談笑していた。


「ねえ、阿隈は何買う?」
「んー、今日は暑いからアイスにするかな。お前は?」
「僕? 僕も同じのにしようかな……確かに今日は暑いからね」
「アイスでも食ってねえとマジやってらんないって」


 言いながら阿隈は襟首を掴みシャツのボタンを一つ外す。
 ほんの少しだけ見えた相手の鎖骨に視線を奪われつつ飯屋も頷き、二人でアイスコーナーへと移動した。クーラーボックスの中から出来るだけ安めの――でも味はほどほど美味いという絶妙なバランスのアイスを一つずつ取り出すとレジへと向かった。
 先に並んでいた学生達の後ろに並びながら学生鞄から財布を取り出す。


 ――だがその時、阿隈が勢いよく顔を持ち上げた。


「阿隈?」
「……ちょっとこれ頼む。俺の財布からも金出して払っといて」
「え? え?」
「いいから。頼んだぜ?」


 学生鞄ごと飯屋に押し付けると阿隈は自動ドアが開ききらない状態でも無理やり身体を通して外へと出て行く。
 その忙しない様子に前に並んでいる学生達も少し不思議そうな顔をして自動ドアと飯屋の姿を交互に見るが、そこは飯屋の持ち前の笑顔でさり気なく視線をかわした。
 言われた通り阿隈の鞄の中からも財布を取り出し必要な分の小銭を出そうとする。
 だが何となく彼がコンビニから飛び出した理由を察し、そっと財布を鞄の中に仕舞いこむと二人分自分の財布の中から取り出すことにした。


「……別に、護って貰わなくてもいいのに」



■■■■



 一方その頃。
 阿隈はコンビニからやや離れた路地裏で一体の『それ』と対面していた。
 アスファルトから一メートルほど浮き上がった『それ』は背中から蝙蝠のような翼を生やす。獣のような顔面を惜しげもなく晒しながら「グルル……」と唸り声を上げている。


「下級悪魔……ってところか。あんまり知能もないレベルの低い使い魔だな」


 阿隈は全身に緊張を走らせながら『それ』を――『悪魔』の様子を観察する。


『……殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ』


 悪魔は繰り返す。
 ただ一つだけの命令を。


『殺せ。邪魔者を殺せ。アレを殺せ。――メシヤ ヨシアキを殺せ!』


 殺戮の対象者の名をそれが呼んだ瞬間、阿隈はぐっと息を飲む。
 悪魔が勢いよく邪魔者である阿隈の方へと自身の手に生やした大きな爪を振り上げながら襲い掛かってくる。彼はそれを見止めると、素早く地面を蹴って避けた。だが路地を抜けさせるわけにはいかない。阿隈は近くにあった鉄パイプを掴むと悪魔の方に叩きつける。
 だが飛行能力を持つ相手もただ殴られるわけにはいかない。方向を反転させると今度は口から液体を吐き出す。
 寸前で避ければジュワ……とアスファルトが溶けるのが見えた。どうやら強い酸性の液体らしい。


「マジで獣みてぇだな……こんなの喰らったら火傷じゃすまねえぞ」


 阿隈は体勢を立て直し、その手に力を集める。
 辺りから急速に集められていく『力』――この世に存在する負の力をエネルギーに変えていく。それを見た悪魔が「キィッィィィーー!!」と高い雄叫びをあげながら阿隈へと突進してくる。
 酸を吐きながら手に生やした爪を一心不乱に振り回しながら襲ってきたそれをぎりぎりまで引き寄せてから阿隈は手を軽く引いた。


「悪いけど、アイツのところまで行かせるわけにはいかねぇから!!」


 鋭く尖った爪が首を狙う。
 阿隈は引いていた手を思いっきり相手の懐に突き出し、負のエネルギーを叩き付けた。ぶつけたその場所から悪魔の身体が無残にも散り、細かな粒子へと変わっていく。


『キィ、キィイイイイイイッ――!! ころ。コロセ、ころ、セ、殺せェエエ――!!』


 最後まで本能的な殺戮を望み続ける悪魔にちっと舌打ちをする。
 やがてその場所に残ったのは砂と化した悪魔の塵だけ。それもやがて風に攫われて消えてなくなった。



■■■■



「お疲れ様」
「うわ、冷てぇ!!」


 ぴとり。
 路地裏から出てきた阿隈の頬にビニール袋に入ったアイスをくっつける。
 飯屋は相手の反応が面白くてくっくっと笑った。阿隈は相手の笑顔に複雑そうに眉を寄せながらも学生鞄と受け取り、袋からアイスを取り出し包装を破いてから口に銜える。同じように飯屋も自分の分のアイスを食べ始めた。
 再び通学路に戻って帰路につけば先程とは違った緊張感が二人の間に走る。


「ねえ、一匹だったの?」
「ああ。……多分、な」
「あーあ、折角平和な日常だねーって話をしてたところだったのに……また、色々と緊張の日々、か」
「飯屋……」
「まあ、仕方ないっか。アイス一本分で命が護れるなら安いところだし」
「――何?」


 飯屋の言葉に慌てて鞄から財布を取り出し残金を確認する。
 中身が全く減っていないことに気付くと顔をばっとあげて飯屋を見る。先を歩きながら彼はあむあむとアイスを食していた。何となくしてやられた気分を味わいながら阿隈もアイスを味わう。
 それはとても冷たくて、熱の上がった身体には優しい味。


 自身の掌を見ながら阿隈は息を長く吐き出す。
 消えた悪魔のことを考えながら彼は飯屋のところに早足で向かい、寄り添うかのように身体を近づけることにした。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7588 / 阿隈・零一 (あくま・れいいち) / 男 / 17歳 / 高校生】
【7587 / 飯屋・由聖 (めしや・よしあき) / 男 / 17歳 / 高校生】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、発注有難う御座いました。
 今回は起承転結の「起」ということでちょっぴりだけ戦闘を含ませてみました。
 阿隈様はきっとこういう感じで飯屋様のことを常日頃からサポート(というか守護)しているんだろうなーというお話です。
 気に入って頂けましたら幸いですv
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年07月08日

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