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『〜悪戯〜 』
白神・空0233)&(登場しない)

 ・・・・・・暇だった。ただ、表現の仕様がないほどに暇だった。

「むぅ・・・・暇よぉ。助けてよぉ。構ってよぉ。ねー」

 大海嘯の大騒ぎが終わって水が引いた後も、白神 空はインディオの村に居残り、村の警護任務に当てられていた。
 普段、必ず行動を共にしている監視役の祈祷師の少女(姉)は、今は別の村へと出向いている為に不在である。
インディオ同士の交流議会のような物で、年に数回ほど行われているらしい。
 昔はそんな事はしていなかったらしいが、ここ十数年、自然環境の変化やタクトニム・野盗集団の出現により、横の繋がりを強くしておく為のものだという。いざという時には、他の村に逃げ込んだり救援を求めたりする為に考えられたものだった。
村が窮地に立った時に助け合う為の集まりなのだから、当然村を統率する族長や祈祷師達が出向かない訳にはいかない。その為昨日から、祈祷師の少女(姉)は十数人のお供を連れて、族長と共に遠くの村にまで出向いている。
向こうに着くまでで一日、集合して会談をするのに一日、戻ってくるので丸一日かかるイベントで、今は会談中だろう。明日の夕刻までは祈祷師の姉も、空を睨んでいる族長達も帰ってこない。
‥‥‥‥空にとって、今は妹さんと一緒に遊ぶには絶好の機会である。だが、肝心の妹さんは姉の代わりにお客の相手をしなければならないため‥‥‥‥

「暇なら、外で皆の手伝いでもしてきたらどうですか? 元々護衛として村に残されたんですから、それぐらいはして貰わないと‥‥‥‥後で睨まれますよ?」

テント内部の三分の一程を占領する大きな卓の上に、奇っ怪な形をした燭台や薬草の壺、お香の粉を乗せた皿を並べながら、妹さんは背後で転がる空に振り返りもせずにそう言った。
祈祷師の姉の仕事を代行しなければならない妹さんの対応は、実に素っ気ないものである。まだまだ見習いの域にいる妹さんは、こういった仕事の時には緊張していて余裕がない。
まして、今回はサポートに回ってくれる姉も、族長達もいない。大規模な海嘯騒ぎの所為で“これ”と思える人間が出て行ってしまい、いざというときに失敗を挽回してくれる者がいないという状況が、普段の小悪魔っ気も鳴りを潜め、仕事に集中しようと努力させている。
そんな一生懸命な姿を見せつけられてしまっているため、空も強くは出られない。祈祷に関して、空が祈祷師姉妹に手を貸せることなどなにもない。あるとすれば事前の準備程度だったが、それも卓をテントの中に運び込んだだけで終わってしまった。薬草の調合や衣装の組み合わせなどには、空が手を出せる余地がない。

「外に出てても暇なのよ。残ってる村のみんなも、結構のんびりしてるし」
「子供たちの相手でもしていたらどうですか?」
「私が近付いたら、母親がテントに引っ込めちゃうのよ。御陰で味見も出来やしない」
「‥‥‥‥守備範囲が広すぎるのも問題ですね」

 床に寝転んでジタバタと暴れる空に呆れながら、妹さんは溜息を吐き、卓の上を見渡した。燭台の位置や煎じ薬、テントの中にある道具の場所を確認する。
 妹さんは準備に抜かりのないことを確認し、「うん」と小さく頷いた。

「準備完了。後は、お客様が来るのを待つだけです」
「今日のお客さんは、何をご所望で?」
「何でも、子宝に恵まれない女性の方だとか‥‥」
「へぇ?」

 ギラリ、と空の目の色が変わるのを、妹さんは見逃さなかった。
 不気味な笑みを浮かべながら立ち上がろうとする空の襟首をひっ掴み、ズルズルとテントの外に引きずっていく。

「あら? 妹ちゃん。何だか扱いが乱暴よ?」
「今日のお客様は、姉さんがここ何ヶ月か世話をしている常連さんです。余計なことをされるわけにはいきません」
「そんなぁ。常連さんにそんなこと‥‥って、ここって常連さんなんていたかしら?」
「空さんに目を付けられると厄介なんで、お客様の来る時には、狩りに出されてるんですよ」
「‥‥‥‥族長の命令?」
「姉さんの命令です」
「‥‥‥‥‥‥信用ないのね」

 肩を落として大人しく引きずられていった空は、テントの外に放り出されて空を見上げた。
まず見えたのは、妹さんの顔。影になっているため、空を見ても眩しくはなかった。
 妹さんは空の顔をツンツンと突きながら、「めっ」と子供を窘めるように頬を膨らませた。

「信頼はしてますけど、信用は出来ませんよ」
「どうしてよ」
「いざというときには絶対に助けてくれるんでしょうけど、でも変な所で悪戯をしてくるんですよね。正直に言って、仕事には関わって欲しくないです」
「ぐふっ!? い、妹ちゃん。今日はいつも以上にハッキリ言うわね。お姉さんちょっと傷付いたわ」
「それぐらい凹んでいて貰った方が、私は助かるんです。夜になったら遊んであげますから、今日は大人しくしていて下さい」

 妹さんはそう言い、村の入り口の方へと歩いていった。
 恐らくは客人を出迎えに行ったのだろう。普段ならば村人の誰かが迎えて祈祷師のテントに案内するのだが、人手が不足しているのでは仕方がない。妹さんは村の出入口の方へと消え、空は地面に倒れ込みながら小さく唸っていた。

「大人しく、ね。でも退屈なのだわ。せめて狩りにでも出られれば良いんだけど‥‥‥‥」

 まさか村の護衛として残された空が、外に出るわけにはいかない。しかし現在、村人達は森で採れた果物や農作物を保存食に作り替えるための調理作業の真っ最中だ。
 空も料理の類が出来ないわけではなかったが、得意というわけでもなく、インディオ村独特の製法で成されるそれに、村人達は関わらせてくれない。そもそも、村に残っている者達は大抵が子持ちの女性達だ。祈祷師姉妹と“仲良く”している空と距離を取ろうとするのも、当然と言えば当然だった。

「‥‥‥‥手伝いも出来ず、遊ぶことも出来ず、暴れることも出来ないとは‥‥‥‥」

 暇で暇で仕方がない。
 空は身を起こし、周囲を見渡した。
 村の中は閑散としている。村人達は、揃って災害に備えた保存食の調理中で、子供たちもその作業を手伝っている。妹さんは村の出入口で客人を待っており、今は門番(?)として残っていた青年と雑談をして時間を過ごしている。
 ただ一人、あぶれてしまったのは空だけだ。
 妹さんと門番(?)の会話を妨害するという手もあるのだが、それだと「じゃ、代わりに見張りやっててね」と、放置プレイを喰らいかねない。
 ただでさえ暇な所で、拘束までされるのは避けたかった。

「むー‥‥私だけなのね。暇なのは」

 しかし暇は暇。やることはほとんど無く、手伝いもない。
 空は疎外感を感じて頬を膨らませ、地面に座り込みながら、器用に追い出されたテントの方へと向き直った。

(‥‥護衛って言っても、獣の類がここに来たことはないし、野盗もインディオ達の実入りが少ない(海嘯の所為で、農作物とかが荒らされたから)のを嗅ぎ付けたのか、出てこないし。ちょっとくらいなら、別に)

 構わないかな‥‥
 と、空は口元を歪めていた‥‥‥‥‥‥





☆☆☆

「では、そちらの方に座って下さい」
「はい。よろしくお願いします」

 ペコリと丁寧にお辞儀をした若い女性は、妹さんに促され、卓の前に腰を下ろした。
 妹さんは、テントの中を軽く見渡し、他に誰もいないことを確認する。

(お姉様は、隠れてたりしませんね)

 妹さんは、空が荷物の陰にでも隠れているのではないのかと危惧し、チラチラと確認していた。
 普段の空ならば、人の仕事の邪魔をするようなことはない。しかし暇を持て余している今の空ならば、さながら飼い主の食事を食べに突っ込んでくる犬のように、人の事情にまで突っ込んでくるかも知れない。
 まぁ、祈祷をお願いしに来た客人は真面目な相談のためにここに来ている。
 空も、それを邪魔するようなことはないだろう。変身能力を隠しながら過ごしてきた御陰か、空は場の空気を読む特技に長けている。まさか真面目な悩み事で訪れている客人の祈祷の最中に、悪戯の類はしないと思うのだが‥‥‥‥

(‥‥信じてますよ、お姉様)

 拭いきれない不安を抱えたまま、しかしそんな素振りを見せず、妹さんは客の対面に腰を下ろし、卓を挟んで対峙する。
 卓には大きな布が被せられており、足元は見えない。卓の上に乗っている皿の上には粉状の薬が乗せられており、それに静かに火を付け、香を焚く。
 客人の女性は、その妹さんの仕草を注視しながら、ゴクリと固唾を飲んでいた。

「本日は、姉が他の村へと出向いているため、私が祈祷と治療を行います。薬に関しては、姉の方で用意して貰っていますので、ご安心下さい」
「は、はい。お願いいたします‥‥‥‥」

 女性はペコリと頭を下げ、妹さんの言葉に聞き入っていた。
 ‥‥女性が祈祷師の姉から貰っていた薬というのは、体質を改善するための薬湯である。
 古来より自然と共に生きてきたインディオ達には、村々独自の秘伝の知識というものがある。中国における漢方のように、多種多様の薬草や調整した油などを複雑に調合し、科学では予想も出来ない効果を生み出す医術を持っているのだ。
 インディオの村を訪れる客人とて、なにも本当に神頼みをしに来ているわけではない。
 村の特産品を目当てに来る者もあれば、こうして何かしらの治療を頼んでくる者もいる。科学的な検証こそされていないものの、「この村の薬には効果がある」‥‥と言うことは、それまで培ってきた実績によって証明されているのだ。
 妹さんには、まだその技術は継承されていない。
 しかし最も肝心な薬湯は、姉によって用意されていたため、妹さんがするのは形式張った儀式ぐらいのものである。

(難しくない。これぐらいなら、大丈夫‥‥‥‥)

 決して表には出さないように暗示を掛けながら、妹さんは予め決められた文句を唱え続ける。
 ‥‥と、そんな時だった。
 妹さんは、不意に足先に走った感触に、ゾワッと背筋を震わせる。

「っ!?」
「? どうかしましたか?」

 妹さんは、「い、いえ!」とだけ言い、祈祷の文句を続け、ソッと、女性に気付かれないように静かに体勢を崩し‥‥‥‥
 妹さんは、卓の下に潜んでいる空の額を蹴り付けた。

(むぐっ!)
(そんな所でなにやってるんですか!?)

 文句を続けながら空を蹴り付け、抗議する妹さん。卓の下に潜んでいた空は、寝転がった態勢から妹さんの足を退け、卓に被せられていた布を捲ってひょっこりと顔を出した。
 まるでカタツムリが周囲の様子を窺うようにこっそりと顔を出した空に、気付いているのは妹さんだけである。卓は妹の膝程までしかない低いものだったが、綺麗な布で完全に覆われ、中が見えていない。
 空はその中に入り込み、中から妹さんの足をツツッ‥‥と静かに撫でたのである。
 座った態勢から蹴り付けられ、引き剥がされた空は、客人には見えない角度で頭を出して口をパクパクと動かした。

(いや、ちょっと妹ちゃんのお仕事の見学に)
(邪魔はしないで下さいって、言ったじゃないですか!)
(邪魔はしないわ。ちょっと遊ぶだけぐはっ)

 ゲシッと空を再度蹴り付ける妹さんだったが、あまり派手に動いては客人に気付かれる。早々に空を叩き出して儀式をやり直したい所だったが、卓の上で煙を立ち上らせているお香は、薬湯とセットになっていて必ず必要なものだ。そのお香の効力や持続時間などを考えると、テントのカーテンを迂闊に開けるとやり直しになりかねない。迂闊にカーテンを開けると、吹き込んでくる風でお香の粉と煙が散ってしまう可能性もある。
 ‥‥やり直しは出来ない。中断も出来ない。客に個人情報を漏らされたなどとは絶対に思われたくない。
 妹さんは、卓の下で空に応戦しながら、儀式を続行した。

(うぅ‥‥辛い)

 口からは儀式の文句を。足元では空との激闘を繰り広げている状況は、妹さんにとっては少々厄介なものだった。
 どちらか一方に集中出来ればいいのだが、どちらにも手を抜くわけにはいかない。空は隙を見ては妹さんの足を撫で、掴み、弄り回してくる。それに妹さんも必死になって応戦しているのだが、やはり儀式を続けながらでは空の方が有利だ。卓の下から手だけを出して足を撫で回し、更にその先へと手を伸ばす空に、妹さんの体が震えてしまう。

「んっ‥‥」
「??」

 顔を顰め、時折唇を噛んで文句を中断する祈祷師の少女を前にして、客人の女性が異常に気付かないのは運が良かったとしか言いようがないだろう。妹さんの紅潮した頬や苦悶の顔は、姉と違って慣れない儀式に緊張しているのだと解釈されて、特に咎められるようなことはなかった。
 ‥‥だが、それも一体いつまで保つのだろうか。
 声を押し殺している(実際は儀式の文句を続けているのだが、それは気にしない方向で)妹さんの表情が気に入ったのか、それともこの状況が気に入ったのか、空はより一層、妹さんの体に手を伸ばしてくる。

(後で‥‥絶対に懲らしめてあげますから)

 肩で息をしながら、妹さんは気合いと意地で儀式を続行していた。
テントの中が薄暗かったこともあるだろう。隙間風に揺られて動く燭台の明かりだけでは、妹さんの顔色は分かりにくい。それに、女性客は本気で悩んでいるのだろう。儀式に集中しようとしているらしく、妹さんが文句を中断したりしている時以外では、まるで瞑想するかのようにして目を瞑っていた。

(‥‥本当に頑張るわね)

 空は、懸命に声を押し殺している妹さんの顔をコッソリと眺めながら、ニヤリと口元を歪めていた。
 卓の下から弄り、観察している空には、客の方までは見えていない。当然だ。空に客が見えると言うことは、逆に言えば客にも空が見えると言うことである。悪戯に精を出している空ではあるが、そんな所でミスはしない。
 ‥‥だが、客にバレないようにする‥‥と言うことは、その見えない範囲のみでしか活動出来ないと言うことだ。
 妹さんの上半身を弄り回せないことを残念には思ったが、しかし空が手を出せる範囲だけでも楽しむには十分だ。
 空は手に取っていた妹さんの肌をなぞるように、指を足先からスゥッと上の方へと登らせていった。

「っ!!」

 妹さんが再々ど体を震わせ、抵抗しようと足を上げる。しかしその足を掴み取っている空には、もはやその手‥‥その足は通用しない。空は蹴り付けようとした足を卓の下に器用に引き込み、その上に自分の肩を乗せて枕にして拘束した。
 ‥‥そうした時、空は妹さんと目を合わせた。

(フフフ、これで抵抗は出来ないわね♪)
(ちょ、これ以上は冗談じゃ済まにゃぁぁぁあぁぁああ?!?!!?!??!!)

 不思議と疎通した心が、空に妹さんの動揺と嬌声を届けてくる。
 足先から少しずつ登ってきていた空の指が、ついに太腿に達していた。外側から内側へと触れるかどうかというギリギリの境界を経て撫で回しながら、その先へと向かっていく。

(ハァハァ‥‥フフフフフフフフフフフフフ。さぁ、観念しなさいな。今、楽にしてあげるから)

 荒い息が、妹さんの足に触れている。そのこそばゆい感触と、熱を帯びて後退というネジを無くした空の手が動き回り、妹さんの体が小さく痙攣する。
 そして、ずっと対面で祈っていた客人が、ついに妹さんの異変に気付いた時‥‥‥‥
 空の手が、ついに最深部に到達しようと‥‥‥‥

ガタン!!!!!!!!!!

「きゃっ!」
「あ! も、申し訳ありません!」

 突然態勢を替えた妹さんの膝が、卓を蹴り付けてがたんと大きな音を立て、客人を驚かせた。

「どうかしましたか?」
「い、いえ。ちょっと足が痺れちゃって‥‥‥‥」

 妹さんは“照れくさそうに顔を真っ赤にしながら”、頭を下げ、卓の傍に置いておいた土瓶と湯飲みを手に取った。

「では、そろそろお香の効き目が頃合いでしょう。こちらの薬湯をお飲み下さい」
「はい」

 湯飲みに注がれた白い液体を、客人は躊躇なく口に含み、ゆっくりと飲み込んでいった。
 これまで、祈祷師の姉に何度も飲ませて貰った薬湯だ。もはや慣れたもので、癖のある味にも顔を顰めることはない。
 やがて空になった湯飲みを卓に静かに置いた客人は、眠たそうに体をユラユラと揺らし始めた。
 客人は、穏やかな表情で眠そうに目を閉じている。普通このような閉鎖された村で眠気を覚えるような薬物を飲まされたというだけで絶望的な状況なのだが、妹さんを、この村の者達を信頼しているらしく、安心してその眠気に従っている。
 その様子を見て取って、妹さんがパンパンと手を叩く。すると、テントの外で待機していたらしい村人達が、数人テントの中に入ってきた。

「祈祷は終了です。薬の催眠効果が切れるまで、お客様をいつもの寝床に」

 妹さんの指示に村人達は頷き、ソッと、優しく客人の女性の体を抱き上げる。眠たげにしていた女性は、その抱き上げられた心地が良かったのか、あっさりと眠りこけてしまった。

「‥‥‥‥ふぅ‥‥」

 テントから立ち去っていく村人達。その背を見送り、閉じられた勢いで揺れているカーテンを眺めながら、妹さんは溜め込んでいた息を吐き出した。

(危なかったぁ‥‥)

 額から流れ落ちそうになっている汗を拭い、脱力した体を寝かせる前に、お香の皿に蓋をする。困難なトラブルに見舞われた久々の実戦だったが、どうにか無難に乗り切られたようだ。
 もしかしたら、客人が見て見ぬフリをしていてくれただけ‥‥‥‥と言う可能性もあったが、藪を突っついて蛇を出すわけにはいかない。向こうが見ないフリをしてくれたのならば、わざわざそれを突っつき回すこともないだろう。

「あ、そうだ」

 妹さんは、緊張しきった体をほぐすために体を寝かそうとして、卓を覆い隠している布を捲り上げ、中の状況を確認した。

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥死んでますね。やっぱり」
「生き‥‥‥‥て‥‥るわ」

 卓の下から、息も絶え絶えの声が聞こえてくる。
 その声の主は、もちろん空だ。それも、まるで殺虫剤を掛けられたGのようにピクピクと痙攣する空であった。
 返事をしてきた空に、妹さんは冷ややかに手を伸ばし、その襟首を捕まえた。

「結構効果があったみたいですね。どうですか? この技は」
「ど、どこで覚えたのよ‥‥‥‥そんなの」

 空はズキズキと悲鳴を上げている頭を休ませながら、妹に問いかけた。
 ‥‥妹さんは、空がまだまだ先に行くと確信した直後、それまで我慢していた鬱憤の全てを籠めて、空の拘束を振り解いた。御陰で卓を少々蹴り付けてしまったが、思わぬ反抗に空の拘束が解かれ、そして逆に、空の体を拘束することに成功した。
 その拘束方法は‥‥‥‥変則的なヘッドロックだった。
 プロレス技で知られるヘッドロックとは、相手の頭部を後ろから腕を回して抱きかかえ、渾身の力を籠めて圧迫するという技である。プロレスにおいては基礎中の基礎にして、繋げる技が豊富と言うこともあり、大抵の選手が利用する。が、それ以前に威力は申し分なく、プロでなくとも、十分実戦で通用する技なのだ。
 ‥‥‥‥と言っても、妹さんはプロでもなければ、腕も使っていない。
 そもそも、まだ十代前半である少女の腕力などたかが知れている。空を怯ませ、更にダメージを与えるなど出来ようはずもない。
筈もないのだが‥‥

「この技は、前に村の子供たちと遊んでいる時に身に付けたんですよ。どうですか?」
「き、効いたけど、あまり人に使っちゃダメよ? 足の筋力って言うだけでも、腕の何倍もあるんだから」

 ‥‥そう、空を拘束し、更に多大なダメージを与えた変則ヘッドロックとは、足を利用したものだった。
 まず素早く態勢を変えた妹さんは、身を乗り出していた空の顔を片足の膝裏に押し込み、そして足を折り畳んだ。ガッチリと空を巻き込んだまま、足先を自分の腰の下に入れて固定する。
 分かりやすく言えば、正座をする時、膝裏に人の頭部を巻き込んだままで足を折り曲げるようなものだ。折り曲げられた膝には上半身分の全体重が加わり、更に膝がバネとなり、その衝撃は反動をつけて膝に挟まれている者の頭部に集中する。
 この行動には、技を掛ける者の技量など関係ない。ちょっと体重を掛けてやるだけで、何十キロもの重量が一点に集中するのである。
 いくら頑丈な空でも、鍛えようのない頭部に、ガードなしで喰らったのでは堪らない。
 体重の軽い妹さんが使っても、空を悶絶させるには十分な効果を持っていた。
 妹さんは、弱り切り、卓の下から這い出そうとする空を引きずり出し、そしてその体に覆い被さった。

「あら?」
「さっきは‥‥‥‥よくもやってくれましたね」

 妹さんの手が、空の服の中に潜り込む。未だにダメージから抜けきれずに手足を痺れさせている空は、その手をポカンとした目で見つめていた。

「ちょ、ちょっと待って! 仕返しはもう済んだんじゃ‥‥!」
「あれは、ただ祈祷を済ませるまでの“拘束”です。お仕置きは‥‥これからですよ!!」

 妹さんの手が蠢き、空の口から悲鳴が漏れる。
 これまで空に拘束され続けた経験と、空を拘束したという経験が組み合わさって生きてきたのか、妹さんは巧みに両腕を絡ませて空の体を撫でさすり、両足を絡ませて空の自由を奪っていく。
 これまで拘束する側にばかり立ち、滅多に受けに回らなかった空は、驚愕に身を震わせて抵抗を試みる。しかし妹さんは、腕の中から抜け出ようとする空の体に舌まで這わせ、その気力を奪い去った。

「うひゃっ」
「まだまだですよ。今日は、五月蠅い人達もいないし、ちょうど良いです。これまで空さんに教えて貰った技の数々、お披露目させていただきます!!」

 心底楽しそうに、空の体を蹂躙していく妹さん。先程の悪戯が、余程腹に据えかねていたのだろう。元より空と“遊ぶ”つもりだったのだろうが、しかしその手に宿るヤル気の量が、これまでとは段違いの領域に達している。体力を消耗している空では、とても歯が立つ相手ではない。
 いい知れない恐怖心が、この時、一斉に空に襲いかかった。

「い、いや‥‥待って‥‥‥‥!」

 思わず上げそうになった悲鳴は、妹さんによって塞がれた。それに抵抗しようとする間に、空の体を這い回っていた感触が更に勢いを増し、空の意識を刈り取っていく。

「ふふふ、ここですね。ここが良いんですね!!」
「妹ちゃんテンション上がりすぎ!」
「知りません! こうなったらイク所までイってしまいましょう!!」

 妹さんが声を張り上げ、空が悲鳴混じりの嬌声を上げる。
 二人は止まらない。特に妹さんは、もはや止まるためのブレーキをどこかで落としてきてしまったらしい。二人の声は、これまでコッソリと隠れていたことなど忘れ、ヒートアップしていき────

「‥‥‥‥あれ? 今日は、いつもとは違う声ね」
「あのお姉さんのでしょ? それにしても楽しそうねぇ」
「若いって良いわねぇ」

 テントの外で聞き耳を立てている奥様軍団を、大いに楽しませたのだが‥‥‥‥
 しかしそれは、二人の知らない話である。




【BadEnd(?)】








★★参加PC★★
0233 白神 空

★★後書き★★
いつかは本気のエロでも書いてみようかと思いながらも書いていない、メビオス零です。
 今回のシナリオは、久々の‥‥です。自重するようにと言われてからは控えていたのですが、もう物語が終盤と言うこともあり、自重しながら解禁してみました。
 しばらく書いていないうちに、「どんな感じで書いてたっけ?」みたいな感覚になってしまっており、ちょっと苦戦しました。うぅん、やはり難しい。こう、引っかかりそうで引っかからないギリギリのラインというものが‥‥‥‥初期段階では、空が     に  入れてみたり、      を      て     していたりしていましたから、それに比べれば問題ないかな。よくよく読んでみると、今回撫でてばっかりだ。エロと言えそうで言えなさそうです。やはり微妙。この境界を、いつかは明確にしたいものです。
 では、今回のシナリオのご発注、誠にありがとうございます。
 いつもファンレターありがとうございます! またご指摘・ご感想などを送って下さったら、感謝の極みです! また、出会うことが出来ましたら幸いです。
 今回のご発注、誠にありがとうございました!! (・_・)(._.)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2008年07月03日

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