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『Storm 』
風羽・シン(w3c350)&刹那(w3c350)&(登場しない)


 戦場が血で濡れるのは常。



「おーおー派手にやってくれて…調子はどうだ、刹那?」
「そうだねぇ…損傷率80%ってところ?」
 状況に全くそぐわない軽いやり取り。自身を赤く染め、その後ろに座るものも同じように赤く染まっている。
 自分の愛機もはっきりと見えないから外見はわからないが、恐らくは同じようなものだろう。

 眼前に広がるのは死の山だ。今までどれだけ殺してきたかももう分からず、そしてこれからどれだけ殺すかも分からない。
 そしてその全てが自分たちを殺そうとやってくる。殺しても殺してもまたやってくる。
 気が触れてしまいそうな狂気の宴に、しかし二人は笑っていた。

「まっ、そんなところか…ならまだまだ動けるな」
「うん、全然OK」
 そんな二人は、ずっと変わっていない。





◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 思えばあれから一体どれくらい経ったのだろうか。
 初めて出会ったあの日のことは、今も鮮烈に彼の――風羽シンの頭の中に残っている。
 元々シンと刹那は幼馴染の関係であり、ずっと一緒に生きてきた。それが今の関係に変わったのは、紛れもないあの日。空が紫に染まった、あの日。

 自分は普通の人間だと思っていたし、刹那もそうで、これからもずっと変わらない。
 そんな関係が変化を告げて早数年。結局は元の鞘で同じように過ごしてはいたが。
 どこか、胸に穴があいたような感覚をシンは抱えていた。



 今日もテレビからはニュースが流れ、何処で戦闘が起こった、何処で会談が行われた、何処で――
 どれもこれもが似たようなニュースばかりだ。数年前からずっと。
 数年前は神と魔の戦いがあり、そしてそれが一応の上で一段落ついた今も続いている。
 人は歴史を繰り返す。既に人間の身ではないのに、そういう部分だけは変わっていないらしい。

「今日も世は並べて事もなし、か…」
 呟いた言葉に偽りはない。何時しかこんな状況が世界の常となり、ずっと続いているのだから。ならば、何処で戦争が起ころうがそれは世界にとって当然のことなのである。
「しんくん、今日のご飯どうする?」
 ふと、キッチンから顔を出した刹那と視線が交じり合う。
「そうだなぁ…」
 テレビの向こうで起こっている対岸の火事は、シンの心を燻り続けていた。





◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 困ったことに、自分はもしかしたら死にたがりなのかもしれない。
 いや、死と隣り合わせの感覚を味わいたいだけなのかもしれない。
 そんな風に考え始めたのも、一体何時からだろうか。

 神魔戦争の当時、彼はある部隊へとその身を投じていた。
 今でもその名を聞けば畏敬の念を抱くものも多い、半ば伝説化しているとも言っていいその部隊での日々は、常に死と隣り合わせだった。
 多くの仲間が命を失い、多くの敵の命も消えていった。自身何度死にかけたことかもう覚えてすらいない。
 ただ、間違いなくその日々は彼を強くした。そしてそれは彼の心に深く刻まれている。

 多くの仲間たちと出会い、多くの別れを体験し、それでも生き残れてこれた喜びを。
 多くの宿敵たちと出会い、多くの死を体験し、それでも屠り続けてきた悦びを。

 あれを忘れろなどと、無理を言う。
 鮮烈で、泥と血に塗れたその味は、どこか甘美で。
 今も、彼の心を掴んで離さない。





◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「……」
 彼が目を覚ますと、まだ夜も明け切っていない時間だった。
 隣に寝ている刹那を起こさないようにベッドからそっと離れ、冷蔵庫の中で冷え切ったミネラルウォーターを口に流し込む。
 別段汗をかいていたわけでもないが、それだけで体が潤うような感覚に包まれる。その冷たさは、彼の意識をはっきりと覚醒させるのに十分だった。

 ソファに座り込みテレビをつける。まだ放送は始まっていないらしく、ただ砂嵐のようなノイズだけが画面に映っていた。
 それを見つめながら、シンは一人考える。
「…やっぱ忘れられるもんじゃねぇよなぁ…」
 あの日が、遂には夢の中にまで出てきた。
 まるであの日々を思い出せと言わんばかりに、こんな何もない日常などいらないとばかりに。
 そして、それに胸を躍らせる自分がいる。確かに望む自分がいる。

 さぁ困った、どうするべきか。
 刹那と過ごす日々に不満があるわけではない。ただ、刺激が足りないのも事実だ。
「…まっ、決まってるわな」
 そう呟く彼の顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。





「仕事があるだろう?」
 パトモス・デビルズネットワーク。今日も常に新しい依頼が舞い込み、それらが魔皇たちへと斡旋されていく。
 夜が明けると、シンと刹那はすぐさまそこへ向かい、開口一番そう言い放った。

「よかったのか?」
 何が、とは聞かない。聞かずとも、もう数えるのも馬鹿らしいほど時間を共にした仲だ。
「勿論」
 彼女も何が、とは言わない。言う必要もない。そうして二人は歩き始める。



 ここ最近に至って、反パトモス勢力のゲリラ活動などが活性化してきていた。
 平和であったはずのこの街も、俄かに不穏な空気が漂い始めている。
 そんなご時世、ありとあらゆる仕事が常に舞い込んでいた。
 やれ警備の強化だ、やれ反勢力の駆逐だ、やれどこぞの戦場への増援だ……平和になった世にあってなんとも血生臭い。
 アナーキストが跋扈する世は何時でもこのような感じなのだ。

 そんな中で二人が選んだのは、ある地方へ赴き反パトモス勢力を鎮圧すること。
 勢力などから見ても、明らかに他の仕事よりも難しいものだった。当然志願するものは少ない。
 その中にあって進んでそれを選んだ二人を、他の者たちが奇異の目で見ていたのは言うまでもない。

 だがそんな目で見られているシンたちは、他の者などどうでもいいとばかりに、楽しげに笑っていた。
 漸く待ち焦がれた時がきたかのように、しかしどこかへ遊びに行くかのように。。
 二人の顔に笑みが絶えることはない。



「おもしろき事なきこの世をおもしろく…って読んだのは高杉晋作だったか?」
 ふと、シンの頭にそんな句がよぎる。
 歴史に名を残すかの人物は、一体どのような気持ちでその句を読んだのだろうか。
「まっ、大方奴さんも退屈してたんだろうな。今の俺みたいに」
 くっくと笑いが漏れるシンの頬を、刹那が小さく突付いた。
「しんくんだけじゃないよ、私も」
 まるで甘えるかのような声に含まれた響きは、確かにそれが本心であると告げる。
「そうだな」
 そこでシンは前を向いた。この先、まだ見ぬ地にあるものをまるで夢見るように。
「それじゃあ存分に面白くしにいきますか――!」





 眼前に広がるのは無数の影。その全てが巨大で、そして見慣れたものであることに気付く。
 一体これだけの数が何処から集まってきたのか。北海道とかつて呼ばれた地以外で、これほどの神帝の僕を見ることなど久しぶりではないだろうか。
 圧倒的とも言えるその勢力。もしこれがパトモスへ侵入したらどうなるか――想像は難しくなかった。

 しかしそれらを前にしてさえ、二人の顔から笑みが消えることはない。
 それどころか、
「選り取りみどりって感じだなぁ、ん?」
「どれからやっちゃう?」
 まるで子供のように、二人の瞳に輝きが増したかのようにさえ思えた。

 流石にこれを相手取るには、生身ではどうにもならなさすぎる。だから二人は手を重ねた。
 二人の意思が重なり、具現化されていく。
 蒼と赤を基調とした、特徴的な細身のフォルム。その背中からは、四枚の羽が顔を覗かせている。
 およそ修羅の黄金のそれとはかけ離れた、しかし彼ららしい特徴を持った殲騎が生み出された。
 ディアブロ・ウインドフェザー。もう何度呼び出し、彼らと共に戦ってきたかは分からない。
 ゆっくりと歩を進める。まるでその足取りは、その辺に散歩に行くかのように。
 背中から感じる暖かみに、絶対の信頼と愛情を感じながら。
「今日の風は少々荒々しいぞ…!」
 他に味方はいない。そんなことは気にもかけず、シンと刹那は機体に火を入れた――。



「かつては上に立ってたのに、今はなんとも無様だな!」
 そんなシンの叫びが聞こえたのか、先頭に立っていた白い機体が反応を見せる。しかしそれは既に遅かったのか、ウインドフェザーの右腕から伸びた爪にその胸を貫かれ、すぐに機能不全へと陥る。
 深く貫いた爪をそのままに、それをそのネフィリムにかけたまま力を込める。そうしてまるでハンマーのように振り回し、今まさに飛びかかろうとしていた巨大なサーヴァントたちを吹き飛ばす。血飛沫をあげて飛んでいくサーヴァントは、そのまま後続を巻き込んでさらに被害を増した。
 しかし、ただ黙ってやられてくれるような敵でもない。
「しんくん!」
「ちぃぃッ!!」
 すぐさま飛んできた銃撃、剣撃、そして神輝力による奇跡の力…それらは容赦なくウインドフェザーの装甲を削り、その内部に座る二人の体も傷つけていく。
「流石に、きついな!」
 風をその体に巻きつけて、通常では考えられないスピードでウインドフェザーが戦場を突っ切っていく。しかしいかに速かろうと、文字通り縦横無尽に放たれる攻撃を全て避けきることなど出来るはずもなかった。

 ウインドフェザーが手を振るうたび、幾つもの命が散り。
 そして敵の手が輝くたび、ウインドフェザーとシンたちの命も確実に削られていく。
 この圧倒的な戦力差の前では、そのバランスがどちらに傾くかなど火を見るよりも明らかだった。

「どうした、そんなもんじゃ止まらねぇぞ!!」
 愉しげな声だった。そんな状況にあって尚笑う。
 飽きもしない玩具を与えられたか子供のようにその腕を振るい命を奪う。
 同時にその場をすぐに飛び去り、今まさに自分を穿とうとしていたものを避け、それを別のものに当てさせる。
(そうだ、この感覚…これが)
 不意に、背後を強い衝撃が襲った。見えはしないが、恐らくスタビライザーの部分をやられたのだろう。
 あれだけの数を減らして尚敵の数はウインドフェザーを覆い尽くして余りあるほど残っている。それは果たして絶望的な状況か、それとも――。

 刹那が告げる。既にウインドフェザーの損傷率は80%を超えたと。
 本来ならばすぐさま退却するべきその数値に、しかし手は動かない。
 ふと、ウインドフェザーの膝が大地に着いた。流石に支えるのも難しくなってきているらしい。
「さてさて、この状況をどうするか」
「久しぶりだね、こういうのって」
「あぁ、あの日は無事に抜け出せたが今回はどうかな?」
 広がった損傷は、間違いなく二人にもダメージを与えている。いかな魔皇と逢魔であろうと、これ以上のダメージはすぐさま死へと直結しかねない。
 いい加減コクピット内は血で塗れ、そろそろシンの視界もあやふやになってきていた。それでも背後に感じる暖かみは変わらず彼を支えてくれている。

 だから、顔を上げた。眼前に広がっているのは敵ばかりだ。これを全て倒し、逃げることが出来るのか。
 出来ないだろう? いや、そんなことはない。
 これを全て倒す機会が与えられたのだ。それは絶望的などではなく、寧ろ希望的なものであると言えるのではないか。
 だから笑っていられる。愛すべき存在も一緒であるなら、これ以上の幸せもないだろう。



「…んじゃ征くか」
「うん、いつどんな時でも、一緒だよ♪」



 言葉は短く、そしてゆっくりと一度は着いたはずの膝が上がる。



「死に旋る羽、お前さんたちに捉えられるかい?」





 風は嵐となって、血に濡れた大地を駆け巡っていった――。





<END>
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神魔創世記 アクスディアEXceed
2008年06月19日

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