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『そこにあるのは護るべきもの 』
レイジュ・ウィナード3370)&ライア・ウィナード(3429)&ルディア・カナーズ(冒険中)(NPCS019)

 アーリ神殿。
 聖獣であるユニコーンを奉っている遺跡である。
 白亜の壁が太陽の光を照り返すその神殿には、少数の巫女だけが住んでいた。
 ――男性は入ることがゆるされない。
 それが、アーリ神殿という場所の、絶対掟なのだ。

 ■■■ ■■■

 空が雲に覆われ、月がなかったその夜。
 通称『蝙蝠の城』と呼ばれるその場所で――
「……アーリ神殿には、膨大な蔵書があるそうよ」
 と、ライア・ウィナードは言った――紅茶を弟のカップに注ぎながら。
「そこになら、呪いについての本が、あるかもしれない」
 いつも明るい彼女が、その言葉を口にするときは決まってどこか陰鬱げだ。
 呪い。
 ――彼女と弟のレイジュ、そして彼らの両親を苦しめる、月の魔女の呪い。
 5年前のことだ。この、蝙蝠の城が、月の魔女に襲われたのは。
 5年前のことだ。彼ら姉弟の両親の魂が奪われたのは。
 5年前のことだ。レイジュが、月の魔女に呪われたのは。
 ……5年前のことだ。
 ウィナード一家を、深遠の淵へと叩き落とす出来事が起こったのは。
「………」
 レイジュは黙って紅茶の注がれたカップに口をつける。
 姉の前ではおくびにも出しはしないが、胸が焼けつくように痛みを訴えていた。まるで、呪いという言葉に反応したかのように。
「私、行こうと思っているのよ」
 ライアは自分のカップにも紅茶を注いでから、レイジュの向かい側に座り、両肘をテーブルについた。
「アーリ神殿と言えば聖獣ユニコーンに護られた神殿……きっと、何か手がかりがあるはず」
 ライアの銀の瞳は、皮肉にも冴えた月の色。
 しかし彼女の瞳の輝きは、あの魔女などとは比べ物にならない――美しく気高き色。
 その瞳をまっすぐ弟に向け、アーリ神殿への思いを語る姉に、レイジュはふいに口を開いた。
「ライア」
「なあに?」
 ライアは自分のしゃべりを止めた。手に取ったカップを口元に持っていきながら、弟を見つめる。
「僕も行く」
 レイジュはそう言った。
 アーリ神殿という場所について、実のところ二人はよく知らない。有名なのは、ユニコーンに護られた巫女たちの神殿という事実だけ。
 蔵書が多いという噂にしても、ライアがたまたま街の本屋へ出向き、呪いに関する本はないかと尋ねた際に、アーリ神殿はどうだとすすめられただけのことだ。
 だから、ライアは弟の申し出にうなずいた。
「そうね。……私たちは、いつも二人でやってきたものね」
 姉弟の結束は固い。ライアにとってレイジュは何ものにも代えがたい大切な弟であり、レイジュにとってライアは、たくさん掌をすりぬけていった大切なものの中、唯一残った宝である。
 呪いに関する情報を調べるときは、必ずと言っていいほど一緒に行動してきた。
 ――本当はレイジュが、ライアに内緒でひそかにやっていることも多々あるのだが。レイジュが、姉をまぶしく、遠く感じることもあるのだが。
 それでもやっぱり、姉弟は一心同体なのだ。
 二人でアーリ神殿への出立。それはその場で決定した。
 決まったら早い方がいいと、彼らは翌朝早く。空が白み始めるような時間帯に、翼を広げてアーリ神殿へと飛び立った。

 ■■■ ■■■

 アーリ神殿の全貌は、まるで伝説のユニコーンを思わせる銀白色。
 太陽の光を受けて、あふれんばかりに神聖な気配を漂わせ、そこに在った。
 ライアがまぶしそうに額に手を当てて、目を細めた。
「なんだか……入るのに気後れしてしまうわ」
 苦笑する姉に、それなら僕は気配に気圧されて、入ることさえ恐ろしい――とレイジュは内心つぶやく。
 こんな神聖な場所。死人使いの術を操るレイジュには背筋に汗が伝うほど強力な力で拒絶されている気がする。
 けれど、そんなことは言っていられない――
 彼らは神殿の前に降り立った。
 そして、神殿に入ろうとした。
 と――
「お待ちください」
 神殿の門を護っていた、白いヴェールをかぶった巫女が、彼らを呼び止めた。
 呼び止める――と同時に、長い杖を。門の前に、伸ばしていた。まるで通さないと言いたげに。
 ライアが戸惑ったように、
「入ってはいけないのですか?」
 と尋ねる。
 巫女は困ったように小首をかしげた。
「貴女は構いません。ですが、そちらの男性は――」
「レイジュが?」
「この神殿は、男子禁制となっておりますゆえ」
 確かに巫女の伸ばしている杖は、レイジュの前だけをふさいでいる。
「男は入れないと――?」
 レイジュが呆然とつぶやく。ライアが巫女の腕にすがった。
「見逃してください! 私たちは本当に、困っていて――」
「駄目です。掟でございます」
 巫女の口調はきっぱりしていた。
「―――」
 レイジュの目の前をふさぐ杖は、決して動かない鋼鉄の牢の棒に見えた。
 掟。
 巫女は決してレイジュを軽蔑するような態度はとっていない。ただ――掟にのっとっているだけだ。
 ライアは唇を噛んで、しばらく何かを考えていたようだった。
 そして、
「……分かりました、弟は帰らせます」
「ライア!?」
 レイジュは驚いて姉の名を呼ぶ。
 ライアは視線で弟の言葉を封じてから、
「その前に少し話させてください。あっちの方で――」
 と、巫女の死角になる場所を指差した。
 どのみち、門はここひとつしかない。
「どうぞ」
 と巫女は、ライアの申し出を受けた。

 巫女の視線から逃れられる位置まで来ると、即座にレイジュは姉に訴えた。
「ライア。僕も――」
「分かっているわ」
 ライアは静かにうなずいた。「入れるはずよ。結界が張ってあるようには見えなかったから――男性が入ったら苦痛を感じるというようなことはないでしょう」
「ということは……?」
「レイジュ、少し狭苦しいでしょうけれど」
 ライアは弟を見上げ、めぼしい本があったら持って帰るために準備していた袋を示した。
「ここに、蝙蝠の姿で入りなさいな」
 レイジュは蝙蝠のウインダーだ。その身を蝙蝠へと変えられる。
 レイジュは嘆息した。
「確かに息苦しそうだけれど……それしかないな」
 レイジュは腰から、いつも身につけている短剣状態のレッドジュエルを姉に渡した。
「いざというとき、念をこめたら大剣に変わるから」
「分かったわ」
 姉がうなずく。
 そして――弟は小さな獣へと、姿を変えた。

 巫女の前に現れたのは、軽そうな手荷物を持ったライアだけだった。
 ライアは苦笑気味に巫女を見て、
「弟は帰らせたわ。私1人なら入れてくださる?」
 巫女は杖を出さなかった。ライアは門を押して、神殿へと足を踏み入れる。
 袋の中で息をひそめている、蝙蝠姿のレイジュとともに――

 ■■■ ■■■

 神殿の天井はとても高く、ユニコーンをかたどったステンドグラスが目に鮮やかに映る。
 大方の場所は扉のない通り抜けられる道。
 ライアはきょろきょろと辺りを見渡しながら、ゆっくりと歩いた。
 その手元の袋からは、レイジュがちょこんと顔を出し、今の彼には途方もなく巨大に見える神殿を見回す。
 途中、巫女とすれ違ったため、ライアは巫女に「書庫は――」と尋ねた。
 書庫に入るには許可が必要だった。許可を下ろす巫女頭に会いに行き、レイジュは決して顔を出さないようにしながら話を進め、何とか書庫への出入りの許可をもらった。
 書庫は北側の、冷たい空気が流れる場所にあった。
 本の保存のため、でもあったのかもしれない――そのことは特に問題とも思わず、ライアは書庫に入る。
 それほど大きくない部屋。
 けれど、びっしりと詰まった本、本、本。
 天井までぎっしり詰められている。上の方ははしごを使わなくては取れない。ウインダーとは言え、翼を広げるには少々狭い場所だ。
 書庫の扉を内側から閉め、ほう、とライアは息をついた。
「――レイジュ。出てきても大丈夫よ」
 レイジュは袋から飛び出した。ぱたぱたと翼をはためかせながら、姉を気遣い周囲を飛ぶ。
「私はまだ元気よ。さあ、本探しをしましょう」
 二人は別々の場所へ向かい、それぞれに探し始めた。

 レイジュの今の姿では、もちろん本は持ち上げられない。なので気になる本があればライアにいちいち知らせに行くことになる。
 しかしそんな作業も面倒と感じることなく、息の合った二人は着々と本を読み進めていた。
 ――中々、めぼしい本は見つからない。
 さすが聖獣に関する本は多いが、呪いとなるとそのまったく逆。見つけるのは至難の業と言ってもよかった。
 と――
 ふと、扉が外からノックされて、ライアははっと扉を見、レイジュがぎくりと身を縮める。
 そんなことは構わず、扉は開かれた。
「失礼しまーす!」
 元気のいい声とともに、1人の少女が書庫に入ってくる。
 巫女ではない。
 金色というよりもオレンジがかっている髪と瞳。二つの三つ編みを後ろでまとめている。小柄な体格に比べて大きい鞄を肩からかけ、短パン、軽そうなブーツと、動きやすそうな服装をしている。
 どこかで見たような、とライアとレイジュは首をかしげる。
 すると少女はライアの方を見て、
「あ、先客さんですかあ。すみません、騒がしくして」
「え、いえ、構わないけれど……。あの、あなたは?」
 ライアが思わず尋ねると、少女は屈託なく笑い、
「ルディアって言います。エルザード城下町の白山羊亭の、ウエイトレスです」
「ああ――」
 思い出した。姉弟は納得する。
 普段は決まりきったウエイトレス姿だけに、こうして普段とは違う格好でいると別人に見える。元々、レイジュにもライアにも、白山羊亭はそれほど馴染みのある店ではない。
 それにしても見事な別人っぷりね、などと感心してルディアを見つめてしまったライアは、しばらくして慌てて、
「あ、私はライア・ウィナードよ。ただの――本好き。よろしくね」
 と挨拶した。
「ライアさんですか。たまに店にいらっしゃって下さいますよね。ありがとうございます――ルディアもたまに、こうして外に出るんです」
 ルディアはにぎやかにしゃべりながら、本をあさり始めた。
「………」
 レイジュはルディアを無視することにして――元々何もしようがないので――本探しを再開した。
 ルディアは時折自分の傍を通り過ぎていく蝙蝠に、不思議そうな顔をしていた。
「その蝙蝠さん、なんでしょう」
「私のペットなのよ。ねえレイジュ」
 ライアはにこっと笑ってごまかした。レイジュはペットのふりをして、ぱたぱたと翼をはためかせた。
「蝙蝠さんがペットって珍しいですねえ――」
「そう?」
「はい。でも、いいと思います。蝙蝠さんもこうして見ると愛嬌があるんですね」
「ふふ。とってもかわいいのよ」
 雑談を交わしながら、作業は続いていた。ルディアが何の本を探しているのかは知らないが、関係ない。姉弟は彼らの用事を済ませるだけだ。
 ――本は見つからない。
 だんだんと焦燥感にかられ始めた、そのときだった。
「っきゃ――」
 ルディアの引きつったような声が上がった。
 何事かと、姉弟が振り向いたときには――遅かった。
「――……っ!」
 ライアは己の体にびりっと走った衝撃に、自分の魔力が封じられた気配を感じ戦慄する。
 レイジュはぞっとしながら、その場に出現したものを見ていた――

 時に書物は、魔物に取り憑かれることがあるという。
 開かなければ害はない。開かなければ――
 だが、開いてしまったのだ。ルディアは。
 その、巨大悪魔が取り憑いていた書物を――

 油断していた。ライアは先手を打たれて魔法を封じられてしまった。
 悪魔は、ルディアの体を片手に抱きかかえ、反対の手の先に伸びた爪をルディアに食い込ませようとしていた。
「―――っ!」
 ライアは弟から預かっていた短剣を袋から取り出す。念をこめて大剣と成す。両手で構えて思い切り振るった。
 しかし――大剣は重かった。非力なライアには重すぎた。
 それでも渾身の力をこめて。
 第一撃。何とかルディアに食い込みかかった手に当たり、それをそらすことに成功した。
 しかし悪魔の手の一振りは、ガンと重みを乗せてレッドジュエルにぶつかり、ライアの体に痺れを残す。
 レイジュの脳内で、彼の知識が構築されていた。この悪魔。見覚えがある。書物にあった――
 血を媒体にして、魔法を発動させる凶悪な魔物だ!
 そんな魔物にルディアを傷つけさせるわけにはいかない。レイジュは蝙蝠の体で悪魔に体当たりをした。
 しかし簡単に弾き返され、書庫の床に叩きつけられる。体に痛烈な痛みが走った。レイジュ、とライアが叫んだのが聞こえた。
 ライアは重い大剣を引きずって悪魔に対峙する。思い切り腕の力を使って、横薙ぎに剣を振るう。
 重さは威力となるものだ。だが、ライアの非力さは絶対的に不利だった。剣は減速し、悪魔の体に到達しても傷つけるに至らない。
 剣を弾き返され、何とかレッドジュエルを手放さないよう踏ん張るライアは、それだけで疲労していった。
 悪魔は吼えた。そして意味もなく暴れ、周囲の本棚を打ち倒した。
 悪魔の獰猛な爪は、恐怖のあまり気絶したルディアの体に向かう。
 ――扉の外から、人の気配――
「何事ですか!」
 扉を開いたのは巫女たちだった。杖を手にした巫女たちは、悪魔の姿を見て一瞬足をすくませた。
 悪魔の暗い闇の淵のような目が、彼女たちを捉える。
 大きな腕が、巫女たちに向かって振り下ろされた。
 巫女たちは悲鳴を上げて避けた。空を切った爪は、床に食い込んだ。
 ばりばりばり、と床材を破壊しながら、爪が持ち上げられる。背後からライアがレッドジュエルで攻撃をしかける。しかしその背中に叩きつけたはずの大剣には、まったく威力がない。
 振り向きざまに爪がライアを狙って、ライアはぎりぎりで後退した。
 不利だ。
 何もかもが不利だ。
 悪魔の腕の中で気絶しているルディア。入ってきてしまった巫女たち。魔法を封じられているライア。大剣を扱いきれていないライア――
(このままではみんな揃って殺される……!)
 目の前で、
 悪魔の大爪が本棚を裂いたのを見た瞬間、レイジュの脳裏に弾けるように浮かび上がったヴィジョンがあった。
 それは赤。
 真っ赤に染まる世界。
 ライアが、ルディアが、巫女たちが、爪の餌食となって血だまりの中倒れている――
(そんなことは――させるか!)
 レイジュは――
 蝙蝠化を――解いた。
 巫女たちがざわついた。それに構っている暇はなく、レイジュは姉の名を叫んだ。
「ライア!」
 ライアは人型となった弟の姿に、彼の考えをすべて読んだようだった。
 レイジュは踏み込む。ライアからレッドジュエルを受け取りざま――悪魔に向かって一撃。
 大爪に引っかけられ、受け止められた。だが――ライアと違ってレイジュはレッドジュエルの正式な使い手だ。簡単に負けることはない。
 レッドジュエルにかける重心を少しかたむけ、そこから思い切り力を入れて斬り下ろし、大爪を折った。
 悪魔が、おお、と吼える。レイジュはさらに踏み込み、胴体に斬りつけた。
 ――ライアが怯える巫女たちから、護身用の短剣を受け取っている。
 そして、受け取った短剣を手に飛び込む――悪魔の懐へ。
 右から、レイジュが。左から、ライアが。
 それぞれ悪魔の胴体を狙って攻撃する。
 悪魔の大爪が振り下ろされてくる。レイジュはそれを受け止めた。その隙にライアが潜りこんで、胴体に短剣を突きこむ。しかし短剣で一度刺したぐらいではびくともしない。
 レイジュはレッドジュエルをひねり、大爪を力任せに折った。
 1本ずつ減っていく大爪――
 しかし、残り8本もある。悪魔は何を気にした様子もなく変わらず思い切り腕を振り下ろしてくる。
 爪に当たらずとも、その腕に当たっただけで大怪我をしそうな圧力だった。
 床が叩き壊される。跳ねる床材。
 悪魔の腕の中にいるルディアは、そのおかげで却って護られているようだった。
 だが、彼女を取り返さなければならない――
 悪魔が腕を振り上げる。
「はあ……っ!」
 気合をこめて、レッドジュエルを振るった。狙うは腕の付け根。斬られればただでは済まない場所――
 ざん!
 悪魔が腕を振り下ろすのと同時に、レイジュの一撃が入った。
 振り下ろされる勢いと、下から斬り上げる勢いとが相まって、威力が増加した。――悪魔の腕の根元が、めきりと折れた。
 斬り飛ばすことはできなかった――
 だが、悪魔はだらんと腕を下に垂らし、もう振り上げる様子がない。
「レイジュ、よくやったわ!」
 ライアが声を上げ、そして突進した。
 ざくり、と刺したのはルディアを抱いている側の悪魔の脇腹――
 ルディアの体すれすれに入った小さな一撃は、しかし決して無駄にはならなかった。悪魔は、懐に入ってきたライアを攻撃しようとして、ルディアの体を手放した。
 すかさずレイジュはルディアの体を受け止め、後退する。
「ライア……!」
 ライアは短剣から手を離し、悪魔の振り下ろした腕から逃れていた。
 ルディアを床に寝かせたレイジュは、みたびレッドジュエルで悪魔に挑む。
 負けるわけにはいかない。
 負けるわけにはいかない。
 ちらりと、見えてしまったヴィジョン。
 赤い世界。血だまりの世界。
 あれを、現実のものにするわけにはいかないから。
 ……もう、護れるはずのものを護れずに、後悔したくはないから。
 おぞましい悪魔を目の前にして。
 全身の力をこめて、大剣を振るう。

 レッドジュエルが啼いた。

 一瞬、世界が真っ白に染まった。

 くるくると回る視界に、父や母や、愛する人の姿があった。
 一様に微笑んで――

「レイジュ……!」
 ライアの声が、レイジュを現実へと引き戻した。
「レイジュ!」
 レイジュは気づく。自分の大剣が、悪魔の胸を貫いていることに。
 悪魔が、だらりとレイジュに向かって倒れこみ――その重みにレイジュが奥歯を噛んでこらえると、悪魔の輪郭がだんだんと薄くなっていくのが分かった。
 ぶくぶくと。
 泡だった輪郭は、どんどんと小さくなり、やがて。
 凶暴粗悪な悪魔は、小さな気泡となって消え去った。

 ■■■ ■■■

「申し訳ない」
 レイジュは巫女たちに向かって、頭を下げていた。
「……仕方がなかった。僕たちは、切羽詰っていたから」
 男子禁制の神聖なる場所に、立ち入ったこと。
 ライアがレイジュの肩を抱き、
「私も嘘をつきました。申し訳なかったわ」
 巫女頭が、彼らの前で嘆息した。
「……我らがユニコーンは、あなた方のことを罰せよとおおせではありません」
 ――アーリ神殿の巫女たちは、ユニコーンの信託を受け取ることができるという。
「そもそもあなたが入ることを、ユニコーンはお赦しになられた……これは、きっとこういうことだったのでしょう」
「こういうこと?」
「あなたがいなければ……この神殿は先ほどの悪魔に破壊しつくされていたかもしれないのですから」
 巫女頭がこぼした吐息。確かに――
 書庫は見るも無残に破壊され、床も本棚も復旧には時間がかかりそうだ。
 ルディアはいまだ目覚めない。
「彼女に関しては私たちにお任せなさい」
「命に別状は――」
「なさそうです。そしてあなたたちは掟を破った。立ち退きを命じます」
 ユニコーンの赦しはほんの一時。
 ウィナード姉弟は大人しく従うことにした。
「……今回限りです」
 という巫女頭の言葉を、痛く胸に感じながら――


「せっかくの情報がありそうな場所を、ひとつ失ってしまったわね」
 ライアが、空からアーリ神殿を見下ろしながらつぶやいた。
「仕方ない……まだ、世界には、書物があふれている」
 レイジュは空を見上げた。
 太陽は天高くにある。明るく彼らを照らす光。蝙蝠のレイジュには少しばかりまぶしすぎたけれど。
 胸に手を置いた。月の魔女に刻印を刻まれた場所。
 ――月が、常に自分の胸にあるように。
 太陽もまた、常にある。
「レイジュ、帰るわよ?」
 ああ、ほら――
 振り向いたライアの銀の瞳は、太陽の光を受けるととてもとても暖かく輝くのだ。
 そしてその暖かな目でもって、レイジュを見るのだ。
 太陽はそこにある。彼を決して独りにしない、優しい希望としてそこにある。
 レイジュは唇に、ほんの少しの笑みを浮かべた。
「ああ、帰ろう……」
 そうして彼らは帰途についた。
 翼をはためかせ、大切な記憶の源、彼らの城へと――


 ―FIN―


ライター通信------------
いつもありがとうございます、笠城夢斗です。
このたびは納品が遅れ、大変申し訳ございませんでした。
シリアスモードということで、視点は例によってレイジュさんとなりましたが、いかがでしたでしょうか?
喜んで頂けますと光栄です。
よろしければまたお会いできますよう……
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
笠城夢斗 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2008年06月16日

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