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『メザニーンの闇ノ中 Part.5 』
梧・北斗5698)&遠逆・欠月(NPC1850)



 繰り返される悪夢。それを断片的にしか憶えていない。
 思い出せるだけのことを梧北斗は遠逆欠月に伝えた。記憶の断章はきちんと整理できないが、それでもきっと。
「ふぅん……」
 目の前で座って話を聞いている欠月は、きっとわかってくれる。
 いやぁ、でも。
「おまえさぁ、その格好で大股開いて座るなよ……」
 スカートが短いから見えそうなんだよ、とは言えない。
 頬杖をついた欠月は「うるさいなぁ」と目で見てくる。
「べつにいいだろ。パンツくらい」
「パンツとか言うなよ!」
 頬を赤らめて唇を尖らせるが、欠月は平然とした顔のままだ。
「しかし……それだとボクの調べたものとは食い違ってるんだよね……。どっちかが間違ってるってこと……?」
「どういうことだよ?」
「北斗が殺したっていう保健医は、転勤したってことになってるんだよね。
 まぁ古い記録だし、これは転勤が間違ってるんだろうけどね」
「う。俺が殺したんじゃねーんだけど……」
「んー……」
 欠月は地面に転がっている石を拾い上げて、土をならす。そこに石で書いていく。
「北斗には彼女がいる。北斗は保健医に恋をしてた。保健医と北斗は肉体関係がある」
「うおぉぉい! やめろっ! まるで俺がやってるみたいな言い方するなよっ!」
「いいじゃん別に。パンツ見せてやるから黙っててよ」
 スカートの端を摘んでぴらぴらと動かす欠月に北斗は顔を歪ませた。
「黙ってるからそういうの、やめろよな」
「はいはい。
 で、北斗の経験はきちんと時間通りになってないのは確かみたいだね。
 しかし彼女がいるのに保健室の先生と関係持つなんて、すごいな」
「…………」
「うーん……」
 欠月は頭を掻いた。
「他には?」
「他って……たいしたもんはねーけど。おもにこの学校での出来事ばかりだな。学校を中心にしてるみたいだ」
「最初に行方不明になったのは女生徒なんだよ。この世界だと顔の判別ができないのが困るね」
「えっ、でも行方不明者がいるなんて展開にはなってないぜ?」
「……そうなんだよね……」
 顎に手を遣って悩む欠月は地面に書いた丸のマークを何度もなぞる。
「死体を隠すのを手伝ったのはキミの彼女……。
 ねぇ、キミの彼女はキミが保健医と関係があったこと知ってるの?」
「え……ど、どうだろなぁ。そういう雰囲気はあったような気がするけど……はっきりしない」
「ボクにも見えれば少しはわかるのかもしれないけど」
 嘆息する欠月は「ん」と気づいたように立ち上がって北斗を見下ろす。
「そろそろ起きそうだから戻るよ」
「えっ!? ちょ、ちょっと待てよ!」
「じゃあね」
 あっさりと言った欠月の姿が忽然と消えてしまい、北斗はがっくりと肩を落とした。
 いきなり来ていきなりいなくなるとか……。
「……はは。相変わらずだよなぁ、あいつの勝手さは」
 だけど、欠月は自分を助けるために動いてくれている。それはわかる。
 欠月が書いた地面の絵を北斗は眺めた。まるで何かに侵食されるように、感情まで同調していた気がする。
 好きな人に裏切られて、どうしようもなくなって。世界に一人ぼっちの気になって。
 北斗は膝を抱えて頭を伏せた。わからないでも、ない。同じだけの感情、同じだけの信頼、自分が与え、感じた分だけ相手にも求めてしまう。
(だって……好きになった相手を信じられなかったら、どうすりゃいいんだよ……)
 そんなの、わからない。
(欠月は、わかるのか? 俺だったら、やっぱ)
 フラッシュバックのように衝撃の映像が脳裏を掠める。あれが本当のことだったらと思うと冷汗が出るし、どうしても信じたくない。信じられない。
(嘘だって思うじゃん。あるわけないって否定するじゃん、どうしても)
 そんな悲しさで満ちている時に誰かが手を差し伸べてくれたら、そりゃ、ぐらっと……。
「ん?」
 北斗は顔をあげた。そして地面の文字を見る。
「………………」
 順番が、チガウ。
(もしかして……)



 ぱち、と欠月は目覚めた。気絶していた時間はものの1秒あまり。それでも戦闘中ならば致命的となる時間だ。
 瞬時に身体のバネを使って飛び起き、距離をとる。
 廊下の先には男子生徒が立っている。長身の男。見た感じは平凡。バスケットやバレーでは勧誘を受けそうなタイプだ。だが気弱そうなのが見て取れる。
(アレが北斗と連動してるのか……?)
 それにしては北斗とまったく違うタイプだ。
 欠月は不敵に笑う。
(油断していたとはいえ、このボクが吹っ飛ばされるとはね)
 まるで保健室に近づくなと言わんばかりじゃないか。そこまでされると余計に気になる。
(そもそもヤなんだよね、こんな準備なしの状態。おかげで……)
「力ずくになるじゃん」
 もごもごと口を動かす。自分が用意してきたものは少ない。そもそもこういうのは仕事でも慎重になるのだ。
 いつもなら下準備をし、術を仕掛けるにしろ万全の対策をするのに。
(相手の空間でやるってのは、重いんだよこっちには……!)
 足元から影を実体化させて手に持つ。あの霊体が原因だとすれば、あの霊を退治すればそれで済む。だが……。
(なーんか引っかかるっていうか)



 がりがりと石で地面に矢印を書いていく。
 順番がこの通りだとすれば……。
(最初に保健医と関係があって、保健医のあのシーンを見ちゃって失望して、幼馴染の彼女と付き合いだして……それから保健医を殺したんじゃ……)
 欠月は神隠しにあったのは女生徒だと言っていた。もしかして……。
(『俺』が……この彼女も殺したんじゃ……)
 そのシーンはまだ見ていない。だが今から見るのだろうか?
 そう考えると落ち込まざるをえない。だって……だって。
(俺が、俺が……俺の記憶で構成されてるから、『彼女』ってのはあいつの姿をしてるから……)
 いや、保健医だって殺したじゃないか。今さらだ。
(違う! そうじゃなくて、だって……)
 こうして自覚した後と前では、感覚が違う。怖かった。どうしようもなく怖い。
 自分の感情があるままで、言うことをきかない体。恋心を持つ相手を容赦なく殺すのか、俺は。
「う……」
 己の体を抱きしめる。
 頼むよ欠月……早く助けに来てくれ。俺、このままじゃおかしくなりそうだ。
 あれ? と北斗は頭を振る。視界にノイズが走ったような気がしたのだが。
「……?」
 あぁそうだ。コレは、別の場面に切り替わる際に起こるものだ。ということは、欠月との会話も忘れる可能性があるわけか。
 砂嵐が起こっているように視界がおかしくなる。
 その嵐に混じって目の前に誰かが立っていた。足が見える。欠月、か……? いや、欠月ってだれ?
「…………」
 顔をあげたそこに立っていたのは、穏やかな笑みを口元にたたえている少女だ。そう、幼馴染の……。
 返り血を浴びている自分を見ても、表情を崩さない。恐れおののく自分を優しく見つめている。
 死体に目配せをし、彼女はこちらの横に屈んだ。
「大丈夫。隠そう?」
 手伝ってあげると言われて、頷いてしまう。だって……ヒトを殺してしまった……。
 好きだったのに……。でもこの人には俺以外にも関係を持つ相手がいて……。その中の特別でもなかった俺。幼馴染の彼女と付き合っても全然渇きは満たされなくて、とうとう堪えきれなくなった。
 二人で死体を隠して、これからのことを考えた。彼女は真剣に聞いてくれた。誰にも言わないと、約束もしてくれた。
 彼女のその姿勢に心を打たれた。今まで気持ちに気づいていながら見てみぬふりをしていたのに、こっちは。
 だけど――。
 終わりは唐突にきた。
 頭の隅でその日がくるのを覚悟していた自分。まったく心構えもしていなかった……夢の中の自分。
 そう、自分は殺されたのだ――――彼女に。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
ともやいずみ クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年06月04日

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