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『決意とともに 〜with the decision〜 』
エル・クローク3570)&セレネー(NPC0766)

 セレネー。不死鳥の刻印を背に持つ少女。
 ……彼女の謎を解くために。

「……ただ黙ってセレネー嬢が壊れていくさまを見ているのは嫌なんだ」
 クロークの心は決まっていた。
「僕に出来ることがあるのなら、可能な限りそれをなしたい。何もせぬままに後悔するようなことはもう、したくない」
 そして彼は空を見上げた。
 雲ひとつない青空を、鳥のつがいが戯れながら通り過ぎていく。
 ――あのように、セレネーに寄り添って僕は行こう。
 決して、見捨てたりはしない。

 ■■■ ■■■

 セレネーが小屋の外で待っている。
 セレネーの目下の親代わりである、精霊の森の守護者は「これからどうする?」と尋ねてきた。
「ロエンハイムと刻印解除について調べるために、魔女の里へ向かう」
 エル・クロークはそう答えた。
「そして赤い瞳の魔女……長老と会いたい。彼女ならおそらく何かを知っているはず」
 あの、セレネーと同じ色の瞳を持つ魔女の長。
 彼女にもう一度、会いたい。
 まだ話すことはたくさんあるから。
「刻印解除の方法には長けているかもしれないな」
 と青年は言う。クロークは首を振った。
「本当は刻印の解除を最優先させたいところだけれど、その前にロエンハイムの話を聞くべきだと思う」
「ん?」
「この問題には未だ不明瞭な点は多い。街が消滅した理由、何故不死鳥の刻印がセレネー嬢に施され、そして何故今になってこの森に現れたのか……」
「そうだな」
 応えるようにつぶやいた森の守護者は、少し考えた後、「ちょっと待っててくれ」と小屋の隅の棚へと向かった。
 彼の手があるひとつの棚にかかり、引っ張り開けた瞬間――
 棚から走ったまばゆいばかりの閃光。
 それを抑えつけるように、青年が棚の中に手を突っ込む。光が抑えこまれる。彼は何かを詠唱している。魔術だ。
 やがて、強烈なその気配はおさまった。
「――これを、持っていってほしい」
 セレネーには内緒で――と。青年は棚から取り出した何かをクロークの元まで持ってきた。
「セレネーがこの森に来たときに、身につけていたものだ。あまりに強烈な魔力を放っていて、精霊たちにも影響を及ぼしかねなかったのでね、今まであそこに封じていた」
 それは、首飾りだった。金細工の鳥――おそらく不死鳥をかたどったのであろうトップがついている。
「……セレネー嬢は目が覚めたときにこれを身につけていなかったことに、気づいていないのかな」
「気づかなかったな。もしかしたら、そもそも身につけていたことを知らなかったのかもしれない」
「どういう意味だい?」
 クロークがじっと森の瞳をした青年を見上げると、青年は手にある首飾りを見下ろして言った。
「これは、転移魔術を封じた首飾りなんだよ。この金細工の鳥の部分。ここにね」

 小屋の外に出ると、セレネーが「おそいー!」とクロークに走り寄ってきた。
「ごめんね。すぐにでも出かけようか」
「うん!」
 セレネーはこれから起こることを予想しているだろうか。いや、予想できているわけがない――
「気をつけていっておいで」
 見送りにきた森の守護者に向かって、セレネーは元気よく手を挙げた。
「いってきます!」
 ――ただいま、が言えるかどうかはまだ分からない――
 懐にしまった首飾りが、熱い。


 青空の下、広原を歩く。踏み鳴らす草は柔らかく、みずみずしかった。
 どこに行くのと、セレネーが訊いてくる。
「前にも行った、魔女たちの里だよ」
 そう応えると、セレネーは足を止めた。
「や――いや――」
 ぷるぷるとその細腕が震える。目が見開かれ、潤みかかった。
 まさかそんな反応が返ってくるとは思わず、クロークは慌てた。
「どうしたんだい。怖いところじゃないよ。知っているだろう?」
「あそこ、怖い!」
 セレネーは激しく頭を振った。「怖い! あそこにいる人みんな怖い! 私のこと怖い目で見るの! いや、怖い!」
「セレネー嬢……」
 クロークは軽く少女を抱きしめた。
「……大丈夫だよ。今度は前みたいに、あなたを独りにはしない。僕が、ずっと傍についているから」
「クローク……!」
「一緒にいて、そして」
 ――酷かもしれないけれど。
 すべての話を、セレネーに聞いていてほしい。
 突然全ての記憶を取り戻してしまうよりは、先に幾らか知っておいた方が心構えも違うだろうから……
 腕の中で、少女はぎゅっとクロークの服にしがみつく。
 その白い頭を見下ろして、クロークは思う。
(記憶を取り戻すことを、この子は望んでいるだろうか)
 はかりかねることだった。
 だから、率直に訊いた。そっとセレネーの体を離し、
「セレネー嬢。……記憶を、取り戻したいと思うかい?」
 少女は赤い視線を不安げにクロークの瞳に合わせる。
「なんで、そんなこと、訊くの?」
「……セレネー嬢の望まないことは、できればしたくない。だから、セレネー嬢の心を聞かせてほしいんだ」
「………」
 セレネーはうつむいてしまった。
 やはり荷が重いのだろうか――今の彼女の精神は、幼い子供と変わりがない。
 クロークは近くの樹を選び、その木陰にセレネーを座らせた。
「セレネー嬢。ゆっくり考えてくれれば、いいから……」
 時間がない。
 セレネーの体を蝕んでいる刻印、いつになったらその力を爆発させるか分からない。いや、どのようにその力を発現させるかも分からない。
 それでも、クロークは言う。“ゆっくり考えて”と。
 木陰にうずくまったセレネー。顔を完全に膝にうずめて、顔を上げない。
 ――魔女の里で受けた視線は、これほどまでに少女を傷つけていたのかと思い知った。確かに排他的な魔女たちは、ロエンハイムの娘だということだけでさらに過酷な視線を彼女に向けたのかもしれない。
 そして自分も、その視線の中で彼女を独りぼっちにするという愚を犯してしまった。
 今になって悔やむ。それがなければ、セレネーはもっと心を開けていただろうか。
「……でもね、セレネー嬢……」
 胸の奥に苦い汁が落ちるような感覚を味わいながらも、クロークは声をしぼりだした。
「セレネー嬢の記憶のことは……セレネー嬢自身が決めなくてはいけないことなんだ。他人の僕たちが決めることじゃない。だから……」
「………」
「それにね。あなたの背にある刻印はやはり放っておけない。……あなたは、刻印をそのまま抱いていたい? 大切なものなのかな」
 思えば、それも聞いてみたことがなかったかもしれない。
 セレネーが不死鳥を愛していることは確かだ。
 けれど、自分の背の刻印は?
 いくら不死鳥をかたどった刻印だからといって、愛せるものだろうか。
 それともそれ以外の理由で、刻印は彼女にとって大切なものかもしれない。
 しかしもうひとつ確かなのは。
 その背の刻印に触れた、自分の父代わりの青年が呪われたとき、セレネーは自分を責めたということだ。
 自分はおかしいと、荒れたということだ。
 ――クロークは木々の陰が落ちる少女の白い頭をそっとなでた。
「僕は、あなたの味方でいる。決して、傍から離れない。セレネー嬢……たとえ記憶が戻ってあなたが別人のようになってしまったとしても」
 ぴくり、と少女の肩が震える。
 クロークはいつも店に来る人々を安心させてきた声で、優しく囁く。
「それに、その刻印はあなたを傷つけるかもしれない。セレネー嬢が傷つくところは見たくない。だから」
 ロエンハイム、とつぶやくと、セレネーの手がぎゅっと拳に握られた。
「ロエンハイムのことを、調べにいこう。セレネー嬢、あなたのためだなんて言わないよ。僕がそうしたいんだ……僕は、あなたが壊れるところを見たくない」
 いつだって、不思議な魅力で自分を惹きつけてやまなかったこの少女が。
 壊れていくのをただ見ているだけだなんて、そんな自分は許せない。
 これはエゴだ――
 分かっていても、それをセレネーにぶつけることにためらいはなかった。
「一緒に、行こう」
 拳に握られていた少女の手に触れた。自分の存在を教えるように。
 セレネーの拳が揺れて……
 徐々に開いた掌は、やがてクロークの手を求めて伸びた。
 クロークはすぐにその手を取った。柔らかな手。繊手はとても頼りなくて、クロークの心に直接訴えかけてくる。
 どうか、独りにしないでと。
「独りになどしないよ。セレネー嬢」

 たとえあなたが何者でも。

 セレネーは立ち上がってくれた。
 おそるおそる上げた顔に目を合わせて、クロークはにこりと微笑んでみせた。
「さ、行こうか」
 こくん、と小さくうなずく少女――
 しっかりと手を握りあって、二人は歩き出す。
 目指すは、魔女の里。

 ■■■ ■■■

「また来たのか。物好きだな」
 魔女の里の長老は、相変わらずのたたずまいでそこにいた。
「お世話をおかけして申し訳ない長老。今日はロエンハイムについて詳しく聞きたいんだ」
 と、クロークが言った傍から、突然のつぶやき。
「あ……」
 セレネーだった。前回のときは長老と会っていない彼女は、長老をじっと見つめ、ゆっくりと歩み寄っていく。
 そして、正座している長老のまん前にすとんとしゃがみこみ、その顔をのぞきこんだ。
 二人のよく似た赤い瞳が交差する。
 セレネーが、唇を動かす。
 信じられない言葉が、そこからこぼれ落ちた。

「おねえちゃん……」

 金と銀の髪を持つ長老は、唇の端にわずかな笑みを浮かべた。
 セレネーはじっと長老の瞳を見つめている。
 クロークは信じられない思いで長老を凝視した。
「姉……? まさか」
「直接の姉ではない。一時期一緒にいたというだけの話だ」
 と長老は言った。
「――ロエンハイムが滅びて、独り取り残されたこの娘が放浪していた頃、私とともに在ったことがある。それだけだ」
「しかし、あなたたちはよく似ている」
「それはそうだろう」
 長老はゆっくりとクロークに視線を向ける。
「――この娘の実像は、私に影響されて出来上がったものだ」
 クロークは緊張した。
「それは、どういう意味――?」
「つまりは、精霊殿。簡単なことだよ」
 と長老は、半ば苦笑気味に言った。
「この娘は実像を持っておらなんだのだ。少なくとも、私が出会った時点ではな」


ライターより-------------------
こんにちは、笠城夢斗です。
今回もセレネー謎解きシリーズありがとうございました!
少し思うところがあって、プレイングとはずれた展開となりましたが、いかがでしょうか?
この後クロークさんが起こす行動で、また違う展開を見せると思います。
楽しみにしています。よろしくお願いします。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
笠城夢斗 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2008年05月22日

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