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『謎を解く鍵を求めて 〜Mystery〜 』
エル・クローク3570)&セレネー(NPC0766)

 謎の記憶喪失少女、セレネーの背にある、記憶封じの刻印。
 その謎を解明すべく、エル・クロークはセレネーをつれてここへやってきた。
 魔女たちの里。

 時間にして丸二日ほどの旅。歩きづめだった。クロークは構わないが、セレネーは……
(この里に長時間いたら、セレネー嬢が発狂すると言われたけれど……)
 クロークは考えた。
(いったん戻るにしても、セレネー嬢には休息が必要だと思う。慣れない旅をしてきたんだ、一日……いや、せめて半日だけでも休ませてあげたい)
 幸い、彼らにあてがわれた高床式住居の中、すでにセレネーはクロークの眠りの香ですやすやと眠っている。
 あの香の効果が切れるのには半日以上かかるだろう。
 セレネーは、寝かせたままでいよう。
 その間に――
(僕は彼女が眠っている間に、出来る限りの情報を集めよう)
 今、魔女たちの里の真ん中の広場にて、宝石の整理をしている黄色の紐を左手首に巻いている魔女に、彼は話しかけていた。
「やっぱり、あの刻印については長老に尋ねるのが一番なんだね」
「そう言ってるでしょう。……あまり深追いしない方が懸命だとは思うけれど」
「真実をセレネー嬢に知らせるのは懸命ではないのかもしれない。けれど僕が知ることはそれとは別の意味を持つ」
「そうね」
 黄色の魔女は止めようとはしなかった。
(長老に会う事が一番の近道だというのなら、僕は彼女の元へ会いに行くべきだ)
 クロークはそう思っていた。
 だから、目の前の魔女に訊いた。
「長老の家はどこか、お尋ねしてもいいかな」
「あっちよ」
 黄色の魔女は背後に振り向き、なだらかに山の上へとつながっている道を指した。
「あの道を行った先」
「ありがとう」
 クロークは礼を言い、懐からポプリを取り出した。
「魔女の貴女たちにこういう効果のものを差し上げても、自分で作れてしまうだろうから意味はないだろうけれど、誠意だと思って受け取ってくれないかな」
「あら、いい香りね」
「睡眠を快適にする効果があるよ」
 黄色の魔女はにこりと笑った。
「喜んでもらっておくわ。イメージは違うかもしれないけれど、魔女たちでもやっぱり贈り物は好きなのよ」
 クロークは微笑んだ。


 黄色の魔女が指し示した道。なだらかな坂になっているその場所を登っていく。
 家は見えている。他の魔女たちの住まいとなんら変わりのない、高床式住居。入り口は布だ。あえて言うならばその布が、他の魔女たちよりも精密な柄だという点だけ違うだろうか。
 入り口の、布の前に立ち、クロークは中にいるはずの魔女に向かって声をかけようとした。
 が、先に、
「入ってくるがいい」
 と声がした。
 それは、最初にこの里で出会った紫の魔女が水晶玉で見せてくれた長老の声と、一致していた。
「失礼」
 クロークは布をくぐった。
 中は薄暗かった。丸太木組みのこの住居は隙間がたくさんあるから、風と共に太陽光もよく通るのだが、それ以外の光を入れていない。
「なぜ窓がないのか不思議か」
 と、中央に座していた魔女が、静かに言った。
 心を見透かされたようで、クロークは驚いた。
「どうした。精霊よ」
「……さすが。そこまでお分かりだね」
 懐中時計の精霊クローク。それをお見通しで魔女たちの長は彼を受け入れる。
「窓がないのは、必要以上の光は占いや実験には色々と邪魔だからだ。そなたなら分かろう」
「……確かに」
 クロークは、エルザードの城下町の裏街道で店を出している。
 表向きは香水や紅茶などの店だが、裏では――幻の効力を持つ香をもってして、人々の心の中をのぞく仕事も営んでいる。
 その裏の仕事をする際は、店の奥の部屋を使うのだが、確かにそっちの部屋には窓がない。必要ないからだ。
 クロークはそっと進み、長老に近づく。
 座れと言われ、長老に向き合うように座った。
 お互い、膝を付き合わせるような形で。
 長老は瞼をほとんど下ろした表情でいる。真正面からそれを見て、クロークもさすがに緊張した。
 これが、魔女たちの長――
「……そなたは、何を望む」
 長は透き通る風のように涼しい声で、問いの言葉を紡ぐ。
 何を望む。
 問われて、クロークは即答した。
「何を望んでいるのかは、まだ分からない」
「――……」
「滅びの町ロエンハイム……」
 魔女たちが口にし、セレネーが怯えたその町の名を口にし、クロークは視線を落とす。
「これが何を意味するのか分からない以上、まだ記憶封じの魔術を解くべきでは無いだろう」
 長老は何も言わず聞いている。
「貴女たちに聞けばほとんどの情報は得られるのだろうと思う」
 視線を上げ、長老の顔を見る。
 長老は相変わらず、目を開けているのかつぶっているのか分からない薄目だ。
「あの魔術の在り方が多少なりとも分かっていれば、後々何らかの役に立つと思うんだ」
 風が、部屋を通り抜けた。
 魔女の長い髪が揺れた。その時気づいた。――長老の髪は金から銀へと移る不思議な色合い。
 太陽光が不意に反射して、輝いた。
 たゆたうウエーブのかかった髪が、どことなくセレネーを思わせると、クロークは思った。
 そう言えば――この長老の瞳の色は何色だったか。
(今は、そんなことを考えている場合じゃない)
「例えば記憶封じの魔術がセレネー嬢の身体に及ぼす影響とか」
 クロークは身を乗り出した。「どうだろう?」
「それが、知りたいことか?」
 魔女の声には抑揚がなく、感情が見えない。
 クロークは辛抱強く相手をするつもりだった。
「そう。他に――……このままでいて問題は無いのかな、とか」
「このまま。刻印を抱いたまま、ということか」
 クロークはうなずく。目を開いているかどうか分からぬ相手だが、気配で分かるだろう。
「セレネー嬢にとって何か良くないことが起きたりしないだろうか――」
 かの少女が精霊の森という場所に転がり込んできてから、少女は刻が止まったかのように変化がない。
 否。
 彼女の内側では変化しているのかもしれない。
 精霊宿りという技で、彼女の内側に入った精霊が言ったのだ。「セレネーの内側にも巣くっている」と。
 となれば、その巣くっている部分がますます侵食して――セレネーそのものをのっとったり、しないのだろうか。
 クロークは自分の考えをつらつらと頭の中に並べていく。それだけで、目の前の魔女には通じるような気がしていた。
 あの刻印は本当に、「記憶を封じる」だけのものなのだろうか。
 いや、きっとそれだけじゃないのだろう。今までの経験がそうクロークに訴えている。
「後はせめて、あの刻印に触れてしまった者の呪いを解く方法だけでも分かれば良いのだけれども……」
 ぴくり、と長老が反応した。
「あの刻印に触れた……」
「……悪いこと、なのだろう?」
 セレネーの現在の育ての親が、その呪いに苦しんでいる。
 長老は初めて、感情らしきものを声に乗せた。
「あの刻印に触れられる者が下界にいたか」
 下界――
 山あいに住んでいる彼女らにしてみれば、ユニコーン地域は下界なのか。クロークはこんなところで苦笑する。
「セレネーを今面倒看ている彼は、独学だけれど相当な魔術師だから。何しろ自分の過去の記憶と引き換えとは言え、自分の身を不老不死に変えた」
「………」
 長老はようやく動いた。右手を持ち上げ、あごに当てる。
「……そうか。それほどの者がいたか。その者にとっては幸か不幸か……」
「不幸、だったのかもしれないね」
 長老の言い方を聞いていれば、並の術者では触れることさえ出来ないのだろうということがうかがえる。
「しかし、触るとは迂闊だ」
「彼も、刻印に触れる時にはある程度のリスクを覚悟していたと思うよ。彼はそれほど愚かじゃない」
 セレネーのことを誰より心配しているのは、身近でセレネーを見ている彼である。フェニックスの刻印にいち早く気づき、セレネーの心には傷がつかないよう細心の注意を払いながらも研究を続けている。
 セレネーは、フェニックスを愛している。
 それは確かだから。
「……そうなんだ。セレネー嬢はフェニックスに愛着を持っている……」
 クロークはつぶやいて、眉根を寄せた。
「教えて欲しい。この違和感はなんだい? 彼女は不死鳥に護られているのか? それとも蝕まれているのか?」
「……質問が多いな」
 長老は手を膝に下ろした。
 ようやく、彼女は瞼を上げた。
 けぶるような長い睫毛の下にあったのは、
 セレネーと同じ赤い瞳――
「必要と思われる範囲で答えよう、精霊よ。まずあの魔術があの娘に及ぼす影響だが」
 クロークは背筋を伸ばす。
「――放っておけば、記憶が戻らないことと、刻印に触れた者を呪いに陥とす以外に影響はない」
 返ってきた答えに、安堵の息がもれた。
「ゆえに、このままでいてもなんら問題はない。今言ったことを気にしないならば」
「なるほど」
 うなずいから、「でも、長老」とクロークは言う。
「彼女の体に宿った精霊が言っていた。あの刻印はセレネー嬢の体にも巣くっていると。本当に影響はないのかい?」
 何となく不安だった。セレネーに宿った暖炉の精霊の、あの疲労。
 普通の火と違う、異質の何かがセレネーの内部を焼いていると。
 そう言った時、魔女の長は不快そうに眉を寄せた。
「精霊を宿した? かの娘にか」
「……そうだよ。今呪いにかかっている彼は、精霊宿りという技を扱える。彼の護る森の精霊なら、他人の体に宿すことができる」
「それで、ロエンハイムの娘の体の中にも何かが巣くっていると言ったのか」
「言ったね」
「………」
 長老が再びあごに手をやり、うつむいた。さらっと彼女の不思議な色の髪が頬に落ちた。
「となると……」
 つぶやいた声に、わずかな揺れが聞き取れた。
「燐か」
「――燐?」
 クロークは思わず聞き返した。
 長老は顔を上げた。赤い瞳が、まっすぐクロークを見た。
「不死鳥の刻印――主成分は燐だ。燐は、人体にも欠かせない成分だ」
「―――」
「それが、混ざり合ってきたか――」
 難しい顔になった。あの、冷静だった魔女の長が。
 精霊、と長老は呼んだ。
「危険かもしれん」
 クロークは厳しい顔をして、「どのように?」と尋ねた。
「ロエンハイムの娘が、不死鳥にのっとられる。かの娘の中で不死鳥が目覚める」
「―――!」
「……たかが魔術の不死鳥だが。人体の燐が混ざり合ったことで『生命』を得る可能性がある」
「食い止めなければ……!」
 思わず大声が出た。
 長老はうなずいた。
「まずは落ち着け、精霊」
 クロークは膝に置いていた手を拳に握る。ほんの少し、震えていた。
「そして呪いを受けた魔術師の方だが。これも原因は燐だ。不死鳥の刻印の主成分である燐は人体の燐に比べて毒性が高い。その燐を、体内から抜けばいい」
「どうやって抜けば?」
「二酸化炭素を与えればいい」
 長老はあっさりと言った。「刻印から離れた燐は二酸化炭素に溶けやすいものに変わっている」
「二酸化炭素……」
 与えろと言われても、簡単に与えられるものではない。
 調香師の自分も、二酸化炭素は作ったことがない。
 クロークはあごに指をかけて考えて――ふと思いついた。
 過呼吸症候群。
 確かこの、発作を起こすと息が荒くなり、呼吸が出来なくなり、両手の指先や口の周りがしびれたような感覚が起きる症状は、二酸化炭素の吐き出しすぎで起こる。
 この発作をおさめる時――
 袋を使ってわずかに口をふさぎ、自分の吐き出した二酸化炭素を再び吸い込む、ということを繰り返すことで治すのではなかったか?
(同じ要領でできるかもしれない)
 クロークは、帰ってみたら試そうと決めた。
 もしこれで駄目なら、自分で二酸化炭素を集めてみよう。
 そこまで考えて、顔を上げた。
「長老。不死鳥の刻印は二酸化炭素では消えないということだよね?」
「無論。主成分は同じだが刻印の方はそんなに簡単ではない」
 ――かの青年の呪いが解ければ、どれだけセレネーが喜ぶだろう。
 その姿を想像して、自然と顔がほころんだ。あれほど青年に呪いをかけてしまったことを気に病んでいた少女だ。いい情報を――得ることができた。
 肝心の問題はまだまだ謎だけれど。
 それについてもっと突っ込んだことを聞いてみようと、口を開きかけたその時。
 長老がふと、腹の前で両の掌を上に向けた。
 ふおん、と水晶玉が現れた。
 そこに、一人の魔女の顔が映り、
『長老。旅人はそちらでしょうか』
「ここにいる。どうした」
『ロエンハイムの娘が泣きわめいています。その精霊を探しています』
「分かった」
 クロークは唖然とした。――あの眠りの香。そんな簡単に解けるものではなかったはずなのに。
「ここは魔女の里だ。普通のところとは感覚が違うと思え」
 見透かして、長老は言った。
「……失礼」
 クロークは立ち上がった。「彼女の元に行くことにするよ」
「そうしてやれ」
「色々とありがとう。まだまだ聞きたいことはたくさんあるのだけれど」
「……問われるなら答えよう」
「またお世話になるよ」
 クロークは懐から、またポプリを出した。
「魔女殿でも、贈り物は好きだと聞いたので」
 手渡すと、長老はしげしげとそれを眺めた。
 その瞬間の彼女は――普通の女性だった。
 少しおかしくてくすりと笑い、
「それでは」
 とクロークは長老の家を後にした。


 ゆるやかな坂を駆け下りると、泣き声が聞こえてきた。セレネーの声だ。
「セレネー嬢!」
 声を上げると、里の中央の広場で、暴れているところを魔女たちにつかまっていたセレネーがこちらを向いた。
 ぽろぽろと涙を流しながら、
「クロークのバカ、バカ、バカァ」
「ごめんね、もういなくなったりしないから」
 クロークは駆け寄った。セレネーは抱きついてきた。
 胸に顔をうずめてくる少女に、予想外だったとは言え悪いことをしたなとクロークは反省する。
 空を見上げると、まだ半日経っていない。
「セレネー嬢。もう少しこの里で休もう。それから――どうするか決めるから」
「クローク、いて、くれる?」
「僕も一緒だよ」
 セレネーは顔を上げ、ようやく微笑んだ。
 赤い瞳。長老の瞳と重なって、長老の言葉が次々と浮かんでくる。
 ――このままでは不死鳥が、セレネーの中で目覚めるかもしれない。

 それは最高の「Mystery」。
 必要なのは、それを解く……Key。

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 Phoenix。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
笠城夢斗 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2008年03月28日

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