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『〜記憶の扉〜 』
松浪・静四郎2377)&フガク(3573)&松浪・心語(3434)&(登場しない)



「久しぶりですね、ここで夕食をとるのも」
 松浪静四郎(まつなみ・せいしろう)は、うれしそうにそう言って、自分の作った食事を満足げに眺めた。
 今日は、かなり腕を振るったのだ。
 盛大に並べられた皿の数がそれを物語っている。
 聖都でしか売っていない果物を、大量に馬車で運んで来すらしたのだ。
 今日のデザートは、その果物をふんだんに使って作った、最後のお楽しみである。
 ここのところ、何だかんだと忙しくて、このエバクトへはまったく足を運べなかったので、実は、その謝罪の意味も入っている。
 対する松浪心語(まつなみ・しんご)は、こちらもいつもと変わらぬ憮然とした表情で、それでも松浪家でしつけられた挨拶をきちんと口の中で唱えてから、食事を始めた。
 仏頂面になればなるほど、本当は「おいしい」と思っているのだと知っている静四郎には、具体的な言葉をもらわなくても十分だった。
 黙々と、それでもまだどこかぎこちなく食事を続ける心語を見て、ふと静四郎はある種の既視感に捕らわれた。
 月のしずくのような銀の髪、闇の色に近い紫がかった青の瞳、そして、見事なほど焼けた肌。
 どちらかというと夜に属する印象が強いこの雰囲気に、別の人間の影がだぶった。
 最初は誰だかわからなかったが、次第にそれが形を成して、明確に像を結んだ。
(これは…)
 既視感の正体、それはふたりが持っている雰囲気、姿かたちがとてもよく似ているからだと、静四郎ははっきりと感じた。
(もしかしてふたりは…)
 そう思った時には、静四郎は心語に話しかけていた。
「先日聖都で、新しい友人が出来たんですよ」
「兄上は…友人が多いな…」
 苦笑するような声で、心語はそう応じた。
 同じく微苦笑を返して、静四郎は続けた。
「わたくしが食事をしていたところに、彼は声をかけてきましてね。どうやら、最初にここへ来る時に乗った馬車に、彼も同乗していたようなんです。でも、その時わたくしは気付かなくて…彼はその時のことを覚えていて、わざわざ声をかけてきてくれたんです」
 その時のことを思い出しながら、静四郎は少し笑った。
 屈託というものがまるでない話しっぷりといい、周りに迷惑なほどの大きな笑い声といい、あれほど強い印象を醸し出す人間も、そう多くはないだろう。
「彼は記憶を失っているらしいのですよ。それを取り戻したくて、何となく関係のありそうな人物に、積極的に声をかけているらしいのです」
「それは…大変だな…」
「ええ…本人は気にしていないって言うのですが、取り戻したい気持ちが強いから、声をかけてしまうのでしょうね」
「そうだろうな…」
「それで、ですね」
 静四郎は、いったん食事の手を止めた。
 真正面から心語を見つめ、一語一語区切るように言う。
「その彼が、実はあなたに似ているのですよ。姿かたちや能力や…雰囲気そのものが、ね。もしかしたら、あなたと同じ種族なのかも知れない、そう思うのです」
「同じ、種族…?」
 心語も思わず手を止めた。
 元々滅びを待つだけの種族だ、そんなに数は多くない。
 だが、自分たちよりずっと前に、村を出て行った者もたくさんいるはずだ。
 その中のひとりかも知れない、とぼんやり心語は思った。
「わたくしは、苦しんでいる彼を助けたいと、そう思っているのですよ。もし…もしあなたが嫌でなければ、彼の記憶が戻るきっかけになるかも知れません、ここに一度、呼びたいと思っているのですが…」
 心語は少し目をみはった。
 自分が会ったところで、自分が生まれるより前にここを出て行った者であれば、記憶が戻るよう手を差しのべることも出来ないような気もする。
 だが、いつも優しくて、慈愛の心を持ち続けているこの兄の気持ちを無下にすることは、心語には出来なかった。
「その人の…名前は?」
「『フガク』です」
「フガク…」
 やはり心当たりはなさそうだ。
 兄を見ると、真摯な眼差しで自分の答えを待っている。
 まあ、と心語は思った。
 同族かそうでないかの区別くらいはつけられるだろう。
 彼らが持っている特殊な「気」は、少しでも相手に触れれば感じられるからだ。
「わかった…」
「ありがとうございます!」
 うれしそうに破顔する兄に、ぶっきらぼうにうなずいて、やや冷めてしまった食事を、心語は無言でまた再開した。




 その翌日。
 善は急げと、静四郎はフガクの常宿「海鴨亭」を目指した。
 もしかしたら、フガクは冒険に出ていて、いないかも知れないが、その時は伝言を残せばいいだろうと、楽観的に考えて大通りを進んだ。
 やがて、木で作られた二階建ての宿が見えてきて、目的の部屋の窓が大きく開け放たれているのを見、静四郎はほっとして足を速めた。
 どうやら今日は部屋にいるらしい。
 女将に一言断って、静四郎は二階へと上がった。
 控えめにノックすると、中からあの大きな声が応えた。
「開いてるぜ!」
 ゆっくりとドアを開いて、静四郎はにっこり笑って声をかけた。
「こんにちは」
「ああ、静四郎か!よく来たな!」
「体の調子はいかがですか?」
「もう何ともないよ!あ、そこに座って!」
 粗末な木の椅子を勧められ、静四郎はそろそろと腰を下ろした。
「この前別れてから、どうしているかと思って訪ねたのですよ」
 フガクはベッドの端に腰掛けて、満面の笑みで言った。
「ホント、この間は悪かったな!何か迷惑かけちまったみたいでさ」
「いえ」
「あんたがその細い体で運んでくれたんだって、ここの女将さんに聞いてさ、悪いことしたなーってずっと思ってたんだよ。ありがとな」
「いえ、大丈夫ならいいのですよ。元気そうで何よりです」
「ああ、おかげさまで!」
 そう言って、不意にフガクは首を傾げた。
「まさか、それだけのためにここまで来てくれた、のか?」
 静四郎は一瞬迷った。
 だが、すぐに表情を改めて、じっとフガクを見つめた。
「もしよろしければ、あなたの記憶を取り戻す手伝いをさせて欲しいのですが」
「えっ?俺の記憶?」
 フガクは驚いて聞き返した。
 それから笑って片手を振った。
「あはは、そんなの気にしなくていいって!別に急いでないしさ」
「お節介は承知の上で、です」
 静四郎は、今度は慎重に言葉を選んで話し始めた。
 先日のことを思い出して、フガクを刺激しないよう「義弟」という言葉は使わないように気をつける。
「実は、知人があなたにとてもよく似ているのです。もしかしたら、あなたの記憶に関わっているかも知れません。何かのきっかけになるのではないかと、そう思うのですよ」
「でもさ、万一またあんたに迷惑が…」
「その時はわたくしが責任を持って看護をしますから、ご心配はいりません。ですから、もしお時間があれば、会ってみていただけませんか…?」
 真剣そのものという表情で、心からの言葉を口にする静四郎に、フガクは思わず苦笑した。
「まあ…静四郎がそこまで言うなら、会ってみる、か」
「そうですか!」
「ああ。で、どこに行けばいいんだ?」
 静四郎はうれしそうに席を立った。
 善は急げ、本当に急げ。
 フガクを引きずるように先に立ちながら、静四郎は心語の待つエバクトへと急いで向かうことにした。




 エバクトに着くと、すぐに心語の家を目指した。
 あまりに急ぐので、フガクが驚いたほどである。
 そんなに体力のありそうに見えない静四郎ではあるが、持久力は抜群だった。
 フガクの心配を他所に、ふたりはあっという間に目的地に着いた。
 ある家の前で静四郎が立ち止まり、「ここです」とフガクに告げる。
 それからコンコンとノックし、中から低い声が応じて、重そうな扉が内側に開かれた。
 そこには、小柄な少女然とした少年が立っていた。
 彼――心語は、静四郎の後ろに立つ、細身だが背の高いフガクを見上げる。
 その瞬間、彼は驚きに目をみはった。
 視線は、その胸元に据えられたままである。
 そのポケットからのぞいているあの木彫り――心語が見紛うはずがなかった。
 一度、唾を飲んで、心語は声を絞り出した。
「兄さん…?」





 END…?





〜ライターより〜


 いつもご依頼ありがとうございます!
 ライターの藤沢麗です。
 とうとうお三方が出会いましたね!
 運命が交差する瞬間でした。
 これからまだ一波乱ありそうな予感がしますが、幸せをはらんでいるような気もするので、それもよし、というところでしょうか??
 何にせよ、おめでとうございます。

 それではまた近い未来に、
 お三方の物語を綴る機会がありましたら、
 とても光栄です!
 このたびはご依頼、本当にありがとうございました!
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
藤沢麗 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2008年03月27日

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