▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『メザニーンの闇ノ中 Part.2 』
梧・北斗5698)&遠逆・欠月(NPC1850)



 公衆電話を見つけ、欠月はそちらに近づく。あぁ、これを使うのも久々だ。前は地図を片手に報告するために使用していた。
「ははっ。変わるもんだな、人間ってのは」
 変わるわけがないと思っていた。自分はずっとあの家に縛られて、あの家の為に死ぬつもりだった。今でもその気持ちがまったくないというわけではない。
 けれど、変わった。
 梧北斗という少年が自分を懸命に引き止めたのだ、この世界に。
 電話ボックスのドアを開いて中に入り、持っていたテレホンカードを差し込む。今や携帯電話は必須アイテムというのに、自分は所持していない。案外レトロなのだ。
(いやいや、機械ってあんまり得意じゃないんだよね、うちの家系は)
 ボタンをプッシュして相手が出るのを待った。コールが2回ほどで、相手が電話に出る。
「あ、遠逆欠月だけど、ちょっと調べて欲しいことがあってさ。……え? 死ね? ……相変わらずきついなぁ」

 電話ボックスから出てきた欠月は空を見上げる。まだ夜明けまでは時間がある。
 ここは例の神隠しの学校から離れた場所だ。
(聞き込みをするにしても時間帯が時間帯だし……。しかし時間をかけるのはマズイ。北斗の身がどうなっているのか把握できないからな)
 欠月は北斗が神隠しに遭った瞬間、瞬時に意識を広げた。自分の知覚範囲を広げたが、それでも引っかからない。
 何かが、ある。
(まずは神隠しに遭ったっていう人物を調べるか。その後は『条件』だ)
 自分にはなくて北斗にあるもの。それはなんだ? とりあえず比較しながら欠月は夜道をぶらぶらと歩き出した。月が照らす夜道は薄暗い。
「顔だってボクのほうがいいのに……なんで北斗?」
 狙うなら自分にすればいい。もしや弱そうな北斗を狙ったのだろうか?
(とはいえ、あれでも北斗は退魔師の端くれ……。それなのにあんなに簡単にいくか?)
 あの時の北斗を思い返す。
 何か聞こえると彼は言っていた。戸惑った目でこちらを見た。そして顔を赤くした。なぜ赤らめる? しかも汗までかいていた。
(赤くなる……ってことは、羞恥心を感じたってことだよな。北斗は顔に出やすいし、あれはどう見ても怒ってる感じじゃなかった。
 羞恥……恥ずかしい、か。あいつが恥ずかしいってのはどういうことだ?)
 意味がわからない。欠月ははぁ、と嘆息した。こんなことになるならもっときちんと調べてから乗り込めば良かった。自身を過信していたのが失敗だった。
 恋の話とかしている場合じゃなかった。ちょっと現場を離れていて感覚が鈍ったのだろうか。
(……北斗は明らかに動揺してた。泣いてたし。つーかなんで泣いたんだ? あー、理解できない。人間の感情はまだまだワケがわかんないなー)
 泣く、ということは感情が昂ぶったということだ。
 声を確かめに行くとあいつは言った。それから青ざめた。
「ウソだ。そんな」
 確かそんなことを言っていた。
(嘘ってなにが? よくわかんないなー)
 髪をくしゃくしゃと掻く。ますますわけがわからなくなってきた。



 北斗は引き戸を開いた。木造の扉は少し軋む。
 夕暮れの中に佇むセーラー服の少女の顔はみえない。逆光で? いいや、そんなことは今はいいじゃないか。
「……待った?」
 照れつつそう言うと、彼女は首を振って否定した。
 まるでテレビのノイズだ。彼女のセリフは聞こえない。だが自分は理解していた。
 彼女は自分が大好きな子だ。大好きな人なのだ。
「帰ろうか、そろそろ」
 詰襟の制服の喉元を緩くする。喉が渇く。どきどきして、心臓が痛い。
 彼女は頷いた。自分は教室の中に足を踏み入れて近づく。
「……うん」
 北斗は目の前に立つ。やっぱり顔は見えない。顔の部分だけが塗り潰されたように、みえない。
 そっと手を繋ぐ。温もりを確かめるように。
 唇を軽く重ねる。大好きな女の子とのキス。あぁ、心地いい。
 離れて、北斗は照れ臭そうに笑った。
 手を繋いで教室から出て足を止める。廊下に立っていた別の女生徒はこちらを見ていた。なにか言っている。
 きこえない。
 顔がみえない。でも、なんだかかなしそうだ。濃紺のセーラー服に、淡い水色のスカーフ。……だれだろう。
 彼女はそのままこちらに背を向けて去っていく。
 怪訝そうにする北斗は、歩き出そうとしてその少女が去った方向とは別方向を向いた。だがそこは廊下ではなく保健室の前。
「…………」
 ひらくな。
 その扉を、ひらくな。
 ほら、きこえるじゃないか。
 きこえるじゃないか。
(なにが?)
 きこえるじゃないか。
 あれが。
 きこえるじゃないか。
 北斗は手をドアに触れる。
 開いてはいけない。だけど。
 そっと、隙間をあける。そこから中を覗いた。
 目を大きく見開く北斗は――――。



 ぶらりと歩いて欠月は公衆電話に戻った。テレホンカードを差し込む。
「あぁ、ボクだよボク。それで、どうだった?」
 調査を聞いて、欠月は顔をしかめる。
「……ふぅん。じゃあまぁ、一応いわくはあったわけか。それで、消えたっていう人物はどんなの?
 ……まぁ学校だから、学生が多いわけか。でも、被害者は多くない」
 そういえば北斗がこの仕事を引き受けたのは、祖父からのつてとかどうとか。
(廃校になって長いこと経ってる。取り壊すのに異常がないかの確認がしたかっただけだったんだろうが……)
 あの学校にあるものは、まだ機能している。
(……消えた連中を一人ひとり調べてる時間はない)
「戻ってきたヤツはいる? ……いるんだ。だけど……そう」
 数回頷いて受話器を置く。
 すべてを詳しく調べているわけにはいかない。これはまずい。
(『共通点』がわかんないんじゃ、やりようがないじゃん。もー)
 神隠しの多い学校。だが人数は多くなかった。通っている人数が少なかったせいもあるだろう。
 欠月は電話ボックスを出て学校への道を歩き出した。もう一度現場に戻ってどうする?
(炙り出したところで意味はないような気がするな。北斗が共感覚に引っかかったってのがなぁ)
 人のいない小道を歩く欠月は大きく溜息をつく。
 こんなに心配させて。まったく。どうしようもない親友だよ。
 でも、この前は自分が彼を心配させてしまったわけだから、あいこだ。

 学校に戻った欠月は自分と北斗が立っていた場所に居る。
「ここで北斗が何か聞いたんだが……顔を赤くするようなものってなんだろ。下品なこと考えちゃうよ、ボクは」
 だが聞こえただけで動揺するのはおかしい。そもそもそれならなぜ自分には聞こえないんだ。むしろ、そういうものは聞こえていいものじゃないか。
(ボクだって男なのに。
 ……でもその後北斗は)
 うそだ。
(って言ってた。信じたくないって顔してたっけ)
 なぜ?
 欠月は懐中電灯で廊下を照らしながら歩く。冗談じゃない。自分は退魔士であって、探偵ではないのだ。名推理を披露する義理はない。
 ぎくっとして欠月は廊下の一角を照らした。
「…………」
 誰かが居ると思ったのに、いない。一瞬だが、詰襟の少年が見えた気がしたのだが。
(チィ……! 厄介だな。霊視する対象がないのにどうしろってんだよ)
 こんなに曖昧な気配で。範囲が広すぎて、ぼんやりしてて……。
(ムカつく。北斗が戻ってきたら、コイバナだけじゃ済まさないぞ。カノジョを紹介してくれないと、割に合わないぜ)
 北斗が向かった保健室のドアを、今度は開いてみる。
 やはり、何も変わったところなどない。
 天井を懐中電灯で見る。蜘蛛の巣が見えるだけで、特に何もない。
「……ったく、なにを見たんだよ、北斗はここで」
 泣き、叫ぶほどのなにか。彼の心を砕くほどの衝撃を伴ったなにか。
 窓の外が白んできて、欠月は舌打ちした。夜明けだ。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
ともやいずみ クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年03月25日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.