『光の友情 』

レピア・浮桜（1926）＆エルファリア（NPCS002）

　神罰＜ギアス＞――
　これのために、踊り子レピア・浮桜はどれほどの苦しみと痛みを背負ったか。
　本人は半ば慣れてしまって、もう麻痺しつつあるのだが、それでも朝陽が昇るとともにやってくる石化の瞬間は辛い。
　そしてその姿は――
　見ている方も、とても辛い。

　■■■

　昼間の公務を終えて別荘に戻ってきたエルファリア王女は、まだ夕陽が沈んでいないのを見て、近くのメイドに言いつけた。
　「レピアが石化から戻ったら、自分は図書室にいると伝えて」と。
　エルファリアは忙しいさなか、それでも大切なレピアのために毎晩本をあさって＜ギアス＞を解く鍵を探しているのだ。
　彼女の別荘にある図書室の蔵書は相当なものである。ガンガルドの館にはさすがに負けるかもしれないが、その分王族特権で、あの館では手に入らないレアな本も多い。
　動きやすい簡単な衣装に着替えてから、図書室へ入る。
　目の前をずっしりと覆うような本の山。
　エルファリアはそこへ足を踏み入れた。

　日が沈み、レピアの石化が解けた。彼女はメイドに言われ、すぐに図書室へと走った。
　エルファリアのいる場所はすぐに分かった。静かな図書室の中で唯一音がする場所。
「エルファリア――ごめん、待った？」
「レピア。よかった……今日も無事に戻れたのね」
　２人は軽く抱き合って、お互いのぬくもりを確かめる。レピアが石化している状態の冷たさを知っているエルファリアは、そうしないと落ち着かないのだ。
「本当はあなたが戻る瞬間を見ていたいのだけど、でもやっぱり調べている時間も惜しくて……ごめんなさい」
「いいのエルファリア、その気持ちだけで充分嬉しいわ」
　明るい笑顔で片目をつぶってみせたレピアは、「さあ、今日はどのあたりの本を見ようかしらね」と自分も本棚を見上げた。
　そしてふと目を細めて、
「あら……このあたりの本ならもう読んだわよ、エルファリア」
「え？　そう？」
「ええ。前に読んだ本があるもの。これとか」
　レピアは一冊の本を棚から抜き出す。
　それにはエルファリアも見覚えがあった。王女は軽く目を見張って、
「これは確か……中に入れる本で、以前あなたが……」
「ええ。中に入って色々とあったわよね」
　レピアは苦笑する。
　以前本の中にエルファリアそっくりの石像の挿絵を見てしまったレピアは思わず本の中に入り込み、その石像を助けようとして逆に石像化して、結果エルファリアに救われたのだった。
　その後、レピアはエルファリアに似た石像を助けるためにかなりの苦労をしたことをエルファリアに話していた。
　エルファリアは少し考えて、
「……私も、冒険……してみたいわ」
　と小さくつぶやいた。
「私も勇者になって、冒険してみたい」
　エルファリアはレピアの冒険譚を聞くたびに、少し羨ましそうな顔をするのだ。
　特に「勇者」という言葉に憧れるらしい。
　レピアは考えた。
　本の中では、色んな冒険が出来る。
　いつも「王女」としての型にはめられているエルファリアの気晴らしに――なるだろうか？
「……入ってみましょうか、２人で」
　レピアは優しい声で王女に告げた。
「あたしも一緒にね。ただ……あたしには副作用があるかもしれないから、慎重にいかなきゃならないけど」
　エルファリアの瞳が輝いた。彼女は大きくうなずいた。

　■■■

　本の中にうまく入り込んだはいいが――
　いつもいつも、予定通りの役割に当てはめられるわけではない。
（あたしはどうなった――？）
　レピアはぴんと空気の張った静けさの中で、緊張しながら思考をめぐらせた。
　体が動かない。
　指先をぴくりとも動かせない。むしろ、動かし方が分からなくなっている。
　この――冷たさ。
　いやになるほど覚えがある……
（石化してる……！？）
　意識はある。目は見えている。視線は動かない。
　見える範囲だけで判断すると、自分は何やら王城の、謁見の間のようなところの端にいる。
　視界の片隅で何かが動いた。
　やたら何重にも布を重ねた、重たそうなスカートが翻る。
　杖が見えた。
　こつ、こつ、とヒールの音がする。
　レピアに近づいてくる。あるはずのない汗が背中を伝った。
　そして――白い手が石像化しているレピアの頬を撫で、
「……いいオブジェになったこと」
　艶やかな声が囁いた。
「どんな気分かしら王女殿下？　元からこの国の象徴だったあなたをこうして飾れるなんて、わたくし楽しくて仕方がなくってよ」
　顔が、見えた。
　美しい顔。しかし目はひどく攻撃的な光を宿していて。
　――王女――？
　あたしは今、王女になっている？
　レピアは再度思考をめぐらせた。本に入る前にチェックしておいたこの場面の文章。
　――魔女王に支配された国の王女は、石像にされ、謁見の間のオブジェとなり――
（魔女王！）
　さらに思い出した。その文章の横にあった挿絵。
　そこで石化させられていた王女は、長い髪をなびかせ、絹と布を重ね合わせた長いスカート姿。そしてヴェールを中央に宝石をあしらったティアラで押さえ。
　――裸足だった。
　他に、他に何か情報はなかっただろうか？
　裸足の王女は何をしていた？
　――魔女王が眠っている間は石化が解ける――
　――その間に何度も逃げ出そうと――
（逃げないと）
　レピアは焦った。
（エルファリアはどこ？　逃げないと――）
　レピアの頭からは重要な一文が抜けていた。

　――しかし王女は、魔女王が目覚めるたびに強制的に元に戻され――

　しかし、分かっていてもレピアにはそれしか道がなかったのだ。
　魔女王は満足そうに、まるで自分の権力を誇示するかのように寝室ではなく玉座で寝る。
　魔女王が眠ると、レピアの石化は解けた。確かに、あの挿絵通りの服装だ。
　いつもの踊り子衣装よりずっと重いスカートに足を引っかけないよう走る。エルファリアを探して走る。
　だが、魔女王は気配に敏感だった。
　レピアが謁見の間から出るより前にうっすら目を開け、杖でトンと床を叩く。
　その瞬間、ビシッとレピアはエルファリアを求めて走っている姿のまま石化し――気づけばまた、謁見の間のオブジェの位置へと戻っている。
　スカートを翻し、ヴェールと髪がなびき、悲痛な表情のまま。
　石化しているレピアは。
　ますます魔女王を喜ばせ。
　――何度も何度も試みた。魔女王が眠っている隙を狙って。
　けれど、何度やっても同じ。魔女王はまるで、レピアが逃げようとする隙をわざと作っているかのように絶妙のタイミングで目を覚ますと、すぐにレピアを石化させるのだ。
　なぜか衣装が乱れることはなかった。
　ヴェールが落ちることもなかった。髪はさらさらのままだった。
　表情だけが、少しずつ少しずつ必死さを増していく。
　レピアの必死の想いが表に表れたさまは、美しい面立ちの彼女をますます艶めかせ、魔女王は彼女の変わりようを見て声高に笑った。
「美しい王女！　そのまま悲しい顔でそこにいるがいい！」
　レピアは憎しみを顔に出すことができなかった。ただ、
　ただただ、エルファリアのことが心配で……。

　■■■

　エルファリアはその場に降り立った時、まず服装の違和感に自分を見下ろした。
　胸元に鳥をあしらったような紋様と青い宝石。紫がかった青い布の服が白のアンダーウェアを覆い、足のつけねで布が切れているため素足で少し寒い。
　両腕には透明なヴェール。
　髪にも何かあると思って手をやると、軽く髪を覆うようなプラチナ細工のティアラ。真ん中に何かの宝石がついているようだ。
　いつもとはまったく違う格好。
「これが、冒険者の格好と言うのかしら？」
　何だか嬉しくなってエルファリアはふふっと微笑んだ。
　しかしすぐに気づいて硬直した。――傍にレピアがいない。
「レピア……？」
　不安になって周囲を見渡し、ようやくそこがどこかの街だと気づいた。
　エルファリアは柳眉を寄せた。――なんだろう、このどんよりとした空気は。
　道を行き交う人々の足取りが重い。何か足枷をつけられているかのように。
　――何か、悪いことが起こっている？
　――勇者。そうだ、私は勇者になりたくて……
「あの、そちらの方」
　エルファリアはだるそうに歩いていた女性に声をかけた。
　振り向いた女性は目の下にくまをつくり、死んだ魚のような目でエルファリアを下から見上げた。
　エルファリアの王女としての使命感が燃えた。きりっとした表情で、
「この街は元気がなさそうに見えます。何があったのですか？」
「……なぜ知らないの」
　女性は不審そうに尋ね返してきた。
　エルファリアは慌てて、
「あ、ええと、わ、私は旅人ですので」
「旅人……まだ他の国には噂は広がってないというのね……」
　がっくりと女性は肩を落とす。「広がっていれば誰かが助けに来てくれるかと思っていたのに……」
「ですから、私が来ました」
　エルファリアは胸に手を当ててにっこり笑う。
　女性はいかにも「頼りない」と言いたげにエルファリアをうさんくさそうに見たが、
「……この街、いえ、国は、魔女王にのっとられたのよ」
「魔女王……」
「人間を石化させる能力に長ける――王も王妃もなすすべもなかった」
　さからっても、
　逆に気に入られても、
　簡単に石にされて、王城に飾られる。
「この国の象徴とも言える王女まで……」
　女性は口惜しそうに唇を噛んだ。
　王女。エルファリアはごくりとつばを飲み込む。
　今この国には、苦しんでいる王女がいる。
「……私、必ずこの国を救ってみせます」
　思わず口に出していた。
　女性はやはり不審そうに見ていたが、どこかすがるような瞳にもなって、
「……気をつけて、いってきてね」
　とつぶやいた。

　■■■

　レピアと合流できないかと、街でも噂を聞いて回ったが、彼女らしき存在は街にいないようだった。
　腰には道具袋がついていて、中には見知らぬ硬貨。おそらくこの国で通用するお金だろうと判断し、武器屋へ向かった。
　エルファリアの衣装に重い剣は装着することが難しかった。
　腕力には自信があるエルファリアだったが、ここは軽めのサーベルにしておいた。
　武器屋でも魔女王の情報を手に入れた。居場所。
　そして武器屋から出ると、意気揚々と魔女王の城へと歩き出した。

　王城自体はエルザードの王城とほぼ同じ大きさだ。
　ただ、今はそれを取り巻く黒い影が――エルファリアを圧倒する。
「私は勇者。勇者……」
　エルファリアはサーベルを抜き、一歩一歩前に進んでいく。
　門番はいない。普段は絶対に自分でしないことだが、エルファリアは門を自分で開けた。
　広く作られた１階の吹き抜け。赤く細い絨毯がまっすぐと前に続き、階段を上がり、２階のとある扉につながっている。
　２階のその扉は、開いていた。
　エルファリアも王女だ。こういう造りになっている以上、その扉の先が何の部屋かは想像がつく。
　――謁見の間。
　エルファリアはゆっくりと階段を上がった。自然と緊張が増していて、肩が痛くなっていた。腕のヴェールがさらさらと肌に触れる。汗はまだ、流れていない。
　ひょっとしたら緊張のしすぎで逆に汗が止まっていたのかもしれない。
　２階の部屋の中が――見えてきた。
　謁見の間。
　そして玉座――

　退屈そうに杖をもてあそんでいる、重そうなローブを着た長い髪の、女。

　エルファリアは謁見の間の入り口に入り、魔女王を呼ぼうとして――ぎくっと足をすくませた。
　並んでいるたくさんの石像。その中に。
　――いつもとまったく違う格好でもすぐ分かる。
　何かから逃げようとしているような姿のまま石化している、あれは、レピア――
「いつまでそこにいるの？」
　声がした。
　エルファリアははっと玉座に視線を移した。
　退屈そうに欠伸をして、魔女王が杖でこんこんと玉座の端を叩いていた。
「わたくしに用なのじゃなくて？　御用ならいらっしゃいな。頼りなさげなお嬢さん」
「―――っ」
　エルファリアはぐっとサーベルを握り直した。一気に走り出す。
「この国を――レピアを返しなさい！」
　叫びながらサーベルを突き出す――
　しかし、
　その先端は魔女王がふるった杖の圧力だけで簡単に押しのけられた。
　何度サーベルを振り回しても無駄だった。魔女王の杖の動きは滑らかで、そこから発生する圧力は並ではなく、エルファリアは体ごと押される。
　魔法らしい魔法を使った様子もないまま、やがて魔女王は退屈そうに息をついた。
「まったく、弱いこと」
　とん
　杖で床を叩く。
　―――
　エルファリアは一瞬にして、石像と化した。

　■■■

　レピアはそのさまを目の前で見ていた。
　いつもと違う格好のエルファリアがサーベルで魔女王と戦い――遊ばれるように戦い、あげく石像にされ。
　そして、魔女王の力で空中に浮かされ、どこかへ移動させられるところまで、一部始終。
（エルファリアを助けなければ）
　レピアは内心唇を噛んだ。助けたい、けれど自分は魔女王が眠っている間しか動けない。
　しかし。
　ここ数日何度も何度も逃げ続けた結果、ひとつだけ気づいたことがある。
　この謁見の間には、他にもたくさん石像がある。生きているかのような石像が。妙に形が生々しいのだ。
　中には王族のような格好をしている石像もあった。
　――ひょっとしたら、と思った。
　この石像はみな、元は生身の人間なのでは？
　しかし他の石像は、魔女王が眠っている時も石化が解ける様子はない。
　自分だけ、特別な能力を持っているのでは？
　それは、元から自分にかかっている呪いの反作用だろうか。それともこの本の中での自分の役割だろうか。
　分からないけれど――
　そうである以上、諦めるわけにはいかない。
　いや、最初から、諦める気はない。

　魔女王が眠りについた。石化が解ける開放感。
　早速エルファリアが飛ばされたと思われる方向へと走り出した。
　――自分は裸足だ。絨毯の上を走れば足音はほとんどしない。
　エルファリアは、謁見の間の戸口にストーンゴーレムのごとく置かれていた。
（………？）
　レピアは訝った。いつもなら、このあたりに自分がたどりつく頃には魔女王は目覚めて、自分は戻ってしまうのに。
（エルファリアを石化させて――負荷がかかったのかもしれない。エルファリアの役割はおそらく勇者――）
　石化したエルファリアの姿をよくよく見た。どこに石化を解く鍵があるだろう。どこかにあるはずだ。エルファリアが勇者ならきっと。
　しばらくすると、さすがに魔女王が目を覚まして、レピアは強制的に戻された。
　石化している間も考え続けた。エルファリアの姿は脳裏に焼き付けてある。
　鍵は？　鍵は？　鍵は？
　エルファリアの姿からではなく、他からのアプローチじゃなくては駄目なのだろうか？　いや、でも――
　魔女王が再び眠りにつく。
　レピアは走る。エルファリアの元へ。
　エルファリアの体をまじまじと見て。
　何も思いつかないまま、また戻されて。
　それを何度も繰り返して。
　幸いだったのは、魔女王が何の気まぐれか、レピアやエルファリアの場所を移動させなかったことだ。
　ひょっとしたら、エルファリアを救おうとするレピアの姿が滑稽だったのかもしれない。２人を引き裂くのが楽しかったのかもしれない。

　そして何度目だったのか――
　ふと、レピアはエルファリア像のティアラの宝石を見た。
「………」
　レピアは自分の姿を知らない。けれど、本の挿絵は覚えている。
　確かこの宝石、自分のティアラにもついていなかっただろうか……
　何気なく、ティアラを取った。ヴェールも一緒についてきた。ティアラでヴェールを押さえているのではなく、一体型だったのだと初めて気づいた。
　頭からはずしてみると、確かに自分のティアラにも宝石がついている。
　そっと、エルファリアのティアラにその宝石を寄せてみた。
　瞬間、
　まばゆい光がレピアの目をつぶした。
　目をつぶるとエルファリアの残像がまぶたの裏に残った。エルファリア、エルファリア、エルファリア――
　光の中、で――
「レピア……？」
　いつもの穏やかな声――
　ぎゅっと抱きつかれ、いつものぬくもりを感じ、レピアはぱっと目を開けた。
「レピア……！」
　エルファリアがしっかりとレピアに抱きつき、嬉し涙を流していた。
　そんな彼女の体が発光を続けている。淡く、輝いて、消えない。
　気づけばエルファリアのティアラの宝石も輝き、レピアのティアラの宝石も輝き、光がこぼれて止まらない。
　魔女王に気づかれる――！
　思った時には遅かった。
「よくも……！」
　玉座で、魔女王が立ち上がっていた。鬼のような形相になっていた。
　はっとエルファリアがサーベルを構えた。それを見た瞬間、レピアの頭の中で何かが閃いた。
　勇者に力を与える光の魔法使い。
　光の――魔法使い。
　ティアラをかぶり直したその時、魔女王が杖を振りかざした。
　炎の渦が生まれた。エルファリアがすくむ。レピアはその前に立って、両手をかざした。
　手が発光した。謁見の間を焼き尽くしそうなほどの光が生まれ、魔女王の炎を飲み込む。
「レピア……！」
　背後で声をあげたエルファリアに振り返り、何故かそれが当然のようにエルファリアの持つサーベルに手を触れた。
　一瞬にして、サーベルが剣へと変わった。刀身がきらめく、羽根のついた光の剣――
「今のあたしたちにはきっと石化攻撃は効かないわ！」
　レピアはエルファリアの、剣を握る手を両手で硬く握った。
「とどめをさせるのは勇者であるエルファリアだけ！　エルファリア、覚悟は出来てる？」
　エルファリアは大きく目を見開いてから――
　やがて強く、うなずいた。
　レピアは玉座に振り向く。
　魔女王が杖の先端で空中に魔法陣を描いている。
「行く、わ、よ……！」
　レピアは指先をおどらせ、まったく同じ魔法陣を再現してみせた。
　発動は同時。
　描き手によって効果が変わる魔法陣。光と闇の力がまともに衝突し、一瞬謁見の間を燃やすかのような光を残して相殺。
　エルファリアが駆け出した。
「魔女王、覚悟なさい……！」
　光の剣を手に走る彼女の後ろを、レピアは追う。
　指先をすいっすいっとおどらせると、光弾が魔女王を攻撃して動きを止めた。
　エルファリアは無我夢中で剣を振るう。
　魔女王の杖に当たり、杖が飛んでいった。
　レピアはここぞとばかりに、エルファリアの背中に手を触れる。
　エルファリアの輝きが増した。エルファリアは、勇者は、大きく剣を振りかぶった。
　そして――

　渾身の光の力が闇を呑み込んでいく。
　あぁあぁあああああぁあと狂った声を上げて、魔女王が消滅していく。
　余韻、
　魔女王の叫びが残した余韻を、
　レピアは両手にふわりと生み出した光を謁見の間に散りばめて消した。
　王城がきらきらと輝いた。

　謁見の間に飾られていた石像の石化が解ける。にわかに、謁見の間が人々の声で騒がしくなる。
　エルファリアは剣を床に刺し、もたれかかって肩で息をしていた。
　レピアはそんな勇者を抱き寄せ、
「お疲れ様……」
　と囁いて、頭を撫でた。
　エルファリアは甘えるように、レピアに寄り添った。
　エルファリアにはどこか哀愁がただよっていた。
　――生き物のような存在に、剣を突き立てること。
　勢いにまかせて行ったその行為、その怖さを今彼女は感じているのかもしれない。
　だけど、エルファリアのしたことは間違いじゃない。間違いじゃないから。
　ただレピアはそっと、心優しい勇者を抱き寄せていた。

　光の勇者と光の魔法使い。
　彼らによって救われた、ひとつの国。
　――本に刻まれたストーリー。
　それを彼女たちが体験したのは偶然かもしれず、運命かもしれず。

　真実は、謎の本のみぞ知る。


＜了＞

PCシチュエーションノベル（シングル）

笠城夢斗

聖獣界ソーン

2008年03月19日