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『『満月の花嫁(後編)―闇色の魔女―』 』
ケヴィン・フォレスト3425

 剣を杖代わりに、治療院を出た。
 歩いているうちに、感覚が麻痺したのか、痛みをあまり感じなくなった。
 ――魔族。
 一人では挑むことの無い相手だ。
 この異種族が溢れているエルザードには、魔族も多く暮らしてはいるだろう。
 しかし、自ら自分が魔族であると言う者はいない。
 魔女のレナ・スウォンプよりも魔力が高いとなると、普通に攻めたのでは到底太刀打ちできない。
 ただ、魔力さえ抑えればどうだ?
 とかく、強い魔力を持った者は、魔力に頼りすぎる傾向にある。……と思う。
 無論、武術のたしなみのある者もいるだろうが。
 あの魔族……。長身ではあったが、身体つきに何故か違和感を感じていた。
 魔力さえ使えなければ、人間の自分でも互角に渡り合えるのではないか?
 ケヴィンは、魔法ショップを訪れ、魔力を封印するアイテムを買いあさった。かなり高価であったが、レナの命がかかっている。全財産を使う覚悟であった。
 出来うる限り魔封じのアイテムや耐魔アイテムを持ち、身体をテーピングで固めると、ケヴィンはエルザードを出た。
 あれから、数日経っている。
 レナは無事だろうか?
 レナのことだ、余計な一言で相手を激怒させていそうでもあり……意気投合している可能性もあるだろう。
 後者であってくれれば、まだいい。
 空を見れば、薄っすらと月が見える。
 今日は満月だ。
 そういえば……。
 満月の夜、レナはあまり外に出たがらない。
 なんでも、魔力が上昇するらしい。
 性格にも変化が現れるそうだが、詳しくは知らない。
 自分が行くまで、どうか妙なことはしないでくれ……。
 そんな思いを抱きながら、ケヴィンは先を急いだ。

     *     *     *     *

 気を抜くと、意識が遠くなる。
 しかし、馬車が揺れる度に、激しい痛みに目が覚める。
 到着間際になって、ようやくケヴィンは痛み止めを飲んだ。
 薬の効果が消える前に、決着をつけなければならない。
 ――倒す、ことまでは考えていない。
 あくまで、目的はレナの救出だ。
 倒さねば、彼女は狙われ続けるかもしれない。
 しかし、今はレナの無事を確かめ、連れて帰ること。
 それだけを考えて、ケヴィンはここまで来た。
 馬車を降りて数分歩く。
 噂に聞いていた魔族の館は、崖の上に存在していた。
 月の光がやけに眩しい。
 ここには、光を遮るものが何もなかった。
 この身体では崖を上ることは不可能だ。
 回りこんで、正面から入るしかない。
 そう考えて、ケヴィンは緩やかな道を上り、崖の上へ向おうとした……その時。
 岩の陰に、動くものを見た。
 思わず、ケヴィンは剣に手を伸ばす。
 魔物がいたら、厄介だ。戦えば、魔族に気付かれてしまう。
 レナを人質に攻撃を放たれたら――自分は躱すのだろうか? レナを残して討たれるのだろうか?
 首を振りながら、蠢く存在に近付いた。
 ……男であった。
 短髪で、背はケヴィンより低そうだ。背を向けてしゃがんでおり、顔はわからない。
 ケヴィンは瞬時に剣を抜き、男の首に当てた。
 手段は選んでいられない。
「女を捜している。緑の髪の女だ。この館にいるな?」
「ああ……。2階に上がってすぐの部屋だ。連れて帰ってくれ」
 男は振り向きもせず、言った。
 声に力が無い。奴隷かなにかだろうか……。
 自分に嘘をつく必要があるとも思えない。
 ケヴィンはその男の言葉を信じ、館に向い駆け出した。

 黒い門の前で、深い息をつく。
 休んでいる暇はない。力を籠めて、門を押し開けた。
 館には、殆ど明りはついていない。
 真っ暗な部屋の窓に、近付いた。
 カーテンが閉まっている。まだ眠るには早い時間だ。
 誰もいないと確信すると、ケヴィンは購入してきた道具から、窓を破るためのテープや鈍器を取り出し、ガラス窓を割った。
 案の定、部屋には誰もいなかった。
 部屋に身体を忍ばせて、ドアへと近付く。
 そっとドアを開くが、廊下にも殆ど明りはなく、人の気配はなかった。
 廊下に出て、階段を探す。
 古びた建物だ。
 しばらく誰も住んでいなかったと思われる。
 掃除も行き届いてなく、使われていないと思われる場所は埃だらけであった。
 昔は綺麗で豪華であったと思われる赤い絨毯の道を歩き、ケヴィンは階段へと差し掛かる。
 人の姿がないことを確認すると、極力音を立てないよう、しかし出来るだけ早足で駆け上がった。
 2階。上ってすぐの部屋。
 男の言葉を信じ、正面の部屋のドアをゆっくりと開いた。
 バルコニーに続く窓が大きく開いている。
 カーテンが風でひらひらと揺れていた。
 月の光は、妖しく部屋に射し込んでいる。
 天蓋付きのベッドに――姫はいた。
 闇色のドレスを纏った眠り姫。
 そっと、ケヴィンは近付く。
 間違いない。レナ・スウォンプだ……。
 ほっと胸を撫で下ろす。
 直後に身体に痛みが走る。
 ゆっくりはしていられない。
 ケヴィンはレナを揺する。
 しかし、「うるさい」と寝言を発しながら、レナはケヴィンを払いのける。 
 レナらしい反応に吐息をつきながら、ケヴィンは歯を食いしばり、レナを抱き上げた。
 窓の外は崖。ここから飛び降りることは不可能だ。
 リスクを伴うが、階段を下り、入ってきた部屋から出るより他なさそうだ。
 多分、本当にピンチになったら、レナも目覚めるだろう。
 彼女は、自分のパートナーだ。
 共に仕事をこなしてきた相棒なのだから。
 オデコを指で軽く弾いた後、ケヴィンはレナを抱きながら、静かに階段を下りた。

 ――不気味なほど、何も無かった。
 誰にも会うことはなく、ケヴィンは館を出ることができた。
 その後は、慎重すぎるほど迂回をし、朝までかけて近くの街に出た。
 始発の馬車に乗り込んだ後は……覚えていない。
 目が覚めたら、再び聖都の治療院にいた。
「重傷のクセに、彼女とデートしてたの?」
 冷たい目で、あの看護婦が言った。
 ぼそりとレナのことを訊ねると、看護婦は苦笑しながら、こう答えた。
「家に帰ったわよ。しばらく誰にも会いたくないって言ってたわ。喧嘩でもしたのかしら?」
 ケヴィンは答えず、目を瞑った。
 レナは無事家に戻ったようだ。
 聖都の中は、外よりは安全といえる。
 一眠りしたら、顔を見に行こう。
 あのレナがしばらく会いたくないと言っているからには、相当怖い目に遭ったのだろう。
 レナは元気があってこそレナだから。
「そうそう、あなたが倒れていた丘に散らばっていた荷物、ベッド脇の棚においてあるから。彼女へのプレゼントでしょ? 治ったら届けてあげたら?」
 プレゼントではないし。
 治る前に届けにいくつもりだし。
 しかし、面倒だから答えなくてもいいか。
 面倒だから目も瞑ったままで。
 看護婦は「お休みなさい」と言葉を残して、立ち去った。
 ケヴィンは既に深い眠りに落ちていた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3425 / ケヴィン・フォレスト / 男性 / 23歳 / 賞金稼ぎ】
【3428 / レナ・スウォンプ / 女性 / 20歳 / 異界職】
※年齢は外見年齢です。

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
Bitter or Sweet?・PCゲームノベルにご参加いただきありがとうございました!
お相手のレナさんと物語の雰囲気が違ってしまいましたが大丈夫でしょうか。レナさんのノベルもご確認くださいませ。
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聖獣界ソーン
2008年03月13日

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