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『甘いのがお好き? ―白編― 』
梧・北斗5698



 親しき仲にも礼儀あり。
 3月14日。ある意味、決着。ある意味、定番。ある意味、掌の上。
 そんなホワイトデーの日。
 あなたは大切な人、友人、恋人と……どう過ごしますか?

***

 キンコーン……。
 遠いところでチャイムが鳴る。
 うとうとしていた梧北斗は顔を慌ててあげた。
「では今日はここまで」
 そう言って、本日最後の授業を終えた教師が教室を出て行く。その様子を北斗はぼんやり眺めていた。
(あー、今日も無事に終わった……)
 あくびを軽く一つ。



 帰り道、街中を北斗はぶらぶらと歩いていた。2月14日の幸せなバレンタインデーも過ぎ、もう3月……。
(ホワイトデー……うわ、もうすぐじゃん!)
 街を彩る飾りに目が行き、ハッとした。
 本命チョコだ。というフレアの声が脳裏に蘇り、北斗は口元を緩め、頬を赤らめる。やっべー。
(ふいにめちゃくちゃかわいーんだよなぁ……)
 めろめろになっていた北斗はこほんと空咳をして、意識を戻す。
 やはりこういうのはきちんとお礼とお返しをしないといけないよな!
(フレ……朱理は何が好きなのかな……食べ物? それともアクセサリー?)
 彼女を「朱理」と呼び直す北斗。これにはきちんと理由があるのだ。
 朱理と呼んだ瞬間のあの顔……。あの顔が忘れられない。
(どんなに強くしっかりしてようと、彼女はまだまだ可愛い女の子……なんだよな!)
 それに朱理としての時間も大事にしてほしい……。
 余韻に浸る北斗は自分の顔がにやけているのに気づかない。
「おまえ、頭大丈夫か?」
 と、フレアの突っ込みが聞こえて北斗は「ぎゃっ」と悲鳴をあげ、周囲を見回す。だがフレアの姿はない。
 ほっと安堵して北斗はちょっと落ち込んだ。
(幻聴かぁ……。俺、相当朱理に参っちゃってんだな……)
 後頭部を軽く掻く。
(ちゃんとバイト始めようかな……今後のためにも)
 大学に行って一人暮らしをするという計画がある。そのためには今から貯金をしておくのもいいかもしれない。
 手持ちのお金を、財布を取り出して確認し、北斗は眉をひそめる。高校生の小遣いなんて微々たるものだ。
(はぁ……。かと言って、前借りさせてくれるようなこともねーし……)
 今の所持金で手に入るものを買うしかない。
 北斗は決意して、軽く駆け出した。



 どういう店がいいのかなと普段は素通りする店の前を、ちょっと注意深く見る。
 若い女の子が連れたって入っていくのを見かけたら、そちらに視線を走らせる。
 北斗はとりあえずということで、アクセサリー店に足を踏み入れた。うわ、すごく居づらい。
(……肩身狭いなぁ、男はこういう時)
 友達同士で話しながら髪留めを見ている、同い年くらいの女の子たちが多い。店の商品の値段も手頃そうなので、ここで買おう。
 北斗は一通り店内を回ってみる。狭いのですぐに一周できた。
 ネックレスやピアス、指輪というのは知っているが、髪留めゴムに飾りがついているものは珍しかった。どうやってつけているのかと学校で疑問に思っていたが、元々つけられている状態だったとは知らなかった。
 新鮮な驚きもあるが、そんなことをしている場合ではない。
(どれがいいかな……。やっぱ無難にネックレスとかどうかな。でも朱理って……)
 フレアを想像し、北斗は軽く溜息をつく。
 彼女が装飾品をつけているところを見たことがない。あ、いや、一度だけある。夏の時だ。浴衣姿の彼女はそれなりに飾りをつけていた。
(あ、あれも可愛かったんだよな〜)
 顔がにやけるのを無理やり引き締め、もう一度店内をじっくり見て回る。
 ピアスを眺め、首を傾げる。つけてもきっと可愛いだろう。赤い色がいいだろうたぶん。
(……でもなぁ、朱理ってピアスの穴とかあけてなかったし)
 ピアスは却下だ。
 次に見たのはネックレス。これなら着けても違和感もないし、ピアスのように穴をあける必要もない。
 どれがいいかなと女の子たちの後ろから見て、「あ」と呟いた。
(あれ、いいかも)
 赤い石のついたものがある。大きさも小さめで、可愛い。
(……どうしよう。どいて欲しいけど……)
 北斗は視線をあちこちに動かし、それから「すみません」と声をかけて腕を伸ばした。何も恥ずかしいことなんてないのだ。彼女へのお返しを買いにきたわけだし。
 目的のものを取り、北斗は手元に引き寄せて安堵の息を吐く。掌の中のネックレスを見る。赤い石の横には、小さな白くて丸い石もついている。
(……うん。これなら着けてくれるかな?)
 北斗はそっと掌を閉じ、レジへと小走りで向かった。
「プレゼント用ですか?」
 店員に尋ねられ、北斗は慌てて頷く。
「ほ、ホワイトデー用で」
「かしこまりました」
 にこっと微笑む店員に、北斗は頬を赤らめ、曖昧に笑うしかない。金額は、ぎりぎりなんとか払えるものだった。やはり女の子のものは高い。

 店を出た北斗は、プレゼントを学生鞄におさめる。これで後は、フレアに渡せばいい。
 なんとかホワイトデーに彼女に会えればいいけど……。



 3月14日、朝。

「ん……」
 北斗はもぞもぞして、もう一度布団に潜り込んだ。あと少しでいいから、もう少し寝させて……。
 そう思っていたら、なんか妙に暖かい。
(?)
 不審に思って瞼を開く。そして、ぎょっとした。
 赤い髪の娘がいる。寝息をたてている娘は、起きる気配がない。
「???」
 顔を引きつらせる北斗は、それがすぐに誰かわかった。フレアだ。間違いない。
 そっと手で掛け布団をあげ、北斗はフレアの格好を確かめる。衣服が皺になっていなければいいけどと思ったが、思わず硬直してしまった。
(……な、なんでシャツ一枚なんだよ! しかも俺のだし!)
 鼻をおさえて、それから北斗は目を泳がせる。やめてくれよ、朝からってのは。
 自分の状態を落ち着かせるために、背中を彼女に向ける。そっと壁掛け時計に目を走らせると、まだかなり早い時間だった。どうやらいつもはないものがあったために、違和感で目覚めたらしい。
(まだ時間ある……よかった)
 少しは男の事情も理解して欲しいぜ。
 はぁ、と溜息を吐いてから、瞼を閉じた。

 ――北斗は落ち着いてからもう一度フレアのほうに身体の向きを変えた。
 可愛い寝顔ではあるが……。
(熟睡してる……。疲れてんのかな、やっぱり)
 人間じゃないからといって、疲れないとは限らない。
(……うわぁ、やっぱいいなぁ、朱理って……)
 頬を少しだけ赤らめ、恋人の寝姿に感動する。夏の時は彼女が一切眠らなかったので見ることができなかったものだ。
(そういや今日ってホワイトデーじゃん。もしかして会いに来てくれたってことなのかな……。でもそんなタイプじゃないよな。わざわざお返しをねだりにくるとは思い難いし)
 北斗はうずうずして、とうとう顔を近づける。怒られたらどうしようかなとどきどきしつつ、だ。
 唇を重ねてみるが、彼女は反応しない。やはり寝ているようだ。
 すぐさま離れて北斗はばくばく鳴っている心臓をしずめようと胸に手を置いた。
(うわー! やっちまった! これってあれか? 寝込みを襲ったってことになるのか!? つーか物足りないとか思っちゃう俺ってどうよ?)
 だがその時。
 ゆっくりとフレアの瞼が開かれた。寝ぼけたまなこでこちらを見てくると、「んぉ……?」と掠れた声を洩らす。
「……はよ」
「……ん。ちょっと疲れてるんだ。すまないがもうちょっと寝かせてくれ。……悪い。シャツ借りた。服が泥まみれになってさ、スノウが洗うって言ってきかなくて……」
「いいけど……あの、ちょっと渡したいものがあって」
「んん? 今じゃないとだめか?」
 本当に眠そうなフレアは心底疲れていると言わんばかりに欠伸をする。
 北斗は布団から出ると、隠していたホワイトデーのプレゼントを持って戻ってきた。袋を緊張しながら差し出す。
 怪訝そうにした彼女は起き上がった。途端、北斗の顔が真っ赤に染まる。
(…………ぼ、ボタン外れてるっての)
 胸元が見えそうだ。何もつけていないのがわかる。見えそうで見えないのが憎い。
「……なに?」
「ホワイトデーのお返し」
 照れつつ言うと、フレアが目を見開いた。そして北斗の部屋にあるカレンダーを見て「あっ」と声をあげた。
「わ、悪い! 別に催促しに来たんじゃないんだぞ? なんていうか、布団で思う存分寝たいってのと、手頃な寝床がここしか思いつかないほど本当に疲労困憊でさ」
「ちょうど良かったから、渡しておく。どうやって朱理を見つけようかって考えてたから」
「朱理って呼ぶなよ!」
 頬を赤らめるフレアは唇を「へ」の字にした。これは照れ隠しだとすぐにわかる。
「これからも一緒にいような!」
 ぐっとプレゼントを強くフレアに押し付けると、彼女は申し訳ないように受け取った。開けていいのかとこちらを見てくるので、どうぞという仕草で返す。
 袋を開けてフレアは瞬きした。
「……あ、ありがと、北斗」
「つけてくれるか?」
「え? あ、ちょっと待って」
 フレアは袋から取り出して、早速首につけた。今すぐって意味で訊いたわけじゃないのに。
 うまくチェーンをはめられないフレアに北斗が手を伸ばす。そしてネックレスをつけた。
 赤い石のそれは、フレアに似合う。
「うん。似合うな、やっぱり!」
「……ありがと」
 照れるフレア。シャツ一枚の彼女の足がむっちりと覗き、北斗は目の毒だとなるべく見ないようにしていた。
「…………」
 無言のフレアが石を軽く手でつつき、それから北斗の手をきゅっと握ってきた。
「彼氏から何か貰うの、初めてだ。ありが」
 言い終える前に北斗が唇を塞ぐ。あぁもうちくしょう! 可愛いったらない!
「んっ、ん……!?」
 困惑するフレアなど知ったことではない。北斗は深い口付けを繰り返して、そのまま押し倒した。
「ちょっ……! お、おい! おまえ学校あるんじゃないのか!? こら! うわっ、どこ触ってんだ! あ、や、やめ……っ、」
 フレアの言葉など耳に入らない。頭に血がのぼり、北斗は本能に従って彼女を組み伏せていた。
 シャツを左右に開き、両脚に手をかけてぐっと押し……。
 ガン! と頭を殴られる。
「いってー!」
「……正気に戻れ。とにかく学校へ行く準備をしろ」
 シャツの前を合わせて素肌を隠したフレアは、赤い顔のままで睨んできた。
 北斗は「……はい」としょんぼり肩を落とす。や、やりすぎた……。
「…………続きは今度な」
 ぼそっと言ったフレアの言葉に、北斗は顔をあげ、彼女を抱きしめたのだ。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【フレア=ストレンジ(ふれあ=すとれんじ)/女/?/ワタライ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 ホワイトデーのやり取り、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
Bitter or Sweet?・PCゲームノベル -
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東京怪談
2008年03月07日

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