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『『絆(後編)―温もり―』 』
葉山鈴音(mr0725)

 言葉に反応して、手が伸びた。
 刀なんて、欲しくはないのに。
 兄が傍にいてくれれば、それでいいのに。
 刀は兄が持っていて欲しい。そして、私を守っていて欲しい。
 だけれど、手は真直ぐに伸びて、差し出された刀を受け取っていた。
 葉山鈴音には剣術の心得はない。
 しかしその刀は、身体に吸い付くように馴染み。
 力が湧き上がる。
「そうよ、一緒にいるためには、なにもかも……なくなればいい」
 そんな言葉が口から出た。
「いこうか、鈴音」
 兄は鈴音の手を引いた――。
 しかし。
 鈴音は刀を一閃した。
 葉山龍壱の形をした者は、瞬時に後方へ飛び、鈴音の一撃を躱した。
「あなたは偽物だわ。だから、あなたもいらない」
 刀の意志――それは世界の混乱。混沌とした世界。
 絶対的な魔力を秘めた鈴音の精神と絡み合い、刀は動き始める。
「ああ、そうだ。俺も要らないだろうよ。しかし、俺達が殺り合うのは最後だ」
 男は霧状になり消えた。
『街へ行こう、開戦だ』
 鈴音の脳裏に声だけを残して。
 街――。
 人々で溢れ帰っている道路。
 毎日のように買物に寄るスーパー。
 大好きな衣料品店。
 兄に付き合って行く、鍛冶屋。
 どこを残しておこうか。
 どこを消してしまおうか……。
 虚ろな目で、鈴音は歩いた。
 ふと、桜の木が目に入る。
 これはいる? いらない?
 衝動が込み上げてくる。
 全て、破壊してしまいたい。
 壊してしまいたい!
 鈴音は刀を振り上げた。
「鈴音ッ!」
 苦しげな声が響いた。
 そして、鈴音の手が掴み上げられる。
「……また、あなたなの」
「鈴音、この木は切ってはいけない。この公園で唯一の桜だ。楽しみに、してただろ?」
 切れ切れの声だった。
 見れば、その人物――龍壱は血に濡れていた。
「だって、お兄ちゃんは一緒には見てくれない。もう、私と一緒に見る必要がない。だから、いらない。いらないの!」
 鈴音は刀を振り下ろした。龍壱の幻影へと。
 しかし、その刀は龍壱の刀により阻まれる。
 そのまま、強い力で、鈴音は桜の木に押し付けられた。
「お兄ちゃん、痛い……」
 鈴音が悲しげな目で、龍壱を見上げた。
 龍壱の力が、僅かに緩む。
 途端、鈴音の右腕が動き、龍壱の脇腹に、刃を突き立てた。
 声一つ上げず、龍壱は鈴音から手を離し、妖刀の刀身を掴んだ。瞬時に身の丈ほどもある精霊刀――碧雲を振り下ろした。
 刀は、二つに折れた。
 武器の末路は呆気ないものだ。
 脅威なのは武器ではない。使う人物だ。
「いい子だ鈴音。お前はこんな時でも、立派だった」
 倒れかかるように、龍壱が鈴音に覆いかぶさった。
 ――鈴音は、放心していた。
 意識が混乱して、何が自分の意思なのか、何が現実なのか、今まで何を考えていたのか、なにもかもが判らなかった。
 だけれど、また温もりがある。
 兄の温もりに包まれている。
 それは真実だ。
「お兄ちゃん?」
 小さな声で聞くと、龍壱は優しい声で「ああ、そうだ」と答えた。
 それは、鈴音だけが聞くことができる、兄の愛情が篭った声。
(本当に、お兄ちゃんだ……今度は本当に)
 優しい抱擁。
 優しい声。
 優しい温もり。
 私だけのもの。
「お兄ちゃん」
 もう一度、言って、鈴音は兄を抱きしめた。
 今度は自分が。
 強く、深く抱きしめた。

 夢を見ていた。
 夢だとわかっていた。
 龍壱と2人で、沢山の子供に囲まれて暮していた。
 学校の寮だろうか、孤児院だろうか。
 夜は2人で過ごした。
 夕食を食べながら、他愛無い話を沢山交わして。
 食後はソファーに座って、兄は刀を磨き、自分は読書をしていた。
 兄がいて、可愛らしい猫達がいて。
 幸せだった。
 こうしてずっと、兄と2人で生きていければいいのに――。

 眩しい光に目が覚めた。
 鈴音は自宅のベッドの中にいた。
 断片的に記憶が蘇っていく。
 だけれど、それはとても曖昧で。
 何が本当で、何が虚偽なのかわからない。
 鮮明に浮かんだのは、兄と見知らぬ女性の姿。
 思わず飛び起きる。
 瞬時に、鈴音の眼にその兄の姿が映った。
 ベッドの下。
 床に布団を敷いて、兄が横たわっている。
「お兄ちゃん、怪我……っ」
 叫びかけて口を押さえ、ベッドを飛び降りて兄の身体を見た。
 再び、断片的な記憶が蘇る。
 傷だらけの兄の姿。
 必死な形相。
 だけれど、優しかった。
 自分にはとても優しかった。
 そして、抱きしめてくれた。
 鈴音はそっと龍壱に手を添えた。
 禁書を手に取って、起動キイを読み上げる。
「ごめんね、お兄ちゃん」
 謝罪の言葉が口から出た。
 記憶が曖昧で、わからないけれど、謝らなければいけない気がした。
「ありがとう、お兄ちゃん」
 わからないけれど、感謝の気持ちを伝えたかった。
 そして、そっと兄に抱きついて――。
 その耳に、囁いた。
「大好きだよ、お兄ちゃん」

 明日もまた、兄と朝を迎えることができるだろうか。
 未来はわからないけれど。
 今、この時を大切にしたい。
 この時間を大切にしたい。
 私の一番大切な、ひと。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 専攻学名】

【mr0725 / 葉山鈴音 / 女 / 18 / 禁書実践学(禁書学)】
【mr0676 / 葉山龍壱 / 男 / 24 / 幻想装具学(幻装学)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
Bitter or Sweet?・PCゲームノベルにご参加いただきありがとうございました。
この度は物語をお任せいただき、ありがとうございました。
鈴音さんの想いを沢山描かせていただけて、とても嬉しかったです。
それではまたどこかで!
Bitter or Sweet?・PCゲームノベル -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2008年03月06日

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