▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『『絆(後編)―約束―』 』
葉山龍壱(mr0676)

 葉山龍壱は、瞬時に精霊刀「碧雲」を抜いた。
 身の丈ほどもある刀だ。道幅の狭いこの路地裏では扱い難い刀ではある。
「それが、答えね?」
 スレアの言葉に、龍壱はもどかしげに「ああ」とだけ答えた。
 言葉を交わす時間も、剣を交える時間も惜しい。
 すぐに、今すぐに妹――葉山鈴音の元へ駆けつけたい。たった一人の家族の元へ。
「残念ね。仲間になってくれたら、もっと楽しめそうなのに」
 途端、奥から2人。同じく大通りから2人、学士が飛びかかってくる。
 龍壱の心は、既にここにはなかった。
 無造作に、スレアを掴み上げ、手を捻り上げると後方――道の奥へと放り出す。
 自分は、大通りの方へと地を蹴った。
 学士の1人は剣を振り上げる。
 だが、武器の長さが違う。学士の剣が届くより早く、龍壱の刀が学士の胸を切裂いていた。
 もう一人の学士は禁書による魔術を放つ。
 龍壱は臆することなく、魔術の中へと飛び込む。
 躱す時間も、切り結ぶ時間もない。
 真直ぐ、行かねばならない場所がある。
 学士を薙ぎ払い、龍壱は大通りへと飛び出す。
 闇の中、人々の眼が怪しく煌いた。
 一般人か、感染者か……調べている余裕はない。
 向ってくる者は、全て斬る。
 その覚悟で、龍壱は走った。
 背に熱い衝撃が走る。龍壱に切られた学士が、炎の魔法を放ったのだろう。
 龍壱は振り向かない。
 鈴音の元へいかねばならない――。
 だが、彼女はどこにいる?
 足を緩めた龍壱の前に、知り合いの男達が立ちふさがった。
 同じ調査に当たっていた学士達だ。
「全員、感染しているのか」
 龍壱の言葉に、学士達はにやにやと笑うだけだった。
 人々が遠巻きに自分達を見ている。
 街中で派手な戦闘は不味い。
 普段の龍壱なら、そう考えただろう。
 しかし、今の龍壱にはそんなことはどうでもいい。
 寧ろ、この大きな通りは戦闘に適している。
 仲間の身。命。任務。
 考えねばならないことは、幾つもあるのだが、それ以上に。
 それ以上に、鈴音一人の心が龍壱には大切だった。
 父を失い、母を失い、今度は妹までも――。
 父を失い、母を失い、何故これ以上、鈴音を苦しめる?
 後方から龍壱に向い、矢が放たれた。
 刀を振り、打ち落とす。瞬間、前方の青年が剣を振り下ろした。
 身を退いて躱す。刀を振りぬき、青年の顔を殴打する。
 同時に、女性剣士の剣が龍壱の肩を切裂いた。血が、迸った。
 声も上げずに、龍壱は刀を振りぬき、女性剣士を斬り伏せた。
 相手が女性であっても、迷いはなかった。
 戦いながら、記憶を探り、鈴音の居場所に目星をつける。
 屋外にいるのなら……並木道か、2人でよく行く公園だ。
 放たれた矢が、腕を掠めた。風の魔術が龍壱の頬を切裂いた。痛みは感じなかった。
 ただ、体中熱かった。
 全て。
 感染した人間であろうが、学士であろうが、一般人であろうが。
 行く手を阻む者は倒す。
 呼吸を整え、力を解放する。
 緋色の瞳が鮮やかに燃える。
 身を屈め、一気に刀を一閃し、周囲の者を薙ぎ倒す――。

 視界がぼやける。
 足下がおぼつかない。
 そんな事に気づくこともなく、龍壱は走っていた。
 公園が見えてくる。
 普段は鈴音と2人で来る公園だ。
 隣にはいつも鈴音がいた。
 ――しかし、彼女は今、独り公園の中にいる。
 独り、桜の木を見ていた。
 その手には、刀。
 漆黒の刀が在った。淡い光を放っている。
「妖刀か……ッ」
 鈴音が刀を振り上げる。
 桜の木に向って。
「鈴音ッ!」
 龍壱は叫び、鈴音に走り寄る。
「……また、あなたなの」
 振り向いた鈴音は、感情の無い顔をしていた。
「鈴音、この木は切ってはいけない。この公園で唯一の桜だ。楽しみに、してただろ?」
 鈴音が感染していたとしても、彼女には刀を向けはしない。傷つけたくはない。
「だって、お兄ちゃんは一緒には見てくれない。もう、私と一緒に見る必要がない。だから、いらない。いらないの!」
 その言葉を聞いて、龍壱は気づく。
 傷つけたくはない妹は、既に自分の幻により酷く傷つけられたのだろう。その、繊細な心を。
 鈴音が刀を龍壱に向け、振り下ろす。龍壱は碧雲を振り上げ、妖刀を受けた。
 片手を刀から離し、鈴音の肩に触れ、桜の木に強く押し付けた。
「お兄ちゃん、痛い……」
 悲しげな瞳で、鈴音が龍壱を見た。思わず、龍壱は力を緩めた――途端、妖刀が龍壱の脇腹に突き刺さった。鈴音のか弱い力で。
 龍壱は歯を食いしばり、鈴音から手を離し、妖刀の刀身を手袋をした手で掴んだ。直後に璧雲を妖刀に叩き下ろす。
 呆気なく、妖刀は真っ二つに折れた。
 刀の意思は、鈴音と一体化しようとしていた。
 しかし、鈴音は優しい子だから。
 愛情深い、女の子だから。
 彼女と同化するうちに、刀は弱く、脆くなっていたのだろう。
「いい子だ鈴音。お前はこんな時でも、立派だった」
 倒れこむように、龍壱は鈴音に覆いかぶさった。
 優しく優しく抱きしめる龍壱の胸の中で、鈴音が大きく息をついた。
「お兄ちゃん?」
「ああ、そうだ」
 愛情を込めて、龍壱はそう答えた。
「お兄ちゃん」
 もう一度、鈴音は龍壱を呼んで、細い腕を龍壱の背に回した。
 すがりつくようでもあり、甘えるようでもある抱擁だった。

    *    *    *    *

 そのまま鈴音は、龍壱の胸の中意識を失った。
 龍壱は妖刀を足で桜の木の下に埋め、柄の方だけを持ち、自宅へと戻った。
 歩きながら、血が滴り落ちていることに気づく。
 病院に行くべきところだが、今は早く自宅に戻り、鈴音を寝かしたかった。
 そして、彼女から離れたくなかった。
 そばにいてあげたかった。
 どんな誤解をしたのかは分からないが、彼女が言った言葉『お兄ちゃんは一緒には見てくれない。もう、私と一緒に見る必要がない』……その言葉が気にかかっていた。
 必ず、一緒に見よう。
 開花の日ももちろん、それまでの間も。
 一緒に見に行こう。

 後始末も報告も後回しにしたため、街や学園は数日混乱したという。
 龍壱が斬った学士達は全員命には別状なかったようだ。
 鈴音の力により回復をし、久しぶりに学園を訪れた龍壱は労われるとともに、酷く叱られた。
 しかし、罵倒されようが、退学処分になろうが。
 例え学園を敵に回したとしても。
 妹だけは護りたい。
 唯一、護るべき存在。
 妹であり、唯一の家族。
 無二の愛情を注ぎ合える相手。
「お兄ーちゃん。今日の夕飯何にしようか?」
 柱の影からひょっこり顔を出した妹が小首を傾げた。
 淡い笑みを浮かべて、龍壱は鈴音の傍に向った。
 並んで歩き出す。
 鈴音の歩調に合わせて。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 専攻学名】

【mr0676 / 葉山龍壱 / 男 / 24 / 幻想装具学(幻装学)】
【mr0725 / 葉山鈴音 / 女 / 18 / 禁書実践学(禁書学)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

ライターの川岸満里亜です。
Bitter or Sweet?・PCゲームノベルにご参加いただきありがとうございました。
数週間後に、2人そろって桜を見る姿が目に浮かびます。
またお目にとまった際には、どうぞよろしくお願いいたします!
Bitter or Sweet?・PCゲームノベル -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2008年03月06日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.