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『メンテナンス 』
東郷・戒0829)&マナ・イースタル(0830)&(登場しない)

 今日も今日とて、東郷・戒とマナ・イースタルの二人はセフィロトに潜り、ビジター稼業に精を出していた。
 次々と現れるタクトニムやシンクタンクの抵抗を退け、迷宮の奥へ奥へと進んでいく。
 今回の依頼はメモリチップと銅線の採取。メモリチップ、特に銅線は浅い層でもよく見つけられるものなので、この前のブランクディスク回収の依頼に比べれば、まだ弾薬費に優しい部類の依頼とも言える。安全性の面で言えば、前回とさして変わりないが。
 依頼は順調に進んだ。
 探索開始後一時間と掛からずに銅線を回収し終え、更に深い層でそう時間も経たない内にメモリチップを発見できた。
 メモリチップの必要量の半分ほどをトランクに積み終えると、マナはぼそりと戒に問うた。
「今日はMSの調子がいつもよりいいな……?」
 今朝MSを起動してからというもの、妙に反応がいい。最初は気のせいかと思ったが、どうも違うようだ。
「どこか弄ったのか?」
「ああ。駆動系に改善の余地があったからな。こないだの収入でパーツ揃ったから仕上げておいたのさ。ま、日々のチェックとメンテの賜物ってところか」
「私自身もお前に毎晩チェックとメンテをされてる気がするのだが……?」
 彼女の思いも依らぬ言葉に、戒は心の中でひゅうと口笛を鳴らし、
「おかげで毎日調子いいだろ? お互いにさ」
 残った収穫品を全て詰め込むと、タンクのトランクを閉めた。

 回収作業を完了すると、二人は周囲への警戒を強めた。
 古来より最も難しい戦は撤退戦であるという。退路を確保しつつ、敵の攻撃を凌がねばならない。
 故に多くの戦士達は、そういった事態にならぬよう細心の注意を払ってきた。
 しかしこのような敵地のど真ん中で、敵と遭遇せずに無事に帰れる事などありえない。
 案の定、二人が広間のような場所に出ると、無数の殺意が二人を出迎えた。敵意が発せられたと感じた直後、無数の敵影が二人を包んだ。
「団体さんのご到着って奴かぁ?」
「回収作業中に来なかっただけ、マシだと思え」
「そーだな。ヤボな事が嫌いな連中で助かったよ」
 どん、と重い音が響き渡った。包囲網が一歩分狭まる。
「んじゃ、突破するとしますか! 手筈はいつも通りで!」
「了解」
 二人は背中を合わせると、それぞれの武器を構えた。

 敵の数は不明。二人を囲むだけの数はいる。しかし、見た感じ包囲網は幾重にも重なっているという訳ではなさそうだ。
 ならば。
 緊張立ち込める空間に、轟音が轟いた。
 戦端の口火を切ったのは、マナ機だ。
 撤退進路とは逆の方向に、次々と吹き上がる爆発音。バズーカが火を噴く度に二、三体の敵が吹き飛ぶ。
 戒機のキャタピラが唸りを上げた。瞬く間に最大速度まで引き上げられたキャタピラが火花を散らし、弾丸の如く勢いで退路を塞ぐ敵に突撃する。

 マナは一度弾倉が空になるまでバズーカを撃ち続けると、リロードの動作を行いながら同時に後方へジャンプ。
 空中で姿勢を変え、戒の隣に着地。そのままタンクに併走する形で、マナは全速力で疾走を続けた。
 後方からの追撃は無視し、回避に徹する。二人は前方から湧き出てくる敵にのみ攻撃を絞った。
 次々と湧き出てくる敵を、戒のキャノンが迎え撃つ。まるで出来の悪いシューティングゲームみたいに、現れては消し飛ばされる敵機達。
 しかし時には戒の砲撃を掻い潜り、接近してくるものもいた。そういう相手には、マナ機のバズーカが歓迎の砲声を放ち、戒機のマニュピレータが無慈悲な一撃を叩き込む。
 湧き出てくる敵機。蹴散らし、時に強引に道を作りながら二人は生還への道を突き進む。
 回避、攻撃、索敵…戦闘行動に極度に神経を向けながらも、正しい道を選び続ける二人。
 長年のビジター稼業によって、二人の脳にはセフィロト内部の地図が叩き込んであった。地図など見なくても、頭で考えなくても、どの道を行けばいいか、どの方向に向かえばいいかわかるのだ。…最も、流石にセフィロトを根城とする者達には敵わないが。
 離脱開始から数十分が経過した頃、ようやく出口が見えてきた。しかし、死の国の出口を塞ぐように二体のケイブマンが現れる。
 戒は速度を緩めず、右腕を弦のように限界まで引き絞った。
 マナはカードリッジを交換するのも、武装をヒートソードに切り替えるのも億劫なのか、空になったバズーカを振り上げた。
 激突音と共に、ケイブマンの肉が裂け、真紅の血飛沫が二機のMSに降りかかる。返り血に染まりながら、二機はマルクトへの帰還を果たした。
 かくして二人は、魔樹の闇よりの脱出に成功した。

 その夜、二人の食卓はささやかながら豪華なものとなった。
 依頼は成功。依頼主は正確かつ迅速な依頼達成に満足を示し、報酬に若干の上乗せをしてくれたのだ。
 食後の一時をソファーで満喫する戒の隣に、食器を洗い終えたマナが座った。
「いつもよりスムーズに撤退ができたな」
「日々のチェックは大事って事さ」
「そうだな」
「なんなら、今日もチェックとメンテをするかい?」
「私がNoと言ったところで、するつもりだろう?」
「当然」
 戒はマナを抱き寄せると、その柔らかい唇に自らを重ねた。
 そして夜は更けて行く。

PCシチュエーションノベル(ツイン) -
檀しんじ クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2008年03月03日

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