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『『絆(前編)―妖刀―』 』
葉山龍壱(mr0676)

 ユグドラシル学園に在籍する葉山龍壱は、バレンタインを数日後に控えたある日、専攻している幻想装具学の賢者に呼び出された。
 呼び出されたのは自分だけではなく、自分を含めて十数名の男女であった。
「皆さんに極秘に調査して戴きたいことがあります」
 壮年の賢者は集まった学士達に、学園の周りの街で起きている不可解な現象について、説明を始めた。
「現在、意思を持った刀が人に取り憑くという事例が発生しています。取り憑かれた者は性格が変貌し、生きた凶器と化すようです。ここに集まった皆さんには、その刀の選別が出来るはずです。原因となっている妖刀を探し出し、破壊すること。それが、幻想装具学を専攻する貴方達に課せられた使命です」
 刀を目の前にすれば、確かに構造を知ることは出来るだろうが……広い街の中で、たった1本の刀を探し出すことは極めて困難と思えた。
「また、その刀の意思ですが、人から人へ感染します。口や耳などから直接体内に吹き込む方法と、身体を傷つけて注入する方法があるようです。多くの人が感染すれば、街は殺戮の街へと変貌してしまうでしょう。その前に、刀を所持している人物を探し出すのです」
 単独行動は危険ということで、2人一組での行動を命じられる。
 龍壱のパートナーとなったのは、黒髪の女性であった。
 たまに、講義で一緒になるが、名前さえ知らない女性だった。

 それから数日。
 講義を終えた後、毎日街へ出て状況の確認と捜索を続けているが、一向に進展はなかった。 
 バレンタイン当日は早めに帰らせてもらい、妹と過ごしたのだが――そう、妹。唯一の家族である、妹鈴音にも、このことは話しておくべきかもしれない。
 妹がその……吹き込むなどの行動を許す相手といえば、彼氏くらいだろうが、現在鈴音には彼氏といえる男性はいないようだ。
 鈴音くらいの年頃なら、兄である自分に隠れて交際している可能性も考えられなくはないが、彼女に限ってそんなことはない、と思う。
 少なくとも鈴音が自分に向けている愛情を見れば、他の異性に興味を持っているとは思えない。
「何、真剣な顔して? そんな隙の無い顔していると、感染者じゃなくても近付いてこないわよ? ……もしかして、彼女のことでも考えてた? 最近ずっと私と一緒だものね」
「そうではない」
 龍壱はため息交じりにそう答える。
 パートナーの女性、スレアの言葉の前半は尤もである。
 龍壱は地顔に隙が無い。だから、たとえ歓楽街に出てもしつこく女性が迫ってくることはない。
 感染させようと近付く者がいたのなら、そこから辿ることも可能かもしれないが――。
「魔術師なんかが感染したら厄介そうよね。街に火の雨が降ったりして?」
 くすりと笑うスレアに、龍壱は苦笑で返す。笑い事ではない。
「そろそろ帰るか。寮まで送る」
 剣術の心得があるそうだが、スレアは女性である。龍壱がそう申し出ると、スレアはにっこり微笑んだ。
 既に日は暮れており、街灯の仄かな明りが、スレアの黒い瞳を輝かせていた。
「その前に、一つ調べたいことがあるの。今日最後の調査よ」
「何だ?」
 龍壱がそう答えると、スレアは手を伸ばした。龍壱の、頬へと。
「貴方のことをよ。……最近、恐ろしい話を聞いたわ。私達調査に向った者達が狙われて、次々に感染しているという話を」
「何だと?」
 そのような話、龍壱は聞いていなかった。
「貴方は自宅に帰っているから知らないのよ。私達単身者は毎夜、寮で報告会を行なってるから」
 スレアは目を光らせて、龍壱の眼を見つめた。
「だから、念のため貴方のことも調べさせて。体内を視せてもらうだけでいいわ」
 そう言って、スレアは耳を龍壱の胸に当てた。鼓動の音を、確かめるように。
 少なくとも最近、体内に息などを吹き込まれた覚えはない。思考回路にも変化はなく、自分は大丈夫だという確信が龍壱にはあった。
 スレアの手が、龍壱の背に回った。
 ……ここまでする必要があるのだろうか。しかも、街中で。
「スレア」
 龍壱は疑問の声を上げた。
 その時だった。
 腕に、小さな痛みを感じた。
 即座に、龍壱はスレアを振りほどいた。
 スレアが尻餅をつく。
「抱きつかれても冷静なのね……そんなに私魅力ないかしら」
 怪しい笑みを浮かべている。
 行動に目を光らせながら、龍壱は自分の腕を見、傷口をつねり上げた。
「大丈夫よ、まだ何も出来ていないから」
 立ち上がったスレアを、龍壱は裏路地へと引きずり込み、肩を押さえつけた。
「お前も感染しているのか? ……誰からだ」
「さあ? 拷問でもしてみる? でも、私の仲間達が黙ってないかもね」
 足音に顔を上げれば、道の向こうに見知った顔の男性の姿があった。同じ任務を命じられた学士だ。
「あとは、貴方だけよ。……そうそう、戦いには回復系能力者の協力が必須よね? さっき、とてもいい素材を見つけたの。幻術を使える仲間が貴方の姿をとって追いかけていったわ」
 自分の姿で追いかける必要のある、回復系能力者――。
「鈴音、か……ッ」 
 笑い声を上げるスレア。
 スレアを押さえつけながら、周りを見回す。
 道の奥からは、学士が4人。
 大通りの方にも2人。
 こちらを見ながら、薄い笑みを浮かべている。
 皆、幻想装具学を専攻している者だ。
 賢者に選ばれた、有能な学士。自分を省いて11名。
 どう、切り抜ける!?

 龍壱は焦った。
 切り抜ける方法ではない。
 時間がない。
 あの鈴音が。
 急がねば、たった一人の妹が、妹ではなくなってしまう。
 声が、頭の中で響く。
“お兄ちゃん、お兄ちゃん!!”
 必死に自分を呼ぶ、鈴音の声が――。

「ねえ、龍壱。私達の仲間にならない? 拒否してもいいわ。貴方を殺して開戦よ。乱世の幕開ね。ふふふふ……」

――To be continued――


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 専攻学名】

【mr0676 / 葉山龍壱 / 男 / 24 / 幻想装具学(幻装学)】
【mr0725 / 葉山鈴音 / 女 / 18 / 禁書実践学(禁書学)】
Bitter or Sweet?・PCゲームノベル -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2008年02月28日

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