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『『満月の花嫁(前編)―闇色の魔族―』 』
ケヴィン・フォレスト3425

 バレンタインだから。
 そんな事を言っていた気がする。
 別に理由なんてどうでもいい。
 レナが荷物持ちに自分を誘うのはいつものことだ。 
 いや、荷物持ちだけの為に誘われているとは思わないが――結局荷物を持たされることになる、いつも。
「きゃー、あの服、新作よ新作っ。襟元がとっても素敵だわーっ!」
 その日もケヴィン・フォレストの服を選ぶといいつつ、レナ・スウォンプは自分の服選びに夢中になっていた。
 いつものことだし、服装なんてさして気にしないケヴィンとしては、特になんとも思わなかった。
 ただ、次第に自分だけ荷物が多くなっていくことは、ちょっとイヤだった。
「ねえケヴィン、見て見て、似合う?」
 春物のワンピースを試着して、レナがケヴィンの前でくるりと回った。
「…………」
 春物のワンピースだ。色は明るい緑。
 だからなんだ?
「ったく、お世辞の一つも言えないの? 寧ろ綺麗すぎて言葉が出ないって? きゃはははっ」
 言って、レナはバンバンとケヴィンの肩を叩いた。
 イタイ。
 何がそんなに楽しいんだ、女ってものは……。
 自分の姉達も買物が好きだったよなーと思いながら、ケヴィンはぼーっとつったっていた。
「じゃ、次はこれ来てみよっかな。ここで待っててねー」
 そう言って、レナは春物のカーディガンを手に、また試着室に入っていく。
 試着室の中から、ぶつぶつと呟く声が聞こえるが、何を言っているのかまではわからない。
 一人で喋り、一人で楽しみ、一人で笑っていてくれる。
 街中で声を掛けられた時も、対応は全て任せられる。
 無口なケヴィンにとって、レナは楽な存在だった。……むしろ、便利。
「これはどう?」
 レナが姿を現した。
 一応見たが……何が変わったのか、わからなかった。
「あー、その顔は! あたしってホント何着ても似合うって思ってるでしょ?」
 それは否定できない。
 何着ていても、似合わないとは思わないから。
 レナは上機嫌で、レジへと向った。
 もしかして、また荷物が増えるのか……と、ケヴィンは小さく吐息をついた。
 購入後、当然のようにレナはケヴィンの右手に手提げ袋を渡してきた。
 右手には既に他の店で買った服を持っているので、左手に持ち替えようとしたのだが、その前に、レナが左手に捕まってきた。
 オモイ。
「じゃ、次は雑貨屋行こー!」
 まだ買うのかーと思いもしたが、ころころ変わるレナの顔や、明るい笑顔を見ていると、平和を感じて心が和むのは事実だ。
 だからまあ、こうして買物に付き合うのは、嫌いというわけではなかった。

 ショッピングを終えた後、レナに誘われ、聖都エルザードの外にある小高い丘に出た。
「ここから見る夕日、綺麗なんだよねー」
 荷物を置き、ケヴィンはレナの隣に腰掛けた。
 腕を後ろに回し、地に手をついて身体を伸ばす。
 肩が凝っていた。
「そうそう、この間の仕事だけどさ、報酬まだ出ないんだよねぇ。結構苦労したのに!」
 最近、レナと組んで仕事を一つこなした。
 元々賞金稼ぎであるケヴィンが見つけた依頼であったが、かなり高度な魔術を使う魔物の討伐であったため、レナを誘ったのだ。
 レナの魔術にはよく助けられている。かなりの使い手なのだが……時々暴走するのはやめてほしいとも思っていた。
 その井戸に住みついていた魔物は、予想以上に手強かった。魔女であるレナでも、魔術を封じるので精一杯であり、止めはケヴィンが刺した。
 あれから一週間が経っている。
 レナが不満を言うのも無理はない。
 しかし、ケヴィンは知っていた。
 その魔物が再び現れたということを。
 住み着いているというより、誰かの手で住まわせているのではないかと、依頼主は言っていた。
 魔物を飼っている者がいる? 
 ……まあ、その話は今度でいいだろう。説明するのがメンドクサイ。
 先日討伐した分の報酬については、落ち着いたら払ってくれるとのことだ。
「あ、日が沈み始めた」
 レナの言葉に、顔を上げた。
 オレンジ色の光が、辺りを包み始めた。
 しかし、あの魔物のことを考えていたせいか、素直に綺麗とは思えなかった。
 その色は、あの魔物の身体に似ている。
 沈みゆく、太陽の色は――まるで、あの魔物の両眼のようだ。
 何故か、空気まで赤く染まっているような気がした。
 皮膚に、ぴりぴりとした痛みを感じる。……?
 殺気!?
 鋭い気配を感じ、ケヴィンは精神を研ぎ澄ませた。
「ケヴィン……なんか、感じない?」
 レナも不安気な声を上げた。
 人、だろうか。
 何者かの気配を感じる。
 自分に向けられた、鋭い視線も。
 ――誰だ、姿を見せろ!?
 そう心の中で叫んだ途端、得体の知れない力が降りてきた。
 どこから降りてきたのかは、わからない。しかし、今、目の前にその力の塊がある。
 力の塊が、人の姿へと変わっていく。
 男、だ。
 黒い服を纏った20代後半ほどの男性だ。
 自分と同じくらいの身長。
 そして、眼は。
 あの魔物と同じ色。
 鋭い、緋色であった。
「何よアンタ」
 レナが声を上げた。
「お前を、迎えに来た」
 男のその言葉は、レナに向けられていた。
 しかし、レナの知り合いではなさそうだ。
 レナは小刻みに震えながら、ケヴィンの服の袖を掴んでいた。
 そのレナが、突如、眼を押さえて倒れこむ。
 それを合図に、ケヴィンは剣を抜いた。
 この男、言葉はレナに向けているが、殺気は自分に向けている。
 しかし、ケヴィンの剣は男に届くことはなかった。
 ほんの一瞬のことだった。
 周囲が光ったことしか、分からなかった。
 気づけば周囲が弾け飛び、暗闇に引きずり込まれていた。

     *     *     *     *

 白い天井が眼に映った。
 自分は屋外にいたはずだ。
 なぜ、こんなところに――。
 身体を起こそうと力を入れた途端、激痛に襲われた。
 激しい眩暈。そして、嘔吐を感じて、倒れこんだ。
「あっ、目が覚めたのね!」
 現れたのは、見たことのある人物だった。
 確か、聖都の治療院の看護婦だ。
「流れ星を追っていた人が、辿りついた先に、あなたがいたんですって。流れ星に打たれたって本当? 本当だったら生きてはいないはずよね」
 そんな話をしながら、看護婦はケヴィンの熱や傷の具合を診ていく。
 ケヴィンは状況がよく把握できなかった。
 看護婦が処置を終え、部屋に一人になってようやく少しずつ記憶が戻ってくる。
 レナと一緒にいたはずだ。
 そして……あの男を思い出す。
 あの眼、緋色の瞳がケヴィンの脳裏に浮かび上がり、身体がビクンと震えた。
 途端、襲い掛かる痛み、激しい眩暈に意識が混乱する。
“行かなければ”
 そんな気持ちだけが、浮かんでくる。
 どこに? なんのために?
 自分に問いかける。
 賞金稼ぎの間で、時折噂にあがる人物がいる。
 黒い服を纏った、緋色の眼の魔族。
 絶大な魔力を持つ存在。
 決して近付いてはならないとされている。
 噂ではあるが、住みかは大体分かる。
 では、何のために行く?
 それは多分――。
 レナが捕らえられているから。
“お前を迎えに来た”
 あの男は、確かにそう言っていた。
 魔物と同じ眼をしたあの男。
 おそらく、魔物は囮だ。
 魔力の高い存在をおびき寄せるための。
 歯を食いしばり、ケヴィンは身を起こす。
 激しい嘔吐と眩暈に襲われる。
 気を抜けば、倒れそうになる。
 拳を握り締め、ベッドから下りた。
 体勢を崩し、手を壁につく。
 荒い呼吸を繰り返しながら、顔を上げる。
 この身体で何ができる?
 いや、可能、不可能ではない。
 絶対に譲れない意志がある。

――To be continued――


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3425 / ケヴィン・フォレスト / 男性 / 23歳 / 賞金稼ぎ】
【3428 / レナ・スウォンプ / 女性 / 20歳 / 異界職】
※年齢は外見年齢です。
Bitter or Sweet?・PCゲームノベル -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2008年02月26日

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