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『★お年玉大作戦!!☆ 』
仁薙・隼人7315


 新年の挨拶をして回ることで、お年玉が貰える。
 仕入れた情報の真相を確かめたくて、柘榴はうずうずしていた。
 買い与えて貰った携帯電話をかけ、知人へ連絡を取る。
「──あ、柘榴だけど、新年おめでとうっ! そんで……」


 *


 新年早々、罰ゲームを賭けてチェスの勝負を挑まれた。
 とは言うものの、もともと互いに新年など関係のない職業である。
 要請が極端に減る時期ということで、時間のゆとりが出来る数日間。

 そして、チェス盤を見下ろして唸る仁薙・隼人の旋毛を見下ろし、黒澤・一輝は腕を組んだままひっそりと笑った。
 罰ゲームありの勝負を挑んできたのは隼人の方だった。
 負けたほうは一日勝ったほうの言うことを何でも聞く、そんなありがちでありながら甘美な匂いを醸し出す罰ゲームで相手が何を望むのかは知らないが、持ちかけられた勝負を投げ出すことなく受けて立つ。
 勿論相手が誰であろうと、手加減してやるつもりは毛頭ない。
「どうした、降参か?」
「いや、待てっ。まだだ」
 チェス盤から顔を上げることなく左手を上げて待ったをかけ、隼人は何か手はないものかと必死に考える。
 考え付く手は次の一手で簡単にひっくり返ってしまうものばかりで、けれどここで簡単に負けを認めるわけにはいかないのだ。
 此方から持ちかけた勝負だからという矜持の他にも、長年抱く想いに終止符を! などというある意味切実な願いも籠められているから。
「さっきから唸ってばかりで、全く動く様子はないが?」
 勝ちは既に一輝の手の内にあるのと同じで、どれだけ隼人が唸ろうが無駄だと確信している。
 時間が勿体無い、とばかりに一輝は王手をかけようと自らの駒の一つに手を伸ばした。
「さあ、チェックメイ」
「待て待て待て!」
「一輝ー! あっけましておめでとうー!!」
 余裕綽々で駒を進めようとした一輝と、無駄な足掻きといえど待ったをかけようとした隼人との二人の声に覆い被さるように、一際高いトーンの声が唐突に響いた。
 場違いな声に二人はほぼ同時に入り口へ顔を向け、何故か仁王立ちの柘榴を見つけて一輝は憮然とする。
 隼人も急な珍客に何事かと目をしばたかせたが、駒を持ったまま憮然としている一輝に気付いた。
 勝負も忘れて何故柘榴がこの場に居るのかを考えているに違いない。
 と、いうことは──
「よお柘榴、元気か?」
「あ、隼人。やっぱりここに居たのか。ケータイに電話かけたのに全然返事返さないし」
 そう言われれば、確かにポケットに突っ込んだままだった携帯電話が着信をバイブで知らせていた気がする。
 だが仕事の依頼を知らせる種類ではなかったし、何より一輝との勝負の最中を邪魔されたくはなかった。
「あー? 悪ぃ悪ぃ。そんで何の用だったんだ?」
 悪びれた様子は無いがそそくさと席を立とうとした隼人に、一輝ははっとした。
「ちょっと待て!」
 勝負を有耶無耶のまま切り上げようとする隼人の魂胆に気付いた。
 逃がすものかと隼人の腕を掴む。
 腕を掴まれた隼人が驚いて振り向いたはいいものの、その瞬間は二人ともすっかり忘れていた。
 ここが一輝の自宅であるということと、柘榴は質量も質感もないのだということを。

「──!?」

「っ!!」
 読書狂の一輝は、自宅に本を溜め込んでいる。
 集めた本は本棚の許容範囲をとっくに超え、いまや所狭しと高く積み上げられているのだ。
 チェスをするための椅子やテーブルを置くのも、その積んだ本を倒さないようにと考慮し、勿論部屋の出入りなどは細心の注意が必要である。
 その部屋の中、隼人は勝負を有耶無耶にごまかしてしまうことにかまけ、周囲に気を配ることを忘れていた。
 折角勝ちを決めたと思った矢先に隼人に逃亡を図られた一輝も同じ。
 悲鳴を上げる間もなく、本の雪崩に巻き込まれた二人は姿を消した。
「柘榴? 今凄い音がしたけれど……」
 もうもうと埃が舞い上がる部屋を覗き込んだ燐華が、惨状を見つけてあらまあと間延びした感嘆を漏らした。
 その一瞬後
「本! 本は無事か!」
 柘榴が状況を説明しようと口を開いたとほぼ同時、自力で脱出した一輝が慌てて崩れ落ちた本の具合を確認する。
 中で隼人がもがいているのだが、一輝はそっちよりも本の無事を確かめることが最優先事項のようだ。
「ぉお〜い……」
 かろうじて出てきた腕が振られ、助けを求めている。
 柘榴は燐華と協力して隼人を本の雪崩から救い出した。
「あ゛〜、死ぬかと思った……」
「よし、傷は付いていないな」
 己の生存を確認する隼人の横で、一輝は大量の本のどれにも目立った外傷が付いていないことに安堵していた。
「まず俺を心配しろよ」
 人より本の無事を確かめる。
 隼人の呆れたようなちょっぴり寂寥感の漂う言葉も聞こえているだろうに、一輝はそれを聞こえなかったことにする。
 なんだかその光景に二人の関係が垣間見えるものだから、燐華はくすくす笑い柘榴は肩を竦めた。
 罰が悪そうに頭を掻きながら隼人は周囲を見渡し、一輝の行動に納得する。
 一輝が大事にしている本が全て床に散らばり悲惨な状態だ。
 チェスの勝負の行方は宙に浮いて勿論ありがたいのだが、これは二人で片付けるにはかなりの時間と労力を要する。
「柘榴、燐華。散らかった部屋片付けるの、手伝ってくんねぇ?」
 そういえばどうして二人が一輝の自宅に居るのか、本来の目的を聞くのを忘れてしまっている。
「えぇ、別にいいですよぉ」
「燐華がやるなら柘榴もやる」
 隼人の提案に二人は快諾した。
 が、部屋の主である一輝もそれを快く受け入れるわけにはいかない。
 大半の原因は隼人の注意散漫な行動であり、本を積み上げたままにしていた自分のせいでも少しある。
「お前のせいではないか」
 二人の快諾に破顔する隼人の後ろ頭を軽く叩き、一輝は申し訳なさげに頭を下げた。
「俺からも頼む……」
 新年早々こんなことになるとは夢にも思っていなかった、と吐息する一輝の斜め後ろで隼人が後ろ頭を抱えて悶絶していた。
 見た目は軽い一発にしか見えなかったが、一輝の一発は思いのほか痛いらしい。


 部屋に散乱した本を見て辟易したのは、持ち主である一輝とそのもの自体に余り縁のない隼人、そして活字を目で追うことすら放棄した柘榴である。
 なし崩しに掃除に借り出されてしまったはずの燐華は惨状に目をきらきらさせ、どこに用意していたのかはたきを手にどこから手をつけようかと考えている。
「黒澤さん、積んでいた本は種類別で並べていたんですかぁ?」
「いや、買って来たまま、積んでいたと思う」
 仕事上何処へでも行ける一輝は、出かけ先で飛び込んだ本屋に気に入った本があれば購入していた。
 購入して後、帰宅する間も惜しんで読破してしまうことも度々だ。
 そうして買い込んだ本はいつの間にか本棚に収まりきらぬほどに増え、所狭しと積み上げてきた。
 時折思い出し取り出しては読んだりもしたが、積んだ列毎に種別で分けていた記憶は無い。
 ただ、どの列の何番目に何の本が在る、というのは判っている。
「まあこの機会に種別に積むのも悪くは無いな」
「まじかよ……」
 集めて積むのとは違い、わざわざ分ける手間がかかることをしようとする一輝の提案に隼人は辟易とする。
 そんな隼人に気付いた一輝が横目で隼人を窺う。
「何だ? 元はといえば誰がこの惨状を生み出したんだ?」
「だぁからそれはよ〜……あー、はいはい。やりゃあいいんだろ、やりゃあよお」
 文句を言っても始まらないし、どこからでもいいから手をつけなくては終わらない。
「大丈夫ですよぉ、仁薙さん。こういうのはすぐにぱぱっと終わっちゃいますからねぇ」
 どう楽観的に見繕っても一日かけて半分終わればいい方だ。
 それを、この鈍そうな少女が『すぐにぱぱっと』と言ったところで現実味は全く無い。
 逆に明日も明後日もこの整理に追われるのではないかと、隼人は内心恐怖する。
 思わず助けを求めるように周囲を見れば、一輝は久方ぶりに見つけたらしい本を手に、懐かしげに目を細めていた。
 その横顔は穏やかで、釣られて隼人は目元を緩める。
 視線に気付いた一輝が隼人を睨むので慌てて目を逸らしたが、こうした意外な一面を見出せたのは怪我の功名という奴かもしれない。
 俄然やる気になった隼人は鼻歌交じりで本を集め始めた。
「……?」
 この短時間で何があったのかは知らないが、とにかく手際よく働いてくれるなら文句は無い。
 隼人とは違う意味で嬉しそうに本を片付ける燐華を目の端で捕らえながら、一輝も休めていた手を動かし始めた。

 本の整理を始めてから数時間後。
 半分終わればよいほうだと考えていた隼人の目測は良いように外れてくれた。
 不要なものは一切無い一輝の自宅は、崩れ落ちた本の損傷にさえ気をつけていれば特に問題なく掃除ができる。
 気がつけば、類別に分けられた幾つもの小山が本棚を中心に出来上がっている。
 天上に届くほどの量があったのを考えれば、夜になる前に此処まで出来たら上出来だろう。
「うーん……少し物足りないですねぇ」
 思う存分はたきが使えないのは心残りだと言うように、燐華は再び高く積まれていく本達を残念そうに眺めた。
 普段ぼんやりしている燐華からは想像できないほどくるくると動き回り、的確な指示をする。
 家事手伝い、給仕の達人の異名を持つ燐華としては、本日の作業は朝飯前なのかもしれない。
 肩を回す隼人と一輝の真似をして、疲労など溜まるはずもない柘榴も大きく伸びをする。
「でもおかげで早くできるから、柘榴はこっちがいい」
「物が少ないっつうか、思ったよりも綺麗好きだった一輝に感謝、てとこだな」
 一輝の趣味で集められた本は多岐に渡り、種 できれば本棚などに収納したほうがいいのだが、許容範囲を超えてしまっていたからこの惨劇に繋がったわけである。
 あとは本棚を購入するなり、また元の通り高く積み上げるなり一輝の好きにすればいい。
「マジで助かった!!」
 小山は多いが前より見栄えの良くなった部屋で、隼人はポケットから取り出した五千円札を柘榴と燐華に配った。
「ちっと遅くなったけど、礼も含めてお年玉な」
「うわーい! おっとしだまー!!」
「ありがとうございますぅ」
 念願のお年玉を貰えて柘榴は飛び上がって喜ぶ。
「俺からも」
 と一輝が財布から二人へと手渡したのは二万円ずつで、柘榴は勿論貰えることに大喜びしたが燐華は手渡される額の大きさに恐縮してしまう。
「こんなに貰えませんよぉ」
「本来なら数日掛かりかねない仕事を、今日中に終わらせてくれたんだ。報酬を支払うのは当然だろう。時期的にお年玉も兼ねているがな」
「でもですねぇ、私も楽しませてもらいましたしぃ……」
「子供なんだから遠慮するな」
 それでも渋る燐華の頭をぽんぽん叩き、隼人が笑った。
「そうだぞっ。遠慮すると罰が当たるぞっ」
 一輝や隼人に連絡を取りたかったのは、お年玉が欲しいという柘榴の願いのため。
「はい、では遠慮なく、いただきますねぇ。お二人とも、改めまして、明けましておめでとうございますぅ」
 思った以上の額を貰うことになってしまったが、本の整理もできたのだし結果オーライだろう。
「おう、おめでとう」
「おめでとう」
 今年も宜しく、と笑いあう。


 後日。
「あの時お前は棄権したんだよな」
「え? い、いやあ、それは……」
 有耶無耶のまま、爽やかに新年の挨拶をして終了したはずだった隼人は一輝に迫られ動揺を隠せない。
「つまり、負けを認めたということだ」
「うぅ……っ」
 間違いでもないので否定しきれず、結局隼人は一輝の迫力に負けてしまった。
「……なあ、今これ買う必要があるのか?」
「負けた奴に拒否権はあるまい?」
 丁度良い機会だ、これまで購入を躊躇っていた大きくて重い書籍をこれでもか、とばかりに数冊一気に大人買いをした。
 勿論これは序の口で、この後家具屋へ新しい本棚の購入も検討する。
 あとはそう、必要はないかもしれないが屋内での運動器具を今日購入するのも良い。
 何しろ一日はまだ半分も終了していない上に、丁の良い荷物持ちが居るのだから。


〜Fin〜

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7307/黒澤・一輝/男/23歳/請負人】
【7315/仁薙・隼人/男/25歳/傭兵】


NPC:
 櫻居・燐華 (さくらい・りんか)
 ―・柘榴 (ザクロ)

ラ┃ イ┃ タ┃ー┃通 ┃信┃
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初めまして、葵 藤瑠といいます。
魅力的なPCさん達をお預け頂き、ありがとうございます!!
腐れ縁や親友悪友、そして恋人未満という関係は大好物であります(笑)
本当に楽しく執筆させて頂きました。遅くなってしまいましたが、お楽しみいただければ幸いでございます。
何かありましたらお気軽に言ってくださいね。
それでは、この度は本当にありがとうございました。

黒澤一輝様、仁薙隼人様、両PCPL様、良い一年をお過ごし下さいませ。
HappyNewYear・PC謹賀新年ノベル -
葵 藤瑠 クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年01月24日

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