▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『カラスの夢 』
トリ・アマグ3619)&カレン・ヴイオルド(NPCS007)
 かあ。かあ。かあ。

 どこかでカラスの声がする。
 どこから、聞こえるんだろう?
 私はそっと、耳をすませる。上から、下から、右から、左から、カラスの声がひびいてくる。

 かあ。かあ。かあ。

 何も見えない。何もわからない。
 あるのは音だけ。カラスの声だけ。
 足は動くの? 手は動くの? 私は誰なの?
 そんなことも、わからない。

 そんなときに、遠くから、静かな声が聞こえてくる。
 
 静か?
 これが?
 本当に?
 思った後で、疑問がわいてくる。
 これは本当に、静かな声?

 まるで、泣き声みたいな声だった。
 小さな小さな泣き声が、いくつも重なっているような。
 そんな、胸の奥が痛くてたまらなくなるような声だった。

 あなたは、だあれ?

 そう問いたい。
 けれども、声は出ないのだ。
 聞こえるのはカラスの鳴き声。
 そして誰かの、泣くような声。

 どうして、そんなふうに泣くの?
 あなたは何も悪くないのに。
 ふと、そんなふうに思う。

 かあ。かあ。かあ。

 カラスの鳴き声に、笑い声が混じった。
 あれはカラスの笑い声?
 カラスが笑うだなんて聞いたことがない。
 でも、明らかに笑ってる。
 それじゃあ、あれは誰の声?

 かあ。かあ。かあ。

 カラスのうるさく鳴く声に混じって、はばたきの音も聞こえてくる。
 ばさばさ、ばさばさ、何羽いるっていうんだろう。
 そんなうるさいときにでも、誰かの泣き声はずっとひびいている。

「これは、泣き声じゃないんですよ」

 不意に、声がした。
 目を開ける。
 一面の赤。
 血を散らしたような赤。
 それ以外、何もない場所。
 それなのに、泣き声はやまない。
 カラスの声もなくならない。
 怖くなって、後ずさる。
 でも逃げられない。それだけはわかっている。

「カラスは泣いてなんかいないんです。そしてときどき笑うんです」

 笑ってなんか、いないじゃないか!
 ずっと、泣き声が耳にこびりついている。
 目を開けているか、閉じているか。どちらかしかできないのに、まるで、これは……。

「悪夢のよう? ふふふ、そんなことを言わないでください。ねぇ、あたたかい夢でしょう? まるで真っ赤な羊水の中に浮かんでいるようだとは思いませんか?」

 そんなこと、思うはずがない。
 ただただ、カラスの声が不愉快で。
 ひびく泣き声がさびしくて。
 どうにかなってしまいそう。

「おやおや。私の歌はお嫌いですか? カラスのつもりになって歌っているんです。いけませんか? ダメですか?」

 ああ、あの泣き声は歌なのか。
 言われてはじめて、旋律に気づく。
 でもだからといって、愉快なはずなどなかった。
 耳の奥に残る不快感。
 気持ちが悪い。

「そんなにいやがらなくてもいいのに……。私はね、よく、人の夢の中に行くんです。死んだ気分になれるんですよ。ふふふ、だからね、今はとてもいい気分なんです」

 そんなことはどうでもいい。
 どうして、勝手に夢に入ってくるのか。
 どうして、勝手に夢の中で歌うのか。
 うれしそうにされればされるほど頭に来る。

「おお、怖い。そんなに怒らないでくださいね。どうか、どうか、怒らないであげてくださいね。ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう。私はキミにとても感謝をしているんですから」

 ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。

 カラスの鳴き声と泣くような歌声の変わりに、ありがとう、という言葉がひびく。
 礼を言われる覚えはない。それくらいなら、出て行ってほしい。

 そう強く願った次の瞬間、ハッと、あたりの景色が変わった。
 ぐるりと見渡すと、そこはいつもの自分の部屋。
 赤い色なんてどこにもない。落ち着いた、夜の部屋だった。
「……なんだったのかしら」
 そっと、つぶやいてみる。
 あの声には聞き覚えがあった。
 そう、どこかで。
 昼間。
「昼間の吟遊詩人の声……?」
 思い出す。
 確か、あの男――トリ、といったか。
 そんな名の、翼を持つ吟遊詩人の声によく似ていた。
「わ、私、でもなんで、あんな夢……」
 思い出すだけで背中が冷たくなってくる。
 ふりはらうみたいに首をふって、カレンはふとんにもぐりこんだ。
 もう夢は見たくない。
 だから、眠らずにいよう。
 そう思っても手足は冷たくて、いつまでも、震えは止まりそうになかった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
ゆみ クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2008年01月24日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.