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『タイトル:旧年を惜しみ、新年を迎えよう! 』
藤田・あやこ7061

 今年もいよいよ終わりを目前に控えた大晦日と言う日‥‥何もなかった筈である空間に唐突、蜃気楼が如く周囲に漂っていた霞が揺らめけば次いで形を成して一つの建造物となる。
 どうやらそれは大仰な外見の割、喫茶店の様で中から賑々しく声が響いてくれば目の前で起きた不可解な現象はさて置き、手持ち無沙汰だった『彼女』は引き寄せられる様にその喫茶店の内部へと足を踏み入れるのだった‥‥何らかの力が働いてかこの時だけ、揺らいだ空間があちこちの世界に繋がっては各所の住民を招いている事は知らないまま。
 とは言え、それしきの事で驚く者がこの喫茶店『Blitz Kong』へ足を運ぶとは考え難いので、余り気にする必要はないか。

 ともかく、この喫茶店に出くわした瞬間から『彼女』‥‥藤田あやこの年末年始が始まったのは確かだった。

●突撃、喫茶店『Blitz Kong』 〜旧年を惜しんでみる〜
「あぁ、今年も終わりね。早いものだわ」
 時は少し遡り‥‥既に帰省の為、姿のない社員の代わり自身が運営する店の戸締りを自身の手で完全に済ませたあやこは今年、様々にあった事を思い浮かべては感慨に耽り嘆息を漏らす。
「別段予定もないし、皆帰って‥‥これからどうしようかしら」
 しかし、今年のラストと来年のスタートを一人で過ごさねばならない事には孤独に駆られ‥‥それは何とか自制すると、夜空に輝く星が巡る中で思考を巡らせる。
「‥‥今年は、何処でも良いから賑やかな所で年を越そう」
 すると何時かの大晦日の事を思い出してあやこ、ヒラリとスカートを舞わせては視線を自身の店から遠くに明るく見える、ネオン街を見つめ呟く‥‥彼女がそう思うのには理由があり、恋人と些細な口論で年越ししてしまった結果からトラブル塗れの一年を過ごした経験があるからで、今やあやこにとって年越しの瞬間こそ最も重要視しなければならない大イベントなのだ。
「よし、そうと決まれば」
 と言う事で判断早く彼女、眩い光を放つネオン街へ向けて歩き出すも‥‥丁度その時、眼前の光景が蜃気楼の様に歪めば唐突なその事態を前に流石、足を止めてそれが収まるまで見守ればやがてそこには先までなかった筈の大きな建造物が己を誇示しており、暫しその場に立ち止まったまま唖然とそれを見上げてはたじろぐ風も見せず呟くのだった。
「えー‥‥何処から生えてきたのでしょうね?」
 まぁ、それ位の図太い神経ないしは天然を持ち得ていなければ様々な事業を手広く経営する事等出来ないだろうからここは突っ込むべき所ではないのだろう、きっと。

「あー、いらっしゃーい!」
 と言う事で暫し建物の周りを巡ってはその建物の一角が喫茶店である事に気付いたあやこは入口を見付けるなり、内部の賑やかな様子に誘われ足を踏み入れれば店内を忙しなく駆けている艶やかな栗色の髪を携える女性に歓迎される。
「何処でも好きな所に座ってねー。メニューは今、持って行くからー!」
 そしてその彼女、硲恵理に促されるままあやこは店内を見回すとやがてカウンターの方の中央辺りにある椅子に座すると、再び店内をじっくりと見てはとある事に気付き吐息を漏らす。
「ふぅん‥‥」
「どうか、しましたか?」
「調度品とか、統一されている様な気がしてね」
「えぇ、極端に意識はしていませんがドイツで買って来た物を主に‥‥分かりますか?」
「何となく、ね。そう言えば今年は旅する暇も無かったな。ドイツ、か‥‥」
 すればそれに反応する、カウンターを境にして向き合っている穏やかな面立ちの青年‥‥硲大輔に尋ねられると、それに応じれば彼女へ苦笑めいた笑みを返す大輔にあやこもつられ微笑み返せば三度、周囲を見回すと
「はい、おまたっ! メニューだよ」
「ドイツと言えば‥‥黒ビールは無い? 後、あるならハムとかチーズも頂戴」
「勿論っ! 刃くんっ、黒ビールと今日一番に美味しいハムにチーズ!」
 その眼前へ唐突に突き出されたメニューと、飛んできた声には別段たじろかず彼女は恵理の応対へ答えれば、飲み屋でないのにその場で厨房へ向け大声でオーダーを発する彼女に思わず忍び笑いを漏らすが、ここであやこはとある事を思い出すと言の葉を漏らす。
「そうか‥‥来年はドイツ尽くしになるのね」
「ん、何か言った?」
「いいえ。そう言えばご存知? ジョーカーはドイツが発祥なのよ」
「へぇ、それは初耳かな」
「‥‥そうだ。婆抜きでもどうかしら?」
 それは自身のジンクスだったが、この場で話してもしょうがないかと思うとあやこは耳聡く囁かれた呟きに反応した恵理へ頭を左右に振り話題を変えれば、彼の応答を聞きながら椅子を回し周囲に視線を配しつつ誰へともなく尋ねると‥‥果たして応じたのは一人だけ。
「俺は暇だから付き合っても良いぜ、でも折角だから駄賃代わりに何かベットしねぇか?」
「問題ないわ、なら私は」
 その一人とは金髪の青年、その髪の色に面立ちから容易と外国の出身である事を言わずともしらしめる彼、ヨアヒム・クリューガーで先まで一人で占拠していた卓から彼女の隣へと移動しながら一つ、提案するとそれに頷いてあやこは身に着けていた美しい青蛾を象る宝飾品を外してはカウンターへ置けば
「意外に値が張りそうだな、ただの婆抜きなのに」
「たまには、こう言うのも良いと思うのだけど‥‥さて、あなたは?」
「じゃ、これを」
 それに驚く彼だったが、意に介する風も見せずあやこは笑みを湛えるとヨアヒムの瞳を凝視すれば‥‥やがて彼、指に数多嵌めている指輪の一つを取り外し、それをカウンターに置く。
「宜しいです、それでは始めましょう」
 嵌められている石こそ価値は余りないと見抜くあやこだったが、凝ったその装飾に及第点を出すと何時の間にか自身の手元に置かれていたトランプを手にシャッフルを始めるのだった。

●参拝、蔵前神社 〜新年、一番最初に願うは〜
 やがてあやこが頼んだ、黒ビールにハムとチーズの盛り合わせを届く中で婆抜きは始められ、そしてどれだけの時間が経ったろうか‥‥片隅にて喧騒の中、密かに転倒していたテレビより著名な芸能人が『明けましておめでとうございまーす!』と叫んでいるのを耳にして、ここで初めてあやこは年が明けた事に気付く。
「‥‥あら、もう今年も終わり?」
「近くでさっきから、鐘の音も五月蝿く響いていたんだが‥‥」
「失礼、婆抜きに集中していたもので」
「道理で‥‥」
 するとその呟きが響く傍ら、婆抜きにて惨敗を喫したヨアヒムが突っ伏しながらも応じれば、彼女の答えを聞いて至極納得してそっぽを向く彼。
「そうね、丁度婆抜きも終わったし折角だから初詣にも行きましょうか」
「よっし、私も行くー!」
「あ、ちょっと‥‥」
 するとそれを機にあやこ、先に大輔から聞いた近くにある蔵前神社へ初詣に赴こうと立ち上がれば彼女に続き、恵理もすぐにエプロンを脱ぎ放っては言うと大輔の静止はエプロンにて覆い止められれば、その最中に二人は駆け出すのだった。

「今年の抱負‥‥かなぁ」
 やがて至る、蔵前神社の参道‥‥思った程に人はおらず、適度にあるスペースを縫う様にして所々で寄り道をしながらも参道を進めばやがて、本殿の前へ辿り着いた彼女らは小さな賽銭箱を前にすると新たな年に変わってから恵理は初めて織る願いに悩み出す。
「ドイツでGO!」
「え、え?」
「独り言ですわ」
 だがその傍らのあやこはと言えば、惑いを欠片も見せず唐突に叫んでは豪勢に百円玉を賽銭箱目掛け放ると賽銭箱へ吸い込まれたそれを背に身を翻せば、乾いた音が次いで響くとどんな意を持っての彼女の叫びだったか気になった恵理は思わずあやこを見つめ、狼狽するも彼女がその答えをはぐらかせば
「‥‥な、なら今年も皆にとって良い年になります様に!」
 恵理も負けじと百円玉を放り、宙へ放物線を描く中であやこに倣っては叫び願いを織ると百円玉はやはり賽銭箱へ吸い込まれ、乾いた音を響かせると
「そう、ですね‥‥一番無難だけど、一番に願いたいですね」
 その光景と彼女の願いを前にあやこはその願いにも同意と頷くが‥‥その刹那、眼前に広がる光景は何の前触れもなくグニャリと歪む。

「あ、れ」
 やがて瞳を瞬かせて彼女、何時の間にか自身の店の前に佇んでいる事に僅かだが遅れて気付くと暫し呆然とするが、やがて腕に巻かれている時計を見れば既に新年を指し示していたがしかし、先までの光景が微塵もない事から思わず彼女は呟く。
「夢‥‥だったのかしら?」
 だがあやこは掌の中に何かがある事に気付くとそれを開けば‥‥その中には蔵前神社へ初詣に行った際に寄り道途中で購入した、良く見る形のお守りがありそれを見つめてはクスリと微笑んで今度こそ、ネオン街の方へ向けて歩き出しては呟くのだった。
「‥‥また、逢えると良いわね」
 呟いた言葉の割、今年はドイツ尽くしになるだろう事から何時かまたあの賑やかな喫茶店へ行けるだろうと半ば、確信しながら。

 〜終幕〜

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 7061 / 藤田・あやこ / 女性 / 24歳 / IO2オカルティックサイエンティスト(東京怪談)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして、蘇芳防斗です。
 今回は謹賀新年ノベル、発注して頂きまして誠にありがとうございました‥‥ギリギリまで他の発注がないか待っていた為、納品が遅くなってしまいましたが楽しく読んで頂ければ幸いです。
 中々窓を開ける機会が少なく、今後も何時開けられるか確約出来ませんがまたの機会があれば何卒、宜しくお願い致します。
HappyNewYear・PC謹賀新年ノベル -
蘇芳 防斗 クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年01月24日

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