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『八百万の神社 』
リリィ・セレガーラ(mr0266)

●神社の事情
ある場所に、珍しい神社があった。
とにかく神様であればよいとばかりに、八百万の神々を奉っているという、一風変わった…変わりすぎている神社である。
しかし、それだけ授与品の種類も多い。
それに比例するように、多くの願いを持つ参拝客の足が途切れることは無い。
特に初詣に訪れる参拝客は、比較するのも馬鹿馬鹿しいほど。
「こういうときの臨時バイトよねぇ?」
慌しく動き回る合間の休憩時間、事務所を兼ねたその部屋で。
巫女の総元締めは、窓の外の参拝客の波を眺めて呟いた。
臨時巫女募集の告知が行われたのは、自然の成り行きとも言えるのだろう。

●選考基準は闇の中?
指の爪程度しかない紙切れ、つまりアルバイト募集のチラシを持ったリリィ・セレガーラは、学園での講義を終えた帰りに面接へと向かっていた。
「学園と違って、小さな街は歩きにくいですね」
通りすがる人間達が、リリィを見上げ驚いたり叫んだり腰を抜かしたりスカートの中を携帯カメラで撮影したりしているのだが、当の本人はお構いなしだ。黒のストッキングをはいているから気にならない…というわけではなさそうだが。

リリィがそのチラシを見つけたのは、ほんの偶然だった。
学園では、講義や実践授業の連絡事項の通達に掲示板を利用することがある。
その延長線上とでも言えるだろうか、季節ごとのイベントの連絡や、外部からの連絡等も掲示板が利用されることが多い。
学園には多くの種族が学士として在籍しており、種族間の差異による連絡不備が起きぬよう、建物に限らず備品においても様々な配慮されている。もちろん掲示板も然り。
だが、外部からの連絡は学園内での配慮とは無関係である。つまるところ、その外部世界での一般的な種族にあわせた大きさの掲示物だけが学園にもたらされるのだ。
リリィは大柄な種族であるため、彼女の体格に近い、大きな掲示板を確認するのが日課なのだが…その日は人間の友人が同行していた。そしてアルバイト募集のチラシの、ある文句をリリィに教えてくれたのだ。
『種族国籍年齢性別学歴不問』
種族不問。その言葉にリリィが興味を示さないはずもなかったのだ。

●全ては手の上予想内
神社の事務所には、同じ巫女服を着込んだ者達ばかりが密集していた。衣擦れの音だけでも、場を支配するに充分な音量だ。
今年は去年とは大分様子が違う。人間的な範囲に納まる少しばかり変わった巫女だけでなく、人間外的な特徴を持った巫女も多く居るのだ。
これは、去年の正月の様子が噂となり、人間外の者達の間にも広まったからであろう。とにかく、一番小さく縮んでも、人間の軽く六倍の大きさがあるリリィはその変り種巫女の筆頭なのであった。
事務所の天井は大分高く作られてはいるが、立ったまま入れるわけでは無い。仕方なくリリィは膝を前に抱えるように座った状態で待機している。
本人は騒がれるのにも慣れて居るのか落ち着いているのだが、彼女の周辺の巫女達は妙に落ち着きの無い巫女達ばかりだったようで、その話し声も重なり、随分な騒音が場を支配していた。

「はい、それじゃぁバイト巫女さん達はいったん注目、ちゅうも〜く!」
その中を、ひときわ大きな声で叫ぶ巫女が居る。言わずと知れた総元締めだ。拡声器も使わずにその音量、手馴れたものである。
「これから、簡単に仕事の説明をさせてもらうわ、聞き漏らさないようにしてくださいねぇ?」
パンと手を叩きつつ視線を集めると、彼女は意味ありげにバイト巫女達の仲をぐるりと見回し、一人の巫女を手招きした。
(…こ、これは…呼ばれている…!)
松本の背中に戦慄が走った。総元締めがぐるりと見回した際、一度だけその頭が止まった時があった…勿論自分を見つけた時に。そして今は真っ直ぐに此方を見つめ、にこやかな顔で手招きしている。
「はい」
頭で拒否するよりも先に、本能が裏声で返事をしてしまう。そして可憐にしずしずと、松本は総元締めの横に…つまり、大勢の巫女の視線を集める場所へと足を進めたのだった。

総元締めが呼んだ巫女を見た瞬間、また事務所内はひそひそ声の津波に支配されることとなった。
髪も解きストレートロングヘアとなったレンヌは、その髪が触覚をカモフラージュしているためか、巫女達の中に溶け込んでいた。隣の巫女が囁いてきた言葉につられ、レンヌもその巫女の姿をまじまじと見つめる。
うっすらと神秘的な雰囲気の漂う化粧は、頬の白粉と唇の紅。皆と同じはずの巫女服も、その巫女の立ち姿や所作の美しさと重なり、別の服のように見えてくる。そしてそのほっそりとした体に良く似合っている。
惜しむべきは髪型だろうか、よく梳られているため今はわかりにくいが、男性のように短い髪が、少しだけ浮いている。
(涙…? 泣いてるのかしら)
涙で少し化粧が流れている。そこでレンヌは、先ほどから感じていた違和感の正体に気づいた。
あの巫女は「彼女」じゃない、「彼」なのだ!
だが、それを言葉にして発してしまうのは躊躇われた。その巫女の完璧さという名の雰囲気が、その事実に突っ込むことを良しとしなかった。
…はずなのだが。
「性別不問って、こういうことだったんですね♪」
答えを見つけた嬉しそうな声でリリィがそう言った事により、全てが崩れた。何せ彼女は大柄で、彼女なりの潜めた声でも、周りに充分に聞こえる大きさになってしまう。
(巨人のお嬢さんにまで…あぁ、目から出る汗の勢いが強くなって…)
去年も働いていた経験者として、総元締めに言われるままに説明の補助をしていた松本は、ソレこそ誰が見ても分かるほどの涙を流し続けていたという。

●適材適所
去年の経験を生かしたのか、今年は面接の段階で各人の適正も判断していたようである。
説明の後、それぞれの担当を発表されたバイト巫女さん達は、言われた場所に向かう者どうしが固まり軽く挨拶合わせをしてから、神社のそこかしこに散っていく。

松本は、中でも一番辛い配置になっていたように見受けられた。
作業説明の補助に使われたこと、担当場所発表のリストを読み上げさせられた上に、そのリストに松本自身の名前が載っていなかったこと…そこから予想されることは、一つ。
総元締めのお付き、である。

レンヌはその怪力と商売における采配を見込まれ、倉庫と授与品受け渡し所の往復をする事となった。つまりは不足品の補充と、それらの整頓である。
並みの男性よりも多くの荷を運べる怪力と、女性ならではの細やかな気配りを併せ持つ彼女にはぴったりといえるだろう。
補充の必要が無い時間は、人ごみの整列作業の手伝いをしていた。

リリィはその体格を生かして広告塔に。授与品受け渡し所の近くに立つことになった。
彼女自身が申し出た人寄せ効果は、神社のどの位置でも良い。しかし、彼女が面接で別に申告していた伸縮自在な能力で、授与品のサイズ変更ができるとか。そこに目をつけた総元締めは、授与品受け渡し所の宣伝効果を優先したのである。

(ここは学園の外ですから、10メートルより大きくなっても大丈夫ですよね)
普段は学園内でのルールもあり、押し込められ窮屈な気分になっていたリリィだ。嬉々としていつもの数倍の大きさに変わった。いくつかのお守りや絵馬を受け取っておいたので、それらも同時に大きくなる。
「あけましておめでとうございます、授与品受け渡し所、その本部は此方になります。お買い上げを予定されている方は、私を目印にしてくださいね」
大きくしたお守りなども目立つように指し示しながら、定型句を口にする。
 ぺちぺち
途端、足元を突くような音がしたため、リリィは目を向ける。
「こらぁ、授与品は購入するものじゃないのよぉ! 『授与ご希望の方は』ってなおして頂戴ねぇ!」
声を聞きつけた総元締めが間違い訂正に来たらしい。それにしても対応が早い。
「すみません、気をつけますね」
えへへ、とばかりに謝った後は、順調に進んだ。
大きな絵馬は縁起がいいと、商売繁盛の詣でに来たどこかの会社の重役等が頼んできたりと、ジャンボサイズ授与品もなかなかの人気だったようだ。

●巫女達の願い
参拝客も落ち着いたところで、アルバイトの雇用時間も終わる。
「あとは本業の巫女達で何とかなるからね、今日はお疲れ様♪」
総元締めはぽんぽんと、各人の名の書かれた封筒を配っていく。
「絵馬は中に同封されているから、奉納するなら各自でよろしくねぇ。願いを書いて、恵方や神棚に飾るだけでも十分だから、そこはそれぞれで判断してね」

「あの〜?」
10メートルほどに戻ったリリィは、総元締めを呼び止めていた。
「なに? …あぁ、忘れてた。お給金の通貨だけど、学園の方で申し出れば、交換してくれると思うわよ?」
「そうじゃなくて…あの、私ドジな所があって、ご迷惑じゃなかったかなって思って…すみません!」
勢いよく頭を下げ、そっと総元締めの様子を窺う。そこには柔らかな笑み。
「面白いものも見せてもらったしねぇ。何より、そうやって真面目に働いてくれる事が一番で、あれくらいじゃぁ本気で怒らないわよ。だから、謝らなくていいのよぉ?」
「そうなんですか、変なこと言ってすみません」
「また謝ったら意味がないわよ♪」
「そうですね、すみま…あ!」
最後には、お互いの笑い声が重なるのだった。

●新たな風
バイト巫女達が帰った後の事務所にて。
「今年も、いい噂の種ができたわねぇ♪」
そう零した総元締めがいたとか、いないとか。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【w3a176maoh / 松本・太一 / 男 / 40歳 / 直感の白】
【mr0266 / リリィ・セレガーラ / 女 / 17歳 / 禁書実践学専攻】
【3502 / レンヌ・トーブ / 女 / 15歳 / トーブ家ファクトリー主任代行】
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石田まきば クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2008年01月21日

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