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『八百万の神社 』
松本・太一(w3a176)

●神社の事情
ある場所に、珍しい神社があった。
とにかく神様であればよいとばかりに、八百万の神々を奉っているという、一風変わった…変わりすぎている神社である。
しかし、それだけ授与品の種類も多い。
それに比例するように、多くの願いを持つ参拝客の足が途切れることは無い。
特に初詣に訪れる参拝客は、比較するのも馬鹿馬鹿しいほど。
「こういうときの臨時バイトよねぇ?」
慌しく動き回る合間の休憩時間、事務所を兼ねたその部屋で。
巫女の総元締めは、窓の外の参拝客の波を眺めて呟いた。
臨時巫女募集の告知が行われたのは、自然の成り行きとも言えるのだろう。

●選考基準は闇の中?
「気づかなかったわけではないのですが…」
はぁ、とため息をついた者が居る、声から察するに男性だ。
事務所に通されたばかりの彼は、名を松本・太一という。
置かれていた椅子に腰掛けた彼は、この神社にたどり着くまでの経緯を思い返していた。

『巫女急募!』
でかでかとした文字が躍るそのチラシが、これ見よがしに居間の机の上においてあったのは、それこそ偶然だったのか、必然だったのか。
何か作為的な意思を感じながらも、そこに連ねられた文章を目で追ってしまったのは…年始で、それだけ物入りだったからなのだ。
むしろ、それ以外の理由など無い…そう思い込むことにする。
そのチラシに連ねられた募集要項や、神社の所在地、雇用担当者の名前…それらが、忘れていたかった過去の記憶を、鮮明に思い出させてくれたとしても。
これもきっと、何かの運命。そう思ってしまえば腹もくくれるというものだ。
気がついたら、アルバイト応募の電話連絡を入れていた。
 トゥルルルル…トゥルルルル…
相手方が出るまでの短い時間にさえ、重圧感を感じる。
…決して、居間の机にチラシを置いたと思われる誰かが、期待と興奮の合わさったまなざしを松本の背中に向けていたからでは、ない。
ないったら、ない。
 ガチャッ
「もしもし、アルバイト募集の広告を見たのですが…。はい、去年も其方で働かせていただいた、松本です。 …はい…その松本です…よろしくお願いします」

●全ては手の上予想内
神社の事務所には、同じ巫女服を着込んだ者達ばかりが密集していた。衣擦れの音だけでも、場を支配するに充分な音量だ。
今年は去年とは大分様子が違う。人間的な範囲に納まる少しばかり変わった巫女だけでなく、人間外的な特徴を持った巫女も多く居るのだ。
これは、去年の正月の様子が噂となり、人間外の者達の間にも広まったからであろう。とにかく、一番小さく縮んでも、人間の軽く六倍の大きさがあるリリィはその変り種巫女の筆頭なのであった。
事務所の天井は大分高く作られてはいるが、立ったまま入れるわけでは無い。仕方なくリリィは膝を前に抱えるように座った状態で待機している。
本人は騒がれるのにも慣れて居るのか落ち着いているのだが、彼女の周辺の巫女達は妙に落ち着きの無い巫女達ばかりだったようで、その話し声も重なり、随分な騒音が場を支配していた。

「はい、それじゃぁバイト巫女さん達はいったん注目、ちゅうも〜く!」
その中を、ひときわ大きな声で叫ぶ巫女が居る。言わずと知れた総元締めだ。拡声器も使わずにその音量、手馴れたものである。
「これから、簡単に仕事の説明をさせてもらうわ、聞き漏らさないようにしてくださいねぇ?」
パンと手を叩きつつ視線を集めると、彼女は意味ありげにバイト巫女達の仲をぐるりと見回し、一人の巫女を手招きした。
(…こ、これは…呼ばれている…!)
松本の背中に戦慄が走った。総元締めがぐるりと見回した際、一度だけその頭が止まった時があった…勿論自分を見つけた時に。そして今は真っ直ぐに此方を見つめ、にこやかな顔で手招きしている。
「はい」
頭で拒否するよりも先に、本能が裏声で返事をしてしまう。そして可憐にしずしずと、松本は総元締めの横に…つまり、大勢の巫女の視線を集める場所へと足を進めたのだった。

総元締めが呼んだ巫女を見た瞬間、また事務所内はひそひそ声の津波に支配されることとなった。
髪も解きストレートロングヘアとなったレンヌは、その髪が触覚をカモフラージュしているためか、巫女達の中に溶け込んでいた。隣の巫女が囁いてきた言葉につられ、レンヌもその巫女の姿をまじまじと見つめる。
うっすらと神秘的な雰囲気の漂う化粧は、頬の白粉と唇の紅。皆と同じはずの巫女服も、その巫女の立ち姿や所作の美しさと重なり、別の服のように見えてくる。そしてそのほっそりとした体に良く似合っている。
惜しむべきは髪型だろうか、よく梳られているため今はわかりにくいが、男性のように短い髪が、少しだけ浮いている。
(涙…? 泣いてるのかしら)
涙で少し化粧が流れている。そこでレンヌは、先ほどから感じていた違和感の正体に気づいた。
あの巫女は「彼女」じゃない、「彼」なのだ!
だが、それを言葉にして発してしまうのは躊躇われた。その巫女の完璧さという名の雰囲気が、その事実に突っ込むことを良しとしなかった。
…はずなのだが。
「性別不問って、こういうことだったんですね♪」
答えを見つけた嬉しそうな声でリリィがそう言った事により、全てが崩れた。何せ彼女は大柄で、彼女なりの潜めた声でも、周りに充分に聞こえる大きさになってしまう。
(巨人のお嬢さんにまで…あぁ、目から出る汗の勢いが強くなって…)
去年も働いていた経験者として、総元締めに言われるままに説明の補助をしていた松本は、ソレこそ誰が見ても分かるほどの涙を流し続けていたという。

●適材適所
去年の経験を生かしたのか、今年は面接の段階で各人の適正も判断していたようである。
説明の後、それぞれの担当を発表されたバイト巫女さん達は、言われた場所に向かう者どうしが固まり軽く挨拶合わせをしてから、神社のそこかしこに散っていく。

リリィはその体格を生かして広告塔に。授与品受け渡し所本部の近くに立つことになった。
彼女自身が申し出た人寄せ効果は、神社のどの位置でも良い。しかし、彼女が面接で別に申告していた伸縮自在な能力で、授与品のサイズ変更ができるとか。そこに目をつけた総元締めは、授与品受け渡し所の宣伝効果を最優先にしたのである。

レンヌはその怪力と商売における采配を見込まれ、倉庫と授与品受け渡し所の往復をする事となった。つまりは不足品の補充と、それらの整頓である。
並みの男性よりも多くの荷を運べる怪力と、女性ならではの細やかな気配りを併せ持つ彼女にはぴったりといえるだろう。
補充の必要が無い時間は、人ごみの整列作業の手伝いをしていた。

松本は、中でも一番辛い配置になっていたように見受けられた。
作業説明の補助に使われたこと、担当場所発表のリストを読み上げさせられた上に、そのリストに松本自身の名前が載っていなかったこと…そこから予想されることは、一つ。
総元締めのお付き、である。
去年も来ていたその経験、つまり勝手は分かっているという事実。そして去年よりも洗練された彼自身というコンボが、総元締めの琴線に触れてしまったのである。
総元締めとは、この神社の中で最もよく働く…ひときわ活発に動き回る者がその任につけるのだ、と言われているほどだ。そのお付きにも、ほぼ同じ働き振りが求められる。
(空いている場所からがんばって仕事をして、沢山のお給金、目指します…なんて、思っていたのも読まれていそうですね。確かに物入りですから助かりもしますけど)
行く先々で、去年にも見覚えのある巫女と顔を合わせたのだが…揃って皆が、同情と安堵と謝罪の入り混じった複雑な表情をし、それを無理矢理笑顔で隠そうとしてから「頑張って」と松本に声をかけてきた。
はじめの頃はそう疑問に思うだけであった松本にも、徐々に時間がたつにつれ、その真実が分かってきた。
(確かに、並大抵の人間にできる事ではありませんね。でもなんでしょうこの感じ、デジャブでしょうか?)
松本の魔皇としての能力もあるだろうが、記憶に残っていないはずの経験が効をそうし、疲れを感じることもなくこなしていけたのであった。

●巫女達の願い
参拝客も落ち着いたところで、アルバイトの雇用時間も終わる。
「あとは本業の巫女達で何とかなるからね、今日はお疲れ様♪」
総元締めはぽんぽんと、各人の名の書かれた封筒を配っていく。
「絵馬は中に同封されているから、奉納するなら各自でよろしくねぇ。願いを書いて、恵方や神棚に飾るだけでも十分だから、そこはそれぞれで判断してね」

(『逢魔と一緒に穏やかに平和に暮らせますように』と…)
今年は奉納して行こうと考えていた松本は、あらかじめ決めておいた願いをのせた絵馬をつるす。
そして、先ほどの総元締めとの会話を思い返していた。
「今年も来てくれるなんてね。驚いたわよ、随分と見違えてたものだから♪」
「えぇ、色々と事情が重なりまして」
とほほ、と頬をかく姿は去年と同じ。それでも時間はたっているし、状況も変わった。きっと来年も違う自分が居るのだろう。
(でもまずは、今年一年を過ごしていきましょう)
帰ったら、まずどんな話をしよう?
神社を後にしながら松本は、家で待っているはずの、愛すべき、そしてほぼすべての事情を仕掛けた逢魔を想うのだった。

●新たな風
バイト巫女達が帰った後の事務所にて。
「今年も、いい噂の種ができたわねぇ♪」
そう零した総元締めがいたとか、いないとか。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【w3a176maoh / 松本・太一 / 男 / 40歳 / 直感の白】
【mr0266 / リリィ・セレガーラ / 女 / 17歳 / 禁書実践学専攻】
【3502 / レンヌ・トーブ / 女 / 15歳 / トーブ家ファクトリー主任代行】
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2008年01月21日

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