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『   「神と仏の一騎打ち」 』
沙紗(mr0093)

 大晦日、除夜の鐘が鳴る頃。
 歴史ある玄光寺には大勢の人たちが集まり、新年を迎えようとしていた。
「何や宿禰、巫女の格好はせぇへんのか」
 甘酒や年越し蕎麦の用意で忙しい寺の養女、宿禰に声をかけた次男の雷明。
「阿呆、巫女は神職やろ。神仏習合の名残であろうと、寺に巫女がおるんはよう認めん」
 そこへ、金髪のツンツン髪にピアスをした少年とは対照的に真っ直ぐな黒髪をした知性的な長男、清明が現れる。
 その姿を見るなり、雷明は顔をしかめて背を向ける。
「宿禰、用意するんは寺男にでも任せたらええからな。手ぇすいたら寺務所の受付頼むわ」
「あ、はい。おみくじとお守りを売るんですね」
 雷明の背中を見送っていた宿禰は、ハッとしたようにうなずいて見せる。 
「札と守りだけや。みくじはいつも通り賽銭形式になっとる。売り歩いたりはせんでえぇから、声かけられたらすぐに出たってくれ」
「お金儲けではなく、ただ誠意を尽くせ、ということですね」
「当然や」

 
 黒川一家があわただしく時を過ごす中。
 その遥か上空を、月光を遮るようにして飛ぶものがあった。
「なんじゃ、下は随分と賑やかじゃのう。……そうじゃ、すっかり忘れておった! 今晩は大晦日であったな。つまり、あれらは参拝客ということか」
 巨大な龍に跨り、下を見下ろすのは幼い少女。
 巫女装束に羽衣のようなものをまとった、不思議な風体をしている。
「しかし、どういうことじゃ。妄のおった神社には、ついぞこのような参拝客を見たことがないぞ。しかも、あれはどう見ても寺ではないか。初詣といえば、氏神に参るのが筋ではないのか!? おもしろくない、実におもしろいないぞ!」
 少女、薊姫は龍の背でぴょんぴょんと飛び跳ね、キーッと悔しがる。
 すっかり寂れた山奥の古い祠と狛犬たちを見捨てて逃げ出した彼女だが、神として崇められないのは気に食わないらしい。
 そうした嫉妬が手伝い、彼女が提案したこととは。
「邪魔してやろう。これは神罰じゃ。神と仏を同じに扱うなど、言語道断!」
 ということで、龍神を引きつれ、寺の敷地へと舞い降りるのだった。



「さぁて、何をしてやろうかのう」
 巨木の枝に腰をかけ、行き交う参拝客を見下ろしている薊姫。
 それを、不思議そうに眺めている一つの影。
「――なんじゃ、お主。妄に何か用か?」
 突然声をかけられ、少女はビクッと身を縮める。
「そう固うなるな。お主もこの寺に参りにきたのか」
 ふわふわと降りてくる薊姫に、こくりとうなずく沙紗。
「じゃが……どうも普通の人間とは違うようじゃな」
 首を傾げられ、あわあわと首を横に振る。
「何、隠すな。妄もそうなのじゃ。妄はのう、恐れ多くもとある神社の神として祭られておる薊姫じゃ!」
 神社の神。その言葉を耳にして、沙紗は素直に手を叩く。
 他の人とは違うとは思っていたけれど、まさか本物の神様に逢えるなんて、と瞳を輝かせる。
 異界の風習を知る、という課題のため、とペルソナで人の姿となってまでもぐりこんだこの参拝は無駄ではなかったというわけだ。
「あ、あのう……沙紗は、他の世界からきたのでよくわからないんですけど……神というのは、どういうものなんでしょう。仏というものとの違い、とか。教えていただきたいんですけど」
 普段は使えない声も、しゃべれなくては質問もできないので特別に出るようにしてもらっている。
 が、ただでさえ内気で恥ずかしがり屋な沙紗は、緊張のため、すでに半泣きになってしまっている。
 いつものように精霊に仲介してもらう方が、ずっと気が楽だったのかもしれない。
「うむ、よい質問じゃの。よそから来たというのなら、知らんのも無理はない。妄が特別に教えてしんぜよう。……どれ娘、立ち話もなんじゃ。甘酒でももろうて座らんか」
「……えぇと、そういうのって、大丈夫なんですか?」
 ここはお寺で、でもこの方は神様で……と、ぐるぐると考え込みながら、沙紗は恐る恐る口にする。
「何を言う。甘酒というのは元々、神のものじゃぞ。日本書紀にも天甜酒(あまのたむざけ)というのがあり、甘酒の原形じゃと言われておる」
「そ、そうなんですか?」
「そもそも、新年になって参るのは氏神様であり、年神様であっての。仏ではないのじゃ。更に言うなれば、おみくじという占も神によるものじゃし、賽銭というのも祈願成就の礼が元々であり、祈願というのは神にするものなのじゃ」
「――それじゃあ、お寺や仏様というのは、どういうものなんですか? それとあの、氏神様と年神様というのは……」
 全てが神にまつわるものだというなら、尚更お寺との違いがわからなくなってしまう。
 沙紗は首を傾げ、困ったようにつぶやいた。
「うむ。氏神というのは、共同の祖先である神であり、土地の神でもあるのじゃ。年神は歳徳神ともいうて、正月に家々を訪れるが毎年現れる方向が違うて、それを恵方という。福の神とも豊作の神とも言われておるの」
「『恵方』は聞いたことがあります。そうなんですか……そういう関係があったのですね」
「寺と違いに関しては、ちと長くなるのでな。一先ず甘酒をもろうてこよう」
 しかし薊姫はそう言って、ふらふらと人ごみに向かっていった。


「そこな娘! 甘酒を2杯ほどもらえんかのう」
 他人を押し分けるようにして、薊姫は偉そうに胸を張った。
「はい、どうぞ。火も焚いてますから、どうぞ座って温まっていってください」
 着物姿の宿禰が紙コップに注がれた甘酒を差し出し、椅子を勧める。
 そして、ちらりと巫女装束の薊姫の姿を見た。
 沙紗はその視線におどおどしながらも、ぴったりと彼女についていく。
「しかし、ここは広い境内の割に参拝客が少ないのう」
「はい。やはり初詣には神社に行かれる方が多いですから。除夜の鐘をつきに来られるにしても制限がありますし。それでも遠方から来られる方もいらっしゃるので、普通のお寺よりは多いと思いますが」
「当然じゃ! 初詣には神社と相場が決まっておる。今ちょうど、参りにいくならば氏神か年神じゃろう、とゆうておってな」
 椅子に座り、甘酒を両手でつかみながら薊姫が言う。
「はい……。それで、あの。ならば何故お寺なのでしょうかと、お聞きしていたところなんです」
 沙紗も温かな甘酒をふぅふぅと冷ましながら、なめるようにちょっとだけ口にいれ、ふぅと白い息を吐く。
 ちょっとどろっとして甘い、温かい飲み物。下調べはしていたものの、実際に口にしてみると違うなぁ、とついまったりしてしまう。
「えぇと、一応このお寺にもお社はあるんですよ。鎮守社といって、仏寺の土地を守っていただくという……」
「神仏習合の名残じゃ。神が仏法を擁護するという勝手な考えが広まってしもうてのう。ついには本地垂迹じゃなどとぬかしおって」
「ホンジスイジャク、ってなんですか」
 ある程度の下調べはしてきたものの、わからない単語が多すぎて混乱してしまう沙紗。
「権現というて、神は仏が姿を変えたもんじゃという説じゃの。神仏習合というのはつまり、他国の宗教がこの国本来の信仰を妨げようとしたものなのじゃ」
「そ、そのような言い方は……」
 甘酒を飲み干した上でさらりと答える薊姫に対し、思わず声をあげる宿禰。
「――仏教っちゅうもんはな、神道を含めた他の宗教と違うて、神が世界をつくったっちゅう考えを持たんのや」
 そのとき、背後から低い関西弁から聞こえてくる。
 巫女姿の少女と寺の娘との論争により、甘酒の接待を受けていた参拝客は遠巻きになっていた。
 そこを、黒髪に黒衣を着た男が歩いてくる。
「清明様!」
 宿禰はハッとしたように薊姫を見返し、かばうように前に立った。
「珍しい客やな。こんな時期に、自分の社におらんでもええんか? それとも、来てくれるもんがおらんもんやから、わざわざ寺に来た参拝客を奪いにきたんか?」
「え、お知り合いですか?」
「なんじゃ貴様! 何者じゃ?」
 振り返る宿禰と、強く叫ぶ薊姫。
「それに、わざわざ遠方から来てくれたもんもおるみたいや」
「……それって、沙紗のことですか? あの、あなたは……」
「神社のもんに神について聞くんはええけど、仏に関すること聞かれるんはかなわんな。公平を期すためにも、参加させてもらうで」
 沙紗の質問に答えることなく、勝手に席につく清明。
 ――ど、どうしよう……なんだか、重たい空気に……。
 沙紗は瞳に涙を滲ませ、逃げ出したい衝動に駆られてしまう。
 そういえば、宗教が統一されていない世界では『宗教戦争』というものがあると聞いた気がする。
 この辺りではそういったいがみ合いはないと思っていたのに、やはりそうでもないのかもしれない。他の平行世界に行っていればよかった、とまで考えてしまう沙紗。
「まず、さっきの件やけどな。仏教っちゅうんは基本的に、別の宗教を排除しょうゆうもんとちゃう。取り込んでいくもんや。菩薩は元々人間やけど、明王や天がつくもんは異教の神やからな。否定せぇへん柔軟性は大事やと思うで」
「節操がないだけであろう」
 清明の言葉を、薊姫がふん、と一蹴する。
「え、えと……どうして、他の神様を取り込むんですか。あの、甘酒やおみくじが、本来は神道のものだというのは……」
 緊迫した空気の中、沙紗は半泣きで質問に入る。
「そら、元々日本にあったんは神道やったわけやし、ほとんどのもんは遡ればそこに行き着くやろ。せやけど甘酒は由来がどうこうに関わる民間の伝統やからや。寒い中、あったまってもらうためにも必要やしな。みくじに関しては、中国から伝わった『天竺霊籤(てんじくれいせん)』っちゅうもんがあって、それを慈恵大師、良源が『観音みくじ』として広めた歴史があるんや」
「――えぇと、神道からとったものではない、ということですか」
 やはり小難しい言い方をする清明に対し、沙紗は頭を抱えながら聞き返す。
「そういうこっちゃ。宗派によって教義が違うもんやから、仏教の定義はこうや、ちゅうていえるもんとちゃうけどな。まず大乗仏教と小乗仏教、顕教と密教の違いから説明せなあかんし……」
「ダイジョー、ショージョー、ケンギョウ? と、ミッキョウ……?」
「清明様。すみません、自分もよく……」
 目を回す沙紗の傍で、寺の養女である宿禰も混乱を見せる。
「……これは、俺自身の考えやけどな。大事なんはこの世界をつくったんは誰か、っちゅうことやのうて、この世界でどう生きていくかっちゅうことなんや。仏教は、それを示してくれるもんやと思うとる」
 長々とした『説明』ではなく、僧である自身の『考え』。
 それを耳にして、沙紗はようやくながら「神が世界をつくったという考えをもたない」という彼の最初の言葉を理解する。
「……でも、それでは考え方がまるで違いますよね。なのに、どうして一緒になるんですか?」
「せやから、仏教っちゅうもんは何でも取り込めるんや。キリスト教の弾圧のときにはマリア像もできたくらいやからな。よそがどう言おうと、仏は人に教えを説く際に様々な姿に変わる。それが神と呼ばれとってもこっちは構わんわけや」
「妄は構う! 神を冒涜するにもほどがあるぞ、無礼者めが!」
 薊姫は身長差をなくすためか、椅子の上に立ち上がり、ふんぞり返った。
「……そもそも、日本の神の定義も曖昧やからな。日本神話に出てくる祖先としての神、自然や土地を畏敬するための神。疫病などをもたらす悪神、そんで……死んだ人間の祟りを恐れて奉る神」
 清明は言いながら、ちらりと巫女姿の薊姫を見る。
「巫女っちゅうんは神に『仕える』もんのはずやけど、自分はどれにあたるんやろうな?」
「……え?」
 沙紗と宿禰が、きょとんとして薊姫を見る。
「わ、妄を侮辱したな!」
 むぅっと肩を怒らせる薊姫。
 不意に、星空の瞬いていた空がかげりだす。
「おっと、こんくらいにしとこか。自分は怖ないけど、上におっそろしいもんがおるみたいやからな」
 清明は軽く上を見上げ、片手をあげて制止を促す。
「恐ろしいもの……?」
「ちなみに、龍神っちゅうんも仏教でゆうたらインドや中国から伝ってきたもんやねんで。民話で生贄捧げたりするんは日本古来の風習やけど。仏教は殺生禁じとるからな」
 沙紗は、立ち込めた雲の隙間からちらりと巨大な蛇の腹に似たものを見たような気がした。
「おお、おのれ! やはり愚弄しておるな!」 
「あ、そうや宿禰、そろそろ年越し蕎麦も出したり。みんな腹減ったやろ。俺は雷明呼び戻して鐘つきに並んどる連中に配ってくるわ」
 怒りの声をあげる薊姫を無視して、マイペースに去っていく清明。
「なんという無礼者じゃ! 神罰を、神罰を下してくれる〜!」
 バタバタと暴れる薊姫を、沙紗が必死になって止めに入る。
 よくわからないけれど、あの『龍神』さんがすごい力を持っているのはわかる。そしてそれが、彼女の怒りに呼応して今にも爆発しそうだということも。
 龍神というものが、水の神だからなのだろうか。周囲に漂う湿気の一部や、大地に眠る水脈の動きなどからピリピリしたものが伝わってくるのだ。
「あの、色々とすみませんでした。どうぞこれを……」
 すっと差し出されたのは、温かな年越し蕎麦だ。
 ぴたりと、薊姫の動きが止まる。
「……なんじゃ、随分とみすぼらしい晦日蕎麦じゃのう。しかし折角じゃ、冷めんうちにいただこうか」
 ちょこんと椅子に座り、両の手を差し出す。
 どうやらご機嫌が直ったようで、沙紗もホッとしてその横に座り直した。
「お主、騙されてはいかんぞ。本来蕎麦というのはもっとコシがあってだな……」
「す、すみません。手作りなんですぅ」
「……でも、おいしいです……」
 薊姫のと宿禰の言葉に、ほわっとした笑顔を返す沙紗。
 葱に天かす、蒲鉾だけの具材で、麺もぷちぷち切れてしまうような歯ごたえのないもの。ではあるが、あっさりした温かい蕎麦つゆと共に口にすると、味は中々のものだと沙紗は思った。
「まぁ、ならばよいがの……」
 毒気を抜かれた様子で、ずずっと汁をすする薊姫。
「あ……そうだ。あのぅ、さっき並んでる方たちにっておっしゃってましたけど、もう鐘撞きに並ぶのってダメですか……?」
「あ、えぇと……そうですね、まだ大丈夫かもしれませんけど、多分ギリギリかと……一応聞いてみますね」
 宿禰はぺこりと挨拶をしてぱたぱたと駆けていく。
「――梵鐘を鳴らして煩悩を取り除く、か。その考えは仏教独自のものじゃな。そんなもんを撞きたいのか」
「は、はい……」
 ちゅるっと最後の面を食べながらつぶやく薊姫に、びくっとして答える沙紗。
 ま、また沙紗は機嫌を損ねてしまったんでしょうか、と半泣きになってしまう。
「ふむ。お主がどうしてもというのなら、付き合ってやってもよいがな。言うておうが、見るだけじゃぞ。頼まれても一緒に撞いたりなどはせん。なんせ、妄は神じゃなからの」
 器を置き、つんとそっぽを向きながら足をぷらぷらさせる薊姫。
「はぅ……?」
 状況が飲み込めず、沙紗は目を丸くして首を傾げてしまう。
「あの、お二人とも。大変申し訳ありませんが、もう人数はいっぱいみたいなんです。それであの……もしよろしければ、自分と一緒に撞きませんか」
「一緒に、ですか?」
 いっぱいだという言葉に沈みかけた沙紗は、微かな希望にすがるように瞳を輝かせる。
「はい。寺のものが最初の鐘を撞くんです。ここの住職様から撞き始めますので自分は四番目になるのですが、それでもよろしければ……」
「は、はい……あの、よろしくお願いします。お気遣いいただいて、ありがとうございます」
 ぺこぺこと頭を下げ、跳ねるように喜ぶ沙紗。
「ふふん。お主は子供じゃのう、この程度で喜んで。しかしまぁ、折角の誘いじゃ。妄も無下に断わるわけにもいくまい」
 両手を腰に当て、威張ってみせる薊姫もどこか嬉しそうだ。
 そうして、接待を終えた宿禰の後に続き、大勢が並んでいるところとは別の道から鐘楼へと向かった。


 暗闇の中、石段の横に並ぶ石灯篭に火が灯されている。
 鐘楼の近くではバケツ缶の中で焚き火をしていて少しでも暖をとろうとしているようだった。
「ようきたな。もうそろそろや」
 駆けつけた3人の姿を認め、僧衣の清明が声をかける。
「宿禰。もし焼香がわからんようやったら前もって教えときや」
「ショーコウですか?」
「はい。仏様にお香を焚くことです。お線香とは違って、粉のようになっていて、つまんで香炉の上にパラパラと落とします。作法としては一礼して合掌。このとき、柏手は打たないようにしてください。手を合わせるだけです。そして香を親指、人さし指、中指でつまんで香炉に落とす、これを3回くり返し、もう一度合掌と一礼をして終わり、です」
「面倒臭いのう」
 文句を言うのは、もちろん薊姫。沙紗は頭の中で復唱しながら、何度もうなずいて見せる。
 やがて、儀式が始まった。
 住職が歳徳神、弘法大師などの真言を唱え、ろうそくに照らされながら用意された仏具を手にする。その後、数珠を繰りながら般若心経を唱えていく。
 住職が焼香を終え、最初の鐘をゴーン、と撞く。
「おおお、おっきな音ですね……」
 静けさの中、周囲を揺らすような重たい音にくらくらする沙紗。
「あは。自分で撞くときのが大きくて、びっくりしちゃいますよ」
 長男の清明が終え、次男雷明が手っ取り早く終わらせると、ようやく3人の番がやってくる。
 宿禰に教わったとおりの手順をくり返し、みんなで紐を手にする。
「いーですかぁ、せーので後ろにひいて、後は前にゴーン、ですよ。転ばないようにだけ注意してください」
 中で一番背の高い宿禰を一番後ろにして、前の2人はこくりとうなずく。
「……せぇーの!」
 大きく後ろに引っ張り、それから思い切り前に持っていく。
 ゴォォーン!
 くわんくわん、と頭に響くような轟音。
 沙紗は宿禰に手を貸してもらいながら、鐘楼から抜け出ていく。
「中々爽快じゃったのう! 妄たちの音が、一番大きかったであろうな!」
 薊姫はキャッキャッと飛び跳ね、騒ぎ立てる。
「なぁお主、沙紗殿! ここまで来たんじゃ、お参りに付き合ってやっても構わんぞ。仏に手を合わせるのは嫌じゃが、鎮守社の神にならばよかろう。ついでに、みくじも引いてしまわぬか。神が隣におるのじゃから、大吉間違いナシじゃぞ!」
 有無を言わせない勢いで誘われ、沙紗はただうなずくばかりだった。
「では、自分は他の仕事がりますので。……これ、お守りです。本当は売り物なんですけど、何だかお2人の会話をお邪魔してしまったようですから」
「あ、あの……そんな。もらえないです」
「もらってください。自分が払っておくんで大丈夫です。……清明様も、すごく楽しそうでしたから。お詫びというよりお礼なんです」
 遠慮して首を振る沙紗は、しかし宿禰に強く言われて断われなくってしまう。
「妄にはないのか。侮辱を受けたのは妄じゃぞ」
「はい、ありますよ」
 薊姫もお守りを受け取り、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
 厄除け開運のお守りだ。
 沙紗も微笑み、きゅっとそれを握りしめた。


「よいか、鳥居をくぐる前にはまず一礼。それから本来は手を清めるのじゃが、社前に手水舎がないのはいかんな。次に、賽銭を入れる。真っ直ぐに神と対峙するのはようないぞ、少し横にそれるのじゃ。で、二度お辞儀をして二度手を叩く。この叩くのが先程言うておった柏手、というやつじゃな。それからもう一度礼」
 小さな鳥居と祠のある鎮守社の前まで来ると、薊姫は水を得た魚、とばかりに指示を与えてくる。それに従い、鈴を鳴らして祈願する沙紗。
「それで、鳥居を出る前にもう一度振り返って礼をするのじゃ。うむ、それでよい」
 自分も見本を見せた後、沙紗に目をやり、うんうんとうなずく。
 おみくじを引いてみると、薊姫のいうとおり大吉だった。
「あ……」
 それを報告しようとしたそのとき。
「なにぃ、大凶!? 妄を馬鹿にしておるのか〜!」
 薊姫が暴れ出し、何とかなだめながらおみくじを枝に結ぶ。
「お主、『願事、叶う』とあったな。先ほどは何を願ったんじゃ?」
「そ、そういうお願い事って口にしちゃいけないんじゃないんですか?」
「妄は神なのじゃから言うても構わんじゃろう。言うてみい」
 まとわりついてくる薊姫に、沙紗は困ったように微笑んで見せる。
 ――神様と仏様が、もっと仲良くできますように。
 神や仏についてのことは難しい内容ばかりで沙紗にはよくわからないところもあったけれど、一番に心に残ったのはそんな感じ……だったのでした。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:mr0093 / PC名:沙紗(サシャ)/ 性別:女性 / 年齢:6歳 / 種族:マーメイド】

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■         ライター通信          ■
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沙紗様

こんにちは。ライターの青谷 圭です。謹賀新年ノベル「神と仏の一騎打ち」へのご参加どうもありがとうございます。
今回は神と仏についてを質問する、という内容だったのですが、元々そう言った観念のない沙紗様にとっては少し難しすぎる内容になってしまったかもしれません。
一応、僧(仏教)側と神(神道)側の二通りの目線で見てあまり偏った意見にはならないよう努力したつもりですが、いかがでしたでしょうか。

ご意見、ご感想などございましたら遠慮なくお申し出下さい。
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青谷圭 クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2008年01月18日

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