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『【White Memory】 』
アリエラ(fa3867)&欅(fa5241)

●白い風景で
 ちらちらと、空から白い小さな綿毛のような儚い雪が舞い落ちる。
 それは、時が来ればいずれは溶けて、消え去ってしまうもの。
 でも今は振り積もってマチを覆い、白く白く染め上げていく。

 それはそれはまるで、淡い ユメ のように。

 遠いマチ。あの人の故郷のマチ。
 心に刻んだ風景は、瞼を閉じれば今もハッキリと頭の中で思い描くことができる。
 そして瞳を開ければ、ほら‥‥。

●異国の街角
 三オクターブ半のグロッケンシュピールが、鳴り響いた。
 大きな時計の下に作られた『舞台』で、何体もの人形達がくるくると踊る。
 作られてから百年以上も見る人々を楽しませ続けているカラクリ時計を、緑の瞳を輝かせながらアリエラは見上げていた。
 仕掛け時計は上下二段になっており、最初に動き始めた上段の人形達は、バイエルン大公の結婚式と祝いの馬上試合を。続く下段は、ペストに怯える人々を励ました桶職人達の踊りが再現されている。
 最後に最上段にいる金の鶏が高らかに三回鳴いて、人形達による約十五分の『芝居』は終わり。グロッケンシュピールの音が消えて広場に街のざわめきが戻ると、人々はそれぞれの目的へ戻り、仕掛け時計がある市庁舎の前から去り始めた。
 そんな中でまだ彼女は時計を見上げ、余韻に浸っている。
「すっごく、凝った仕掛けだよね。見ているだけで、なんだかこっちまで楽しくなる感じがして‥‥」
 何気なく視線を横へ動かせば、伸ばした前髪に隠れがちな赤い瞳が彼女を見下ろしていた。
「このマリエン広場の仕掛け時計は、ドイツでも最大級の仕掛け時計だそうだ」
 一つ頷いてから説明する相手に、アリエラは顔をほころばせ。
 それから長身の相手へ手を伸ばして、ぎゅっと黒いロングコートの上から抱きつく。
「アリエラ?」
 いつもの仕草だが、それでもちょっぴり驚いたのか。
 少し低く柔らかな声には、僅かに問うニュアンスが混じっていた。
 温もりを確かめるように抱きついていたアリエラだが、やがて顔を上げ、にっこりと微笑む。
「欅君。招待してくれて、ありがとー!」
 もう一度、ぎゅっと抱きつくアリエラに欅は笑顔を返した――いつも通りの、そのままに。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
 顔を上げて再び時計を確認した欅が彼女の肩に手を置くと、アリエラはこくんと頷いた。

   ○

 住宅街の上には、低く重い灰色の雲が立ち込めている。
 ミュンヘン中心部から走ってきたタクシーは、住宅街の一角でスピードを落とし、やがて停車した。
 身を屈めて欅は先にタクシーから降りると、続くアリエラへ手を差し出す。
「ありがとう、欅君」
 手を取ったアリエラもまた、車から舗装された道路へ足を踏み出した。Aラインの白いコートの上からでも鋭く冷たい冬の空気を感じたアリエラが、空いた方の手でピンクのマフラーを整える。その間にも、空車になったタクシーは街の中心へ戻るべく、再び動き出した。遠ざかるエンジン音を背中で聞きながら、ぐるりと彼女は見知らぬ街並みを見回す。落ち着いた佇まいの街は、うっすらと雪化粧をしていた。
「ここが‥‥そうなんだね」
「ああ。こっちだ」
 タクシーを降りた時から繋いだ手を引かれ、欅と共にアリエラは歩き始める。
 歩き出してすぐ、灰色の空から白い雪が一つ二つとちらほらと舞い降りてきた。
「寒くない?」
 彼女の歩調に合わせ、ゆっくりと歩きながら気遣う欅の息は白い。アリエラは答えるよりも先に、繋いだ暖かく大きな手をぎゅっと握り返した。
「ううん。欅君と一緒だから、平気だよ」
 それから雪の積もった足元に気をつけながら、もう片方の手で彼の腕に掴まり、ぴったりと身体を寄せる。一瞬、驚いたような様子をみせた欅だが、細い指に自分の手を添えた。
 二人は、そのまま僅かな距離を歩き。
 一軒の家の前まで来ると、欅が足を止めた。
「ここなんだ」
「ああ。でも家族に紹介する前に、聞いておきたいんだが‥‥」
 家を見上げていた彼女が小首を傾げ、視線で言葉の続きを待つ。
「俺と結婚してくれる?」
 突然の質問に、アリエラは言葉と並びと、それが意味する内容を繋げることができず。
 ただ家を見上げていた視線を欅へ向け、きょとんと彼を見つめた。
 彼の後ろに広がる空からは、次々と雪が降ってくる。
 一つが、欅の黒い髪にとまって。
 次の欠片は、黒いコートの上に落ちた。
 その白と黒のコントラストと、彼の赤い瞳が印象的で、とてもとても綺麗で‥‥。
「アリー?」
 少し不安の混ざったような疑問の口調に、彼女は我に返る。
 遅れて、彼の質問の意味が、ゆっくりと心の中で広がっていく。
 欅の腕から離した手を、ぎゅっと胸のあたりで握り。
 白と黒のコントラストが、少しにじんで見えた。
 口を開いても、溢れ出す感情の奔流に言葉はまとまらず。
 代わりにアリエラは、こくこくと何度も繰り返し頷く。
 耳まですっかり真っ赤になった彼女の頬に、欅が手を添えて。
 顔を上げたアリエラは、ぎゅっと欅へ抱きついた。
「はいです! 喜んで!」
 全身で返ってきた返事に、欅は赤い瞳を細めて微笑んだ。

   ○

 目の前には、クリスマスリースが飾られた木造りの扉。
 ノブに手をかけた欅が、それを静かに――彼女のために――開く。
「お父様お母様、メリー・クリスマスです。アリエラです、よろしくなのです!」
『新しい家族の家』となる場所は、とびきりの笑顔でクリスマスのお祝いを告げるアリエラを、暖かく迎え入れた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【fa3867/アリエラ/女性/外見年齢22歳/ミュージシャン】
【fa5241/欅/男性/外見年齢20歳/俳優兼演奏家】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お届けするのが遅くなり、申し訳ございません。
 お待たせ致しました。「WhiteChristmas・恋人達の物語」が完成いたしましたので、お届けします。
 BNO本編の方でも、大変お世話になりました。
 二人一緒に欅氏の実家へ‥‥ということで、ミュンヘンを舞台としました。もしもイメージと違うようでしたら、遠慮なくリテイクの方をお願い致します。
 最後となりますが、ノベルの発注ありがとうございました。
(担当ライター:風華弓弦)
WhiteChristmas・恋人達の物語 -
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Beast's Night Online
2008年01月16日

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