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『ツリーの下で 』
(fa4559)

 年末の忙しさと騒がしさ、そしてクリスマスという今年最後のイベントに、街は浮き足立っている。
 待ち合わせ場所としては最適の、大きなクリスマスツリー。
 普通のクリスマスツリーでは緑が主体なのに、このクリスマスツリーは始めから真っ白だった。
 青い飾りがちかちかと光り、まるで雪で作られたみたいである。
 頭上に輝くのもやっぱり青い星。

「待ち合わせですか?」
 ふいに声を掛けられてそちらを見ると、サンタクロースの服装に身を包んだ少女がにこりと笑っている。
「あなたが欲しいもの、教えてください!」
 時間潰しに最適ですよ、と見習いサンタのエファナの提案だった。


 *


 浮き足立つ雰囲気が似合う日だ。
 巨大なホワイトクリスマスツリーの下で、笙は恋人を待っている。
 眩い電灯と装飾で飾り付けられた街並みは楽しげで、本来なら数人のファンに見つかってしまいそうなシチュエーションにも関わらず、笙へ向けられる視線はない。
 皆自分達のパーティや家庭のことで頭が一杯のようである。
 もしくはやはり、今日ばかりはオフを楽しんで貰おうという、ファンの心遣いなのか。
 どちらにせよ邪魔されたくない笙には好都合である。
 そんな不安と期待の入り混じる曖昧な境目で、エファナに声を掛けられた。
「は? 俺の欲しいもの? ……新興宗教団体や、何か番組の収録とかじゃないよな? そういうのだったら他当たってくれ。今は完全オフのプライベートだ、邪魔されたくない」
 見習いサンタだと自分の身分を明かすエフェナだが、そんなものを素直に信じてやるほど笙は幼くはない。
 胡散臭げに目を細め、軽く手を振ってエフェナを追い立てる。
「あたしが人を騙すように見えますか? 違いますよぉ、最も喜ぶクリスマスプレゼントを皆さんに運ぶのが、あたし達の役目なんですからっ」
 ぐぐっと両拳を胸の前で握り締め、エフェナは力いっぱい笙に訴えかける。
「これ、卒業試験なんです。合格したら、あたしも晴れてサンタクロースの仲間入りなんですっ!」
 まだ試験に合格したわけでもないのに、エフェナは一人勝手に笑み崩れた。
 確かにサンタクロースの衣装を着ているし、訴えかける青い瞳は嘘を吐く目ではない。
 芸能界でやっていくには人を見る目を持っていることが、成功の秘訣だ。
 笙も違わず成功し、人を見る目には自信がある。
 だからこそ、エフェナのことを否定できない。
「怪しいのに変わりはないんだが……ま、良しとするか。約束の時間より早く来過ぎたしな」
 完全に信用したわけではないにしろ、必死なエフェナを無下に追い払うのも可哀相だ。
 体の良い暇潰しとして付き合うのも悪くないだろう。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
 笙がエフェナの言葉に乗ってくれたらしいことに、エフェナは嬉しそうに笑って万歳をした。
「で、『欲しいもの』だったか? ……そうだな……自信、かね」
「え? そうなんですか?」
 美麗で長身の笙は人目を惹き、流石芸能人と思わせる風格がある。
 威風堂々として自信に満ち溢れているようにしか見えない笙に、エフェナは目を瞬かせた。
 始めに言葉を交わした時にもさっさとエフェナを追い払おうとしたのだから、自分に自信がないとは俄かに信じがたい。
 そんなエフェナの内情を察したのか、笙は苦笑いを浮かべて首を横に振る。
「仕事の方でなく、恋愛の方で」
「あぁ、なるほど」
 それなら話は別だ。
 恋の病は草津の湯でも治らない、と言われるほどの難病である。
 女性には不便してなさそうな笙なのだが、やはり本命相手には違うのだろうか。
「彼女さんは、どんな人なんですか?」
 笙が自信を無くすほどの相手はどんな人なんだろう、エフェナは興味が湧いた。
 期待を込めた瞳で笙を見上げると、笙は微かに笑った。
 仕方がない、とでも言いたそうに。
「彼女、俺より12歳年下で……」
 赤毛でとても可愛らしい人らしい。
 笙本人は淡々と彼女のことを説明しているつもりらしいが、聞いているエフェナにとってはただの惚気にしか聞こえない。
 その彼女を語る笙の表情は微かに笑みを浮かべてとても優しい目をしているのだから、筋金入りだ。
 けれど語る内に、次第に笙の表情に翳りが見え隠れし始める。
「……関係ないとは言われても、やはり俺みたいなおじさんで良いのかと心の何処かで思っていることに気付く」
 年の差が12もあるということが、ネックのようだ。
 しかしエフェナには、笙がそんなに思いつめるほどおじさんには見えない。
 彼女さんは知らないけれどきっとお似合いではないのか、と小さく小首を傾げる。
「笙さん、おじさんには見えないですよ?」
「そりゃどうも」
 芸能人である笙は人に見られるのが仕事である。
 人に見られることを常に意識することによって、外見は実際より若々しく保つことができる。
 それでも笙と彼女の年の差が、短くなることはない。
「でもそれくらいの年の差なんて、いまどき珍しくないじゃないですか。全然大丈夫ですよ」
 世の中にはもっと離れた年の差カップルなんて幾らでも居るではないか。
 笙を励ますようにか、エフェナは握った拳を空へ高々と上げる。
 子供独特のテンションの高さにくつくつ笑い、それに頬を膨らませたエフェナを宥めるように顔の前で軽く手を横に振った。
 本来なら頭を軽く撫でるのが合うだろうが、彼女ではないので気安く触れることは選択しない。
「まあ、それだけじゃないんだけどな」
「それじゃあ……?」
「今まで淡白な付合いばかりだったからかな。彼女に対する気持ちは初めてで、自分でも戸惑っている」
 確かにその彼女と出会う前にも、女性と付き合いがなかったわけではない。
 けれど、彼女ほど愛しく自分だけのものにしたいとう独占欲が湧く相手は居なかった。
 傍に居たいし、自分をいつでも頼って欲しい。
 それこそ手中の珠のように……大切で大事で共に歩む人なのだ。
 彼女を想い、隣に寄り添う相手だと確信している。
 その反面、本当に自分が彼女の傍に居ても良いのかと憂う。
 彼女は若く、故に同じような年頃の青年が寄り添うのがベストなのではないかと思うこともしばしばある。
「黙ってても女の人が放って置かない気がしますけど、そういう女の人たちとは全然違うんですか?」
「違うな。確かに、彼女に出会う前はそういう女性と付き合いはあったけれど」
 それは相手が笙を好きだという前提があり、しかし笙が相手と同等若しくはそれ以上の気持ちを抱くことはなかった。
 好意を持たれているから、などと驕った気持ちはないにしても、今の彼女のように独占したいという強い気持ちが湧くまでには到らなかったというのが正しいかもしれない。
 あとはお互いにどこか冷めた、計算の入った男女の付き合い。
「傍に居たい気持ちと、本当に俺で良いのか。そんな相反した矛盾を抱え込まないような『自信』が、一番欲しいものかも」
「ははあ、なるほどー」
 恋をまだ知らぬであろうエフェナは、知った顔で頷いた。
「確かにそうした『自信』は、恋に迷う人たちには一番欲しいものですねっ」
「そうだな、俺に限らず、だな」
 相手を想う気持ちが強すぎるために、自信を持つのが怖くなる。
 恋人にどれだけ肯定して貰ったとしても、自分自身が自信を持たなくては意味がない。

 ふいに視線を感じてその先へ顔を向けると、笙を睨む一対の瞳が在った。
 普段向けられることのあまりない種類の視線を向けてくるのは、笙が待ち侘びていた愛しい瞳だ。
 その視線にエフェナが気付かないのは当然で、彼女に向けられていないから。
「笙……誰……ですか……? ……その人…………」
「はわっ!?」
 エフェナの存在を完全に無視した少女の声が急に背後から聞こえ、エフェナは驚いてその場から飛び退く。
「サンタクロースの見習いだそうだ。暇潰しに話をしていただけ」
「あ、こんばんは〜」
「こんばんは、です……」
 気まずげに挨拶をしたエフェナに頭を下げて、けれど彼女は笙をやはり睨みつけたまま手を伸ばして笙の服の裾を握る。
「遅くなりました……でも…………他の人と話すのは……NGです……」
 待ち合わせ時間ぎりぎりに着いているのだから、遅れてはない。
 だが先に着いていた笙が、時間潰しだとしても知らない女の子と話しているのは見たくない。
 不機嫌な彼女に対して笙は微笑を浮かべ、頭を撫でて脛を思い切り蹴飛ばされた。
 頬を膨らませて笙の裾を引っ張り歩き出す彼女に合わせて歩き始め、笙もエフェナに別れを告げる。
「ま、俺は彼女の愛情を確かに感じているのだから、心配は要らんようだが……な?」
 蹴られた脛は痛いし怒らせてしまったのは予定外だったけれど、その怒りは確実に『嫉妬』だ。
 彼女も笙に対して独占欲を抱いてくれていることを目の当たりにすることができて、笙の頬は緩む。
 予約していた店に着くまでに機嫌を直して貰おうと、笙は裾を引っ張る彼女を抱き締める。


 ☆ ★ ☆ ★


 離れてしまったのでエフェナには二人の会話は聞こえてこないが、彼女の顔は先ほどの怒りとは違う意味で赤面しているのは遠目でも見て取れた。
「笙さん、もうプレゼント貰っているじゃないですか」
 エフェナと話をしているときは確かに『自信』は欲しいものだったろうが、彼女と合流して同じ時を刻み始めた彼は、彼女から人の目には映らないプレゼントを贈られているようにしか見えない。
 そして彼女のほうも、きっと笙から沢山のプレゼントを貰っているはずだ。
 出番を奪われたエフェナは、それでも嬉しそうに笑っている。
 人が幸せそうに微笑む姿を見るのは大好きだから。
  そんなエフェナがプレゼントを配る必要のない恋人達にあげられるものは


「──ぁ、雪……?」
「ホワイトクリスマス、だな」

 幸せを纏う今宵の全ての恋人達へ、空から小さな雪が降り注ぐ。



 ─── ♪ HAPPY Merry Christmas!! ─── ♪
 













━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【fa4559/笙/男性/外見年齢 24(実年齢32)/アーティスト・種族:豹 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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申し訳ありません!!
此方の手違いにて納品が遅れてしまいました……
大変お待たせしてご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。
WhiteChristmas・聖なる夜の物語 -
葵 藤瑠 クリエイターズルームへ
Beast's Night Online
2008年01月15日

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