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『First Step ―after the dice bible― 』
書目・皆6678)&書目・統(7111)&アリサ=シュンセン(NPC3218)



「……僕も、好きだよ」
 囁きの後に、涙を流すアリサに再度口付けをする。
 唇が離れた後、書目皆は情熱的にアリサを見つめた。幸せ過ぎて、頭の中が真っ白である。
 もう一回、と唇を近づけるが、アリサが先に口を開いた。
「カイ、もう一つ言わなければならないことが」
「え?」
 いい雰囲気に流されていた皆は、動きを止める。
「倒れていたあなたを運んで帰ったそのお礼で、ワタシはここに滞在しているのです」
「?」
「窓に鍵がかかっていたので、正面から帰ってきたのです」
 その言葉に皆は「え」と呟く。
 つまり、アリサは正面から入ってきた。ということは、皆の祖父母に彼女は見られたということだ。
 いや、どちらにしろ遅かれ早かれアリサの存在は言わなければならないことだ。なにせ今の彼女は、戻るべき本がないのだ。
「現在のワタシが姿を消せないこともありまして、とりあえずあなたを運んで帰って来た時刻が遅かったのでここに泊めていただいた形になっています」
「……そっか。もうアリサは本に戻れないもんね……。
 うん。二人で生活を始める準備をしようか」
 にっこり微笑む皆に、アリサが困惑した表情を浮かべた。
「ほ、本当に……ワタシと暮らすおつもりですか……?」
「もちろん! えっと、まずは着替えにパジャマ、生活必需品を揃えないとね」
「あ、あの……ですが、衣服を買うのもお金がかかります。お構いなく」
「貯金を使うから心配しないで、アリサ」
「ですが……」
「遠慮しなくていいんだよ、アリサは。僕がしたいから、するんだから」
「………………わかりました」
 彼女は決意した顔で頷く。深々と頭をさげた。
「感謝します、マスター」
「い、いいから頭あげてよ。他は……布団は一組だけでいい、かな……えーと」
 そこであることに考えが行き着き、皆は顔が赤く染まる。
「いきなり一緒に寝るっていうのは……いや、アリサと布団に入ったら眠れるわけない!」
「安眠を妨げるようなことはしませんが」
「そうじゃなくて……」
 脂汗を浮かべる皆は、アリサを上から下まで見てから視線を剥がした。か細くて折れそうな体躯、だ。
「その、僕も男だから、求め……ごほっげほっ。……客間を使うかい?」
 無理矢理咳で誤魔化す皆をアリサはじっと見つめている。なんでそんなに真っ直ぐ見てくるんだと皆は俯いてしまった。
「求めるというのは、ワタシと性交をしたいということでしょうか」
「ぶっ!」
 あまりにはっきり言われて皆はアリサを思わず見る。彼女は羞恥などないように、姿勢を正して皆に視線を定めていた。
「ワタシは構いません。この肉体に欲情するようでしたら、どうぞ遠慮なく」
「よ、よ、欲情ってアリサ……」
「主の中には、ワタシの外見が幼すぎて性的対象にならないとおっしゃった方もいましたので。
 カイはどうでしょうか?」
「……ぼ、僕、は……」
 だらだらと汗が流れる。まさか女の子からこうもはっきり言われるとは……!
「アリサだから……ほら、ね?」
 何が「ほらね」なのか意味不明ではあるが、皆の心を彼女は読み取ってくれたようだ。
「そうですか。でしたら問題はないと思います。ワタシは皆に抱かれても構いません」
(え、笑顔で言われても……)
 照れとかないのかな、とうかがっていると、アリサは少し照れたように微笑んだ。その笑みに皆の心臓が大きく跳ねる。
(……可愛い……)
 ふらふらと吸い寄せられるようにキスの体勢に入っていくが、ハッとして瞬きをした。
 そうだ。先にすることがある!
「おじいさんにアリサを紹介しないと!」
「おじいさん、ですか」
「うん。知ってると思うけど、同居してる祖父母がいて。実質、家主は僕のおじいさんなんだ。アリサと同居する許可をお願いしないと!」



「おじいさん、ちょっとお話が」
 リビングに居た統は、こっそりとこちらを覗いてくる皆を見て怪訝そうにした。
 皆はリビングに入ってくると、背後の人物を手招きした。
 皆を運んで来てくれた少女だ。奇抜な格好なのは、昨今の流行なのだろうかと思ってしまう。
 正座をする皆の横に、少女も倣うように正座する。孫よりもこっちの少女のほうが姿勢がいい。
「お願いがあります、おじいさん」
「お願い?」
「彼女と、アリサとここで一緒に暮らしたいんです」
「………………」
 アリサというのは、隣に座っている西洋人の娘のことだろう。
 統は目を少し細める。
(このところ皆の様子が違っていたのは、アリサさんのことを考えていたからだろうか)
 女性よりは本、と言い切りそうな孫が……ふぅん。
(……皆がこんなに真剣に頼みごとをするとは)
「ふむ。アリサさん、だったかな?」
「はい。アリサ=シュンセンと申します」
 日本語は流暢だ。
(遠いところから来たのだろうか……。外見はまだ少女のようだが、随分と真摯な眼差しをしている)
 あまり余計なことを訊いてもいけないだろうし……何か問題があるから皆もこうして頼みごとをしているのだろうし。
「ミスター、ご迷惑は承知でワタシからもお願いいたします。
 こちらにワタシを置いていただけないでしょうか? あまりお役に立てないかもしれませんが、精一杯尽くしますので」
「おじいさん、アリサは他に行くところがないんだ! 僕からもこの通り!」
 床に額を擦りつける皆を見て、アリサが申し訳なさそうに眉をさげる。そしてゆっくりと自身も土下座をした。
(……う〜む。随分と皆を想ってくれている様子だが)
 二人を見比べ、顎に手を遣る統。
 生活費をきちんと家に入れている皆のことだから、そのへんはきっちりするだろうし……この少女も性格は真面目そうだ。
 今さら一人くらい増えてもさして問題はないが……。
「……常識をもって生活できるのならば同居は構わないが……」
「本当っ!?」
 パッと顔を輝かせて頭をあげる皆は、本当に嬉しそうだ。
(おーぉ、ものすごい喜びおって)
 統の前で皆はアリサの顔をあげさせると、手を握って笑顔で言う。
「良かった! これでアリサもここで暮らせるよっ」
「……は、はぃ。ありがとうございます、カイ。それに、ミスター・ショモクも」
 こちらにもぺこりと頭をさげてくるアリサは、統の目から見ても十分に可愛らしい娘だ。孫が夢中になるのもわかる気がする。
(同居はいいんだが……まるで新婚のような空気だ)
 この二人と同じ屋根の下とは……うぅむ。
 アリサは再び深々と頭をさげた。
「なにかご用がありましたらおっしゃってください」
「……うむ。バイトとして働けるかどうかは、試用期間を設けさせてもらう」
「おじいさん! アリサは、」
「良いのです、カイ。ここに置いていただく以上、働かねばなりません。なんなりと、ミスター」
 ……なんだろう、この二人は。
(いきなり空気がまた変わったが……どういう関係なのか。まるで従者とその主みたいだが、いや、皆はヘタレた主のようだが……)
 恋人、ではないのか?
 わけがわからなくなってきた統ではあったが、ごほんと大きく咳をして口を開く。
「まず皆の仕事を手伝ってほしい。ネット通販の発送や、年明けの売り出しの準備であるとか……。古書店も案外忙しいのでね」
「承知しました、ミスター。では早速。
 カイ、仕事をワタシに教えてください」
「ええ……? アリサ、いきなり?」
「いきなりではありません。ご厄介になるのですから、仕事を早々に覚えなければ」
「先に着替えとか買わないと!」
「……あぁ、そうでした」
 アリサは我に返り、頷く。皆は大きく嘆息した。
「……仕事は徐々に覚えてくれたらいいから……」
 あまりにもせっかちなアリサに、さすがに統も遠慮気味に言う。
 アリサは肩を落とす。
「すみません……。どうも以前の感覚が抜けていないようです……。時間が切迫しているように行動してしまう……」
「急がないといけない理由でもあるのかね?」
「い、いえ、こっちのことですおじいさん。そ、それじゃアリサと買い物に行きますから」
 そそくさとアリサの背中を押して出て行く皆を、統は見送る。
 なんだか……前途多難な予感がした。



 部屋に戻って来た皆はふぅ、と溜息をつく。
 今までのアリサは、短い時間しか動くことができなかった。一つ一つの行動を焦るのは仕方がない。
「すみません……」
「いいんだよ、アリサが気にしなくても。
 そうだ。買うもの決めないと。着替えと、パジャマとー……歯ブラシに、他は何かいるかな」
「布団はカイと一緒でいいです」
「ふむふむ。布団は僕と一緒…………」
 って。
 ぎし、と動きを鈍らせる皆の前で、アリサは首を傾げる。
「何が必要かワタシもよくは知りませんが……。主の中には女性も多くいましたし、だいたいはわかると思います」
「…………」
「カイ?」
「えっ!? あ、うん?」
「…………安眠を妨害するようでしたら、客間を使わせていただきますが」
「妨害なんて! ぼ、妨害、なんて……」
 一緒に眠りたいが、そんなことをしちゃってもいいのだろうか。アリサはいいって言ってくれてるけど。けど!
(おじいさんも居るし…………ごそごそしてるとバレちゃったり……)
 廊下を挟んではいるが、結構近い!
「が、頑張るよ、僕」
 力なく言う皆の言葉の意味がわからず、アリサは「はぁ」と洩らした。
 皆は意識を切り替える。とにかく今はアリサの着替えとかのことだ!
「さ、買い物に行こう、アリサ!」
「は、はい」
 皆に握られた手を見て、アリサは頬を朱に染める。可愛い。
 思わず皆はまたアリサにキスをしてしまう。
「ん……。カイは、キスがお好きなのですか?」
「お、思わず。……嫌かい?」
「いいえ。カイとするのは、嫌いではありません。もっとしてください」
「……っ!」
 思わず皆はよろめき、それからアリサの手をぎゅっと握って無理矢理笑顔を作る。
「と、とりあえずか、買い物、行こう。ね?」
「はい。カイ、なぜ前のめりなのですか?」
「いや、ちょっとね。ふふ」

 ぱたぱたと買い物に出て行く二人を、統は店先から見送る。
「……皆はあの子と結婚する気なのかどうなのか……。ふ〜む……」
 なんだかこれからの生活、賑やかになりそうだ。 
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2008年01月08日

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