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『【Delicate distance】 』
トリストラム・ガーランド(mr0058)&アルバート・ピアソラ(mr0768)&(登場しない)

●白い風景で
 ちらちらと、空から白い小さな綿毛のような儚い雪が舞い落ちる。
 それは、時が来ればいずれは溶けて、消え去ってしまうもの。
 でも今は振り積もってマチを覆い、白く白く染め上げていく。

 それはそれはまるで、淡い ユメ のように。

 見慣れたマチ。いつものマチ。
 馴染んだ風景は、瞼を閉じてもカンタンに頭の中で思い描くことができる。
 そして、瞳を開ければ……。

●故郷の冬
 のっぺりとした表情のない近代的な建物と、細かい装飾が施された古くからの建造物が混在する街を縫うように、赤い二階建てバスが走っていく。
 見慣れた風景をぼんやりと見上げていると、突然クラクションの音が響いた。
 と同時に、ぐいっと力強く腕を引かれる。
「あ……っ」
 引っぱられた拍子に二歩三歩、よろめくように足を進め。
 それでもバランスを立て直しきらず、何かにぶつかった。
 微かに、馴染み深く覚えのある香りが、鼻腔をくすぐる。
「ぼーっと歩いてると、車に轢かれるぞ」
 面白がるニュアンスの声と共に、少し大きな手が子供をあやすように、ぽんぽんと彼の頭を撫でる……というよりも、むしろ軽く叩かれた。
「それともお節介どもが、何か要らぬことでも耳に吹き込んでいたのか?」
「お節介って……姐さん達が怒るよ、アル兄」
 ついた腕を突っ張り、トリストラム・ガーランドは受け止めた相手から身を離す。それから顔をあげると、レンズの向こうで印象的なハシバミ色の瞳が細められた。
「お前に怪我をさせる方が、俺としては大問題なんだがな」
「それは……」
 ――俺が、『親友の弟』だから?
 そんな疑問を飲み込んだ彼はアルバート・ピアソラに背を向け、上着の襟を整えてから何事もなかったように歩き始める。
「……忘れてるぞ」
「何を?」
 疑問の表情でトリストラムが肩越しに答えれば、やれやれと首を振った相手は黒髪をかき上げ、彼を見下ろした。
「言っただろ。もう少しで、車に轢かれるところだったって」
「ぅ……」
 喉の奥で、言葉が詰まった。
 話の流れですっかり忘れていたことを恥じ、足を止めたトリストラムは俯きがちに口を開く。
「ありがと……それから、ごめん。ちょっとボーっとしてた」
 素直に謝るトリストラムに、どこか不機嫌そうだったアルバートはようやく満足げな表情を返した。
「にしても、相変わらず空気の悪い街だな。それに灯かりが明る過ぎて、星も見えやしない」
「そりゃあ、アル兄の故郷は暖かいし、空気もよくて星も沢山見えるけどさ。でも、ここも嫌いじゃないよね」
「ま……ここは有意義な学びの地だったし、仮にもお前の生まれた街だからな」
 アルバートの答えに、トリストラムは僅かに安堵を覚える。
 そして再び、肩を並べて二人は歩き始めた。

   ○

 古い王の名を冠した広場の真ん中には、大きなクリスマスツリーが天を指していた。クリスマスのためにわざわざ北の地から運ばれてくるというモミの木は、上から下までカラフルな電飾が瞬いている。
 広場に着いてトリストラムが周りに見回すと、既に人々が集まっていた。
「いつもながら見事なツリーだけど、混雑も相変わらずだね」
「そうだな。はぐれるなよ、トリス」
「俺も子供じゃないし……それにアル兄は目立つから、すぐに判るよ」
 いつまでたっても、子供扱いなんだからとトリストラムが呟けば、アルバートは面白そうに彼を眺め。それから、巨大なツリーを見上げた。
「それにしても……いつもは、君の兄弟達と五人で見に来ていたのにな」
「俺だけじゃ、不服とか」
 苦笑と共に冗談めかせば、アルバートは笑顔で彼へ視線を戻す。
「そんなことはない。むしろ、君の次兄そっちのけで君を独り占めできるのは、嬉しいよ」
「独り占め……ってっ」
 思いがけない不意打ちに、トリストラムが返答に困る。そんな困惑の表情すら楽しげに見守るアルバートに気付いた彼は、つぃと明後日の方を向いた。
 ――何だか、頼りないと思われそうな反応を、見られたくなくて。
「おや。機嫌を損ねたか?」
「違うよ」
 今度は、トリストラムが否定の言葉を返す。
「ただ、もしアル兄がつまらなかったら、何だけど」
「そんなことはないと、さっきも言っただろう。それに、お前をからかうのは楽しいしな。何となく、風の精霊たちがトリスに構いたがるのも判る気がしてきた」
 ハシバミの瞳を細めるアルバートだが、突然の風が彼の髪をかき乱した。突風にマフラーは翻り、晒された首筋に寒風が吹き付け、アルバートは寒さで反射的に首を竦める。
「姐さん。アル兄が風邪ひいたら、怒るよ?」
 困ったように頭を振ったトリストラムは、傍らの精霊に声をかけながら手を伸ばし、アルバートのマフラーを整えた。
「すまないな」
「こっちこそ、ごめん。姐さんのしたことだし」
 謝るトリストラムを、じっとアルバートは見つめて。
 彼の肩を掴み、ぐいと引き寄せた。
「え……っ?」
「気を抜いてると、人並みに流されてはぐれるぞ」
「あ、うん」
 ありがと。と、彼は口の中で礼を言う。
「やはり、この街のツリーは綺麗だな。来てよかった」
 低い呟きにトリストラムが顔を上げれば、ひとひらの白いカケラがアルバートの黒髪へ落ちた。
 更に視線を暗い空へ向けると、空の底から幾つもの白い雪がひらひらと舞い降りてくる。
「アル兄……雪だ」
 腕の中の言葉に、アルバートもまた空へ目をやった。
「どおりで、冷えると思った」
 ふっと白い息を吐いてぼやくアルバートに、トリストラムは小さく笑う。
「寒い? アル兄の出身って、もっと暖かいからね」
「まぁ……ここに暖かいのがいるから、平気だがな」
 答えながら、アルバートがすっぽりと彼を包んだ腕に力を込め。抱き寄せられた形になったトリストラムは、反射的に身を捩った。
「ちょっと、アル兄っ」
「こら、暴れるな。子供は体温が高くて、暖かいんだ」
「俺、子供じゃないって」
 頬を膨らませるトリストラムへ、くつくつとアルバートが笑う。
「二人で来て、よかっただろう。トリスの兄弟が一緒だったら、こんなことは出来ないぞ?」
 返す言葉もないトリストラムは喉の奥で唸り、腕から抜け出すことも諦めて、再びツリーと降り始めた雪を眺めた。
「雪、積もるのかな……」
「トリス」
 呟きの合間に改めて名を呼ばれ、彼は長身の相手へ振り返る。いつの間にか腕を解いたアルバートは、包装紙で包まれ、リボンのかかった箱を彼へ差し出した。
「メリー・クリスマス」
「あ……うん、メリー・クリスマス。ちょっと待って、俺もあるんだ」
 驚いてプレゼントを受け取ったトリストラムは、慌てて手にした鞄からラッピングした箱を取り出す。
「メリー・クリスマス、アル兄」
「ああ、メリー・クリスマス。ありがとう」
 礼と共に受け取るアルバートへ、トリストラムは渡した側ながらも嬉しそうに頷いた。
 そんな彼の表情に、がしがしとアルバートは自分より身長の低い相手の頭を撫でる。
「やめ……髪、ぐしゃぐしゃになるだろ。俺も、子供じゃないんだから……」
「じゃあ、礼はキスの方がいいか」
「あ、アル兄っ!?」
 うろたえながら身を引くトリストラムに、声をあげてアルバートが笑った。
「迷子になるぞ」
 ほら。と、手を掴み、引き寄せる。
 引っ張られた方は、その拍子に二歩三歩とたたらを踏み。
 きゅっと口を結んでから、トリストラムは自分よりも少し大きな手を握り返した。
「寒いから、家に帰って紅茶で温まるか」
「寒がりなんだから」
 僅かに強がりの色が混じった彼の言葉に、アルバートは笑い声を返し。

 ひらひらと降る雪の中を、二人は肩を並べて帰る。
 ――暖かな、暖炉の炎が待つ家へと。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【mr0058/トリストラム・ガーランド/男性/17歳/ユグドラシル学園学士(専攻:精友学)】
【mr0768/アルバート・ピアソラ/男性/19歳/ユグドラシル学園学士(専攻:幻装学)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お届けするのが遅くなり、申し訳ございません。
 お待たせ致しましたが、「WhiteChristmas・恋人達の物語」が完成いたしましたので、お届けします。
 恋人未満の二人ということで、軽いジャブの応酬という感じになりました。如何でしたでしょうか。トリストラム氏はもちろん、始めて書かせていただく機会をいただいたアルバート氏のイメージが崩れていないことを、祈るばかりです。
 最後となりましたが、ノベルの発注ありがとうございました。
(担当ライター:風華弓弦)
WhiteChristmas・恋人達の物語 -
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学園創世記マギラギ
2008年01月08日

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