▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『【Second Christmas】 』
聖 海音(fa1646)&小田切レオン(fa1102)

●白い風景で
 ちらちらと、空から白い小さな綿毛のような儚い雪が舞い落ちる。
 それは、時が来ればいずれは溶けて、消え去ってしまうもの。
 でも今は振り積もってマチを覆い、白く白く染め上げていく。

 それはそれはまるで、淡い ユメ のように。

 見慣れたマチ。いつものマチ。
 馴染んだ風景は、瞼を閉じてもカンタンに頭の中で思い描くことができる。
 そして瞳を開ければ、ほら‥‥。

●光あふれる街で
 彼女を包み込むのは、街の雑踏。
 行き交う人々の足音や話し声に、車の音。立ち並ぶ店から流れる、様々な音楽。
 開いた瞳に飛び込んでくるのは、夜の星を霞ませる鮮やかなイルミネーション。
 街路樹を飾る無数の小さな光が輝き、あるいは光が集まって出来た天使や星のオブジェが瞬く。
 そんな光の洪水のような街の広場には、ひときわ大きなクリスマスツリーが飾られていた。
 白い枝葉には、沢山のオーナメントがぶら下がっている。
 金色の星と銀色のモール、赤や緑の光を反射するメタリックなボールに、クリスマス定番のリボンのかかったプレゼントの箱やクリスマスリース、長靴にサンタ、それから雪だるまなどの人形飾り。
 ほっと心が暖かくなるような、そんな『夢』を集めたツリーを、聖 海音は見上げていた。
 時計を確認すれば、恋人との待ち合わせまではまだ少し余裕がある。早く来過ぎてしまったのは、逢える時間を待ちきれなかったから。少しでも‥‥早く、彼に会いたくて。

   ○

 付き合い始めて、これが二度目のクリスマス。
 プレゼント、気に入ってもらえればいいのだけれど。
 クリスマスだから料理にも気合を入れて準備万端にしてきたものの、つい作り過ぎてしまったし、量が多かったらどうしよう、とか。そもそも彼の口に合うかしら、とか。
 そんな心配が、胸の奥に少しだけ。
 でも本当に、彼は美味しそうに彼女の料理を食べてくれるから。
 何より、嬉しそうな笑顔がとても無邪気で、その笑顔がとても愛しくて。優しくて、純粋で真っ直ぐで、青空のような‥‥そんな人。想いは付き合い始める前から、そして付き合っている今も変わりない。
 今日これから一緒に過ごすひと時を思うだけで、自然と表情が綻ぶ自分に彼女は気付く。
 誰が見ている訳でもないけれど、それを隠すように冷えた指先を口元で合わせ、海音はほぅと白い息を吐いて手を暖めた。
 心温まる光景でも、夜の空気はシンと冷えてくる。
 小さな紙袋を胸に抱き、彼女が改めて時計を見れば、二本の針は待ち合わせ時間を差していた。
 そろそろ来るだろうかと、行き交う人々へ目を向ける。
 彼女と同様に、ツリーの前で待ち合わせをしていた男性へ、人ごみを抜けてきた女性が手を振って声をかけ、笑顔を交わすと二人は揃って人の流れに消えていく。
 そんな様子を見ながら、海音は肩から流れる髪を指に絡めた。
 今日の服装はいつもの和装と違ってカジュアルな洋装で、シックなコートでそれを覆っていた。髪も少し纏め方を変えたので、いつもと違った雰囲気に見えるかもしれない。
 それで判らない‥‥なんていう事は、ないと思うのだけれど。
 見上げると、雲の立ち込めた暗い空から、ひらひらと白い綿毛のような雪が舞い降りてくる。
 この光景を二人で見れたら‥‥と。
 白い息を吐いてぼんやり考えながら、海音は待ち合わせの相手を待った。

   ○

 バイトが遅くなっているのか、それとも急な仕事でも入ったのか。
 約束の時間が過ぎても、まだ相手は現れなかった。
 月を隠す雲のように、ゆっくりと不安が胸にわき起こる。彼に限って、待ち合わせの場所や時間を間違えるはずはない。単に仕事が忙しいだけならいいのだが、何か事故にでも巻き込まれていないだろうか。
 ポケットから携帯を取り出して確認しても、新着のメールやメッセージはなく。
 顔を上げて周りを見回せば、人の流れをかき分けてくる長身の姿が目に入った。
「あ‥‥っ」
 一瞬、大声で名前を呼ぼうとしたが、それを堪える。
 芸能人としてそれなりに名前が売れている二人だから、そうと判れば人々に囲まれてしまうだろうし、そうなったらせっかく二人でゆっくりと過ごす時間がなくなってしまう。かといって、彼の本名を呼ぶ事にもためらいがあった。
 その代わり相手にはっきり判るよう、大きく手を振る。
 彼女を見つけ出した相手は、駆け寄ってきて‥‥ほんの数歩手前で立ち止まった。
 ここまで全力疾走で走ってきたのか、肩は大きく上下し、息も切れている。荒い息のせいで、言葉も出ないようだ。
 気遣うように見守る彼女に、片手をあげて大丈夫だと身振りで示してから、彼は空を仰いで大きく深呼吸をして息を整え。
「すまねぇ、遅くなった!」
 ぱんと両手を合わせ、深々と頭を下げて小田切レオンが謝った。
「いいえ。私も、いま来たところですから」
 にっこりと微笑んで答える海音を、レオンはじっと見つめる。それからおもむろに手を伸ばして、寒さで紅を差したような頬に当てる。
「冷えてるじゃねぇか。ずっと、待ってたんだろ?」
 大きな手の暖かい温もりに、海音は寒さとは別の理由で頬を赤く染めながら、僅かに首を横に振った。
「少し早く、着いただけですから‥‥」
 遅刻を責めない相手にレオンは申し訳なさそうな表情を浮かべるが、その気遣いを無駄にしたくはなく。それ以上謝る代わりに、こつんと額に額を当てた。
「ん。熱とかは、ねぇな。雪の中で待たせて風邪ひかせたら、洒落にならねぇ」
 それから、彼女が紙袋と一緒に手にした携帯が目に入る。
「あんまりに慌ててたから、携帯でメールするのも忘れてたぜ」
 我が事ながらがっくりと脱力するレオンの様子に、海音はくすくす笑い。そしてうな垂れた彼の肩へ、ふわりと手を置いた。寒風に晒された首筋を包む暖かい感触にレオンが手をやれば、柔らかな編んだ毛糸が指に触れる。端を辿って手に取れば、それは紺一色のシンプルなマフラーだった。
「あの、少し目が不揃いかもしれませんけど‥‥レオン様へ、プレゼントです」
 驚きに目を瞬かせたレオンだが、すぐ恋人へ満面の笑顔を浮かべる。
「すげえ暖かい。サンキュな、海音!」
 そんな彼の笑顔につられるように、海音もまた柔らかな微笑を返した。
「いえ。間に合って、良かったです」
 ほっと安堵の息を吐く彼女の手を取れば、手袋をしていない指は冷たく。それを暖めるようにしっかり握ると、レオンは自分のコートのポケットへ一緒に突っ込んだ。
「あの、レオン様‥‥」
「こうしときゃ、暖かいだろ?」
 見上げる海音に、照れを隠すように空を仰いで答えたレオンは、それから彼女へニカッと笑ってみせた。
「はい。とっても、暖かいです」
 こくりと頷いて海音が答え、レオンへ寄り添い。
 そして二人は、肩を並べて歩き出した。
「あ〜‥‥海音」
 海音のペースに歩幅を合わせるレオンがおもむろに口を開けば、彼女は問う視線で彼を見上げ。そんな瞳に、彼は笑みを向けた。
「メリー・クリスマスな」
「はい、メリー・クリスマスです。ケーキもお料理もたくさん作りましたから、お腹いっぱい召し上がって下さいね」
「そりゃあ楽しみだぜ。海音の料理、マジ美味いからな〜」
 嬉しそうに喜ぶレオンの言葉を、海音もまた笑顔で聞きながら。
 白い雪に包まれた街を、二人は肩を並べて家路についた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【fa1646/聖 海音/女性/外見年齢24歳/歌姫】
【fa1102/小田切レオン/男性/外見年齢20歳/歌手兼俳優】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 お待たせ致しましたが、「WhiteChristmas・恋人達の物語」が完成いたしましたので、お届けします。
 BNO本編の方でも、本当にお世話になりました。今回は待ち合わせ中に思いにふける海音さんを中心に描いてみましたが、如何でしたでしょうか。いつものリプレイでは、なかなかPCさん一人一人にまで踏み込んだ描写をする機会がないので、楽しかったです。
 お二人、末永くお幸せに。
 いつか結婚式なんかも書かせていただける機会があれば‥‥などと、密かに祈りつつ。
 最後となりましたが、ノベルの発注ありがとうございました。
(担当ライター:風華弓弦)
WhiteChristmas・恋人達の物語 -
風華弓弦 クリエイターズルームへ
Beast's Night Online
2008年01月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.