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『謎のもみの木迷路 』
エル・クローク3570

「ひっろい広場!」
 空からその公園を見下ろしたエファナは、嬉しそうな声をあげた。
「アトラクションを作るのにかっこうじゃない!」
 すぐにステッキを振り回し、真下の広い広い公園にかざす。
 一瞬、公園がまばゆい光に包まれた。
 そして次の瞬間には――
 もみの木の森状態になっていた。
「ふっふーん☆」
 エファナは満足そうにつぶやいた。
「たくさんトラップもしかけたもんね。あっちがスタートでこっちがゴール、と……それで、ええと」
 青い瞳を斜め上に向け、
「ゴールした人にはご褒美だよね、何がいいかな。そだ」
 懐をごそごそあさり、飴玉を掌に乗せた。
「この、食べると夢心地で幸福な気分になれる飴。これあげよっと!」
 さてあなたは、この壮大な迷路に挑戦しますか……?

 ★★★ ★★★

 その広場を見つけたのは、偶然に過ぎなかった。
 入り口に看板が立っている。「もみの木迷路、挑戦者募集中!」
「へぇ、迷路か……」
 エル・クロークはふうむと楽しげにつぶやいた。
「いつ出来たか知らないけど、何やら楽しそうだね。中の造りがどうなっているか興味があるから、ちょっと入ってみようかな」
 ねえ、セレネー嬢――と、クロークは手をつないで連れていた少女に話しかけた。
「面白そうだと思わないかい?」
 波打つ白い髪にうさぎのような赤い瞳。セレネーという記憶喪失の少女は、見た目10代半ばながらも精神年齢の低さからくる仕種、指をくわえて、
「めいろ? 森?」
 と不思議そうにクロークを見上げる。
「入ってみたら分かるよ」
 クロークは優しく言った。セレネーはにっこりうなずいた。
 そして2人は迷路に足を踏み入れる――

 中はもみの木で埋め尽くされすぎて、暗い。上空を見れば太陽も見えない。陽射しが差し込むこともない。
 飛んだりすることも不可能そうだ。――元々クロークはウインダーではないので空は飛ばないのだが。
 迷路の基本と言えば。
「こういう迷路は、右手を壁に触れながら歩けば、やがてはゴールに辿り着ける筈だ」
 クロークはもみの木が林立しているのを壁に見立てて、右手を触れるほどに近づけた。
「右手? 木に近づける?」
 セレネーが真似しようとする。
「ああ、セレネー嬢は僕の手を握ってくれていればいいよ。はぐれないように」
 言うと、セレネーは大人しくクロークの左手を握った。
 そして辺りを見渡して、
「森……私の森、みたい」
「……ああ、精霊の森みたいだね」
 セレネーの住む森はこれほど暗くはないが。どことなく神秘的なところが……似ている。
 時間は気にする理由がない。
「散歩がてら、のんびり歩いていくことにしようか」
 誰に伝えるでもなく言いながら、クロークの足はゆっくりと動き出す。
 セレネーはその横にぴったりくっついた。

 迷路に迷いこんだ人間は何人かいるらしい。時々どこからか人の声がする。
「あははっ。皆好奇心旺盛だなあ」
 クロークはセレネーと笑いあいながら前に進んだ。
 と――
 がさっと音がして、セレネーがびくっとクロークの後ろに隠れた。
 クロークもとっさに身構えた。だが――
 目の前で起こった現象は。
 のそ、のそ。
「………。もみの木が動いてる……?」
 のそ、のそ、どしん。
 動く木はクロークたちの前にやってきて、そのまま動かなくなった。
「………」
 クロークはぽりぽりと頬をかく。「前に進めなくなっちゃったなあ」
 するとセレネーがクロークの手を離し、ぱたぱたと目の前に鎮座してしまった木に近寄った。
「あ、セレネー嬢、危ないよ――」
 しかしセレネーは木に手をつけ、頬をつけ。
「もみの木、さん。ちょっと、どいて?」
 話しかける。
 クロークは片手で片肘を持った。これはひょっとすると……
 そして案の定。
 のそ、のそ、のそ
 もみの木は道を退いた。
 セレネーは満面の笑みで振り向いた。
「クローク! クローク!」
「ああ、セレネー嬢、ありがとう」
 柔らかく微笑むと、セレネーはぶんぶん首を振った。
「ちがう。ありがとうは、もみの木さん」
「ああ、そうだね」
 ありがとう、もみの木さん。
 告げると、なぜかもみの木が赤くなったような気がした。

 続けて右手で木伝いに歩く。
 森の気配はお互いに嫌いではない。迷路を突破という退屈な作業も、2人で楽しんだ。
 動く木がそこかしこにあった。道の邪魔になる木はセレネーがどかした。たまに先にクロークが声をかけてみると、頑として動かなくなるのが困ったものだ。
 そんな時は木がどこかへ行く気になるまで2人で待ちぼうけ。
「ねえ、もみの木ってなあに?」
 暇な時間にセレネーは尋ねてきた。
「クリスマスによく使われる……うん、葉っぱが、変わった木だろう?」
 と言ってもセレネーが知っている木の葉などたかが知れているだろうが、確かに地面に少し落ちている木の枝の形の不思議さに、セレネーは気を引かれたようだった。
「おもしろい。かわいい」
 木の枝を拾ってきゃっきゃっとセレネーがはしゃいだ時。
 のそ、のそ、のそ。
 まるで反応したかのように、それまで動かなかった木が動いた。
「……褒められて嬉しかったのかな?」
 小さくつぶやいて、「セレネー嬢、開いたから行こう」と少女の手を取ろうとすると、セレネーは動く木に駆け寄った。
「あのね、あのね、この葉っぱもらっていってもいい?」
 手に、一本のもみの木の枝。
 赤い瞳をきらきらさせる少女に、動く木はぱら……と何かを落としてきた。
 新しいもみの小枝。
「わあっ、くれるの?」
 嬉しい、ありがとう! とセレネーは笑顔で言った。
 木はしゃべらない。しかしセレネーとの間で確かに会話が成立しているのだと、クロークは思った。

 さらに歩く。
 と、突然目の前に人間が現れた。
 思わずセレネーを背後に隠したが、そこにいるのは普通の人間の男のようだった。
 男はきょとんとして辺りを見渡していた。その顔が、やがて真っ赤になり、体がぶるぶる震えて――
「くっそ……!」
 思い切り地団駄を踏んだ。「腹が減ったからってきのこなんか食うんじゃなかったぜ!」
「こんな森の中できのこなんか食べたのかい? それはそもそも危険だよ」
 命の危険だ。うかつにきのこなんか食べるものじゃない。
 しかし今はそういう問題ではないらしい。
「あのきのこ……! ワープ能力がありやがる……!」
「うん? 元に戻ってきてしまったのかな」
「ああ! ちっくしょう3時間も歩いたのによう!」
「……それはお気の毒に」
 クロークたちはまだ1時間だ。その3倍ならかなりのところまで――行ったかどうかは分からないのが迷路だが、それなりに迷路の構図が分かってきた頃だったろう。
 そこで突然ワープさせられたら、構図が崩れること間違いない。
 わめきながらどこかへ行ってしまった男を見送ってから、クロークは「ふむ」とつぶやいた。
「きのこか……僕には食べられないから関係無いね、少し残念だな」
「私、食べる?」
 セレネーが目をぱちぱちして言ったが、いや、とクロークは苦笑した。
「うかつに食べない方が安全らしいね。とりあえず進もうか」
「うん」
 セレネーは大人しく従った。

 さらに歩く。
 右手の壁伝い、という方法をとると、遠回りすることもある。それでも確実に迷路の外には出られる方法なのだが。
 というわけで、クロークたちの背後から来たからと行って、クロークたちより後ろを歩いていたとは限らないのが迷路だ。

 ずざざざざざっ
 ふと背後から音がして、クロークはまたセレネーをかばいながら振り向いた。
 ――目の前を、目に留まらぬほどの勢いで走って行く誰かがいた。
「足がー! 早くなるー!」
 その人物は叫んでいた。
「でもー! 止まらないー!」
 あまり嬉しそうではない。
 呆気にとられていると、今目の前をすっ飛んでいった人物と同じ方向から、ぜえ、はあ、と息を弾ませた女性がやってきた。
「ああもう、追いつけない……」
 はぐれるよ、と女性は地面にへたりこんで、悔しそうに地面を拳で叩いた。地面は柔らかい。痛くはないだろうが。
「どうか、したの?」
 セレネーがちょこんと座って女性の顔をのぞきこむ。
「ん……? 連れがね、きのこ食べちゃってね……」
「またきのこか」
 クロークはうなる。「色んな種類のきのこがあるんだね」
「ああ、あるよ。さっきは滅茶苦茶足が遅くなるきのこだった。もう二度と食べるまいと思っていたのにあいつったら勝手に食べて、あの状態。……どっちもそっくりなきのこだったんだ」
「なるほど」
 クロークがうなずいた瞬間、
 どごん、と森を揺るがすような衝突音がした。
 女性がはっと顔を上げる。
「まさか……」
 立ち上がり、走り始めた。
 何となく、クロークもセレネーの手を引いて走り始めた。
 行く先50mほど――
 案の定。
 女性の連れたる男性が、つきあたりのもみの木に追突していた。
「………」
 とほほ、と女性が片手で顔を覆ってうつむく。
 木にべったりくっついていた男性は、やがて、ゆらっと木から離れて、仰向けに地面に倒れた。
「先が思いやられるよ……」
 女性はしゃがんでべしべしと男の顔を叩きながら、つぶやいた。

「それにしても……」
 おかしな男女と別れてから、クロークは首をかしげていた。
「もうそれなりに歩いているのに、僕たちはきのことやらを見かけないね」
 僕はものを食べられないけど、とクロークは腕を組み、
「でもどのような効果があるか調べてみたいから、出来ればひとつずつ採取していきたいな」
 と、言いながらセレネーを見ると――
「………」
 クロークはぽかんとして、セレネーの手元を見た。
「セレネー嬢……いつの間に採って来たんだい?」
「えっとね、さっきから!」
 少女の手には数個のきのこがあった。
 大きいのがひとつと、それよりは小ぶりなのが数個。
「大きいのがワープ……小さめなのは速くなったり遅くなったりというところかな?」
 セレネーから受け取り、観察しながらクロークは楽しげにつぶやく。
「うーん、調べるのにはひとつあればいいから、こんなにはいらないな。途中会った人で欲しそうな人にあげようか」
「うん」
 セレネーは素直にうなずいた。

 動く木にまた邪魔された。
「………」
 何を思ったか、セレネーは木にきのこをぷすっと刺した。いやもちろん刺さるわけがないが。
 すると本当に何を思ったか、動く木はすすすと逃げるように元の場所に戻った。
「動いてくれた……」
 セレネーが嬉しそうに微笑む。
 クロークは訳が分からなかったので――とりあえず笑っておくことにした。

 途中、憤然としている男がいた。
「相棒のやつがよ、歩くの早くて早くて困ってんだよ!」
 クロークはさっと小ぶりのきのこを差し出した。
「足が速くなるか遅くなるか。分からないけれど、相棒さんに食べさせてみるのも自分で食べるのも一興だ」
 むむっと男はうなった。
 遠くから「おーい、お前遅いぞー!」と叫んでいる声が聞こえる。
 男は顔を真っ赤にした。そして、クロークの手からきのこを奪おうとした。
「待った。物々交換」
「何だと?」
「どうせだから、いらないものをくれないかな」
「………」
 男は渋々、上着の内ポケットから掌サイズの球を取り出し、クロークに差し出した。
 クロークは受け取ろうとして――ずん、ときたその重さに驚き球を落としてしまった。
 球は転がることさえない。
「こ、この球は何だい?」
「砲丸」
「何のために持ってるんだい……」
「魔物が出てきた時のためだよ」
 でもどうやら魔物はいないらしいからな――と男は遠い目をする。
 こんなものを持っているから足が遅くなるんだ、とクロークは言わなかった。
「はい、きのこ数個。足が遅くなるのに当たっているといいね」
「ありがとよ。――この野郎! そこで待っていやがれー!」
 男はずんずんと進み始めた。きのこを手に。
 クロークは砲丸を何とか持ち上げる。
「これをもらってもしょうがないが……まあ、いいかな」
 苦笑する。セレネーが「私も、私も」と訴えていたが、
「危ないよ」
 と叱るように抑えて、彼女には決して持たせなかった。
 セレネーはぷうっと膨れた。頬を真っ赤にして、
「クロークなんか、しらない!」
 ぴゅっと飛ぶように走って行ってしまう。
「あ、駄目だよセレネー嬢――」
 砲丸ときのこを持っているためうまく動けず、クロークの視界から少女の姿がどんどん遠ざかっていく。
「セレネー嬢!」
 慌てて走り続けると、迷路を曲がったところで彼女を見つけることができた。
 少女は倒れていた。うつぶせで。
「セレネー嬢!?」
 慌てて駆け寄ると、セレネーはむっくりと起き上がり、
「足、引っかけちゃった……」
「足?」
 見やると、誰かのいたずらだろう、地面の草と草が結ばれて輪の状態になっている。セレネーはそこに足先をひっかけたのだ。
「お顔、痛いー」
 セレネーがぐすっと鼻をすすりあげる。
「ごめんね」
 顔の泥を拭ってやり、優しく頭を撫でてやった。「でも、この球は重すぎる。セレネー嬢には持てないよ」
「………」
「ごめん」
「……お腹」
「ん?」
「お腹すいた……」
 セレネーがぽつりと言った言葉に、クロークは悩んだ。きのこを食べたいの? と尋ねると、こくんとうなずきが返ってくる。
(ワープのきのこは問題外……足に関係してる2つの内のどちらかか……)
 考えていたクロークがふと横を見ると、もみの木が落としたとは思えない不自然な木の実があった。ヤシの実を小さめにしたような実だ。
「ちょっと待っていてね、セレネー嬢」
 クロークはその実を手に取った。割ってみようとしたが、硬い。
 すぐに思いついて、先ほど手に入れた砲丸をぶつける。
 ばかん、と割れた。
 中からジュースが溢れた。慌ててこぼれないよう実を傾け、指につけて舐めてみて、危険はなさそうだと判断すると、
「セレネー嬢、ほらこっちの実のジュースの方が美味しそうだ。飲んでごらん」
「うんっ」
 セレネーは嬉しそうに、口元が汚れるのも構わずごくごくと木の実のジュースを飲んだ。
 すると、転んだ際に出来ていた、セレネーの顔や腕にできていたすり傷が綺麗に治った。
「ん? ひょっとして回復の木の実だったかな?」
 クロークは感心した。これはまたひとついいアイテムだ。
 セレネーはそれで満足したらしい。
「ごめんなさい、クローク」
 ぺこんと頭を下げる。
「いいよ。じゃあ、また先に行こうか」
 クロークは微笑んだ。

 再び始まる右の壁伝い。なかなか役に立ったので砲丸も捨てずにおいた。
 すると前方からすごい勢いの何かが走ってくる。またきのこで加速した誰かだ。
 放っておいて前に進むと、
「てめえら!」
 とさらに前方から来た人物に怒鳴られた。
 見ると、先ほど砲丸ときのこを交換した男だった。顔を真っ赤にし、
「きのこ食わせてやったら、さらに足が速くなりやがったじゃねえか! どうしてくれる!」
「知らないよ。僕は『どっちか分からないけど』ってちゃんと言ったはずだから」
「く……っ」
 男は「待ちやがれこの脳みそなしー!」と怒鳴りながらどすどすどすどす相棒を追って走っていった。
 セレネーがくすくすと笑っていた。
「仲良しさん、だね」
 クロークは笑った。
「そうだね。仲良しさんだ」

 さて、歩いてかれこれ3時間――
「同じところを回っている様子もないし、順調に進んでるかな」
 クロークは満足に思いながら進んでいた。
 途中、セレネーがたくさんきのこを採ってくるので、すれ違った人々と物々交換をした。
 たくさんの物が手に入った。まず袋をもらって、その中に剣やら盾やら、貴金属やら宝石やら(この迷路ではきのこの方が価値が高いらしい)、髪飾りやら。
 髪飾りはセレネーの髪に飾って、クロークは袋をかついで進む。

 そこからまた35分経った。クロークは時計の精霊だけに時間に正確だ。
 袋小路で、どっかと座ってあぐらをかいている男を見つけた。
 男はメロンのような木の実を短剣で切っていた。そして、しゃくしゃく食べている。
「そのメロンは持参かい?」
 クロークは声をかけてみた。「もしあまったら僕の連れにも分けてくれないかな」
「いや、メロンじゃない。木の実だぞ。さっきも落ちていたし……分けなくても見つかるんじゃないか?」
 男は口をもごもごさせながら言った。
「いい、匂い……」
 セレネーが物欲しそうに、指をくわえる。
 だが異変は次の瞬間に起こった。
「ん……んあ?」
 男の、木の実を食べる手が止まった。
 その目が大きく見開かれる。
「な……なんだあ!?」
「どうしたんだい?」
 クロークが首をかしげる。男はがさっと立ちあがった。
「見える! ゴールまでの道が透けて見える!」
 ええとここからまっすぐ、突き当たりの分かれ道を右、三つに分かれてるところを真ん中、次の分かれ道を右、そのまま道なり! と男は木の実を投げ捨て、顔を輝かせ猛然と走り出した。
「セレネー嬢、僕らも行こうか」
 せっかく教えてもらった情報だ。ここからはそれにのっとって行こう――とクロークは袋をかつぎ直し、男が残していった木の実の残りで綺麗な部分を忘れず回収してから、セレネーの手を取った。

 突き当たりの分かれ道を右。
 三つに分かれているところを真ん中……

 と、真ん中に進んだところで、クロークは先ほどの男がその場にしゃがみこんでいるのを見つけた。
「どうしたんだい?」
 声をかけると、男は震える声で言ってきた。
「目……目が、見えない……真っ暗だ、前に進めない……」
 ――副作用か。
「じゃあ僕らの手につかまって」
 クロークは彼の右手をつかみ、セレネーに彼の左手をつかむように言う。
 男はそろそろと立ち上がった。
「い、いいのか……」
「せっかくいい情報をもらったからね」
 とセレネーと顔を見合わせながらウインクした。

 男の木の実の情報は確かだった。
 次の分かれ道を右。そして道なり。
 光が差し込んできた。

 外に出た。
 すでに夕方だった。
 男は迷路から出たことで、目が見えるようになったらしい、
「やった!」
 と飛びあがり、ありがとうありがとうとクロークとセレネーの手を何度も握った。
 彼とそのまま別れて――
「クリスマス……か」
 クロークはつぶやく。
「くりすます?」
 セレネーは知らないようだ。
「君の家でも準備しているかもしれないね」
 さて、セレネーを精霊の森まで送ろうか――そう思った時。
「クリアおめでとー!」
 空から、声が落ちてきた。
 見ると、少女がひとり魔法のステッキを振り振り空から降りてくる。
「あたし、見習いサンタのエファナ!」
「見習いサンタ? 若いね」
「うふふ、そうでしょー。すごいでしょー」
 見習いでそんなに自慢できるのかなとも思ったが、セレネーが嬉しそうにエファナと握手しているので黙っていた。
「クリアした人にはこの飴玉を差し上げてます!」
 エファナはころんと掌で飴玉を転がした。
「この飴を食べるとね、とっても幸せな気分になれるのよ。クリスマスっぽくていいでしょ?」
「そうだね」
 クロークは微笑して、「その飴はセレネー嬢にあげてくれるかな?」
「あれ、きみはいいの?」
「いいよ。僕はどうせ物が食べられないからね」
「あ、そっか」
 じゃあ、とエファナはセレネーの小さな手に飴玉を握らせた。
「幸せな気分になれるから、食べてね」
 セレネーはじっと不思議そうに自分の手におかれた飴を見つめていた。
「それじゃ! あたし他のクリア者に会いに行って来る!」
「いってらっしゃい、頑張って」
 エファナは笑って手を振り、その場から消えた。
 残ったクロークとセレネー……
「セレネー嬢、食べてみたら?」
 クロークが優しく促してみると、セレネーは首を振った。
「ううん……私、もう幸せ」
「セレネー嬢……」
「だから、これ、クルスやおねーちゃんに食べてもらう……」
 クロークは微笑んだ。――セレネーらしい言葉だ。
「じゃあ、クルス氏が待っている家へ帰ろうか」
 セレネーの手を改めて握った。
 冷たく冷えているはずの手が、彼女の心を映し出すかのように温かく、クロークの人ではない心に、ひどく染み渡った。
 空には星が光り始めている――……


 ―FIN―


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3570/エル・クローク/無性/18歳(実年齢182歳)/調香師】
【NPC/セレネー/女/15歳?/精霊の森の居候】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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エル・クローク様
こんにちは、笠城夢斗です。
クリスマスノベルにご参加くださりありがとうございました!
お届けが遅れてしまい大変申し訳ございません;
クロークさんよりセレネーが暴れていますが、セレネーをご指名くださって嬉しかったです。楽しんで頂けますよう。
また次の機会にお会いできますよう願っております。
WhiteChristmas・聖なる夜の物語 -
笠城夢斗 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2007年12月28日

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