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『 夢で会えたら 』
白神・空0233



 【Opening】

 クリスマスへと向かう夜。
 街中は軽快なクリスマスソングとイルミネーションに彩られているというのに、そこだけはポツンと取り残されたように静かだった。
 この場所には月明かりも星明りも届かない闇だけが横たわっているかのようだ。
 まるで映し出されているのは自らの胸の内なのか。
 時計の針が0時を回る頃、教会の鐘が鳴り響く。
 それだけが唯一の音のように。
 目を閉じた。

 そして再び、目を開けたとき。

 暗闇ばかりで何もなかったその場所が華やかに彩られ。
 彼女と出会った。





 【in Your Dream】

「えぇっと……」
 白神空はその状況を把握するのに思いのほか時間を要した。いつもよりやたらと目線が低いのだ。
 顔をあげるとマリアート・サカの笑顔とぶつかった。
「どうしたの、空?」
 怪訝そうに首を傾げて自分の顔を覗き込んでくる。赤地に白い綿毛をあしらったサンタ帽をかぶって。
 空は二度瞬きをして立ち上がろうとした。
 ―――立ち上がろうと?
 自分はこんな街中で寝ているのか。いや、そうではない。
 ふと振り返ったショーウィンドウに映る自分に我が目を疑った。
「な……な……」
「空?」
「なんであたしがトナカイーーーーーーーーー!?」



 ・:.:*.:.☆:・:..★.:・*.:*・



 要するにこれは夢なのだ。
 トナカイ姿の自分に全然驚いている様子もなく、現状をナチュラルに受け入れているリマを見ていると、そう結論付けざるを得ない。ついでに言えば、道行く人も誰一人気にも止めないのだ。それ以外の理由がありえるだろうか。いや、ない。反語。
 リマに優しく頭を撫でられながら、何とも納得のいかない態で空は溜息を吐き出した。夢なら夢でも構わない、と。
 だけど。
 ―――夢ならもっと夢らしく!
 と、思わないでもない彼女である。
 屋内であるマルクトに、ちらちらと降り積む雪。セフィロトへ来てから初めて見るだろう雪が降っている。
 リマはといえばセクシーなミニスカサンタクロース姿だ。下にレギンスを履いているのが多少気になる。雪が降っているとはいえ、寒いわけではないのだから、生足でもいいじゃないか。寒ければ自分が温めてあげるのに。ケチケチしちゃって、とも思う。しかしそれもリマらしいといえば、リマらしい。
 街は鮮やかなイルミネーションに彩られたホワイトクリスマス。恋人たちのためにあるような世界なのに。
 リマがサンタなら、自分はトナカイ娘のコスプレだろう。それがセオリーというものだ。夢なんだから。せっかくの夢なんだから。なのにどうしてトナカイ。何故にトナカイ。普通にトナカイ。マジメにトナカイ。100%混じりっけなしの純然たるトナカイ。
 これじゃ、まる美少女と獣。そのまんまだし。捻りも何もあったもんじゃない。
 だがしかし。
「ふかふかで気持ちいいね」
 背中の毛並みを楽しむように撫でながらリマが言った。
 そのリマの笑顔を見ていると、「ま、いっか」なんて思ってしまう自分に気付いて空はやれやれと息を吐く。
「行こう」
 リマが促すように言った。どうやらデートを楽しめるらしい。
 気合を入れるとトナカイでも二足歩行できるようだ。これで右目に十字の傷でも作れば、どこかの誰かさんと張り合えるかもしれない。
 以前、サンバカーニバルの時は自分が連れまわしてしまったが、今度は連れまわされるのも悪くない、と思う。普段リマはどんな店に立ち寄っているのか。しかしこれは自分の夢なのだから、自分の想像の範囲でしか動けないのかもしれないと思わなくもない。
 そんな事を徒然考えていると、突然手を引いてリマが駆け出した。
 よろめきつつも追いかける。車の走る道路を横切って、リマは空を一件の紳士服の店に連れて来た。
 この姿にスーツは無理だろう。どうやったって着れそうにないと思う。だけど彼女の目的はそれではなかったらしい。
 リマは蝶ネクタイを取ってトナカイの首に巻きつけた。
 鏡を見ながら「似合う、似合う」なんて手を叩かれたら、空としては意義の申し立てようがない。満更でもないか、とポーズなんか作って見せたら、思いっきり噴出された。
 ―――ま、いいんだけどね。
 ネクタイを着けたまま、店を出る。
「じゃぁ、あたしもお礼に」
 そう言って、空はリマの手を引いて歩き出した。知らないような知っているような不思議な街を歩く。
 そうしてやって来たのはランジェリーショップだ。
「女の子のオシャレは下着からよね」
「はぁ〜?」
 面食らっているリマを他所目に、可愛い勝負下着なんかを選んでやる。勿論、着せて帰ったら、その後は自分に勝負を挑んでもらうためだ。そんな下心も満載に。
 大体、普段からいつもスポーツブラなんて許せない。あのサイズの胸だというのに。サラシとか勿体無さすぎ。脱がせ甲斐のない事甚だしい、などと、内心でぶつぶつ呟きながら。
「これは?」
 空はブラとショーツのセットを取って見せた。
「はぁ〜!? ばっ……何を……」
「だってリマ、黒好きじゃん。いつも黒の上下だし」
「だからって、そんなの着るわけじゃないでしょ」
「ちっ」
 舌打ち一つ。せっかく黒、似合うと思ったのだが。
「ああ、でも。クリスマスなんだから真っ赤もいいよね。赤……赤……これなんてどう?」
 赤の上下を広げてみる。それを見て、というよりは赤という単語に反応したのだろう、リマが言った。
「赤って、そういえばエドが持ってる」
「はぁ〜!?」
 何故ここでエドワート・サカ―――リマの親父が出てくるのか。
「還暦のお祝いとか何とか……」
「かんれき?」
「うん。なんか60歳のお祝い。60歳になると赤い下着を身に付けるんだって」
「……そんなのと一緒にしないでよ」
 空は脱力気味に赤い下着を戻した。赤い下着を身に付けるエドを想像するとゲンナリしてしてくる。全くもってなんて事を言い出すんだ。
 空は他の棚に移動する。こうなったら、もっと魅惑的な一枚を。一つ一つ丹念に探していく。
 そうして一目惚れのそれを取り上げた。
「これは?」
 なんて自分に翳してみる。トナカイに当てても参考にはなるまいが。
「ピ……ピンク……」
 リマがたじろぐように後退った。
 淡いピンクのシルクは、大胆に胸元までスリットが入り、アンダーバストの切り替えしにリボンを結んで、レースとフリルで愛らしく飾られたベビードールと、同じくレースとリボンのあしらわれたショーツだ。
 普段、リマが絶対着ないようなそれである。
「怯むな! 絶対、似合うから」
 太鼓判を押してリマの手に持たせた。
「えぇぇ……」
「さっ。試着、試着」
「ちょっ……下着の試着って……」
 出来るのよ。だってこれは夢だもん。
 空はそう確信してリマを試着室の中に押し込んだ。勿論店員は何も言わない。思えばトナカイが下着を探してる姿っていうのも、シュールな絵面だ。かなり可笑しかったんじゃなかろうか。しかし笑う者もなければ、何か言う者もない。
「着替えたら、そのまま行くわよ」
「えぇ〜!?」
 試着室の外から中に声をかけると、困惑げな声が返って来た。
 もしかしたら、自分も一緒に試着室に入ってくると思っていたのかもしれない。
 しかしここは我慢、我慢。
 ここで見てしまったら、後で脱がせる楽しみがなくなってしまうじゃないか。
 時々、自分がトナカイである事を忘れながら、空はリマの着替えを待ってる間に、さっさと会計を済ませた。
「何か……変」
「シルクは肌触りがいいでしょ」
「それはそうだけど」
「じゃぁ、次、行くわよ」
「次?」
「お腹すかない?」
「あぁ、うん」
「ホテルで豪勢にディナーね」
 なんて。
 そういえばトナカイってどうなのだろう、とふと思う。仔牛でも仔羊でも仔豚でも、共食いにはならないのだろうか。仔鹿あたりは危険かもしれない。
 ホテルのレストランで夜景を肴にフランス料理のディナーをフルコースで。
 丸いテーブルに並んで腰掛け、ガラス張りの窓から夜景を見下ろし食前酒のワインで乾杯。
 神も仏もなくなったこの時代、信仰としての神とやらも存在を危ぶまれるほどで、ましてや審判の日以前の神の子の誕生日なんて、とは思わなくもない。けれど、きっとこんな特別な日は必要なのだ。騒げる理由が欲しかったり、日常を変えるきっかけが欲しかったり、人それぞれに。
 冷前菜に温前菜。スープをすくってセカンドディッシュに口直し。メインディッシュに舌鼓して、リマの頬に付いたソースを舌で舐めとると、はにかむみたいに笑って頬を染めた。
 この反応。やっぱり夢か。などと思ってみる。
 デザートには当然、クリスマスケーキ。
 マルクトに来てから、クリスマスケーキといえばパントーニ―――ドライフルーツの入ったパンケーキが主流だったが、今日はどうやらブッシュド・ノエルらしい。
 サンタのマジパンに目を輝かせているリマの皿に、自分のケーキにのっていたトナカイのマジパンをのせてやる。
「やっぱり、サンタとトナカイは一緒じゃないとね」
「うん」
 そうしてケーキを食べ終えて、リマはマジパンを前に暫く思い悩んでいたが、結局口の中に放り込んでいた。
 それからホテルのラウンジでカクテルグラスを傾けて、ほろ酔いにトロンとした眼差しの彼女を、空はインペリアルホテルの最上階スイートへと運んだ。
 これこそ夢だ。
「大丈夫?」
 と、巨大なキングサイズのベッドにおろすと、服のボタンを緩めてやる。思えば、この二つに割れた蹄でもいろいろ器用に動くものだ。
「……なんか、ふわふわしてる」
 リマがぼんやり呟いた。
「脱がせてあげようか?」
 なんて。
 転がったリマの上に四つん這いで覆いかぶさる。

 ―――この下にはあのベビードールが……。




 ・:.:*.:.☆:・:..★.:・*.:*・



「空? ……空?」
 リマの声がして目を開けた。
 そこにリマの顔がある。
 けれど、一瞬状況が理解出来なくて、空は暫しリマを見返していた。
 さっきまで自分の方が見下ろしていたはずなのに、今は彼女に見下ろされている。
「えぇっと……これは?」
「何いつまで寝てるのよ。今日はクリスマスよ」
 なんてサンタコスでリマが言う。
 ベッドの上。寝ている自分を見下ろして。思わず自分の体を撫で回す。勿論ふかふかの毛触りなどではない。
 どうやら夢から醒めたようである。
「!? くーーーーーーーーっ!! 惜しい事した。もうちょっと寝てたら」
 リマのベビードールが見れたのに。こんな事なら試着の時覗いとくんだった。
「何? 夢でも見てたの?」
 リマが笑う。
 いやいやいや。
 サンタコスのリマをマジマジと見た。夢と同じだ。
「そうよ! いいじゃん!!」
「何が?」
「行くわよ!」
「え? どこに?」
「ランジェリーショップ」
「はぁ〜?」
 リアルで着せればいいのだ。そしてリアルで勝負してもらえばいい。
 トナカイ娘の衣装に着替えて、雪は無理だけど、ここは一発正夢にしてしまえ。
 せっかく今日はクリスマスなんだから。

「サンタとトナカイは結ばれないとね」
「何の話しか、全然見えないんですけどー」

 クリスマスをもう一度。





 ■A Happy Xmas!■






★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0233/白神・空/女/24/エスパー】


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■         ライター通信          ■
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 ありがとうございました、斎藤晃です。
 楽しんでいただけていれば幸いです。
 ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。

WhiteChristmas・聖なる夜の物語 -
斎藤晃 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2007年12月25日

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