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『  「オーロラ国の恋物語」 』
セリス(mr0153)&斗流(mr0150)&(登場しない)

 そこは、一面の雪景色。
 木々は雪化粧を施され、湖は固く凍り、雪が光を反射して空が青く輝いている。
 サンタクロースの国と言われるフィンランドを模してつくりあげられた夢の世界。
 本場北欧のクリスマス。
 オーロラの輝く美しい夜に、いつもより少しだけ距離が縮まったり、素直になれるかもしれません。


 どこかで、どんなうたい文句を耳にした。
 参加しようと言い出したのは、セリスからだったのか、それとも斗流からだったのか。あるいは、二人ともだったのかもしれない。
「ただいま」
 肩につもった雪を払いながら、斗流が帰ってくる。
 横になってもオーロラが見えるように設計された、大きなガラスイグルーの中は、何本ものキャンドルが暖かな光を灯している。
「お帰りなさい。寒かったでしょ」
 セリスは温かな飲み物を差し出し、代わりに雪で濡れた斗流の上着を受け取った。
「何だ、これ」
「グロギっていうの。ワインにスパイスとレーズン、それにアーモンドを入れて温めたものよ。クリスマスの飲み物なんですって」
 斗流は「へぇ」というと同時に、口をつけた。
「あったまるな」
 ふぅ、と息をついて微笑む斗流に、セリスも嬉しそうな微笑を浮かべる。
「ごめんなさいね、私も一緒に行きたかったんだけど……」
「何言ってんだ。セリス、寒いの苦手だろ。『アイツ』だってそうだし。いいのを見つけてきたから、飾りつけは一緒にしよう」
「そうね。すごく立派な木……大変だったでしょ、持って帰るの」
 セリスは、ガラスの住居の外にそびえるモミの木を見つめ、斗流に言った。
「いや、そうでもないよ。ロープもソリも用意してたから」
「こんなこともあろうかと、ね」
「そういうこと」
 二人は額を合わせるようにして、小さく笑い合う。
「とりあえず、料理とオーナメントの準備をしておくからサウナにでも入ってきたら? フィンランド式サウナ。あったまるわよ」
「ああ、そうだな。その前に……と」
 大きなベッドの横には、毛布をかけられた天蓋つきのゆりかごがあった。斗流はそこへ歩み寄り、覗き込んだ。
「すぐ戻るから、いいこにしとけよ」
 雪のように白い肌と、うっすら生えた白い髪の毛。毛布の下に隠れた真珠のように輝く鱗と蛇の下半身。
「母さんにそっくりだな、お前は」
 愛らしい顔立ちをした娘の頬に触れ、斗流はつぶやいた。
「あら、目元はお父さんにそっくりよ」
 笑い合い、斗流はサウナ小屋に行くため、再度雪の中へと出て行った。
 彼が戻るまでにおいしい料理を完成しておこう、と。セリスは仕上げに取りかかるのだった。

 サウナで思い切り温まった斗流は、雪の中にダイブしてそれを冷ましてから戻ってきた。
「雪が積もっててキレイだったんだけど、家の中だと溶けるからな」
 雪を落としたモミの木を運びこみ、斗流が言った。
 セリスが用意したのは、フェルトや松ぼっくりを使った手作りのオーナメントや、様々な形をしたジンジャークッキー。銀色のモールに、赤や青の鈴の形をしたオーナメントもある。 
「これ、こっちに置いた方ががいいかしら」
「ここにコレ飾ったらどうかな」
 そんな風に語り合いながら、天然の芳香漂う木を、一緒になって飾り付けていく。
「どうしましょう。さすがに、届きそうにないわよね」
 立派なモミの木の頂上を見上げ、セリスがつぶやいた。
 高い天井に今にも届かんばかりとする大きな木は、上の方は斗流にしか飾りつけができなかった。
 が、てっぺんに星を飾るとなると、斗流でさえ届きそうにはなかったのだ。
「大丈夫。こんなこともあろうかと」
 斗流はどこから持ってきたのか、脚立をどん、と床に置いた。
「さすがね」
 セリスは脚立が動かないように押さえ、斗流がそれに登る。
 大きなモミの木の一番上に、銀色の大きな星が飾られた。
「……素敵」
 脚立から降りてきた斗流は、うっとりとツリーを眺めるセリスの肩を抱き、共にそれを見上げた。


テーブルに、色とりどりの北欧料理が並べられた。
 きのこのクリームスープ。ビーツとサーモンのサラダに、にんじんにカブ、レバーなどに味をつけて焼いたキャセロール。豚もも肉のハム、ミートボールのポテト添え。サーモンの蒸し焼き。
「メリークリスマス」
 先ほどのグロギが注がれたグラスをカチンと合わせ、二人は声をそろえる。
「すごいな。これ、全部つくったのか?」
「ええ。デザートも用意してますよ。いっぱい食べてね」
「うまそうだな。これだけあると、二人だけで食べるのがもったいない気がするよ。かといって、他のヤツにやる気もないけど」
「斗流ったら」
「俺以外にお前の手料理を食っていいのは、コイツくらいだ」
 斗流はそういって、ゆりかごに手を伸ばすと、赤ちゃんはにこぉ、と微笑みを浮かべる。
「お、喜んでるぞ。わかってんのかな」
「まだ無理でしょ。でも、そうね……斗流のためにご飯作るのも楽しいけど、今度からは二人のためになるのよね。それで、いずれはこのコにも料理を教えてあげたり。何だか、すごく楽しみだわ」
「楽しみなのはいいけど、娘にかまけて俺のこと忘れないでくれよ」
 苦笑する斗流に、セリスは「当たり前じゃない」と笑みを返す。
 話が弾む中、料理は見る見るうちに片付けられていく。
 勿論、その大半は次から次へと「おいしい」と口に運んでいく斗流のためだったのだが。
「これはね、ちょっとした秘密があるのよ」
 星型のクリスマスパイやオーナメントにもしたジンジャークッキーと共に、セリスは牛乳で炊いたお粥を出してきた。ドライフルーツのソースで食べる、クリスマスのデザートの一つだ。
「秘密?」
「うん。ひとつだけアーモンドが入れてあってね。それがお皿に入ってた人は幸せになるっていう」
「おいおい、二人しかいないのにそれやったら、どっちが当たっても気まずくならないか?」
「大丈夫よ。だって、私の幸せは斗流が幸せになることだから」
「……じゃあ、どっちが当たっても同じだな」
「そうよ。でも、斗流に当たるほうが嬉しいな」
「その言葉、そのまま返すよ」
 食事が並ぶその机が邪魔に思えてしまうほどに。
 子供ができてからも、二人は恋人同士のように甘い関係のまま。むしろ子供できたからこそ、その絆はより深まったようだった。
 結局、アーモンドを引き当てたのは斗流だった。
 だけどそれは、二人で半分に分けられる。
「どうせ分けるなら、最初から両方に入れてればよかったかしら」
「でも楽しかったよ」
 デザートも食べ終え、満腹になった頃。
 セリスは赤ちゃんを抱き上げ、あやしながら乳を含ませる。
「お、そっちも食事の時間か」
「やだ、見ないでよ」
 今更ながらも恥ずかしがって背を向けるセリスに、斗流は思わず吹き出してしまう。
 彼女のこうした一面を目にする度、可愛らしいと思う。どれだけ長く一緒にいようと気持ちは冷めるどころか、深まっていくようだ、と。
 セリスが乳を与えている間、斗流はあいた食器などを流しに持っていく。
「あ、ありがとう。置いといてくれればいいから」
「いいよ。洗っとく。ご馳走つくってくれたお礼だ」
 当然のようにそういって、洗い物を始める斗流。
「……いいお父さんね〜」
 セリスは微笑みながら、赤ちゃんの頭を撫でた。
 彼と一緒なら、これから先も家事や育児をより楽しく続けていけるだろう、と。


「ねぇ、少しだけ散歩してみない?」
「いいけど……寒いぞ、外は」
「大丈夫。着込んでいくから。ね、ちょっと外に出てみたいよね〜」
 抱きかかえたままの赤ちゃんに声をかけると、小さな手がぱたぱたと動いた。
「おいおい、お前も行く気かよ。大丈夫か?」
 斗流が丸いほっぺたをつつくと、赤ちゃんはにこぉ、と笑う。
 赤ちゃんは泣くのが仕事だというが、このコは基本的に泣くことが少なくよく笑う、可愛らしい子供だった。
 もこもこのベビー服に着替え、薄い毛布の上に更に厚めの毛布でくるまれる赤ちゃん。セリスも、帽子に手袋にマフラーに、と完全防寒で外へと挑む。
「……キレイ」
 ガラスイグルーから外に出て真っ白な雪原に踏み出すと、セリスはつぶやいた。
 遠くに見える湖はすっかり凍っていて、周囲には真っ白に化粧を施された樹木たち。
 小さなかまくらの中にキャンドルが立てられ、白銀の世界を仄かなオレンジの光がゆらめいている。
 銀色に輝く月光を雪が反射し、星の瞬く紺碧の空はどこまでも澄み渡っていた。
「寒くないか?」
 白い息を吐きながら、斗流がセリスを抱き寄せる。
「少し」
 セリスはそう言って、子供を抱きかかえたまま、斗流に寄り添う。
 それだけで、外気の冷たさなど吹き飛んでしまうようだった。
「――あ。セリス、見てみろ。上……」
 斗流の声に、セリスは天上を見上げる。
「わぁ……っ」
 感嘆の声が漏れ、その顔が綻ぶ。
 オーロラだった。
 赤に青、緑色がまざりあった、虹のようなカーテンが空にかかっている。
 言葉もなく、二人はその光景に目を奪われた。
 オーロラは、その時々で色も形も違うという。
 勿論、オーロラがよく見える地域でだっていつでも見れるというわけでもない。
 その、奇跡のような美しさを前に。二人は寄り添い、立ち尽くしていた。
 くしゅん。
 しばらく見惚れていると、セリスが可愛らしいクシャミをした。
「あぁ、悪い。そろそろ帰るか」
「うん……そうね。でも、出てきてよかった」
「家の中でもオーロラは見えるようになってただろ」
「それでも外で見たかったの。斗流と一緒に、同じ空気の中で……」
 つぶやくセリスの口に、そっと触れるものがあった。
 温かな、斗流の唇。
「……もう。――ちゃんが見てるのに」
「いいじゃないか、このくらい。なぁ、――?」
 二人がそういって、毛布にくらまれた赤ちゃんに語りかける。
 静かな雪原の中、キャンドルの仄かな光が二つの影を揺らしていた。



 目を覚ますと、そこはいつものベッドの上だった。
 隣には、最愛の人。
 斗流とセリスは同時に起き、ぱちくりと互いを見つめた。
「今、夢を見てたの」
「俺もだ」
「どこか、北欧でクリスマスを過ごしててね」
「ツリーを飾って食事をして、オーロラを見た」
「斗流も!? じゃあ……」
 互いに言葉につまり、赤面してしまう。
 本当に、夢だったんだろうか。
 二人によく似た、愛らしい娘。同じ夢を同時に見たのだったら……?
「……正夢にしようか」
 斗流の言葉に、セリスは頬を染めながらもうなずいた。
 その約束はさほど遠くない未来、実現されることだろう。
 二人ならば、きっと。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:mr0153 / PC名:セリス/ 性別:女性 / 年齢:17歳 / 種族:ラミア】
【整理番号:mr0150 / PC名:斗流(トール)/ 性別:男性 / 年齢:18歳 / 種族:人間】

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■         ライター通信          ■
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 セリス様
 斗流 様

はじめして。ライターの青谷 圭です。「オーロラ国の恋物語」へのご参加どうもありがとうございます。
今回は北欧、フィンランドのイメージをベースに、お二人の睦まじさを描かせていただきました。
夢世界の中で赤ちゃんがいるので、恋人らしいデートとしては少し物足りない面もあったかもしれませんが、問題なかったでしょうか。

ご意見、ご感想などございましたら遠慮なくお申し出下さい。
WhiteChristmas・恋人達の物語 -
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学園創世記マギラギ
2007年12月25日

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