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『来生家のクリスマス 』
来生・億人5850)&来生・一義(3179)&来生・十四郎(0883)&(登場しない)

●失くしたバイト代
 帰宅途中、来生十四郎(きすぎ・としろう)に出会った来生億人(きすぎ・おくと)は、駅から帰る途中、バイト先のコンビニから貰ったばかりのバイト代全額が入った封筒を川に落としてしまったと、十四郎にしがみ付きながら泣いて話した。
「十四郎、どないしよう! バイト代全額、川に落としてもうた!」
「おまえなぁ……バイト代を川に落とすなよ。相変わらずドジな奴だな。魔力で探すことができないのかよ?」
「そないなことでけません……えろぅすんまへん……」
 ヘコヘコと頭を下げる億人。
 
 ――情けない悪魔だぜ……。あの時のまんまじゃねぇか。

 二人が出会ったのは、半年くらい前のことである。
 億人は悪魔だが、気が弱い一面があるので人間になかなか話しかけられず、勇気を出して話しかけ「あんたの願い叶えたる」と言っても、信用できないと断られ続けられた。
 その一週間後、十四郎が億人を召還することになろうとは、神すら想像できない出来事であっただろう。
 十四郎の願いは「金が欲しい」だったのだが……億人が出したのは、山ほど積まれた数えきれないほどの使い道の無いコインだった。
 言い忘れ。来生兄弟の住まい「第一日景荘」は、風呂無しの、トイレ共同のアパートである。しかも二階。
 安普請のアパートなので、下手すると床が抜け、一階の住人に多大な迷惑をかけることになる。抜けなかったのが、不幸中の幸いだったが。
 十四郎の罵声にビビった億人は、逃げようと思っても逃げられなかった。
 死ね! とも言われたが、永遠の命を持つ悪魔なので死ぬことはできない。
 だったらその永遠を俺に寄越せ! と無茶難題を言う十四郎こそ悪魔だと思った本物悪魔であった。
 人間に永遠の約束でけん、と言った億人は、十四郎にボコられるかと思ったが、意外が言葉を聞いた。
 十四郎は、億人の永遠を願うと言った。「馬鹿悪魔!」と最後に罵りながらも。

 ――この人、ごっつ怖いわ! ほんまもんの悪魔ちゃうか? とんでもない契約を結んでしもたかも……。

 公開既に遅し。億人は、十四郎に強引に捕らえられた。
 彼が行った永遠の願いは「永遠にこの世で苦しむこと」だった。
 逆らったら、十四郎が死ぬまでボコにされてまうと自らの身体が持つかどうか不安になった億人は、渋々十四郎の下僕悪魔になったのであった。

 億人と十四郎の回想はこれくらいにして、本題に戻る。
 バイト代を無くしたことで、億人はどよ〜んとしたムードを漂わせ、かなり落ち込んでいた。
 兄やんと慕う同居人である一義は「お金がありませんので、クリスマスは普段通りに過ごします」と言ったので、自分が稼いだお金でクリスマスケーキとチキンをこっそり買おうと思ったのに……と悔やんでいる。
「おまえの魔力で出せば言いじゃねぇえか。俺の願いんとちゃ上手く行かなかったけど、兄貴の願いなら何とかなるだろ?」
 そう言う十四郎だが、クリスマスケーキとチキンを食べたことの無い億人は、出せないと泣き出した。
「来年、利子ついてバイト代戻ってけぇへんかなぁ……」
 金は鮭じぇねぇと呟き、落ち込んでいる億人を自宅へ連れ帰る十四郎。
 
●兄弟の話し合い
 二人が帰宅した時に玄関から出迎えた一義は、十四郎に億人を近くの銭湯へ連れて行てくださいと、顔をしかめて銭湯用具一式、着替えを揃えて二人に手渡した。
「億人、行くぞ。いつまでもくよくよしてもしゃあねぇだろ。風呂で気分をさっぱりさせろ」
「あいな……」
 項垂れたまま、銭湯用具一式を持つ億人。
「ほな、行ってきます……」
 億人の様子が気になったのか、一義は十四郎を呼び止めた。
「億人ですが、何かあったのですか?」
「バイト先で仕事ミスったんで落ち込んでるだけだ」
 バイト代全額無くした、と正直に言えなかったので、十四郎は適当に誤魔化した。
 その程度で落ち込む億人ではないことは、アパートに連れて来た一義自身が良く知ってた。
、十四郎と一義は、億人をアパートに来た時のことを思い出していた。
 十四郎が帰宅したのは、とうに午前中を過ぎた頃だった。
 ただいまも言わずに家に上がりこもうとした十四郎をきつく叱ろうとした一義だったが、十四郎の背後に奇妙な気配を感じ、離れろ! と血相を変えて叫んだ。
「藪から棒に何を言うんだよ、兄貴。どうしたんだ?」
 一義は、返答の変わりに突然炎を操り、背後にいた何か――億人を包んで消し去ろうとしたが、億人は、寸でのところで避けた。
「いきなり何すんねん!!」
 避けた拍子に、思わず尻餅をついた億人。
「十四郎、そいつは悪魔だ!」
 霊力が強い一義は、億人がすぐに悪魔と見抜き、炎で追い払おうとしたのだ。
 俺の話を聞け! と十四郎は一義にこれまでの経緯を話した。
 初対面なのに、どこまで会った覚えがあるという十四郎は、億人をアパートに連れて行けば、何かが思い出せるのではないかと思ったのだ。
 一義は、十四郎の言葉に首をかしげながらも嫌な予感がした。
 自分の力が通じないので危険性は無いとしても、ここに住まわせると厄介なことが起きるかもも、億人をアパート内に入れるのを反対した。そう判断したのは、万一の時、どう対処すべきかが問題だからである。隣人や階下の住人に迷惑がかかるかもしれない、という心配もあるが。
「こいつは悪魔だっていうけど、兄貴もさっき見ただろ? こいつの間抜け振りを。本当だとしても、これなら危なかねぇだろう」
 決して食い下がることがない十四郎にしては、珍しく食い下がり、こいつをここに置いてやってくれ、と一義に頼み込んだ。
 間抜けだからといっても、悪魔なので悪さをしない保証は無いと主張する一義。
 来生兄弟の口喧嘩ともいえる遣り取りは、嫌でも億人の耳に入った。
 自分のせいで険悪な雰囲気になったことはわかっていても、他に行くあてがないので、何が何でも来生家に置いてもらいたいと願った。
「あ、あの……俺、悪させぇへんから……ここに置いてください……」
 恐る恐る、二人に声をかけた億人。
「自分に出来ることやったら何でもする。せやから置いてぇな! 頼んます!」
 涙目で、両手を合わせながら頭を下げて来生兄弟に頼み込む億人を見た二人は、急に黙り込んだ。
「どうするよ? 兄貴」
「仕方ないですね……」
 ふう、と溜息を吐いた一義は、億人を家に置くことを了承した。
 この日から、億人は来生家の一員となり「来生億人」と名乗ることに。

「話が長くなっちまったな。それじゃ、行ってくる」
「億人のこと、頼んだぞ」

●銭湯での億人と十四郎
 銭湯の湯船でのんびりしていた億人は、身体を洗いっこしている父親と息子の楽しそうな会話を聞いていた。
「お父さん、銭湯からの帰りにおもちゃ屋さんに寄って、前から約束していた調合金ロボット買ってね」
「ああ、約束だからな」
 その楽しそうな親子の会話を聞いた億人は、自分も十四郎と一義にプレゼントをねだりたいと思ったが、彼は居候兼下僕悪魔の身分であるため、口が裂けても、そのようなことは言えなかった。言おうものなら「駄目だ!」と断られるから。

「億人、さっぱりした後もそんなしけた面するな。俺、ちょいと寄るところがあるから、おまえは先に帰ってろ」
「どこ行くねん?」
「どこでも良いだろ!」
 そう言うと、十四郎はスタスタと歩き、どこかへ行ってしまった。
「へんな十四郎……」
 億人は、彼はぶらつくものと思い、真っ直ぐアパートに向かった。

 十四郎は、ケーキ屋を何軒か梯子していた。
 閉店時間間際ということもあり、ケーキ屋のクリスマスケーキは完売状態だったが、それでも諦めず何件か回ったが、どこも売り切れだった。
「しゃあねぇ、コンビニで買うか。あそこなら、まだ売っているだろう。あいつが欲しがっているも、あるかもしれねぇし」
 風呂上りの寒さを堪えながら、十四郎はコンビニに入り、お目当てのものを探した。

●パーティを始めよう!
「ただいま〜」
 帰ってきたのが億人だけだったので、十四郎はまたパチンコにでも行ったのかと呆れた一義だった。
「寒かっただろう? 早く中に入れ」
「う、うん……」

 ――兄やんには、ほんますまんことしたわ……。ほんまのこと、話したほうがええんかなぁ……。

 億人が落ち込んでいた時だった。
「ただいま」
 ドアを蹴飛ばし、ぶっきらぼうな態度な十四郎がコンビニ袋を二つほど抱えて帰ってきた。
「十四郎、それ何やねん?」
 きょとんとする億人。
「兄貴、億人が俺に頼んだケーキを買ってたら帰りが遅くなっちまった。残念ながら、小さいものしかなかったがな。ついでにシャンペン買ってきたから、文句はねぇだろ?」
「億人が頼んだって……どういうことだ?」
「こいつ、日頃の恩返しにとクリスマスケーキとチキンを買おうとしてたんだけどよ、買い忘れたからって、俺に金渡して買い物を押し付けやがってよぉ」
 そないなことしてへん! と驚く億人だったが、十四郎が自分に花を持たせようとしたことに気づき、黙っていた。
「億人、そうなのか?」
「そ、そや。兄やんに恩返ししとうて……」
 話を上手く合わせる億人。
 十四郎は億人に近づくと「おまえのお陰で、俺の小遣いパァになっちまった。来月のバイト代で、今回の経費利子付けて返せよ」と念を押す。
「十四郎、億人に何を言ったんだ?」
「兄貴にちゃんと恩返ししろよ、と忠告しただけだ」
 上手くシラをきる十四郎に「怪しい……」と呟きながらも、何か事情があると思い、一義は何も言わなかった。
「これ、俺から兄貴へのプレゼント。億人の分もあるぜ」
 十四郎が二人に手渡したのは、戦隊ヒーローもののイラストが描いてある靴の中に、お菓子が数点詰まっているものだった。
「私がこのようなもので喜ぶ年齢ではないが……折角なので貰っておく」
 本心は嬉しいのだが、照れ隠しのため、ぶっきらぼうに礼を言う一義に対し、億人は感涙してありがたく頂戴した。

 普段の真面目な表情に戻った一義が、二人に中に入り夕食にしようと声をかける。
 十四郎がシャンパンを開けてコップに注ぎ、一義がケーキを人数分に切り分けた。
 人数分の皿に、小さなイチゴのショートケーキが乗っている。
 大きな皿には、骨付きチキンが人数分乗せられている。

「メリークリスマース!」

 乾杯をし、三人はシャンパンを飲むが……億人は酔っ払ってしまった。
「こいつ、酒に耐性無いのかよ? 悪魔のくせして、だらしねぇ」
「眠ってしまったようなので、そっと寝かせておきましょう」
 一義は、押入れから毛布を取り出すと、楽しそうな夢を見ている億人にそっとかけてあげた。
 その頃。夢の中で億人はテーブルに置いてある大きなケーキと、大量のチキンを満面の笑みを浮かべながら美味しそうに平らげていた。
「(もう、食えへんわ……」)
 よほど良い夢を見ているんだな、と億人の寝顔を見て、自然に微笑む来生兄弟であった。

 来生家のクリスマスが、良き思い出になりますように……。

<後書き>
ご無沙汰しております、氷邑 凍矢です。
来生一家のクリスマスの様子を書かせてくださってありがとうございました!
億人様の憎めないドジさ加減、十四郎様の不器用な優しさ、一義様の気遣いが上手く表現できれば良いのですが…。いかがでしょうか?
個性あるお三方様を書くのは、とても楽しかったです。
来生家のクリスマスが、楽しいものであるようにお祈りしながら締め括らせていただきます。

リテイクがございましたら、遠慮なくお申し出ください。

またお会いできることを信じて、氷邑 凍矢よりメりークリスマス……。
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東京怪談
2007年12月25日

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