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『『あなたの望み〜異なる世界の少女達〜』 』
鏡・亜理守3585

「人間がいちばん喜ぶプレゼントって、いったい何なんだろ?」
 夢の世界に着いても、エファナにはわからなかった。
「誰かに聞いてみようかな?」
 道行く人々に聞いてみると、それはもう様々な答えが返ってきた。
『玩具』
『高級料理』
『美貌』
『金。金があれば、自分で買えるし。玩具も、高級料理も、美貌さえも』
 
「でも、お金は反則なんだよなー」
 ため息をつきながら、てくてく歩くエファナ。
「いや、お金じゃなくて、箱に入った黄金色のお菓子ってことにするとか、人形の中にお金を入れて……とかならオッケー!?」
 それでは、まるで賄賂や麻薬取引である。
 エファナは悩みながら、歩き回る。
 玩具も料理も美貌も、欲しいものではあるけれど……本当に欲しいものってなんだろう。
 望みって何だろう。
 自分は、サンタになりたい!
 だけれど、それは人からはもらえないものだ。
「もしかして、ナシが答え!? ……ってそんなサンタを否定するような答えなわけないよね」
 再び、道行く人々に欲しいものを聞いているうちに、エファナは思った。
 望みをかなえるのは自分自身だけれど、こうして話しを聞き、答えてくれる人達がいる。そこから答えは導き出される。
「あたしの今一番の望みは、答えを知ること。一番悩んでいるのは、答えが分からないっていうこと」
 エファナは目の前を歩く人の前に飛び出して、聞いた。
「ね、あんたの悩みは何?」
 その悩みを解消してあげることが、最高のプレゼント探しに繋がるのではないかと、エファナは思ったのだった。
 ……なきゃ、作ればいいし。
 むしろ、大ピンチな状況作ってー、そこから救ってあげたらぁ、サイコーに嬉しいんじゃなあい?

**********

 見習いサンタのエファナは、道行く人々に声を掛けては悩みを聞いていた。
 彼女がサンタとなるためには、卒業試験に合格しなければならない。
 サンタの長老が提示した、卒業試験の内容とは『人々が最も喜ぶクリスマス・プレゼントを探してくること』であった。
 人々の願いも、悩みも様々であり、エファナには答えが見つけられそうもなかった。
 自身をなくしそうになりながらも、彼女は声を掛け続けた。
「ねー、あんたの悩みは何?」
「えっ?」
 振り向いたのは、純白のドレスを着た少女であった。エファナより少し年上に見える。
「あたし、みんなの悩みを解決したいの!」
「わたくしには……悩みなんてありませんわ」
 少女は眼を細めて微笑んだ。
 その様子は、少し哀しげに見えた。
「じゃあ、欲しいものは?」
「欲しいものも、ありません」
「そっかー。うーん」
 エファナは手を顎に当てて考え込む。
「何か事情があるのですか? お手伝いいたしましょうか?」
 少女の言葉に、途端エファナは顔を輝かせる。
「ホント!? じゃ、一緒に質問して回ろ〜。あたし、エファナ。サンタの見習いなんだ! あなたは?」
 エファナは少女の両手をつかんで、明るい笑顔を受けた。
 少女は戸惑いの表情を見せた。
「……わたくしは、鏡・亜理守と申します」
 そう言って亜理守は、はにかみのような、恥ずかしげな笑みを見せたのだった。

「悩みありませんかー! あなたの悩みお聞きしますー! 今ならなんと無料! 無料カウンセリングだよー!!」
 縁石の上に立ち、エファナが大声を上げている。
 さすがに亜理守には真似は出来ず、道行く人々一人一人に欲しいものや悩みを聞き、紙に書き記していた。
 その殆どは高価なものであった。
「家族」
 誰かの言った言葉が、亜理守の胸を打った。
 失ってしまったら、戻りはしないもの。代わりはないもの。
 当たり前のように、多くの人が持っているのに、作るのは簡単ではないもの――。
 小さく吐息をつきながら、今度は可愛らしい少女に声をかけた。
 振り向いた少女は、ちょっと考えた後こう言ったのだった。
「ミオの悩みは、お菓子作りがいつになっても上達しない事」
「おおーっ」
 茶色の髪の少女の言葉に、エファナが縁石から飛び降りて近付いてくる。
「美味しいお菓子が食べたいの? そういえば、お菓子屋さん、人いっぱいいるもんね」
「ううん、ミオはお菓子が食べたいんじゃなくて、お菓子を作る人になりたいんです」
 ミオ……式野・未織は、亜理守とエファナに自分の悩みについて語り出した。
「ミオの家はケーキ屋さんなんです。ミオは甘いもの大好きで、将来、パティシエになりたいと思ってるんです。でも、お菓子作りがいつになっても上達しないんです。これ、ミオの3不思議の1つなんですよ!」
「3不思議? なんか面白そう。ね、詳しく聞かせてー。じゃ、3人で甘いもの食べよっか!」
「……いいですね」
 エファナの提案に亜理守も賛成し、3人は周囲を見回して、可愛らしい喫茶店に同時に目をつけた。
 童話のお菓子の家のような木造の喫茶店だ。
 3人は手を取り合って、笑顔で喫茶店に向ったのだった。

「きゃー、亜理守さんの抹茶ケーキ美味しそー!」
「ミオちゃんのチョコレートケーキも美味しそう」
「エファナ様のミルフィーユもとても美味しそうです」
 注文したケーキが来る頃には、3人はすっかり仲良くなっていた。
 可愛らしい3人の少女の姿に、道を歩く少年が時折足を止めては、店を覗き込んでくる。
 そんなことに気付きもせず、3人はおしゃべりとケーキに夢中だった。
「で、ミオちゃんの悩みだけれど、どうすれば解消するのかな?」
 エファナはケーキをほおばりながら、訊ねた。
 ミオは小首を傾げながら答える。
「んー、それはきっと自分で解決しなきゃいけない問題なんです。魔法とかでミオの腕を上げてもらっても、結局それはミオが作ったって事にならないですから。ミオは、美味しいお菓子を作って皆に幸せを届ける事が夢なんです」
「夢を与える、の?」
「はい」
 微笑んだミオの言葉に、エファナのケーキを食べる手が止まった。
 それは、サンタの仕事と似ているのではないか?
「なんだか、悩んでいるのはエファナさまのようですよ?」
 亜理守の言葉に、エファナは頷く。
「そうなんだよね、自分で解決しなきゃいけないことなんだよね。解決して、皆にプレゼントを届けなきゃならないのに……」
 皆が喜ぶプレゼントが分からない。どうしても、分からない。
 沈むエファナに、ミオはこう言った。
「エファナさんが知りたいと思ってる、人間が一番喜ぶプレゼントって、幸せじゃないかなって思います。でも、幸せは目に見えないから物に託すのかもなって」
「幸せ、かあ……」
 エファナはフォークを口に入れたまま、考え込む。
 亜理守は幸せという言葉に、思わず目を伏せた。
「ね、エファナさんのミルフィーユ、少しもらってもいいですか?」
「うん、私もミオちゃんのチョコケーキと、亜理守ちゃんの抹茶ケーキ食べたい〜♪」
「ミオも、抹茶ケーキ食べたいですー」
 2人の視線を受けて、亜理守は微笑みを浮かべ、ケーキを差し出した。
「では、皆一口ずついただきましょう」
「うん」
「食べよう食べようっ」
 少女達はケーキを食べあいながら、楽しい時間を笑い合いながら過ごした。

 夢の世界でも、街を歩く人々は、急がしそうであった。
 今晩はクリスマスイブ。どのような約束の為に、帰路を急いでいるのだろうか。
 少しの時間、一緒に笑い合っていた少女達も、そろそろ自分の家に帰る時間だ。
 エファナは亜理守から、皆の悩みを書き込んだ紙を受け取った。
「そういえば、亜理守ちゃんの悩み、聞いてなかったよね。本当はあるんでしょ? そんな大きな悩みじゃなくてもいいんだよ。それを叶えることが、ミオちゃんが教えてくれた「幸せ」に繋がるんだと思うから」
「わたくしの悩みは……」
 亜理守は考えた。
 夢の国の空を見上げながら。
 冷たい風が吹きぬけ、人々が身体を振るわせる。
 曇った空。
 だけれど、何故か輝いて見える。
 そんな空から、ふわりと。
 白い綿が落ちてきた。
 亜理守は手を広げて、綿を掌に乗せた。
 冷たい感触と共に……消えていく綿。
 消えてしまう、綿。
「直ぐ溶けて、水になっちゃったね」
 言ったのはエファナだった。
 笑顔で亜理守を見上げている。
「雪、綺麗ですよね。東京にも雪、降ってるかな」
 そして、ミオも亜理守に微笑みかけた。
 亜理守も、笑みを浮かべて――。
 今日、一番の笑顔で言った。
「わたくしの悩みは、やっぱり今はありません」
「そっかー。うーん、ミオちゃんの願いは叶えられないし」
 エファナはため息をついた。
 何一つ、成果を得られず帰らなければならないのだろうか……。
「今日、ミオはエファナさんと亜理守さんとお話できて楽しかったです。エファナさんはちゃんと、ミオに幸せをプレゼントしてくれましたよ」
「わたくしも同じ気持ちです」
 ミオの言葉に、亜理守も続いた。
「え?」
 エファナは2人の言葉に、きょとんとしている。
「ミオ、貰うだけって好きじゃないんです。だから、お返しに2人に少しでも幸せをあげられたらなって思います」
 そう言って、ミオは鞄の中から、ピンクの袋を二つ取り出した。
「エファナさんと、亜理守さんに」
 ミオは袋を一つずつ、亜理守とエファナに渡した。
「何?」
「クッキーです。これはミオが作った物ですので、あまり美味しくないですが……受け取ってくれたら嬉しいです」
「うん、ありがとう!」
「ありがとうございます」
 エファナと亜理守はクッキーを手で包み込んだ。
 エファナの心に喜びの感情が浮かび上がる。
「あー、サンタなのに、プレゼントもらっちゃったよー。だって、私だってミオちゃんと、亜理守ちゃんと一緒で楽しかったもん。私もその分のお返ししたーいっ」
 言いながら、エファナはとても幸せそうであった。
「だから、絶対、ミオちゃんの所にも、幸せを届けに行くからね!」
 サンタになって。いつか、きっと――。
「それじゃ、ミオはそろそろ帰ります」
「そっか、今度はいつ会えるかな、私達」
 エファナはミオを見た後、亜理守に目を移した。
 亜理守は一呼吸おいたあと、こう言ったのだった。
「いつでも、またこの夢の世界で……」
「うん、それじゃ、またね!」
「また会いましょう!」
 3人は手を振って、交差点を別々の方向へと歩き始めた。

 亜理守はふと、また空を見上げる。
 落ちてきた綿は、消えはしない。
 水に姿を変えるけで、無くなりはしない。
 人の命は果敢なくて、この雪のように消えてしまう。
 だから、誰も好きにはなりたくない。
 だけれど、本当は――。

 彼女達と過ごした時間。
 彼女達と出会えたこと。
 友達になれたこと。
 手の中の袋を見て、暖かな気持ちになる。
 袋を開けて、一つ、口にいれた。
 甘い味が口の中で広がる。
 幸せの味だった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢(外見) / 職業 / ゲーム種類】

【7321 / 式野・未織 / 女性 / 15歳 / 高校生 / 東京怪談】
【3585 / 鏡・亜理守 / 女性 / 15歳 / 超常魔導師 / 聖獣界ソーン】
【NPC / エファナ / 女性 / 12歳 / 見習いサンタ(レベル1魔女) / White Christmas】
※年齢は外見年齢です。

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
WhiteChristmas・聖なる夜の物語『あなたの望み』にご参加いただき、ありがとうございます。
別々の世界に生きる3人は、この夢の世界で知り合い、楽しい時間を過ごしたのだと思います。
また、近いうちにきっと、夢の世界で笑い合うのでしょう!
WhiteChristmas・聖なる夜の物語 -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2007年12月25日

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