▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『We wish... 』
アルバート・ピアソラ(mr0768)


 ■

 其処は『夢の世界』。
 現実には続かず、残るものも無く、たった一夜の「心」に贈られる物語。

「貴方の一番欲しいものって何?」

 家族から。
 友人から。
 恋人から。

 そうとは表現出来ない“誰か”から、貴方が一番欲しいものは何ですか。


 十二月の奇跡の夜。
 白銀の結晶が舞い落ちる世界で貴方が見る夢は――……。




 ■

「へぇ?」
 アルバート・ピアソラは自分の置かれた状況に対して意味深な笑みを浮かべて見せた。
 不思議な声は単なる夢でしかなく、妙に切羽詰った響きを伴っていたため、少しくらいなら付き合っても良いだろうという程度の感覚だった。
 しかし現在、まだこちらには気付いていないらしい少年の姿に口元が緩む。
 トリストラム・ガーランド。
 二つ年下の、かつては“親友の弟”だった子供。
 そして今は――。
「トリス」
「え」
 声を掛ければ、トリストラムは少なからず驚いた様子で振り返った。
 柔らかな黒髪が揺れ、青空に添えられた若葉を連想させる蒼色の瞳が丸くなる。
「アル兄?」
 高くも低くもない、耳に心地良い呼び声。
 間違いなくトリストラムだ。
 しかし、その周囲に彼を守護する者達の姿は無く、彼は彼一人きり。
(声の主も粋な事をしてくれる…)
 胸中にそのような事を呟きながら更に傍へ歩み寄った。
「アル兄、おかしいんだ。ここは学園内のはずなのに他の誰の姿も見えないし、姐さんや…」
「トリス」
 この不可思議な空間で親しい相手と出逢えた安堵感からか、らしくなく早口に状況を説明する少年に、しかしアルバートは微笑んで見せると、相手の口元に指を添える。
「心配ない、俺が一緒だろ?」
「ぇ…」
「それより精霊抜きで会えることなんて滅多にないんだ。校内を案内して貰えたら嬉しいんだが?」
 まだ学園に来て日が浅い彼の要望に、トリストラムは最初こそ不思議そうな顔をして見せたが、次第に普段の彼らしさを取り戻す。
「姐さんに後で報復されても、俺は責任持たないよ?」
「望むところだな」
 不敵に微笑うアルバートに、少年は軽く肩を竦めて見せたが、次いで向けられた笑顔は言葉よりも雄弁に彼の望みを叶えてくれていた。


 ■

 他には誰の姿も見られない学園を、アルバートはトリストラムと二人で歩く。
 静かな。
 ――静かな、冬の日。
 こんなにも穏やかに過ぎる時間はいつ以来だろうか。
「それで、こっちが精友学の講義堂で……って、聞いてる?」
「もちろん」
 さらりと答えながら見つめる先で、トリストラムは怪しむように眉を寄せた。
「なんか…、すごく視線を感じるんだけど」
「あぁ」
 それならと彼は笑みを深める。
「久し振りに会ったら、トリスが随分と大きくなった気がしてな」
「……アル兄に大きくなったとか言われても、すっごい嫌味に聞こえるんだけど? アル兄に比べたら俺は全然小さいんだし」
「体のことじゃなくてさ」
 少年の反応に、無意識に零れた笑いを滲ませた返答。
「精神面の話だよ。内面が大きくなったと言うのかな」
「そう、かな…、他の人に比べたら、まだ未熟だと思うけど…」
「他人と比べる必要なんてないだろ?」
 言いながら、その頭に触れる。
「大きくなったよ、あの頃よりもずっと」
「アル兄…」
「もう十七だもんな、おまえも」
「って!」
 唐突に頭を撫で回されたトリストラムは抗議すべく目を吊り上げる。
 手を退かせて、すかさず取ったのは安全距離。
「何するんだよッ!」
 ぐしゃぐしゃになってしまった髪の毛を直しながら文句を言うトリストラムに、しかしアルバートは声を立てて笑った。
「そうムキになるなよ。紅茶でもどうだ、今日は俺が淹れてやる」
 奢ってやると言ってやりたいところだが、今の、この世界ではそういうわけにもいくまい。
 そうして手を差し出すと、トリストラムは驚き顔。
 だが。
「……お茶一杯くらいじゃ許してあげないけどね」
 手に手を重ねた少年の表情は、いつになく嬉しそうな微笑みだった。


 ■

 舞い散る雪も幻想の産物だろうか。
 ひらひらと視界を流れゆく白い結晶には、トリストラムの繊細な微笑みが、よく似合う。
 自分達の他には誰の気配を感じることもなく、静かに過ぎていく二人だけの時間は、アルバートが望んだ通りの「夢」だ。
 …ならば、君の願いは。
「トリス」
「ん?」
 空を仰いでいた視線が応えたのを確認して彼も微笑った。
「なにか欲しいものはあるか?」
「…なに、唐突に」
「クリスマスだからな」
 大切な人と共に過ごせる命の在ることを神に感謝し、その生誕を祝う日は、神によって巡り合えた相手を尊ぶ日。
 だからこそ、この日には多くの贈り物が誰かのもとに届けられる。
「俺がトリスに何かを贈りたいと思うのも当然だろう?」
 そうして向ける笑みを、相手はどう解釈したのか。
「アル兄から欲しいものなんて特にはないけど」
 少年は困ったように言う。
「何も?」
「だって、もう貰っているから」
 問い返しには、その左耳に輝くピアスを弄ってみせる。
「これで充分だよ、本当に…」
「欲が無いな」
 くすくすと小さく笑えば、トリストラムの頬が微かに赤くなった。


 それきり、辺りには静寂が広がる。
 二人は無言で雪の下に佇む。
 ひらひら。
 ひらひらと舞い散る雪は辺りを覆い、世界をゆっくりと白一色に変えていく。
 この世界には二人きり。
 その言葉を聴くものは、互い以外には無い。
 トリストラムもそれに気付いたのか、…何かを決意したのか。
「出来るなら…だけど、これからも俺達兄弟の支えであって欲しい、かな…」
 悩んで、悩んだ末の言葉だろうと判るほどに真摯な声音。
「君の人生を縛るみたいで、申し訳ないとは思うんだけど……さ」
 本当に心苦しそうに告げる少年に、アルバートは苦笑する。
「別に縛られるとは思っていないんだが」
「でも」
「俺は俺の意思で君達と友人関係を築いていると言ったはずだよ」
 はっきりと告げると、トリストラムは複雑そうな表情で黙ってしまう。
 そんな反応が、何よりも――。
「君達兄弟の“支え”は、精神的な支えという意味でいいのか?」
 コクン、と頷くトリストラムは、やはり黙ったまま。
 アルバートは、とうとう限界とばかりに声を立てて笑ってしまう。
「なに?」
 驚いた顔をする少年に肩を竦めて見せて。
「まったく…。何事に対しても、もう少し肩の力を抜いて考えれば良いんだって、いつも言っているだろう」
「そんな…、アル兄は簡単に言うけど、それが出来ていたら苦労はしないよ」
 少なからず怒ったように言われて、しかし、そんな態度すらアルバートにとっては好ましいことこの上ない。
「いいや、トリスはもう少し努力してごらん。以前に俺が君に言ったことも含めて、な」
「……? 以前に…って」
 怪訝な顔をしつつ小首を傾げたトリストラムは、彼の言葉が意味するところを記憶の中から探っていたようだった。
「ぁ…っ」
 しばらくして声を上げたトリストラムは、これ以上ない程に顔を赤くして眦を吊り上げる。
 アルバートは、笑う。

 ――……君が女の子だったら良かったのに……

 いつかの酒の席だ。
 酔ったフリをして告げた言葉は、決して己の願望ではない。

 そうじゃない。


「ぁっ…アル兄、まさか覚えて…っ」
「さぁ、何の話しかな」
 今更のようにとぼけてやると、トリストラムの顔はますます赤くなる。
 口をぱくぱくさせながらも、これといった言葉が見つからないらしい少年は、最後になって怒った。
「い、いつか覚えてろー!!」
 真っ赤な顔で言い放つ言葉の先は、どこに向かっているだろうか。


 此処は『夢の世界』。
 現実には続かず、残るものも無く、たった一夜の「心」に贈られる物語。

「貴方の一番欲しいものって何?」

 家族から。
 友人から。
 恋人から。

 そうとは表現出来ない“誰か”から、貴方が一番欲しいものは。


 十二月の奇跡の夜。
 白銀の結晶が舞う世界で、貴方が貴方と見る夢は――……。




 ―了―

=======================================================================
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
・mr0058/トリストラム・ガーランド様/男性/17/専攻:精霊友達学/
・mr0768/アルバート・ピアソラ/男性/19/専攻:幻想装具学/

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
今回はクリスマスノベル【we wish…】へのご参加、まことにありがとうございます。
お届けまで少々お時間を頂いてしまいましたが「待っていて良かった」と思っていただける物語に仕上がっていれば幸いです。
クリスマスの贈り物の習慣に関する説明に関しては当方の個人的解釈です。
更には問題の「君が女の子なら〜」という発言の解釈ですが……間違ってませんでしょか?(汗
お気に召して頂けます事を切に祈ると共に、また別の機会にもお逢い出来ます事を願って――。
年の瀬の忙しい時期ですが、くれぐれもお体はご自愛下さい。


月原みなみ拝

=======================================================================
WhiteChristmas・聖なる夜の物語 -
月原みなみ クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2007年12月25日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.