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『凍りついた体、暖まった絆 』
レピア・浮桜1926)&エルファリア(NPCS002)

 エルファリア王女はその立場上、あらゆる人間から色々な贈り物を受け取ることが常だった。
 ある日、踊り子のレピア・浮桜に見せた魔法のドールハウス型ダンジョンもそのひとつだ。
「父様に仕えている魔術師からもらったの」
 ダンジョンを10分の1サイズで再現してある精密なドールハウスだった。
「まさか中で冒険できたりしないわよね」
 レピアは笑って言った。するとエルファリアは片目をつぶって、
「できるのよ、それが」
 とうふふと微笑んだ。

 ■■■ ■■■ ■■■

 入り口の扉に手を当てて、魔術師に教えてもらった合言葉を唱える――
 ふっ……とレピアたちの体が一瞬浮き、そして次には暗転。
 やがて視界が開けた時、そこは見知らぬ場所だった。四角い箱のようだ。
「嘘……本当に入ったの?」
 レピアは壁をぺたぺた触ってその感触を確かめる。硬い。紙製でも木製でもない。石製だ。
 エルファリアはいつになく上機嫌で、
「ほら、父様付の魔術師だけあってすごいでしょう?」
 さあ、と無邪気な子供のようにレピアの手を引いて、
「次の部屋へ行きましょう、レピア」
「もうエルファリアったら。どうしたのよ今日は」
「ふふっ」
 やけに嬉しそうな王女の様子が不思議だったが、エルファリアが喜ぶことはレピアも嬉しいので、それ以上何も言わないことにした。
 入り口の次の部屋へ入ると、そこは更衣室だった。
「あら……何だか不思議な服ばかりね」
 エルファリアは置いてある着替えを見て、不思議そうに首をかしげる。
 レピアは並ぶ衣装を見て苦笑していた。――全部冒険用の衣装。エルファリアにはあまり縁がないだろう。
「好きなのを着ていいのかしら?」
「いいわよ、きっと」
「じゃあ……」
 エルファリアは真剣に悩んだ後、とっても大胆にビキニアーマーを選んだ。
 レピアが驚いて、
「どうしたの? そういうの好みだった?」
「好みというか……」
 エルファリアは頬を染めて、上目遣いで告げる。
「レピアが、普段着ていそうな服でしょう?」
「………」
 ビキニアーマー。
 確かに露出も平気なレピアには馴染み深い装束でもある。
「あたしの真似なんかしなくていいのに」
 レピアは笑いながら自分も装備を整える。
 今回は露出を抑えてみようか。ここはいっそ忍ぶ姿……そのままくノ一装束で。
「あらレピア。その服装はなあに?」
 世事に疎いエルファリアはくノ一を知らない。
「うーん、女性版忍者。……って言ってもエルファリアには分からないか」
 確か王室の騎士団に監察としてくノ一がいたような気もするが。忍者は忍ぶのだ、姿を隠すのが当然だ。
 のちのちエルファリアがエルザードを治めるための準備を始める頃には、紹介されるのかもしれないが。
「それよりエルファリア。このダンジョンは魔物は出るの? だとしたら危険よ?」
「大丈夫、このドールハウス用の人形を置かなければ魔物は出ないのですって。その人形は、例の魔術師があらかじめ抜いておいてくれたそうよ」
「へえ……」
 親切な魔術師だ。それなら完全にお遊び用ダンジョンになる。エルファリアのいい退屈しのぎになるだろう。
 レピアはそんな軽い気持ちでいた。エルファリアがいつになく楽しそうだったから、彼女もつられて楽しい気分になった。
 このダンジョンを突破するのがいかに難しいかを知りもせずに……

 ■■■ ■■■ ■■■

「きゃあああああ!」
 またもやエルファリアの悲鳴が上がる。
 タイルのしきつめられたような床のある部屋に出て、これは何かあるかと思っていたら案の定。
 ある床を踏んだ瞬間にエルファリアがくるくるくるくると床ごと回転し始めた。
 レピアは慌ててトラップ解除スイッチを探す。いや、スイッチがない。よく見ればタイルの色の並びがおかしい。
 レピアは歩き回って――いやそんな余裕はないので走り回ってみた。
 ある一部のタイルの色が、踏むと変化していく仕掛けになっていた。踏むたびに色んな色に変化してしまう。これ系のトラップは色を揃えるとクリアと相場が決まっている。決まっているが――何色が正解だろう?
 レピアは色が変わるタイルを踏んで色の変わる順番を確認しながら、ふとまだくるくる回っているエルファリアを見た。
 ――彼女の乗ってしまったタイルの色は、赤。
「赤!」
 レピアは冒険者として培った頭脳をフル回転させて、あっという間にタイルを真っ赤に染めた。
 エルファリアの乗っていた回転床が、止まった。
 エルファリアはへたりこむ。回転するというのはなかなかに体力を消耗するのだ。
「エルファリア! 大丈夫?」
 レピアはすかさず駆け寄って王女の肩を抱いた。
「だ、大丈夫よ……ごめんなさい」
 エルファリアは落ち込み気味だった。
 更衣室を出て以来――
 どこの部屋もトラップだらけ。
 ある部屋。壁に触れれば炎が両側の壁から噴き出した。
 レピアが部屋に備え付けてあったフックを使い、炎の向こう側にある壁の、小さな小さなスイッチを押すというとても根気と集中力のいる作業を行って処理。
 ある部屋。宝箱の中から石が飛び出してきた。レピアがエルファリアをかばい、今後宝箱はレピアが開けるということで同意。
 ある部屋。床が動いた。エルファリアがひゅーと流れていった。終わったかと思ったら違う動く床に乗ってしまい、またひゅーとどこかへ行ってしまう。
 あらゆる方向へ移動するエルファリアの、移動先を計算し、レピアは自分も動く床を利用して先回りすることでエルファリアの動きを止めた。
 ある部屋。エルファリアがうかつに引っ張った紐。
 彼女の足元からガスが噴き出して、王女は酔っ払ったようにステータス混乱。レピアは自分は息を止め暴れるエルファリアを抱きかかえ、次々と扉を突破しようやく泉に到着。思った通り状態変化回復の泉で、その水をエルファリアに飲ませて解決。
 とにかくあらゆるところでエルファリアがトラップを発動させ、レピアがその解除に奔走した。
「私……役立たずね……」
 エルファリアはすんとすすりあげる。
「なに言ってるの。慣れてないだけよ」
「でも……迷惑かけてばかり」
 ――確かにエルファリアのトラップ引っかかり確率は素晴らしいものがあったが、レピアはまったく気にしていなかった。
 軽く王女の額に口付けて、
「元気出して。ただのお遊びよ?」
 それに――と、レピアは途中で手に入れたかつげる皮袋を下ろし、中身をのぞいた。
「エルファリアのおかげで、こんなにいっぱい宝物見つかったじゃない。熟練の冒険者でも宝箱を見つけるのって簡単じゃないのよ?」
 そう、エルファリアは罠と同時に宝箱を見つける才能にもあふれていたようだ。どんな変なところにある宝箱も発見し、レピアが開けて宝物も集めてきた。
 エルファリアは困ったように笑った。
「ふふ。何だか恥ずかしい……それに宝物は、このドールハウスを出てしまうと消滅してしまうし……ね」
「気にしない。楽しければいいのよ」
「………」
 エルファリアは儚く笑いながら、ふと上を見る。
「あ……」
「え?」
 レピアも彼女の視線を追いかけて天井を見た。そして絶句した。
 天井から、宝箱がぶらさがっている。
 ――こういう部屋では床にばかり意識が向いているから、天上にある宝箱に気づく可能性などどれくらいあるだろう――
「……やっぱりエルファリアの才能だわ」
 最初のトラップの時に手に入れていたフックで宝箱を床に落として、中を見ると靴が2足。かかとに羽飾りがついた、白くて小洒落た靴だ。
「あ、これは多分……」
「あら、綺麗な靴」
 口元に手を当てたレピアと、頬に手を当てたエルファリア。
 それぞれ違う意味で驚いたのだが――
「――何にせよ、いい宝物だわ」
 2人は顔を寄せ合って笑った。

 次の部屋。
 エルファリアが一歩踏み出した瞬間、部屋全体の床から太い針が突き出した。
「え……と、これは、どうしたらトラップに引っかからずに済んだのかしら……」
「よく見て。ところどころに針のない床がある……その床だけ踏んで進めってことだったんだと思う」
「そんなのどうやって見分けるの……」
 エルファリアはとほほと肩を落とす。
「とりあえず解除しなきゃね」
「どうすればいいの?」
「こっちに戻っておいで?」
 レピアは自分の隣を指す。
「………」
 エルファリアは恥ずかしそうに、そそくさとレピアの隣に戻った。
 ――針が沈む。
「ええと……ここは、さっき見つけたばかりの宝物でも利用しようかしら」
 レピアは皮袋から、先ほどの靴2足を取り出した。
「これを履くと――」
 エルファリアとともに靴を履く。
「きゃっ!?」
 エルファリアは声を上げた。――体が浮かんだ。
「空中歩行用の靴。でも時間制限でもあったら大変だから、急ぎましょう」
「え、え、え、」
 レピアはわたわたしている王女の手を引いてすいすいと空中を走って――いっそ泳いでいく。
 針は一度も飛び出してこなかった。幸い、靴の効果も次の扉にたどりつくまでもってくれた。
「到着!」
 レピアは元気よく扉の前の床に着地する。――大丈夫だ、針は飛び出さない。
 それからエルファリアをエスコートするようにゆっくり着地させる。
「ほらね」
 レピアはウインクした。「エルファリアの宝物を見つける才能、役立ったわ」
 エルファリアはぽっと頬を染めた。

「ねえ、このダンジョンってモンスターはいないわけよね」
 レピアはふと思ってエルファリアを振り返る。
「え? ええ」
「どうしたらクリアになるのかしら?」
 言われて、エルファリアは指先を紅唇に当てた。
「確か……最深部に雪の女王が封印されているっていう設定だったような気がするわ」
「へえ。じゃあその人の封印を解いたらクリアかしらね」
 レピアは軽く言って、「やってやろうじゃないの」と拳を握った。

 ■■■ ■■■ ■■■

「そろそろ深くなってきたわねえ」
 レピアはエルファリアに、「大丈夫?」と訊いた。
 大分歩いて――あるいは走ったりそれ以外の訳の分からない運動をさせられたり、疲労が激しいはずだ。
 エルファリアはにこりと笑った。
「大丈夫。私、これでも少しは鍛えられているから」
 それもそうだ。エルファリアは王女としての公務もあるし、それ以外にも昼間になると石像化するレピアの体を移動させたりと、かなり体力がある。
 回転する床のような、滅多にない動きにはがっくりと疲労してしまったようだが、普通に動く分には充分なようだった。
「エルファリア、意外と冒険者向きかも」
 レピアは笑いながら、次の部屋のドアを開けた。
 ――何もない、四角い部屋。
 下がタイル上になっているわけでもない。天井を見ても、何かがつり下がっているわけでもない。
「エルファリア、壁に触らないようにね」
「ええ」
 2人は慎重に辺りを見てから、そっと、一歩踏み出した。
 その瞬間――

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「―――!?」

 レピアがはっと音のする方角を見上げる。――頭上。
 天井。
 天井が――徐々に落ちてくる。
「エルファリア!」
 彼女の手を引いて、次の部屋へのドアの前に行き開けようとした。だが、開かない。
「も、元の部屋に戻りましょう!」
 エルファリアが今入ってきたばかりの扉に戻り開けようとしたが――開かない。
 天井がどんどん迫ってくる。
 行きも帰りも。どちらの扉も開かない。
「エルファリア!」
 レピアが叫んだ。天井が手を伸ばして届く位置まで来てしまっている。
「さっきあなたが見つけたスクロールを!」
「え? スクロール……あ、巻物ね」
「その中に石化用のものがあったでしょう!? それを私に使って!」
「そんな」
 エルファリアが目を見張る。天井が、肘を折り曲げて届くほどに近い――
「私が石像になって支えるわ! 大丈夫、石像化には慣れているから!」
「そういう問題では――」
「急いで! 2人ともつぶされるわ!」
「―――!」
 エルファリアは自分が持っていた荷物の中から、スクロール数個を慌てて選ぶ。
 その中から灰色のものを取り出し、
「っ」
 胸に棘が刺さる思いで、レピアに向かってばっと開いた。
 巻物が発光する――

 光はまともにレピアに当たり、
 ぎりぎりレピアが少しかがんで上へ伸ばした両手に天井が当たる状態で、
 天井が、ガキンと止まった。

 部屋が、しん……と静まり返る。

 エルファリアはもう使えなくなったスクロールを手に、ぺたりとその場に座り込んだ。
「レピア……」
 レピアは石像になって、天井を支えている。
 石像になるレピアの様子を見るのは、初めてではないけれど……
「………」
 言いようもなく悲しくなった。エルファリアは泣きそうになって、慌ててこらえた。
 このスクロールを見つけたのも自分だ……
 このスクロールがなければ2人とも天井の餌食だった……
「……そうよ。嘆いてる場合じゃないわ」
 レピア像の必死な形相を見て、エルファリアは決意を乗せた声でつぶやいた。
 天井に頭を打たないよう、かがんだまま思案する。
 天井は部屋全体を覆っている。レピアの像を動かしたくても――部屋から出るすべがない。
「た、宝物……宝物に何か……」
 レピアは石像になる前に、荷物を落としていた。かろうじて彼女の荷物が石化することはまぬがれている。
 レピアの持っていた分と、自分の持っていた分の宝物。それで何とかこの部屋を出れば――
「確か前の部屋、状態変化を直す泉が……」
 自分が混乱した時、飲ませてもらった泉の水がある。あれならばレピアの石化を解くことができるかもしれない。
 そこにたどりつくために。
 今。頭をフル回転させなくては。

 見つけた宝物は、見つけるたびにその場でレピアが「これはこう使う」と使い方や効果を説明してくれていた。
 エルファリアはそれをひとつひとつ思い出す。
「まずは扉を開けなくてはだめね。でも爆発させる……とかだと、天井まで崩れたりして、危険だわ」
 単純に鍵開けの効果がある道具は、ない。あったらそれを使って天井が落ちてくる前に部屋を出ている。
「それ以前に……」
 エルファリアは当惑した気分で入ってきた側、先へ進む側の扉を見た。
「……どちらも、『鍵』ではないわね……」
 扉だ。だが鍵穴はない。
 開かないのは……もう天井のせいで上が見えないが、上から楔でもはまったのだろうか。
 考え、考え。
「……やはり破壊、かしら……」
 エルファリアは吐息をつく。
 自分の荷物の中から、グローブを取り出した。レピアが、「エルファリアは腕力があるから、このパワー増強グローブはいざという時役に立つわよ」とエルファリアに渡したものだ。
 まずそれをはめた。
 掌と、手首から肘までがかっと熱くなった。
 かがんだまま進みレピア像に近づく。そっと石像の腰あたりに手を当て、引っ張ってみる。
 ゴゴ……
 石像が、動いた。
「レピアはこれで、移動させられる……」
 ゴゴ……ゴゴゴ……
「レピア……痛いかもしれないけれど、ごめんなさいね」
 慎重に慎重に。2つの荷物袋も時々自分の方向に移動させながらレピア像を、入ってきた方向の扉へ向けて引っ張っていく。
 少しずつ少しずつ。
 そして、やがて扉ぎりぎりまでやってきた。
 天井が傾くことはない。
 ふう、と息をつき、エルファリアは深呼吸をする。
 ――呼吸は、苦しいながらもできる。隙間があるということだ――
 次に彼女はグローブを手からはずし、スクロールをひとつ手に取った。
 真っ白の巻物。それを、扉に向けてばっと開く。
 瞬間、エルファリアにも響くほどの冷気が発生し、扉を――凍りつかせた。
 このスクロールは、絶対零度の低温で凍りつかせる。
 ――凍ったものはもろい。
「……石に、それが通じるかどうか分からないけれど……っ」
 グローブをはめ直し、エルファリアは深呼吸する。
 気合い。
 いつもは清楚なエルファリア王女も、この時ばかりは友人のために。
 ――レピアを、救うために。
 渾身の力、で。

 ―――……

 扉に、ばかっと穴が開いた。
 思ったよりも薄い扉だった。穴がひとつ開いてしまえば後は早い。エルファリアは急いでまたグローブを脱ぎ捨て、水色の巻物を取り出す。
 それを、穴に向かって開いた。
 水流が噴射された。
 ――穿たれた穴に叩きつけられる水流。それは穴をどんどん大きくして。
 やがて扉全体を崩すほどに――

 天井は落ちてこない。エルファリアは道具袋をまず扉の向こうに移し、それからまた静かにレピア像を引っ張った。
 レピア像が扉をまたいだ瞬間、
 ドゴン!
 天井が床まで落ちた。
 エルファリアは慌ててレピア像の背中を確かめる。
 ――かすっていない。大丈夫だ、石像は無事だ――
 思わず力が抜けて、すとんとその場に座り込んでしまった。
 レピア像に手を回し、額をつけてその冷たさを肌で感じながらぽつりとつぶやく。
「もう少し……もう少し、頑張るから……」

 ■■■ ■■■ ■■■

 道具袋の中身を駆使して、エルファリアはレピア像を移動させた。
 幸い一度通った場所なので、トラップはすべてレピアが解除してくれている。再度復活するトラップはなかった。
 状態回復の泉まで到着――
「レピア……これで、直る……わよね……」
 息も絶え絶えにエルファリアはレピア像を泉の端に沈めた。
 そして、
「……私も、落ち着くために水浴びをしようかしら……」
 ビキニアーマーの一部を取り外し身軽になってから、泉の中へと身を沈めた。
 美しい泉だ。両手ですくうと、さらさらと指の間から流れていく。透明ではなく透き通った水色。……光をどこからか反射しているらしい。
(どこからかしら……)
 不思議に思いながらも、少し泳ぐように泉の中を移動した。
 一部は壁が岸壁になっていて、上から滝のように水が流れている。
 近づいて、その岩に手を触れてみた。不思議な手触り……
 と。
(―――っ!?)
 がこんっ
 足元で音がして、足が何かに引っ張られた。そしてその引っ張られた勢いで、エルファリアは一気に泉の底に沈み、さらに泉の底にいつの間にかぽっかりと開いていた穴の中へと滑り込み、流れる水の勢いに乗せられてそのままどこかへ流され――
 やがて、弾き出された。
 ――よう来た!
 歓喜するような声が聞こえた。
 一瞬目の前に美しい雪の女王が見えた。
 ――よい身体じゃ。借りるぞえ――
 雪の女王?
 違う、氷の精霊だ――!

「レピア――!」
 エルファリアは氷の精霊に体をのっとられ、そのまま凍りついた。

「―――!?」
 その瞬間、はっとレピアの目が開いた。
 気がつくと自分が水の中にいて、足がその水の底に開いている穴に引っかかっている。
 穴は徐々に閉じようとしていた。レピアは慌てて足を引き、逃げ出した。
 ざばっと水面に顔を出すと、そこは見覚えのある場所だった。
「確か……ええとあたし……は、エルファリアと……一緒に……そうだわ、ここは状態回復の泉……」
 自分は石化したはずだ。
 エルファリアはそんな自分をここまで運んでくれたのか。
 でも肝心のエルファリアはどこだ?
 ――泉のほとりに、荷物袋とビキニアーマーの一部が置かれている。
「………!!」
 レピアははっと泉の底を見た。もう閉じてしまった穴――
「まさか……あの穴の中へ!?」
 どこへ通じている穴だったのだろう。
 ――角度からして、下へ通じていたような気がした。
「エルファリア……!」

 最深部に、雪の女王が

「最深部……」
 どこへ行ったらいいのか分からないが、とにかくそこに行けば何かが分かるかもしれない。
 レピアはビキニアーマーの一部を荷物袋に入れ、2つの荷物袋を抱えて走り出した。

 ■■■ ■■■ ■■■

 一度通った道をスピードを上げて進む。一回解除したトラップは再度復活することがなかった。
 落ちる天井は、下に落ちきったことでもう動かないようだ。レピアは落ちた天井の上を走って、次の扉を目指す。
 硬かったはずの扉が、今は簡単に開く。
 次の部屋、次の部屋、次の部屋。どこも冒険者のレピアには覚えのあるようなトラップの部屋ばかりで、今はエルファリアがいないため軽く突破していった。
 エルファリアがいる時は、彼女の勘で横道へ入って、宝物を見つけたりもしたが、今は宝に用はない。こうなるとレピアの勘の方が強味で、ただひたすら前に進む道を選ぶことができる。
 最深部、最深部、目指すはただそれだけ――
「エルファリア、エルファリアーーーー!」
 レピアの声がダンジョンに響く……

 やがて。
 ある扉を突破すると、突然一面がまぶしくレピアの目に飛び込んできた。
 部屋中が氷で出来ている――
 そしてその中央に。

「エルファリア!」

 大きく何かを叫んでいる表情で、ビキニアーマーを一部はずしてしまっているためとても色っぽい格好のまま、凍りついている王女の姿。
「どうして……! ここには雪の女王が封印されているのではないの……!」
 ――おやおや、うるさい娘が来たものだ
 凍りついたエルファリアから、するっと薄透明な美しい女がすべりでてきた。
 レピアはきっとその存在をにらむ。
「お前がエルファリアをこんな姿にしたの……!」
 ――少し体を借りたのみ 妾には普段体がないのでな
「戻らないじゃないの!」
 ――一度凍らせてしまったからの
「………っ!」
 怒りがこみあげて仕方なかったが、薄透明な敵――モンスターではない。戦う相手ではない。
 エルファリアは凍りついている。
 それは状態変化の種類に入るはずだ。
「あの、泉に戻れば……!」
 ――勝手にするがよい
 ひらひらと無責任に手を振ってくる正体不明の存在を、レピアは無視してエルファリア像に駆け寄った。
 触れてみる。冷たくてたまらない。
「――そうだわ、パワーグローブが」
 ああでも、とグローブを取り出そうとしたレピアは首を振った。
「駄目だわ、氷像だもの。壊してしまう」
 しかし素手で持てたものではない。
 レピアは、今日は自分が露出の少ない服装でよかったと思った。すぐさま自分のくノ一装束を脱ぎ去り、それをエルファリア像にうまく巻いて引っかけ、背中にかつげるようにする。
 薄透明な何かは面白そうに見ていたが、何も言わなかった。
「今度会ったら覚悟していなさいよ!」
 レピアは怒鳴って、エルファリア像と荷物をかついでまた元来た道を猛然と戻り始めた。

 ■■■ ■■■ ■■■

 状態回復の泉に戻ると、氷像を浸す前にまた底に穴が開いたりしないよう、レピアは一度泉に潜って底を調べた。
 底には何もない。ではどこだろう。
 ふと見ると、エルファリアの興味を引きそうな岸壁――
 目をこらして岩々の隙間を見る。そして、
「あった」
 まるで周りの風景に合わせて自分の体の色を変える虫のようにそこにあったスイッチを押した。
 しゅうう……ぶくぶくぶく、と泉の底からあぶくが立つ。
「これで大丈夫なはず」
 レピアはそっとエルファリアの氷像を泉に近づけた。万が一、溶けてなくなったりしないように、髪の毛の部分をまず浸してみてから――大丈夫だと分かると、ゆっくりと氷像を抱えて泉に浸す。
 冷たくて冷たくてたまらないエルファリアの体に泉の水をかけて、撫でるようにしていたレピアは、エルファリア像がやがて人肌の色を取り戻し始めるのを見て歓喜した。
 エルファリアは、しばらくとろんとした目をしていたが――
 やがて自分の惨状を見てとって大慌てになった。
「な、なんでここにいるのかしら」
「ふふっ。エルファリア!」
 レピアに抱きつかれ、エルファリアは目をしろくろ……

「本当はね――」
 やがて落ち着いて、泉に身を浸しながらエルファリアは囁いた。
「冒険をするレピアの気持ちを知りたくてこのドールハウスを喜んでもらってきたのだけれど……」
 泉で目が覚めちゃうなんて、ね。エルファリアはほんの少し照れたように笑った。
 レピアはエルファリアの言葉を意外に思った。
 そして――そんな姫をとても愛しく思った。
「あたしも石像をエルファリアに洗ってもらうことがあるから、おあいこね」
 ウインクしてエルファリアを励ます――

 でも、ね。
 本当にエルファリアと冒険することが出来る日が来たら、きっとトラップだらけ、はらはらどきどき。
 楽しくって仕方がないでしょうね。
 あの最深部の正体不明な妖精みたいなのがいっぱい出てきて、きっと危ないことこの上ないだろうけど。
「それも一興ね」
 レピアはつぶやいた。
 エルファリアが不思議そうな顔をする。
 そんな姫にいたずらっぽく笑みを返して――……



 <了>



ライターより------------
こんにちは、笠城夢斗です。
今回もシチュエーションノベルのご発注ありがとうございました。
お届けが大変遅れ、本当に申し訳ございません。
今回はトラップに苦労しました。どうやったら楽しいダンジョンになるかと……
でも、やっぱり最後に笑い合う2人は綺麗でしょうね。
よろしければまたお会いできますよう……
PCシチュエーションノベル(シングル) -
笠城夢斗 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2007年12月20日

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