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『Train・White・Travel 』
梧・北斗5698



 ここは現実世界ではない。
 だが、もう一つの世界である。

 向かう先は満月と星空がもっとも美しくみえるという、聖夜の丘。
 列車は目的の駅に着くまではただ進むのみ。

 大きな西洋風の駅では、ざわめく人々の中でエファナは佇んでいる。
 欲しいものを調べて来い、と言われたわけだが……。

***

「わ〜」
 エファナは駅を見上げた。人々が行き交う。
(ここに居る人たちに『欲しいもの』を聞けば……)
 ちょうど目についた少年に近づいていく。
 ハンチング帽に似た帽子を被って、そわそわと落ち着きなく辺りを見回している。きっと何かあるに違いない!
(何か望んだことがある、絶対に!)
 ぱたぱたと近づいていくと、彼はこちらに気づいたようだ。



 駅のホームでの待ち合わせ。『彼女』が来るまでの間、梧北斗はざわめく人々の中でうきうきとしていた。
(二人で出かけるなんて、夏以来かな?)
 夏、という単語を思い出したら頬がじわっと熱くなった。
(うあぁ〜……俺、なに思い出してんの! いや、年頃の青少年としちゃあ当然だよな、うん)
 そんな北斗の前に、少女が立つ。
「何か望んでいること、ないですか?」
 瞳をきらきらさせて見上げてくる少女を怪訝そうに見て、北斗は頭の上に疑問符を浮かべた。
「……だれ?」
「私はエファナ!」
「……?」
 知り合いにはそんな名前はいない。北斗は首を傾げつつ「あ」と声をあげる。
 エファナの背後に現れたフレアを見てつい、頬が緩んだ。
 フレアは視線をエファナに移し、背後からその小さな頭を片手でぐわしっ、と掴んだ。
「はひっ!?」
「人の男をナンパしようなんて、いい根性してるじゃないか」
 不敵な笑みを浮かべているフレアが、掴んでいる手に力を込める。エファナの頭がみしみしと嫌な音をたてた。
「すっ、すみませ〜んっっ」
 エファナは慌ててそこから逃げてしまった。
 その後ろ姿を見送ってから、北斗は半眼でフレアを見る。
「そこまですることねーじゃん。真っ青になってたぜ、あの子」
「冗談なんだが」
 腰に片手を当て、フンと鼻で息をするフレア。
 フレアの格好は一応外出着ではあるが、簡素なものだ。どこかの使用人だとわかる、やや古ぼけた感じのスカート姿。
 北斗も同じようにどこかの労働者という感じではある。いや、この世界ではこれが当たり前の格好だ。
 上流階級の者ならばもっと豪奢な格好ができるが、なんとなく……北斗は今のほうがいいなと思っている。優雅な金持ちの生活に憧れないではないが、そこにはもっと堅苦しくて辛いものがあるに違いない。それよりも……。
(こうして好きになれる相手を選べて、こうしてデートできるほうが……いいし)
 誰からも文句のでない相手というのは、色々な意味で安心できる。
「……なにニヤニヤしてんだ、ひとの顔見て」
「へ?」
「ヤラシーこと考えてたのか、もしかして」
 呆れたような目で見られて北斗は焦る。
「ちっ、違う!」
「そんなに否定することないのに……。別に怒らないよ、アタシは。そういうのって、本能的欲求ってヤツだしね」
「だ、だから違うっつーのに……。なんかフレアってちょっとオヤジくさいよな……」
「フッ。よく言われるんだこれが」
「自慢げに言うところじゃないと思う……」
 ハッとして北斗はフレアの手を掴む。
「そろそろ出発の時間だ! 行こうぜ!」



「聖夜の丘までの列車の旅だってさ! 面白そうだし、一緒に行かないか?」

 ……てなとこまでは良かった。
 汽車の揺れの中、北斗は向かいの席に座るフレアをちらちらうかがう。
(……なにやってんだよ俺は〜。せっかく二人きりで出かけてんのに)
 何を話せばいいのかわからない。
 頬杖をついて窓の外を眺めているフレアの横顔は綺麗だ。いや、これはかなり惚れた欲目が入っているが。
(くぅ〜……クリスマスに『彼女』と過ごせるとか、俺の17年の人生で初かも……!)
 感動してしまうのは、仕方がない。
 この列車は、深夜に目的地に着く。窓の外はすっかり暗くて景色が見えないが、それでもフレアは気にした様子はなかった。
(う……さっきから全然会話がない……)
 さすがにこれはマズイのでは?
(うーん、ここはなんか明るい話題でも)
 と思うが、そう簡単に話題が見つかるわけはない。
 北斗は眉根を寄せ、うー、と小さく低く唸った。
 フレアがそばに居るだけで嬉しい。それだけでこんなに胸がどきどきして、幸福だ。
「え、と……あのさ、フレアってクリスマスに欲しいもの、ないか?」
「ん?」
 彼女はきょとんとした表情をこちらに向ける。
「いや、だから……欲しいもの。俺で買える範囲でだけど」
 なんでも言ってくれ、とは……やはり言えない。変な期待をさせて、がっかりされるのは嫌だ。
 もじもじする北斗に、フレアは微笑む。
「おまえは可愛い男だなぁ」
「かっ、可愛いとか言うなよ、男に」
「だって本当のことじゃん。初々しいよな。そこが好きなんだが」
「すっ……! ほ、ほんと?」
「ああ」
 笑顔で言われるとどうにも胸が苦しい。いや、待て待て。褒められてないような気がするんだが。
「ご、誤魔化されないぞ、俺は。可愛いのは、ふ、フレアのほうだろ」
「いや、おまえだろ」
 動揺せずにさらりと言い返されて北斗は「うっ」と言葉に詰まる。
 フレアはにたり、と意地悪な笑みを浮かべた。こういう笑みを浮かべると、ろくなことがないのは経験済みだ。
「いやぁもう、『あの時』のおまえは本気で可愛かったぞ〜。アタシなんて痛くて苦しかったってのに、おまえ一人がなんか興奮してたしな」
「わ〜! なっ、なんの話だ!」
 真っ赤になって両手を振る。だがフレアはにたにた笑ったままだ。
「あぁ……おまえにも見せてやりたいな! それはもう、胸にきゅんきゅんくる可愛さだったぞ! あはははは!」
 なんてタチの悪い女だ!
 北斗は涙目になって睨む。
「フレア〜……!」
「……」
 フレアはぎょっとしたように目を剥く。すぐに片手を顔の前に出して、悪い、というポーズをした。
「ごめん……。そんなにヘコむなよ。アタシがいじめたみたいじゃないか」
「いじめてただろ〜!」
「いや、からかってただけだ」
 だから……なんでそう偉そうに胸を張って言うんだ……。
 頬杖をつくフレアはやれやれというように嘆息した。
「悪い癖なんだよな〜。なんていうか、歪んでてごめん」
「いや……いいけど」
 なんか素直で気持ち悪い……。
(フレアって元は朱理なんだし……素直な性格なんだよなぁ、ほんとは)
 あ。
(待てよ……。あれだけ会話で悩んでたのに……今は)
 もしかして……フレアは気を遣ってくれた……?
(なわけないよな……)
 フレアが「うん」と小さく呟いたので、どきりとする。今の心の声、もしかして口に出していただろうか!?
「欲しいもの、思いつかないな!」
「……だからなんでそんな力一杯言うんだよ。あの、遠慮しなくてもいいんだぜ?」
 なんだ違ってたのかと安堵する一方で、声に力がない。
 フレアはにっこり微笑んだ。
「……ここは夢の世界だから忘れちゃうと思うし。言わないほうが華かな」
「? なんかよくわからないけど……その、俺、女の子が喜ぶものってわかんないから、言って欲しいんだけど」
 我ながら情けない。
 んー、とフレアは視線を天井に向ける。
「とはいえ、誰かから何かを贈られるってことなくてなぁ……。物欲もあんまりないし」
 ……と、フレアがにた〜っと笑った。北斗がビクッと反応する。
「あぁそうだ……。なんでもいいんだよ、な?」



 列車が目的の駅に到着したようだ。
 フレアと手を繋いで北斗は降車する。
 駅内はカップルが多いが、それほど人数は多くない。ぱらりぱらり、という感じだ。
「ほら、行こう北斗!」
「う……う、ん」
 ぎこちなく頷く北斗は、飛びそうになった帽子を、繋いでいない手でおさえる。
 駅から外に出るとそこは広々とした丘の上。満天の星。
「うわ〜……」
 思わずそう洩らす北斗を、フレアが引っ張る。
「一番綺麗に見えるところ、早く行かないと! ほらほら!」
「な、なんでそんな嬉しそうなんだよ〜……」
 弱りきった声の北斗を振り向き、フレアは赤い髪をなびかせて微笑んだ。
「そりゃ、プレゼントもらわないとな! ほらほら〜!」
 引っ張られててどんどん高い場所へ向かう。
「どうだ! ここなら見応え抜群だろ!?」
「……うん」
 元気いっぱいのフレアにつられて頷く北斗は……けれども、本当にそう思った。
 空いっぱいの星。ちかちかと瞬く星たちは、視界いっぱいに広がっている。
「綺麗だなぁ〜。すげー……」
「よし、座ろう座ろう」
「…………」
 さっさと座るフレアの横に、北斗は遠慮がちに座った。
「確かここって、恋人で来るといいんだろ。まぁなあ、こういうところに来たら気持ちも雰囲気も盛り上がるよな!」
「……だからフレアってオッサンくさいって」
「乙女っぽいアタシってほうがキモいだろ?」
 そりゃそうだけど……とは、口に出しては言わない。
 北斗は空を見上げて一息ついてから、口を開く。
「あのさ、フレア……その、俺に付き合ってくれてありがとうな?」
「ん?」
「なんていうか……凄い嬉しかったから……。あ、まずはメリークリスマス! だよな?」
「……そうか。列車の停車時刻は24時だから……今日はもう25日か。メリークリスマス、北斗」
「………………やっぱやらなきゃダメ?」
「ダメだ。約束を守れないヤツは男じゃないね」
 ヘッ、と鼻で笑うフレアは、かなり愉しそうな目をしている。絶対にからかっている!
「えと……ぜ、全部」
「それじゃ許しませ〜ん。ほら、頑張れ」
「……うぅ。か、可愛いところとか、変に素直なとことか、時々意地悪だけど、そこも好きで」
「ふんふん。照れるな」
「一生懸命なとこ、とか……頑張り屋なとこ、かっこいいところ、ホントはちょっと泣き虫なところ……それから」
 頬杖をついてこちらを見るフレアのほうを、北斗は見れない。きっと自分は今、耳まで真っ赤だ。
 指折り数えながら言う北斗は、言い終えてからフレアに、頬に軽くキスをされた。
「よく言えました。ご褒美」
「………………」
 頬に手を遣って北斗はフレアのほうをやっと見た。フレアが目を細める。
「なんだ。物足りなそうな顔してるな。他にも人がいるんだから、ちょっとは遠慮しなよ」
「そ、そんな顔してねぇよ!」
「じゃあしなくていいのか」
 そ、そう言われると……。
 困った顔の北斗を見て、フレアはゲラゲラと笑い声をあげた。
「すぐ顔に出るなぁ北斗は。可愛いぞ!」
「だ、だから可愛いって言うなよ!」

 その二人のやり取りは、誰が見ても……いちゃいちゃしているように見えた、らしい――。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【エファナ(えふぁな)/女/外見年齢12/見習いサンタ(レベル1魔女)】

【フレア=ストレンジ(ふれあ=すとれんじ)/女/?/ワタライ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 かなりラブ度高めです。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
WhiteChristmas・聖なる夜の物語 -
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東京怪談
2007年12月19日

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