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『■魔女たちの聖夜 』
樋口・真帆6458

「さーて、これで全部そろったぞー!」
「夢の世界」にそびえ立つ巨大なモミの木の下で、エファナは満足そうに頷いた。
 目の前には、ここひと月かけていくつかの世界を飛び回り、そこで出会った人々の願いを聞いて苦労の末に準備したプレゼントが、綺麗にラッピングされて山と積み上げられている。
 ついでに、モミの木を取り巻く草原には、テーブルを並べた野外パーティーの準備も整えられていた。
「イブの夜、夢の世界に集まったみんなが、ここでパーティーを楽しみながらプレゼントを開く……ウフッ、我ながら完璧なプランね!」
 もちろん「夢の世界」の出来事なので、目覚めてしまえばパーティーやプレゼントのことは皆忘れてしまうだろう。
 たった一夜の夢とはいえ、それでも集まったみんなの心からの笑顔を想像すると、エファナの口許にも知らず知らずのうちに笑みがこぼれてくる。

「あ〜ら。随分、楽しそうじゃない?」
 頭上からの声に驚いて振り返ると、そこに黒いドレスをまとい、蝙蝠のような翼を広げた少女が宙に浮いていた。
 歳は、ちょどエファナと同じくらいだ。
「あんた、誰?」
「私はメリーゼル。夢魔見習いの魔女よ」
「あら、そうなの? あたし、サンタ見習いのエファナ。よろしくね♪」
「よろしくぅ? バカいってんじゃないよ!」
 唐突に罵声を上げ、メリーゼルが手にした黒いステッキを振う。
 激しい突風が発生し、エファナが準備したパーティー会場をめちゃめちゃに吹き飛ばした。
「あーっ!? 何てことするのよ!」
「ここは私たち夢魔のシマなの。勝手なマネするんじゃないわよ!」
「そんなこと、いわれたって……」
「あら? そこにあるのは何かしら?」
 モミの木の下に積まれたプレゼントの山に目を付け、メリーゼルが舞い降りる。
「なーるほど。サンタ見習いは夢の世界で、人間が一番喜ぶプレゼントを探すって聞いてるけど……これがそうね?」
「ダメよ! それはみんなの――」
 慌てて止めようとしたエファナは、黒衣の少女の魔力で弾き飛ばされ、後方の地面に叩きつけられた。
 見かけの歳は同じでも、魔女としての力はメリーゼルの方が一枚上手らしい。
「ホホホ。私たち夢魔はねぇ、人間の『夢』を糧にして力を得るの。これだけの夢の力があれば、私もめでたく正規の夢魔に昇格できるわ。ご協力ありがとね〜」
 そういうと、メリーゼルは周囲の空間から召喚した小さな使い魔たちに命じ、一つ残らずプレゼントを持ち去ってしまった。

「ううっ、ひどい‥‥」
 エファナは半ベソをかきつつ、泥だらけの姿で立ち上がった。
「もうすぐイブの夜が始まっちゃう……その前に取り返さなきゃ。プレゼントを……みんなの夢を」
 顔を上げると、「戦利品」を抱えたメリーゼルと使い魔たちが、意気揚々と丘の上に建つ館へと引上げるところだった。

 ◆◆◆

 樋口・真帆(ひぐち・まほ)は、青空の下に広がる草原を、心地よい風に吹かれながら歩いていた。
 ココア色の髪を背中まで伸ばした、紅い瞳の小柄な少女。
 ここが現実ではなく「夢の世界」であることは承知している。
 なぜなら彼女自身、現実世界では表向き平凡な女子高生だが、実は夢魔の血を引く「夢見の魔女」と呼ばれる家系に生まれ、まだ見習いとはいえ夢や幻を紡ぐ魔女でもあったからだ。
 そして今日は、楽しみにしていたある「友人」と再会する日。
 草原の真ん中にそびえる巨大なモミの木を目指して楽しげに歩いていた真帆だが、ふと立ち止まって眉をひそめた。
 見覚えのあるサンタドレスの少女が、泥だらけになって泣きべそをかいている。
「エファナさん!? いったいどうしたんです、大丈夫ですか?」
「あ……真帆さん」

 2人はつい半月ほど前、この「夢の世界」で知り合っていた。
 エファナは真帆が夢魔の眷属であることまでは知らないが、同じ魔女であることは薄々感づいたらしい。2人はたちまち仲良しになり、そのとき彼女に「一番欲しいプレゼントは何?」と尋ねられ、真帆はあるリクエストをしていたのだ。
 そして今日、クリスマス・イブの晩にそのプレゼントを贈られる約束だったのだが――。

「それは困っちゃいますね……夢の世界は誰の物でもないのに」
 事情を聞いた真帆は、困り顔でため息をもらした。
 メリーゼルの名は初耳だが、エファナの話によれば自分と同じ見習い夢魔だという。
 一口に夢魔といっても、その種族は様々だ。どうやらメリーゼルは、その中でもタチの悪い性格の一族らしい。
(これじゃエファナさんがあんまり可哀想……それに、夢魔がみんな悪者だなんて思って欲しくないわ)
 真帆は、エファナの力になってやろうと決意した。
 ただし誤解を招かないよう、自分も夢魔であることはとりあえず伏せておく。
「パーティー会場は後でどうにかするとして……先にプレゼントを取り返さないと、ですね」
「――え?」
 驚いたように、エファナが顔を上げた。
「で、でもメリーゼルは夢魔ですよ? 夢の世界じゃ誰もかないっこないし……そんな、真帆さんを危ない目に遭わせるわけにいきません!」
「ご心配なく。夢の魔法にかけては、私だってちょっとばかり腕に覚えがありますから。それに、盗まれたプレゼントの中には私の分だってありますからね♪」
 とりあえず真帆は「夢紡ぎ」の術でエファナのドレスについた泥を綺麗に落とし、取り出した暖かい紅茶を飲ませて落ち着かせてやった。

 メリーゼルの館は、モミの木から歩いて十分ほどの丘の上にあった。
 一面の晴天だというのに、何故か館の上空だけはどんよりと黒雲がたれ込め、烏たちが不気味な啼き声を上げつつ飛び交っている。
 夢の世界だけに、館の主の性格を露骨に反映しているかのようだ。
 不安げなエファナを引き連れ、真帆は正面から館に乗り込んでいった。
 ドラゴンの顔を象ったドアノッカーで扉を叩くと、やがて黒いドレスをまとい、背中から蝙蝠のような翼を生やした少女が面倒くさそうな顔で現れた。
「……誰よ、あんた?」
「はじめまして。樋口・真帆と申します」
 真帆は相変わらずマイペース。
 のほほんにっっこりとした笑顔を浮かべ、ペコリと頭を下げた。
「知らないわねぇ。何の用さ? ……あら? あんたは」
 真帆の背後に隠れるようにして立つエファナに目を留め、
「はは〜ん。一人じゃかなわないから、助っ人を連れてきたってわけね?」
 鋭い犬歯を剥き、夢魔の少女は意地悪く笑った。
「別にエファナさんに頼まれたわけじゃありませんよ? 私は、あなたに盗まれた自分のプレゼントを返してもらいに来ただけです」
「どうだっていいわよ! この夢の世界で、夢魔の私に勝てると思って?」
 メリーゼルが黒いステッキを振うと、頭上に出現した小さなガーゴイルのような使い魔たちが一斉に襲いかかってきた。
「危ない、真帆さん!」
 エファナが悲鳴を上げる。
 ――が。
 真帆が軽く片手を上げると、使い魔の群はたちまち色とりどりの花びらと化し、風に吹かれてハラハラと舞い散った。
「なっ……?」
 メリーゼルが絶句した。
「勝手に他人のプレゼント持って行っちゃダメですよ。そんな悪い子には、お仕置きをプレゼントです!」
 夢紡ぎで出したスノードロップの花を一振り。
 ちょうど掌サイズの小さな雪だるまがポンポンと現れ、大群でメリーゼルをムギュっ、と埋め尽くす。
「ま、まさか……あんたは!?」
 時既に遅し。雪だるまたちは合体して巨大化し、メリーゼルはその中に閉じこめられ頭だけ突き出す格好になった。
「ひい〜寒っ! さては、あんたも夢魔の眷属ねっ!?」
「ご名答。私、『夢見の魔女』の一族なんでえす」
「なぜよ!? 同じ夢魔なのに、なぜサンタなんかの肩を持つのよ!」
「もうっ、あなたと一緒にしないでくださいってば。……それに、同じ夢なら悪夢より楽しい夢の方がいいよね♪」
 そして呆気にとられたエファナの方へ向き返り、
「黙っててごめんなさい。実は、私も見習い夢魔なんです。……でも信じてね。夢魔だからって、決して意地悪な子ばかりじゃないって」
「判ってますよ!」
 エファナはにっこり笑った。
「夢魔だろうと何だろうと――真帆さんがとってもいい人だってこと、知ってますもん♪ あの、それと……できればメリーゼルとちょっと話がしたいんですけど」
「いいですよ? また意地悪するようなら、私がお仕置きしちゃいますから」
 真帆が再びスノードロップを振ると、雪だるまが消えメリーゼルはベチャっと床に落ちた。
「あいたた……」
 お尻をさする夢魔の少女の前に、ずいっとエファナが歩み寄る。
「な、何よ……さっきの仕返しでもするつもり?」
「そうじゃなくて。ひとつ、聞いていい?」
「?」
「……あんたが一番欲しいプレゼントって、なに?」
 メリーゼルは拍子抜けしたようにカクっ、と肩を落とした。
「そ、そんなのあるわけないでしょ!? ここは私の意のままになる夢の世界。手に入らない物なんかないわ!」
「本当にそうなの?」
 真帆が問いただした。
「こんな広い屋敷に、独りぼっちで暮らして……本当は、メリーゼルさんだって寂しいんじゃないですか?」
「……」
 横を向いて俯くメリーゼル。
 やがてポツリと、
「……みんなと、クリスマスパーティー……やりたい」
 真帆とエファナは、笑顔で頷きあった。
「決まりですね」
「パーティー会場は、この館に決定!」

 3人の見習い魔女が力を合わせ、陰気だった館の広間をたちまち明るいパーティー会場へと飾り付けた。
 広いテーブルにケーキや七面鳥、その他豪勢な料理やお菓子が並べられる。
 真帆が夢幻術で取り出した大きなクリスマスツリーには、魔法で灯した小さな星々がイルミネーションランプのごとく点滅していた。
 そして赤々と燃える暖炉の脇に、エファナが集めてきた様々なプレゼントの箱が山と積まれた。
 一通り準備を済ませたあと、3人はテーブルの一角に座り、真帆が淹れた紅茶を飲みつつ休憩した。
「……けっこう、美味しいじゃない」
「ふふっ。メリーゼルさんこそなかなかやりますね。どうせなら、その力をもっとみんなが喜ぶことに使えばいいのに、です♪」
 真帆におだてられ、
「べ、別に……私はパーティーのホストとして、恥をかきたくないだけよっ」
 強がりをいいつつも、ぽっと頬を赤らめるメリーゼル。
 照れ隠しのようにプレゼントの山を見やり、
「……この中に、あんたが願ったプレゼントもあるの?」
「ううん。私がお願いしたプレゼントはこれから。……ですよね? エファナさん」
「ハイ!」
 満面の笑みを浮かべ、エファナが答えた。
「『みんなの笑顔』――それが、真帆さんの願ったプレゼントでしたよね?」

 やがて、パーティーの最初の来客が、館の扉をノックした――。

<了>

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
(PC)
6458/樋口・真帆(ひぐち・まほ)/女性/17歳/高校生(見習い魔女)

(公式NPC)
−/エファナ(えふぁな)/女性/外見年齢12歳/見習いサンタ(レベル1魔女)

(その他NPC)
−/メリーゼル(めりーぜる)/女性/12歳(外見)/見習い夢魔

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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はじめまして、ライターの対馬正治です。
今回のご参加、誠にありがとうございました。
「エファナのライバル」として夢魔・メリーゼルを登場させたわけですが、まさか同じ夢魔系の真帆さんがいらっしゃるとは想定外(?)でした。さしものメリーゼルも、真帆さんの前には形無しだったようで(笑)
しかし最後は彼女も心を開き、おかげさまで楽しいイブとなったことでしょう。
では、またご縁がありましたらよろしくお願いします。
WhiteChristmas・聖なる夜の物語 -
対馬正治 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年12月10日

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