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『〜時の絆〜 』
来生・十四郎0883)&来生・一義(3179)&(登場しない)



「ったく、ようやく休みになったぜ…」
 昨日の設定のまま、放置されていた目覚ましのアラームを、苛立たしげに叩き消し、来生十四郎(きすぎ・としろう)はぶつぶつと布団の中でつぶやいた。
 最近、ひどく日々の過ぎ去るのが早かった。
 もちろん、そういうふうにスケジュールを組んだのは自分だ。
 十四郎は、「暇」が何よりも苦手だったのだ。
 こうして布団の中にまどろんでいるのも、たまにはいいが、毎日これが続いたら発狂するだろう。
 自分がどうしてそこまで、空費される時間を嫌うのか、根本的なトラウマには思い当たらなかったが、きっと心の奥底に眠る記憶のどれかに、その原因はあるのだろう。
 今のところ、それを探る必要も興味も、彼にはなかった。
 もう少し寝るかと、さらに毛布を肩まで引き上げた時、「暇」と同じくらい苦手なものが頭上と思しき辺りから降って来た。
「そろそろ起きろよ!良い天気だぞ!」
 天気なんぞ、今の俺には関係ねえ、と心の中で反論しつつ、十四郎はちらとその声の方に目をやった。
「十四郎、ちょっと付き合ってほしい場所があるんだ」
「ああ?」
 にこにこと、満面の笑みをたたえて、彼の兄、来生一義(きすぎ・かずよし)は十四郎を見下ろしている。
 いらいらしながら、十四郎は無理矢理布団から身体を起こした。
 ボサボサの髪をかき上げながら、何だかひとりで幸せそうな兄を不機嫌に見やる。
「どこに行くんだよ?」
「デパートに買い物に行きたいんだが…」
「ああ?買い物だと?」
 めんどくせえ、と顔に書いて十四郎はそう切り返した。
 だが、一人で行けとは言えないのが悲しいところ。
 今日は休日でもあるし、仕方ないかとあきらめて、十四郎は起きて仕度を始めた。
 とは言っても、大してするような仕度もない。
 さっさと車を出して、半分浮かれている兄を引っぱり、すぐに兄の言うデパートに向かった。
 …それからが大変だった。
 ひとりでは放置できないため、ほとんどつかず離れずの距離を保ちながら、十四郎は一義の後を嫌々ついて回った。
「あっちにも何かあるな!行くぞ!」
「まだ行くのかよ!」
 苛々の頂点に達していた十四郎は、とうとう足を止めて兄を怒鳴りつけた。
「俺は疲れてんだよ!いい加減にしろ!」
 相手の表情は確認しなかった。
 見なくても想像できた。
 だからこそ、確認しなかった。
 そのまま即座に踵を返し、立体駐車場に停めた車に戻る。
「ったく、小間使いじゃねえんだよ、俺は…」
 車の窓を少し開け、狭いシートで足を組みながら、タバコをふかす十四郎に、ふと色あせた光景が視界をかすめた。
「何だ、デジャヴか…?」
 その光景を頭の中で追いかけ、しばしの沈黙の後、それを捕まえた時、苦い思いと共に、そのシーンが鮮明に彼の許に下りてきた。
 それは、大きな痛みを伴う、過去の情景のひとつ、だった。



 十四郎は、その日、いつものように兄を迎えに行っていた。
 人の想像をはるかに超える兄の方向音痴は、既に彼の生活の一部を蝕んでいた。
 まだ小学6年生の身空で、共働きの両親に代わり、家事の一端をこなす彼の多忙な日々の一角に、一義の大学への送り迎えがあった。
 「送り迎え」と言っても、徒歩で往復するだけである。
 付き添い、と言っても変わりはないかも知れない。
 考えようによっては、たいした労力でないと言うことも出来るかも知れないが、子どもの時間はとかく、早く進むものでもあり、友達が 一日の大半を占める時期でもある。
 そんな時に、家のことと兄のこと、そのふたつが大きくのしかかり、十四郎の時間はほとんどなくなった。
 友達が楽しく遊んでいるのを横目で見ながら、買い物やら洗濯やらをしなくてはならない自分の境遇を、何度恨んだことか。
 そして、その怒りは、いつも近くにいる兄に直接向けられることとなったのだった。
 その日、両親が共に夜遅くなることがわかっていたので、十四郎は夕食の仕度をしなければいけなかった。
 学校から帰って来て、ランドセルを自分の部屋に放り投げ、すぐに洗濯を取り込んで、それから冷蔵庫の中身を確認した。
 自分以外にほとんど省みられない食料品たちであったから、十四郎はできるだけ無駄にしないよう、買い物に行く時はちゃんと点検してから行くようにしていた。
 乱暴に書きなぐった、食材リストのメモを片手に時計を見やると、そろそろ兄が大学から戻って来る時間になっていた。
 今日の午後の授業は2限しかなく、まだ陽も高いうちに帰って来るのだ。
 十四郎は手早くメモと財布を肩掛けバッグに投げ入れ、家の鍵を閉めて外に出た。
 途中通った公園から、同級生がサッカーに参加しないかと声をかけてくれた。
 時計を見ると、少し余裕はあったが、あの兄を放置しておけば、その後が面倒なことになる。
 彼はそのリスクを喜んで背負う気にはならなかった。
「また今度な!」
 そう答えた時、既に彼の心の中には何か不穏なものが芽生えていたのかも知れない。
 いつものように、兄との待ち合わせ場所に向かい、兄をつかまえて帰途に就いた。
 兄は今日大学であったことを、その性格を現すかのように、事細かに弟に説明した。
 半分は十四郎には興味のない学科のことだったが、それにも十四郎はうなずいて聞いてやっていた。
「…という訳で、レポートの提出があって、その資料を探しに図書館に行きたいんだ」
「今から?!」
「ああ、今から。提出期限はまだ先なんだが、こういうものは早く片付けるに限るからな」
「図書館って、こっから片道20分もかかるじゃねえか!しかも反対方向かよ!」
「そうだが…?」
 だから何、という顔で自分を見下ろした兄の澄ました表情に、とうとう十四郎は怒りを爆発させた。
「もういい加減にしろ!」
「十四郎…?」
「俺だってやることがあるんだぜ!毎日毎日、兄貴のお守りが、どれだけ大変か考えたことあるのかよ?!これ以上負担を増やすんじゃねえ!」
「だけど、家からここまでそんなに遠くないと思うんだが…」
「ああ?!何でそんなことが言えるんだよ?!俺がどれだけ大変か、わかってねえのか?!」
 もう止まらなかった。
 十四郎はとうとう、その一言を言ってしまった。
「兄貴なんか、いなくなっちまえばいいのに!」
 十四郎はそのまま走り出した。
 怒りに任せて、そのスピードを緩めることなく、自分が向かう予定のスーパーへ走った。
 本気で兄のことはどうでもよかった。
 後のことなど、まったく考える余裕もなかった。
 メモを引っぱり出し、書かれたものをひとつひとつ、手荒にカゴに突っ込んで、さっさと会計を済ませ、家路につく。
 家に戻って、そのままの勢いで夕食の支度にかかった。
 いつもよりも何だか時間はかかったが、出来はまずまず、少しだけ帰りの早かった母親が、味見をして「美味しい」と誉めてくれた。
「あら、十四郎、一義は部屋にいるの?」
 不意に、母が十四郎にそう尋ねた。
 心臓が飛び上がったが、十四郎は小さい声で、「たぶん」とつぶやいた。
 壁の時計を見上げると、もう既に8時を回っている。
 あれから5時間は経っていた。
 不安に駆られた十四郎が、探しに行こうと、慌てて玄関から飛び出そうとしたその時。
 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。
 扉を開けると、真っ先に赤いライトが目に入った。
 物々しい制服を着た警官の横で、十四郎以上の不安と心細さを目に宿した一義が立っていた。
 十四郎のすぐ横から母が応対に出て、警官の話を聞いていた。
 十四郎は母親の陰で、その話をぼんやり聞き流していた。
 警官が帰り、一義が消沈した顔で家に上がった時、母親が心配そうにこう尋ねた。
「どうして十四郎と一緒に帰って来なかったの?十四郎が迎えに行ったんでしょう?」
 十四郎はぎくっと肩を震わせた。
 母がこちらを振り向きそうになったその瞬間、それをさえぎるように細い声が十四郎の耳を打った。
「十四郎、せっかく迎えに来てくれたのに、途中の人混みで見失ったんだ…」
 十四郎は、はっとした。
 兄を見ようとしたが、既に兄は自分の部屋へと歩き出していた。
 その足取りは重く、疲れていて、そして、ひどく頼りなかった。


 
 兄は食事が終わると、疲れたと言ってすぐに自分の部屋に戻ってしまった。
 どれだけ町中をさまよったのだろう。
 両親は彼の心労を察して、「今日は早く休みなさい」とだけ言った。
 十四郎もいたたまれなくなって、早々に自分の部屋に引き上げた。

 その夜。
 十四郎がそれに気付いた時、時計の針は、既に深夜0時を回っていた。
(何の音だ…?)
 ベッドの中で耳を澄ますと、夜の静けさがその音を明確に連れて来てくれた。
 隣りの部屋、つまり兄の部屋からだった。
「め…ん………ろ…」
(何て言ってるんだ?)
 十四郎はベッドを這い出て、壁に近寄った。
 その途端、その音はこれ以上ないくらい鮮明に、彼の耳に届いた。
「ごめん……本当に、ごめ、ん……十四郎…」
 十四郎の全身が戦慄した。
 聞こえたのは言葉だけではなかった。
 兄は、泣いていた。
 泣きながら、ずっとずっとくり返し、十四郎に謝り続けていた。
(俺、兄貴に何てことしたんだよ…) 
 十四郎は自分を殴り倒したい気持ちになった。
 先ほどのとは比べ物にならないくらいの怒りが、胸の中に満ち溢れる。
 拳を握って、しばらく十四郎はその場所に立ち続けていた。
 二度と、こんなことはするまい。
 そう、心に固く誓って――――



 十四郎は車を飛び出した。
 甲高い音をたてて、車のドアが閉まる。
 くわえていたタバコを苛立たしげに地面に叩きつけ、十四郎はデパートの売り場に向かって駆け出した。
 自分はまた、同じことをしてしまった。
 あの時と、同じことを。
(またやっちまった…兄貴が悪い訳じゃないのにな…)
 苦さだけを思い出し、十四郎は小さく舌打ちして、人混みの中に消えて行った…。


〜END〜


〜ライターより〜

ご無沙汰しています!
ライターの藤沢麗です!
本当にお久しぶりですね!
竜神救出事件以来ですか?!
今回は、お兄さんとの心温まるエピソードを、本当にありがとうございました!
どんなことがあっても、兄弟は兄弟、家族は家族ですよね!
綴っていて、本当にほろりとしました。
また近い未来にこのおふたりと出会う機会があることを、心から楽しみにしています!
このたびはご依頼、本当に本当にありがとうございました!
十四郎さん、お仕事、頑張ってくださいね!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
藤沢麗 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年11月27日

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