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『暖かな、気持ち。 』
望月・健太郎6931)&弓槻・蒲公英(1992)&草間・零(NPCA016)


 にこ、と教壇で笑うのは、草間・零だった。弓槻・蒲公英(ゆづき たんぽぽ)と望月・健太郎(もちづき けんたろう)の姿を確認し、零はひらひらと小さく手を振った。担任教師の説明で、零は実習生として学校に来たことが分かった。
「あいつ、この前の」
 健太郎は呟き、零を見た後に蒲公英の方へと目線を動かす。蒲公英は何処となく嬉しそうな顔つきをし、零に小さく手を振り返していた。
 つややかで長い黒髪に、大きくて綺麗な赤の目。
 思わずぼうっと見つめていると、蒲公英の方が健太郎の目線に気付いた。蒲公英は健太郎を見て、小さく微笑む。
「あの時の……零さま……です」
 蒲公英は小さく言っているのが、何となく分かった。健太郎は何と答えたらいいのか分からず、ただ、頷いて目線を逸らした。
(今まで、俺はあいつをいじめてきた)
 健太郎は、自覚していた。蒲公英の綺麗な髪を見ると引っ張っていたし、ひらひらと舞うスカートを見るとめくってきた。だからこそ、健太郎を見て蒲公英は時折びくりと身体を震わせていたのだ。
 いじめられる、怖い、と。
(謝ればいいのかよ?)
 今までいじめて、ゴメン、だとか。もう、いじめない、だとか。
 健太郎は「くそ」と小さく毒づく。きっと、そういう問題ではないのだ。
(何て言ったらいいんだよ)
「皆さん、何でもいいので話してくださいね」
 零はそう言って自己紹介を締めくくる。ぱちぱちと起こる拍手の中で、健太郎は一人手を叩きつつ考える。
 何でもいいというのならば、どうしたらいいのか教えて欲しい、と。
(俺、どうしよう)
「健太郎、今日の休憩時間は何する?」
 こそ、と後ろの席の友達が話しかけてきた。健太郎は「え」と軽く声を出し、慌てて「そうだな」と返事をする。
「ドッジかサッカーがいいな。思い切り身体を動かす奴」
「オッケー」
 友達はそう言って、他の友達へと伝言し始める。健太郎はそれをぼんやりと見送り、再び零と蒲公英を見比べる。
 ひらひらと秘密の挨拶をしているかのように手を振る、二人を。


 数日後、健太郎はぼんやりと窓の外を眺めていた。休憩時間で、教室内に残っているクラスメイトは数がまばらだ。皆、休憩時間が待ちきれなかったらしく、チャイムとともに外へと飛び出していった。今日は、ドッジボールをするのだという。
 だが、その輪の中に健太郎はいなかった。
 ここ最近、健太郎の周りに友達が減っていた。健太郎に話しかけても、上の空。うん、だとか、ああ、だとかいう、気の抜けた返事だけが返ってくる。
 遊びをしても、健太郎は不調だった。野球をしても見送り三振ばかり、サッカーをしてもパスを受け取れず、ドッジボールをしたら真っ先に当てられる。
 健太郎らしくない、と友人達は感じていた。だが、それを健太郎に伝えても相変わらずの上の空。
 そうして、いつしか健太郎は独りぼっちになっていた。
(そういえば、あいつは?)
 まばらな人数の教室内を見渡しつつ、健太郎は頭の中で呟く。蒲公英は、いつも窓の外をぼんやりと眺めているのだとばかり思っていた。なので、教室内に蒲公英の姿がないのは、珍しい。
 時計を見ると、まだ休憩時間がたっぷりと残っていた。健太郎は立ち上がり、校内を探し始める。
 蒲公英の好きそうな、場所。
 すると、廊下の突き当たりの方から、鳥のさえずりが聞こえてきた。健太郎はそっと近づき、そちらを見る。
 そこは、ベランダであった。避難訓練等に使われるもので、普段はあまり誰も近づかない。健太郎は目の前に広がっていた光景に、思わず小さく「あ」と声を上げる。
「皆さん……たくさん……ありますから」
 集まっている鳩や雀に餌をやりつつ、蒲公英は優しい眼差しを向けている。鳥達も嬉しそうに餌をついばみ、蒲公英に礼を言うかのように美しいさえずりを返す。
 日の光が、蒲公英や鳥達に暖かく降り注いでいる。
 きらきらと、まぶしく。
 蒲公英の黒髪が、きらきらと光る。
 健太郎はその光景を見つめたまま、立ち尽くしていた。綺麗だ、と思った。美しい、とも感じた。
 感じているのに、言葉に出ない。言葉を発せない。表現できない。
(どくどく言ってる)
 全身が、心臓になってしまったかのように。
(どくどくって、止まらない)
 耳の奥にまで響いてきて、周りにまで聞こえるのではないかと思うほどの、大きな鼓動。集まっている鳥達や、餌をやっている蒲公英にまで、聞こえるのではないかと。
「あ」
 健太郎は、顔が熱くなっていくのを感じた。蒲公英を見て、綺麗だと思った。きらきらと輝いていて、一緒にいたいと。
 傍にいたい、と。
 鼓動は相変わらず、大きく激しく鳴っている。止まれ、と思っても止まらない。頬が熱く、顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。
(俺、やっぱり。あいつの事)
 健太郎は、ぎゅっと手を握り締める。目は蒲公英を捉えたまま離さない。蒲公英は、楽しそうに鳩や雀と戯れている。
 楽しそうに、綺麗に。
「俺は」
 健太郎は、確信する。
「俺は、あいつの事、好きなんだ」
 相変わらず、蒲公英は鳥たちに餌をやっている。穏やかな時間が、蒲公英の周りには流れている。
「健太郎さん、どうしたんですか?」
 不意に声をかけられ、健太郎はびくりと身体を震わせる。慌てて振り返ると、そこには零が立っていた。
「く、草間先生」
「先生なんて、つけなくていいですよ。零、と呼んで下さい」
「実習生、なんですよね? だったら、先生で」
 必死に心を落ち着けようと努力しつつ、健太郎は言う。なるべく零と話して、自分を取り戻すかのように。
 零は「じゃあ、今だけは」と言い、健太郎の目線の先にいた蒲公英の姿を見つける。
「何を見ているのかと思ったら、蒲公英さんだったんですね」
 零の言葉に、健太郎は「う」と言葉を詰まらせる。落ち着きかけた心が、再びどくんと震える。
「鳥さんたちに、餌をやっていたんですね。話しかけないんですか?」
「……邪魔、したら、悪いと思って」
 健太郎はようやくそれだけを言う。邪魔だとか、邪魔じゃないだとか、そんな事本当はどうだっていい。ともかく、何かしらの理由が必要だった。
 零は「そうですね」と納得する。とりあえずの納得に、健太郎はほっと胸をなでおろす。
「……零、さん?」
 だが、蒲公英は零と健太郎の話し声に気付いてしまった。健太郎は思わず顔を赤くし、俯く。
「ごめんなさいね、蒲公英さん。邪魔をしてしまったかしら?」
「いいえ……大丈夫……です」
 蒲公英が微笑む。そうして、健太郎の姿に気付いて「健太郎……さま?」と話しかける。
「健太郎さまも……鳥さんに……餌をやりますか?」
「何でだよ」
 蒲公英に気持ちを悟られないよう、健太郎はぶっきらぼうに尋ねる。その語気の強さに蒲公英はびくりとしながらも、言葉を続ける。
「動物……好きだと……言われていましたから……」
「蒲公英さん、私も一緒にいいですか?」
「はい……是非、零さまも……一緒に」
 零に餌を手渡しながら、蒲公英は言う。そうして、健太郎にも餌を渡そうとするが、健太郎は「俺はいい」と吐き捨てるように言う。
「俺は別に、いいから!」
「健太郎……さま?」
 不思議そうな蒲公英に、健太郎は思わず走って逃げた。自分の気持ちが蒲公英にばれてしまわないように、必死になりながら。


 帰りの会を終えた後、一人二人とクラスメイト達はランドセルをひっかけながら教室を後にする。いつもならば、健太郎も友達と一緒にランドセルを担いで飛び出すように帰っていたのだが、今は誘ってくる友達もいない。
 健太郎はぼんやりと、ランドセルを手にする。その際、蒲公英と一瞬目が合うが、慌てて逸らした。
(何だよ、くそ)
 心の中で、健太郎は毒づく。蒲公英の赤い大きな瞳に、何もかも見透かされている気がしてならない。
 一方の蒲公英は、健太郎から露骨に目を逸らされ、小さくため息をついた。
(やっぱり……嫌われて……いるのでしょうか)
 一緒に動物の世話をして、仲良くなったと思っていた。意地悪ばかりしてくるけれど、きっと優しい人なのだと。動物が好きだと言った健太郎は、嘘ではなかった。
 それなのに、最近露骨に避けられる。
 以前のように、意地悪をしてくる訳ではない。だが、明らかに蒲公英を避けているように見えた。
(どうして……でしょうか)
 蒲公英は再び小さなため息をつき、ランドセルを背負う。教室を出て、帰路についていると、後ろから「待ちなさいよ」と声をかけられた。
 振り返ると、そこにはクラスメイトの女子が5人、壁のように立っていた。
「何か……用……でしょうか?」
「最近、いい気になってるんじゃないの?」
「いい気……ですか」
「そうよそうよ。何よ、すましちゃってさ」
「弱々しくして、それで媚びてるんでしょ?」
「私……」
 じり、と一歩後ろに下がりながら言うと、女子達は「あーあ!」と大きな声を出す。
「そうやって、私可哀想、とか思ってるんでしょ? 根性悪いったらありゃしない」
「そんな……つもりじゃ」
「さっさと喋りなさいよ! もう、苛々する!」
 どん、と女子の一人が蒲公英を突き飛ばす。蒲公英は「あ」と声を上げ、ふらつく。倒れそうになり、思わず手をついて難を逃れる。
「あっぶないわねぇ、ちゃんと立つ事もできないの?」
 くすくすくすくす。
 女子達は笑う。蒲公英は「あ」とだけ呟き、俯く。
「……やめろよ!」
 その時、凛とした声がその場に響いた。俯いた顔を、蒲公英はゆっくりと上げる。
 そこにいたのは、健太郎だった。
「何よ、健太郎。弓槻さんの味方をするつもり?」
「そうじゃなくて。だから、ええと。……そんな事より、他の事をした方がよくねーか?」
 健太郎の言葉に、女子達は顔を見合わせる。
「どういう意味?」
「時間の無駄じゃん。そんな事するより、遊んだ方がいいって」
「そんな事って言われても、別に私達何もしてないし」
「じゃあ、俺だって別に何でもねーよ」
「やめろって言ってたじゃん」
「気のせいじゃねーか?」
 女子達が顔を見合わせる。健太郎は更に違う方向を指差す。
「あっちで、お前らを探してたぜ。一緒に帰りたいとか、何とか言って」
 健太郎の言葉に、女子達は顔を見合わせる。女子達の一人が「そういえば待ち合わせしてたんだ」と呟く。
 女子達は、ちらりと健太郎と蒲公英を見比べた後、去っていった。健太郎は、ほう、と息を吐き出した後、座り込んだままの蒲公英に手を差し出す。
「大丈夫か?」
「は……はい」
 健太郎の手を捕り、蒲公英は立ち上がる。
「健太郎さま……どうして?」
 蒲公英の疑問に、健太郎はぐっと言葉を詰まらせる。女子達が蒲公英を囲んでいるのを見て、健太郎はその姿に自分をだぶらせた。自分が、今までしてきた事と重なり、嫌悪感を覚えた。どうしよう、と悩んだりもした。
 しかし、勇気を出して蒲公英を助けた。助けたかったから。
「……俺だけ、なんだよ」
 蒲公英の疑問に、健太郎はそう答える。尚も首をかしげる蒲公英に、健太郎は「だから」と言って言葉を続ける。
「蒲公英にちょっかい出していいのは、俺だけだ。他の奴には、手を出させたくない」
 きっぱりと言い放つ健太郎に、蒲公英は「どうして」と尋ねる。
「健太郎さま……だけですか?」
「そうだよ。俺だけが、お前にちょっかい出していいんだ」
「どうして……ですか?」
 蒲公英は、じっと健太郎を見つめる。「理由は……何……ですか?」
 ゆるやかな言葉ながらも、質問は的を射ている。じっと見つめる蒲公英の目を、健太郎は綺麗だと思った。夕日みたいで、蒲公英の目の色とよく似ている、なんて思った。
「……好き、だからだよ」
 自然に健太郎の口から、その言葉が飛び出した。そうして、すぐに自分が発した言葉に気付き、健太郎は顔を真っ赤にしてしまった。
 恥ずかしさがいっぱいで、顔が熱くて、たまらなくて。心臓の音は、ばくばくとうるさい。
 蒲公英は、大きな目を更に大きくして、健太郎を呆然と見つめていた。驚きばかりが、蒲公英の中を駆け巡る。
 空の太陽はゆっくりと落ち、赤い光を二人に降り注いでいるのだった。


<夕日の中で熱を感じつつ・了>
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
霜月玲守 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年11月14日

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