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『WONDER HALLOWEEN 』
望月・葵(w3l437)



 見も知らない場所だ。
 突然森の中で出会った子供によって、こんな姿にされてしまった。
 そう、『こんな姿』に。
 子供は言った。
「それはアンタが望んだ姿だよ!」
 ウソだあ、と心の中で洩らす。
 だがそうなのだというのだから、そうなのだろう。
 どうしてくれるんだと思うが子供はいない。どこに行ったと見回すと――。

 ハッ、と目が覚めた。

***

「…………」
 望月葵は自身を見下ろす。
 漆黒の、足もとまで届こうかというマント。マントだけならいいが、その下に着ている衣服と含めてみれば自分がどんな格好なのかわかった。
 吸血鬼、だ。いくら時期がハロウィンとはいえ、定番すぎてなんだか悲しい。
(……いや、でも似合って……る、かな。わりと)
 変ではない。
「葵様!」
 部屋の扉を開けて駆け込んできたのは、自分の逢魔のエスティナだ。彼女の格好もいつもと違う。
「見てください、可愛くないですか?」
 にっこりと笑顔を向けてくるエスティナは、とんがった三角帽子と黒のローブ。これではまるで、御伽噺の――魔女、だ。
「…………」
 どういう顔をすればいいのか少し悩んだ。そもそも起きてこの格好ということに警戒するべきだろう。
「変だ、とは思わないですか、ティナ?」
「思いますけれど……脱げば済むかと思いまして」
「…………」
 吸血鬼の葵は牙がある。牙を「脱ぐ」ことはできない。
「……ティナは今、人化を?」
 逢魔のエスティナはナイトノワールだ。背中には翼を持つのだが、今はない。それで尋ねたのだが……。
「してませんけど」
「して、ないんですか……」
 うーんと悩んで葵は「そうか」と呟く。
「これは夢の続きに違いない」
「夢、でしょうか……? 目が覚めたのに夢というのはどうかと思いますが」
「…………」
 そう言われてしまったら困るじゃないか。
 目で訴えるとエスティナはすぐさま首を軽く引っ込めるような仕草をし、軽く笑う。すみません、という合図だ。
「そう割り切ったほうが、簡単だと思うだけです」
「まぁ、そうですね」
 エスティナも納得する。これが現実だというのなら、ちょっとどころかかなり困る。
 葵はふむ、と自身の顎に手を遣って考え込んだ。
「この妙な現象は僕たちだけなんでしょうか……?」
「何かの攻撃を受けたとは思えませんが」
「う〜ん……。幸いというか、まぁ今日はハロウィンですし」
 日付的にはそういうことになるだろう。
「他にもいないか様子見をしてみましょうか」
「様子見……。どこかへお出かけになるのですか?」
「似たような人がいるなら一目でわかるでしょうし、この格好で外に出ても不自然じゃないですから」
「いつもの通りでしたら、葵様は目立ちまくりですね」
 笑顔のエスティナを無言で見つめると、彼女はハッとして焦ったように首をすくめた。
 葵は外出着になるべきかと戸惑うが……なんだか怖いのでやめた。牙まで生えている状態でこの衣服を脱ぐことは無理なような気がしたからだ。
 別に肌にべったりくっついているわけではない。むしろ馴染む。だからなんだという感じではあるが。
 エスティナはどう感じているのか気になって彼女を見遣った。すると彼女は視線をきょろきょろさせる。
「……別に睨んでないんですけど」
「いえ、そういうわけでは。葵様が何か言いたそうにじっと見ていらっしゃるので、わたしはどうすればいいかと少々考えたのですよ」
「…………」
 ……とりあえず、出かけよう。



 葵とエスティナだけではなかった。異変、は。
 いつもと同じ町並みのはずだというのに、存在している人々が妙なのだ。
(格好が、だが)
 ハロウィンをこの世界全体でやっているようなものだ。町中にいる者がそれぞれ仮装をしている。……仮装しているのか?
「私たちと似ていますねぇ」
 しみじみと洩らすエスティナの言葉に葵は頷いた。
 世界は同じはずなのに、そこに住む人々がそっくりそのまま何かの冗談のように入れ代わったかのようだった。
 ちょいちょい、と袖を引っ張られる。エスティナが少し不安そうに葵の袖を摘んでいた。
「あ」
 目が合ってエスティナは慌てて手を引っ込める。無意識にしていたことにエスティナは少し恥じる。
「すみません葵様。まだこの状況に慣れなくて」
「慣れろというのは無理な話です。ティナが気にすることじゃないですよ」
 さらりと言われ、エスティナは瞬きをしてから「はい」と笑顔で頷く。

 だが慣れるのはエスティナのほうが早かった。



 世界は何も変わっていない。変わったのはそこに居た者たち。男が女の姿になっていたり、獣の姿になったり。とにかく、『姿』が変わってしまっているのだ。
 最初は警戒していたが、慣れるとなかなか面白い。
「葵様! あっちにはパンダがいます、パンダ!」
「……ハロウィンにはパンダはいないでしょう、普通」
「あっちは包帯でぐるぐるに……あっ、透明人間でしょうか?」
「うーん……。包帯をほどけば……。ミイラかもしれないですね」
「ええ〜っ」
 包帯をとったらミイラ姿、を想像してしまったらしく、エスティナが「うう〜」と唸っている。
 町中を歩く二人も二人で、他の者たちから見られるが……まぁあまり構わないことにした。
「姿が変わっていますけど、食べ物とかは大丈夫なんでしょうか?」
「……えっ」
 葵が濁った声を洩らす。これで食べ物まで変わっていたら一大事である。
 エスティナが腕を引っ張った。
「食べに行きましょうか!」
「な、なぜそうなるんです!?」
「ここは一つ、試してみるのもいいかと思いまして。大丈夫。危険でしたら、わたしが体を張ってお止めいたします!」
「それは毒見係というのでは?」
「毒なんて入ってないと思いますけど。味まで変わっていたらさすがに騒ぎになっていると思いますよ?」
 そう言われればそうかもしれない。けれども確信はないし……。
「あっ! あっち見てください! あっちにはライオンがいます〜!」
「らいおん……?」
 二足歩行をしているライオンを見て、思わず吹き出してしまう。かっこわるい!
 いやもうあれはひどい!
 思わず口を掌でおさえてぷるぷる震える葵を見て、エスティナは続けて言う。葵がなぜ震えているのかわかっていないようだ。
「着ぐるみとは趣きが違いますね」
(そういう問題じゃないでしょう!)
 と、ツッコみたい。
 なんて不恰好なんだろう。ひどすぎる。
 エスティナはふと、小さく洩らした。
「本当に夢みたいな世界ですね……。こんな、なんというか、ただ楽しいだけの……」
 みんなが一つのお祭りをただ楽しんでいる。強制的に姿を変えられているので、本来の自分と切り離しているのだろう。誰もが夢の出来事と割り切っているのかもしれない。



 二人は並んで腰をおろす。空は暗い。もう一日も終わる。あっという間に過ぎてしまった。
「ここは静かですね、いつもと同じで」
「わざわざ来るような場所でもないですから」
 微笑む葵に、エスティナも「そうですね」と返す。
 廃ビルの屋上には二人だけだ。ここからだと、町がよく見える。
 膝を抱えているエスティナは今日の出来事を回想するように瞼を閉じた。
「とても不思議な一日でした。でも、きっと目を閉じて眠ってしまったら……もうこの夢は終わってしまうんでしょうね」
「いや、これはそもそも『夢』ですよ?」
「ぷっ。まだ言いますか、葵様ってば」
 本当はもう、夢だなんて思っていないくせに。
「目が覚める前に不思議な夢をみていたんです。女の子が出てきて、望む姿にしてあげるって」
「僕もみましたよ、それ」
「あれっ? そうなんですか?」
 なんだ。じゃあ、二人とも同じ夢をみていたというのか?
 ならばこれも……本当に夢かもしれない。
「なんだ。初めにそれを言ってくださいよぉ、葵様」
「訊かなかったじゃないですか」
「それはそうですけど」
「だとすれば、その姿がティナが望んだものってことですか」
「……そうなるんでしょうか」
 こんな魔女の格好が? そりゃまぁ、いつもと違うのは新鮮だけれど。
「そういう葵様だって、その格好が望んだ姿なんですか?」
「……どうだろう」
 渋い顔で唸る葵。
 しばらくして、二人は笑い合った。望む、望まないは別にどうでもいいことだった。この姿になって、とにかく今日が楽しかった。それで十分だ。
 ただ姿が違うだけなのに、感じ方が違う。
 望月葵という魔皇、エスティナという逢魔ではなくなったかのような、そんな微かな感覚もあった。違う自分だから、たまにはこんなこともあっていいと。
「葵様がおっしゃったように、もしもこれが夢なら……目が覚めた後、どうなってしまうんでしょうかね……。ほら、これはわたしの夢なわけですし、起きたら葵様は知らないと思いますから。それを考えると悲しくなりません?」
「……それは僕にも言えることじゃないですか? これは僕の夢です。ティナにこのことを話して、
『まあ。葵様もそんな愉快な夢をみられる時があるんですね。うふふ』
 とか言われたら普通にヘコむと思いますけど」
「……それはわたしの真似なんですかぁ? なんか、物凄いブリッ子みたいに聞こえましたけどぉ」
 眉間に少し皺を寄せて言うエスティナに葵は「似てるでしょう」とさらりと言ってのけた。
「似てません! わたしはもっとこう、優しくておしとやかに喋りますっ」
「……そうですかぁ?」
「な、なんですその疑わしそうな目は……!」
 ガーンとショックを受けるエスティナに、葵は内心大笑いだ。
「お、おしとやかは百歩譲りますけど、そんなバカみたいな口調じゃないと思います。仮にも葵様の逢魔なんですから」
「すごい自信ですね」
 これには葵も目を丸くする。
 エスティナは胸を張って応えた。
「そりゃもう! こればっかりは、譲れません」
「ふぅん……。そういうものですか」
「そういうものですとも!」
 自信満々だった。
 風が吹いた。エスティナの長い髪とローブが揺れる。
「わたしは、とても満足です。またこんな日があるといいんですけど」
「…………そうですね」
 また、というのは少し困るけれど。



 次の日――。

「おはようございます、葵様」
「おはよ」
 互いに朝の挨拶を交わしたあと、探り合うように視線をあちこちに向ける。やがて……。
「昨日のこと……っ」
 同時に口から出たその言葉に、二人は苦笑いのような、複雑な笑みを浮かべた。
 同じ夢をみたのか……それとも?



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【w3l437maoh/望月・葵/男/21/直感の白】
【w3l437ouma/エスティナ/女/18/ナイトノワール】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、望月様。初めまして。ライターのともやいずみです。
 エスティナ様との夢のような一日、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
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神魔創世記 アクスディアEXceed
2007年10月22日

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