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『『魂の旋律―残された微かなリズム<蝋燭の如く>―』 』
来生・一義3179

 土の匂いが感じられる。
 ぼんやりと、景色も見える。
 だけれど、その全てが色あせていて、心は何も感じない。
 何も、聞こえない。

 目を――開けているのだろうか。
 自分の姿さえも忘れてしまった。

 突然現れた子供に、口の中に何かを入れられた。
 その瞬間、全てが消えてしまった。

 なりたい姿を見つけられなかった者の末路。
 無くなってしまった、身体。
 無くしてしまった、記憶。

 トン、トトン、トントン

 ……音が、響いた。
 普段は、意識しない音だ。
 低く、リズムを刻んでいる。
 これは、自分の命のリズムだ。

 一歩、前へ進む。
 失った身体と心を取り戻すために。


 強い想いを思い出せ。
 大切な人を思い出せ!
 自分を表す言葉は何だ?
 自分は何を求めている!?

**********

 自分の前に、道はあるのだろうか。
 ゆっくり、前に進んでいる。
 そう、イメージしている。
 消えてしまいそうな自分。
 しかし、心の中には、存在する熱があった。
 何だろう、この熱は。

 思い出せ……。
 思い出せ!
 思い出すんだ!!

 トトトトン、トントントン、トトトトトン

 心の昂りと共に、響く音が速く、強くなる。

 存在しているのか判らない目を、強く閉じる。
 闇が広がった。
 心の中の熱を、全ての感覚を集中し、探した。

 熱い、熱さ。
 決して忘れることの出来ない熱。
 この熱と、その先にあるものが、自分の存在意義であると感じていた。

 身体の中を巡り、ようやく探り出した熱は小さな炎であった。
 どのような干渉を受けても、決して消えぬ。
 厳かに、燃え続ける炎。
 全容は蝋燭であった。
 白い蝋燭。命の灯火のような、蝋燭――。
 身を減らして人を照らすもの。
 それが蝋燭。

 トン、トトン、トントン

 心のリズムが、平静を示す。
 炎で全てが終り、炎で全てが始まった。
 それが、自分だ。

 炎が示す方向に、意識を向ける。
 更なる熱が、そこにある。
 一瞬浮かんだ業火。その中にある人の影。
 ただ一人、残った者。
 その人物は――。

 今、自分が最も大切に想う者。
 自分の全てを賭けて護るべき存在。
 護りたい、残された唯一の最愛の家族。

“弟”だ。

 側に寄りたくても、浮かんだ映像は掻き消えてしまう。
 思い出そうとも、明確な姿が浮かばない。

 目を開いて、また前へ進むことにする。
 風景がうっすらと見えた。
 太い木の根が絡み合う――迷路だ。
 蛇行する道の先に、出口はあるのだろうか。

 あったとしても、辿り着けるわけがない。
 自分には、全ての道が迷路のようなものだというのに。
 ……当然のように、頭にそう浮かんだ。
 自分は相当方向音痴なようだ。

 見下ろせば、自分の足が見えた。
 手も、身体も、ある。
 消えてしまいそうなほど薄いが、気にならない。まるでそれが正常であるかのように。

 身体があろうが辿り着けるはずがない。
 再び、浮かび上がる思い。
 
 ト……ン、ト・ト・ン、トン・ト・ン

 心のリズムが迷っている。
 木の根の迷路が見えた途端、限りない不安感が押し寄せた。

 途端、もう一つ音が響いた。
 頭の中に、一瞬だけ響いた音は――声。
 男性の声だ。
 言葉はわからなかった。
 だけれど、強く、優しく、力強く、自分を励ますリズムだ。
 心地よい音を思い浮かべながら、再び前へ進む。

 自分はなぜ、迷路の出口を目指す?
 諦めの感情は浮かんでこない。
 たとえ、辿り着けなくとも、ずっと出口を目指し続けるのだろう。
 あの時のように。

 あの時――。
 弟を捜して街をさまよい歩いたあの時のように。
 行かなければならない。
 弟の元に。
 守らねばならない。
 弟の唯一の家族である、自分が。
 支えなければならない、兄である自分が。

 それは願いか、存在意義か――それとも、執着か。

「全て、ですね」

 自分の口から、声が出た。
 自嘲的な笑みが浮かんだ気がした。

 迷った。
 彷徨った。
 出口は見つからない。
 答えは既に出ているというのに。
 自分という存在を、もう私は理解している。

 トン、トトン、トントン、トン、トトン、トン、トトン

 出口が見つからない。
 だけれど、心のリズムはもう猛らない。

 出口の向うに彼がいると信じられる。
 弟にして、最大の理解者。
 最大の理解者にして、共に活きる戦友。

 彼の人生を見守り続けること。
 彼に無事、人生を全うさせること。
 その時、自分は彼と共に、行くべき場所に行くんだ。

 心を澄ませ、イメージする。
 家族と、弟と自分――。
 整えられた髪。
 清潔なスーツ。
 それが自分だ。
 家族の中に在る自分。

 この夢はずっと先。
 遠い未来の夢。

 今は弟の側に。
 彼を守り、支えていくこと。

 心、穏やかに。
 人の前には出ず。
 誠意を持ち、誠実であろう。

“謹厳実直”

 そのフレーズが浮かんだ途端、身体に色がついた。
 これが自分だ。

 そして、今の自分の全ては――
 脳裏に浮かぶ人物に向かって走った。真直ぐに。
 在るはずの木の根は、自分を妨げはしない。
 自分を避けるかのように、根が動き、道が作り出されていく。
 この想いは決して消えない。

 舞う枯れ葉が一欠けら、口の中に入った。
 甘い味が口の中に広がる。
 突如空間が歪んだ。
 木の根が飲み込まれていく。
 景色が闇に飲まれていく。

 気にせず、走り抜けた。

 頭の中で、強い光が弾ける。
 はじけた光が一瞬にして消え去る。


 音は、静かに響いていた。
 虫の音だ。
 静かな夜の歌。

 ここはどこだ?
 いや、知っている場所ではある。
 東京だ。
 家からもさほど離れてはいないはずだ。
 辿りつけるか? 弟の元に。

「大丈夫です。今晩中に帰りますよ。心配はしてないでしょうね、何せ私は……」
 幽霊だから。
 微笑みを浮かべながら、歩き始めた。

 心の中の炎は静かに燃えている。
 ただ静かに燃え続けている。
 それは、

 ――嵐にあっても消えず、静かに燃え続ける蝋燭――

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3179 / 来生・一義 / 男性 / 23歳 / 弟の守護霊(?)兼幽霊社員】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
この度は、ハロウィンコラボ企画『魂の旋律―残された微かなリズム―』にご参加いただき、ありがとうございます!
普通の迷路ではありませんでしたので、無事帰還できました。一義さんの場合、普通の迷路に放り込まれていたら、弟さんの生存中に帰還できなかったかもしれませんね(汗)。
イメージミュージックは、PURE REDさんの「Trick and Treat!・PCイメージミュージック」から発注ができます。ご都合がつきましたら、ミュージックの方もよろしくお願いいたします。
Trick and Treat!・PCゲームノベル -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年10月16日

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